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ひねくれ英雄譚  作者: アリエス
序章たる新星
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感謝の品

街の大通り。多くの雑踏が街道を踏みしめる。その街道の端には屋台が広がり、活気がある。


 だが、つい先日まではこんな光景は見られなかった。


 そんな大衆の中2人、目的もなくフラフラと突き進んでいる。




 「ねぇ、僕はいつまで持ってたらいいの?」




 両手に大量の荷物を抱え、上半身がまともに見えないレンがそう質問する。




 「さあね。まあ、せめて言うなら私の気が済むまでよ」 




 対するカプリは手ぶらで大通りを闊歩して答えた。


 買い物している通りは、昨晩まで人っ子ひとり見なかった街、シェラタンの一つの通りである。


 何故こんな様子になっているか。という答えとして、あの兎三兄弟の確保にある。


 手当たり次第に引ったくっていた三人がいなくなったお陰で、怯えて無駄に1日中自分の家に籠っていた住民たちや敬遠していた商人たちが一夜にして街の表通りに姿を現したのだ。


 もちろん、その立役者となった人物には……




 「あの……兎の……えっと……なんだっけ、あの三人の名前……まあ兎に角、あんたがあいつらを倒したおかげで、なんでも買い放題なんだから、買わない手はないわよ。さっ、もっと早く歩いて」




 「商品券ってだけだから限度はあるけどね。まあ、その限度が果てしないけどね」




 レンは自身の衣服のポケットに、パンッパンッに入っている、この街の街長からもらった商品券の束に目をやる。そして、少し駆け足で突き進んでいくカプリを素直に追っていく。


  


 「あっ」 




 急に何かを思いついたかのように突然カプリが立ち止まる。


 後続のレンもぶつかる危険性から立ち止まる。ただし、立ち止まる過程で両方の手で抱えた手荷物の山を崩してしまう危険性を孕ませながら。




 「っちょ…とぉ!?突然立ち止まるのはいささか良くないと思うよ?……で、ここは?」




 カプリとそれに付随したレンが立ち止まった場所はあるお店の前であった。


 店の外観は少々寂れており、活気のある大通りの中のお店としては異質である。


 カプリがそこの前に立ち止まったのは何故か、またこのお店は何屋か。それをレンは気になってある。




 「鉄の匂い……入るわよ」




 それがレンへの答えの欠片であるのだが、きちんと考えずに、カプリの手招きに慎重に駆けていった。


 ガチャリ。


 そう音を立てて戸を開けたカプリの目に最初に入ったのは、やたらと屈強な店員とカウンターの周りに並べられた鋭利な刃物だった。




 「いらっしゃい」




 物珍しそうな目でカプリとレンを見る。


 その真意を汲み取ったカプリは隅の方に並べられた商品を手に取り、汲み取れなかったレンはカプリに問う。




 「ここってもしかしてだけど……」




 「武器屋よ」




 そう、手に取った凡剣の刀身を眺めながら答えた。


 カプリは続けて、




 「あんたいつも素手でしょ?今はそれでいいかもしれないけど、これからきっともっと面倒な相手と殺し合うことになるわよ」




 「面倒な相手って?」




 「十二使徒」




 少々置いて行かれているレンに一から百まで説明をしてあげる。しかしながら、完全理解はできていない。疑問が生まれている。




 「十二使徒って君のお友達でしょ?君についている僕が敵対する理由はないと思うけど」




 それに対し、呆れた目と同時に信じられないものを見ている目でレンを見つめる。




 「あ……あ、あんた別に私が魔王城に行くのにほとんど関係ない兎をとっ捕まえるのにあんだけ全力だった癖して、私の完全な味方面やめてもらえる?あんたはもう立派な吸血鬼"殺し"《ハンター》なのよ」




 もう一度、カプリが呆れた目をしている。けれどもその矛先はレンではなくどこか遠くであった。




 「……それに、十二使徒は魔王お母さんの結束なしじゃあ仲が悪いのよ……」




 「人じゃなくてもみんな仲良しはダメだなんて、業が深いねぇ」




 腕を組んで、何かを思い出すように軽口を叩く。


 それを含めたレンの反応に、ハァ、とため息をついてレンへと向き直る。


 


 「兎に角、あんたには強くなってもらいたいわけ。この店の中から自分に合うのを選びなさい」


 


 え〜、と顔をしかませる。理由として武器を使うことの必要性をあまり感じないことがある。加えてもう一つ理由がある。 


 そうして頭を悩ませていると、店員が声をかけてきた。


 


 「おい、姉ちゃんたち。さっきから随分と聞き捨てならねえことを抜かしているがお前さんらハンターか?」 


 


 「こいつがね。悪いけど武器の試用とかできないの?」




 と、壁に掛けられている剣を凝視しているレンをぶっきらぼうに指を指す。




 「ああ。そこにあるものをから選んでくれ」




 店員の目線の先には、樽箱の中に置かれたいくつかの種類の武器であった。だが、取り扱い方から見て、おそらくレンとカプリ、2人の足元を見ての選択であったのだろう。


 2つの視線に片方は気づく。




 「まっ……これでよしとしましょう。ほら、これ」




 そう言って適当な剣を一本手渡す。


 それを見るなり、ゲッ、と身構える。




 「剣ねぇ……僕、振り方とか少し習ったぐらいだよ?」




 数十年前とは異なり、定義的にまだ子供の高校生が剣の振り方など剣道の授業ぐらいでしか教わることはない。


 もちろん戦乱の世でもないこの国でも、剣の振り方なんてものは習わない。


 どちらも字の読み書きや数の数え方をまず教わる。平和な国に生まれたからだ。もっとも例外はあるため、護身ぐらいは必要な場合がある。


 少々不安がりながら剣を受け取る。


 


  「こっ……こう?」




 商いとして武器を扱う店員にも、別に自分で剣を振るったこともないカプリにも、一目で素人であると分かる。


 レンにも後ろから飛んでくる視線に、何となく、その視線が言わんとすることが分かった。




 「だから言ったでしょ?剣とかは苦手だって…………あっ……やべ」




 レンの手の中が空になる。剣が宙を舞う。剣はカプリの白髪めがける。そして、着地。


 正面から見たら、完全にカプリの脳天に突き刺さっているようにしか見えない。


 


 「_____ふぉぉぉ………!?」




 やってしまった、という感情が第一となって変な声が出てしまう。




 「…………」




 御遺体は未だ直立不動で、表情1つ変わりはしない。死後硬直にら早すぎる。




 「まっッたく危ないわよ。ホントに当たってたらどうするつもり?」




 もしかして、と思い、カプリの少し後ろを覗いてみたら、剣は髪一本分の幅を残してそこに刺さっており、まさに間一髪であった。




 「に…兄ちゃん、刃物とかの得物は辞めとこう。な?!」




 同じ樽からカプリがガサゴソと掻き分けながら別のものを探す。




 「んっ?これは……」




 その中から見つけたようであった。抽象的に言ったら、鉄の塊を。




 「良い鉄使ってるわね。強度も良さそう。それに人の臭いも微かにある……もしかして『遺物レリック?』」




 そう言いながら取り出したのは、赤みかがった色をしたフランジメイス。


 見た目"だけは"少女のカプリが持つには少々荒々しい見た目である。


 店主は質問に答えて、




「いいや、そんな大層なもんじゃない。まあ、値段の割にはいい品なのはそうだかな。これは聖職者が長年使わず放置されててな、それを俺が買い取ったんだ。だが、買い手は長らくつかなかったがな」




 レンも顎を押さえ興味深そうにみる。




 「なるほどねぇ…………あと、『遺物レリック』って何?」




 はっ、とした顔で自分の説明不足にカプリは気づいた。


 


 「兄ちゃん、ハンターやってんのにそんなことも知らねえのか?」




 カプリは何事もないように続ける。だが、顔は若干赤くなる。無意識に擁護するようになってしまっている店員の存在がそれを加速させる。




 「………///、『遺物レリック』っていうのは昨日話した『星印サイン』と同じようなものよ。簡単に言ってしまえば、不思議な力も持つ骨董品かしらね」




 「骨董品?元は誰かのものってこと?」




 そんな質問に、まず首を振って答えた。


 


 「誰かのものっていうか、"誰か自身"ね」




 これだけで、カプリの言わんずることが分かった。


 『遺物レリック』は誰かの成れの果て、元は人間、または吸血鬼ではないかと。だから、"遺物"。


 そう考えを巡らせると、自然と目元が強張る。


 しかし、事実はそんな悍ましくはない。かもしれない。




 「別にそんな顔するほど馬鹿みたいなものじゃないわよ。『遺物レリック』は簡単に言えば人間の『星印サイン』ね。身体の一部から『星印サイン』に似た印が出てそこから『遺物レリック』が生み出されるのよ」




 急にベラベラと話し出すが、聞かないといけないことだから、何かを言う必要もないし、レンにもその意思はない。


 カプリは続けて、


 


 「レリックは人間のもの。だけど、その生み出した人間が死んでもレリックだけは、破壊されない限り未来永劫存在し続ける。大昔の遺跡から大量に発掘されてるのよ。それが……………」




 「コホン」




 店員の咳払い。


 意図は大体、どころか完全に察せられる。




 「長話のとこなんだが、兄ちゃん達結局それ買うのかい?」




 確かに話し過ぎたのはそうであった。催促されても正論である。


 それを受けてカプリはさも当たり前のように、


 


 「ええ、これにするわ。ほら、寄越しなさい」




 「え……ちょっとぉ!?」


 


 そう言いながら、レンのポケットにパンッパンに入った商品券の束を鷲掴みにして店員に差し出した。


 ダァンという音とともに。




 「「えぇ……」」」




 レンと店員、2人の声が重なり合う。カプリへの心境も重なり合う。





 武器屋を出て、街長が感謝の証として取ってくれた街の宿への長い一本道、レンとカプリは並びながら帰っていった。しかし、レンの手には大量の荷物。当然正面からは顔が見えない。


 ただ、武器屋で買ったフランジメイスだけはカプリが持っている。そして、突起フランジがついたメイスのため、あまりにもカプリの見た目とミスマッチしている。


 主観的にも客観的にも奇妙な光景だ。




 「そういや、聞きたいことがもう2つあるんだけどさ」




 「何よ」




 「1つ目は、さっきレリックは『大昔に大量に見つかった』って言ってたけど今はどうなの?それこそ工場とかで沢山作ってるの?」




 違うわよ、と言いたげな顔をしながら答える。加えて、分からない単語にハテナを出す。




 「工場……がなんなのかは知らないけどそれはないわね。まずレリックは一人ひとつが原則。例外はなくね。それに、どうやらレリックを生み出せる人間が極端に居ないらしいわ。だから、今の時代では、沢山作ることはできないし、そもそも新しいレリックがかなり貴重なの」




 へー、という顔を浮かべる。だが、カプリにも誰からも見えない。


 


 「じゃあ、レリックを作れる人材は重宝されてるんだ」




 「さあね。そんな話は聞いたことないけど。ただ、レリックを生み出せる人間じゃなくて、"その人間のレリック"を重宝される、が正解でしょうね」




 カプリは機嫌よく続ける。内容ではなく、レンに話すこと自体が彼女の機嫌を盛り上げているのだろう。




 「噂話だけど、レリックを生み出す才能を持った幼い子供を、国が"保護"して、国益のための『尖兵おどうぐ』にしてるって聞いたことがあるわね」




 レンの目元がピクッ、と少し動いた。なら、目元以外はどうかというと、とても形容しがたいものである。


 だが、隣にいるカプリにもそこら辺を歩いている住民や商人たちにもこの顔は見ることができない。




 「……そう。じゃあ、2つ目だけど、なんでメイスを即決したの?剣は無理でももっといろいろあったと思うけど」




 呆れたように、どこか遠い空を見ながら答えた。




 「愚問ね。あの店で一番あなたに合っているのがそれだったのよ。剣とかはこっちの身が持たないし………それに、一度も使われないで、ずっとあの樽箱の中ってのは可哀想じゃない」




 フッ、とレンは鼻で笑いながら微笑む。だが、今回ばかりはカプリにも見えている。




 「何よ?バカにしてるの?」




 「いいや、滅相もない。ただ、優しいんだなってさ」 


 


 「はぁぁ!?あんた正気ぃ?」




 子供っぽく半ギレするカプリ。だが、直後にはぁ……とため息をつきながら、今自身の手にあるものを寄越す。




 「…………これ、持ってなさい」




 そう言いながら、レンの両手に積み重なっている荷物の一番上にメイスを置く。どう考えても危険である。




 「言い忘れたけど、礼よ。助けてくれてありがとう」




 今カプリが渡したメイスへの意図に気づく間もなく、感謝の"言葉"だけに反応する。


 少しばかり、どころかかなり大っぴらに顔をほころばせながら、


 


「どういたしまして、だよ」




 ちなみに渡した側は一円も払ってはいない。



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