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女神の矛盾

「なんなんだよあいつ……」


 級友を置き、逃げ惑った5人が最初に感じたことである。

レンと、スグルの他に3人逃げていた。1人目は小柄。2人目は大柄。3人目は女の子だ。

 全員、一刻も早くあの化け物から逃げよう、と走り回っていたらいつの間にか朝になっていた。


 気が付けばとあの化け物の気配はなく、大きな門と城壁が見えてきた。

 「よしっ、じゃああそこで情報収集だ」とスグルが希望を取り戻したかのように言う。

 「えぇ、あんなことがあったのによく平然としていられるわね」一緒に逃げていた中の名前も顔もろくに覚えていない一人がそう言った。

 確かに僕もそうだが、どっちの言うことにも同意はできる。

 言い争いが起きそうな時、別の少し小柄でオタッキーな雰囲気の奴が言う。


 「スグルさんの言う通りです。それに、人が多くいたほうが安全です」

 「うんうん」とスグルが頷き、   

 「まあそうか」ともう一人の大柄な奴が言う。


 かくして城壁の中の街に行くことになった。街の中は漫画でよく見る中世のヨーロッパのどこかしらに似ていると思う。


 通りの端には屋台が並んでおり、たまに、鎧をまとったのがウロウロしている。

 情報収集のため、街の中心地で別れることになり、3人と2人で別れた。


 レンは2人の方でスグルと一緒だ。

 街中を歩いているとふとある建物が目に留まる。「冒険者ギルド」と書かれている看板を屋根にぶら下げている建物だ。

 スグルが「冒険者ギルドと言えば異世界転生ものにはよく出てくる奴だよな」と軽いノリで入っていった。


 ギルド内は酒を運ぶウェイトレスとその酒を飲みどんちゃん騒ぎをするゴロツキなどだ。だが、2人が入って行くと突然静まり返った。

 「あっ」とレンはゴロツキどもが静まり返った理由に気づいた。そして、小声でスグルに伝える。

 

「僕ら授業中に飛ばされたから制服のままだ」


 「あっ」とスグルも同じように呟く。だが、スグルは気にもとめずにウェイトレスに話しかける。しかし、その前にウェイトレスの方から先に口を開く。


「転生者様たちですか?」


 スグルは「どうしてわかったんだ?」という顔をしている。

まあ、十中八九この制服が原因だろう。

どちらにせよ否定する理由もない・・・というか、この状況で肯定以外の選択肢がなんなのか、二人が知りたいくらいである。僅かな時間、脳をフル回転させた。その結果として、「あ、ハイ」と答えるしかなかった。

 ウェイトレスが再び口を開く、


「やはりそうでしたか、どうにも珍my……、個性的な服装なので。」


そう言い直しながら言う。

さらに、その受付嬢は言葉を続ける。


「申し遅れました。私、登録係のリツと申します。」


 登録?なんの登録なのかと言うことまではひとまず置いといて、


「実は元居た場所とは色々と違くて、分かんないことだらけなんです」


 そうやって、知りたいことを聞こうとする。


 「あらあら、そうでしたか。道理で……」とリツさんは苦笑混じりに答えながら教えてくれた。


 「この地には古来から魔王の種族と我々人間が戦いを繰り広げていましたた。」


 魔王とは恐らくあの金髪女神が言っていた奴の事だろう。


 「ですが500年前魔王は転生者の勇者様によって倒されました。」


「「えっ、」」


 2人の顔が凍りつく。


(魔王が倒されているのに「魔王を倒してぇ〜☆」なんて頭おかしいのか、あの女神……)


 なんてことを思った。


 ウェイトレスが話を続ける。


「以降、この世界には大きな争いもなく平和に過ごしてきました」


  2人の頭に疑問が浮かぶ。2人には突然クラスメイトのほとんどが惨たらしく死んだ昨日の晩のことが頭にこびりついているのだ。

 ようやくレンが口を開く。

 「あの〜僕ら昨日の晩、狼の姿をした化け物に襲われたんですけど、あれはなんなんですかね……?」

 単刀直入に聞くと、周りのゴロツキ共が驚いた顔をしていた。ウェイトレスの顔も啞然としていたのを見て、こちらも困惑しかかっていたところに、世紀末風の格好をしたゴロツキの一人が話しかけてきた。

 

 「兄ちゃんたちよぉ、そいつは、星狼ルピーだ。そんなんに出会っちまうとは随分と運が悪かったなぁ」


「吸血鬼?吸血鬼って血を吸ったりする?」


と、2人は顔を合わせながら聞き返した。


 「なんだ、兄ちゃん達、吸血鬼について知らねえのか、かなり遠くから来たみたいだな、よぉし俺が教えてやろう。」

 

 ゴロツキは快く答えてくれた。見た目はあれだが中身はいい人らしい。


「吸血鬼っていうのは人の血肉しか食えない化け物のことだ。人を騙したりするために人の姿に化けるが本来の姿はさっき言った狼だったり猫だったり、口が尖った魚だったりもする」


「「なるほど、なるほど」」


 2人は半ば感心しながら聞き続けた。


「で、どう考えても有害だから魔王が討伐される前からも冒険者は吸血鬼狩り《ヴァンパイアハンター》を生業の一つにしてるんだ。つっても冒険者って言っている奴らはみんなハンターしか能がねえんだけどな、ブッワハハハハハハ!」


 吸血鬼狩り……2人共興味を唆られているが、合流の時間なのでウェイトレスとゴロツキにお礼を言って、ギルドを後にした。


 聞きたいことを全部聞けて満足そうな2人は約束の時間、場所に向かっていた。

 着いてみると先に3人が、着いており、そのまま情報交換を行った。

 こちらはついさっきギルドで聞いたことを話した。

 「俺達は冒険者ギルドってとこに行ってきた。そこの従業員に話を聞いてみるとどうやら魔王は倒されているらしいよ」

 対して親しくない人たちに萎んでしまったレンの代わりにスグルがあのウェイトレスのように同じことを言った。

 だが3人はそこまで驚いていない様子だ。頭に疑問が残りつつ、話を続けた。


 「あと昨日俺たちを襲った奴らは吸血鬼ってやつらしいよ」


 これも反応は思ったよりも薄かった。

あまりに不思議だったのでスグルが聞いた。


「君ら妙に反応薄いけどもしかして……」


「ええ。知っているわよ」


 3人の中の一人が口を開く。


「私達は街の図書館に行ったわ、それであんた達の言ったことと全く同じことを聞いたのよ」


と、呆れたように言った。さらに3人の中の大柄な奴が、

「でもお前らよりも一つ多く情報を持ってるぜ」

と誇らしげに言う。すっかり舞い上がっているこいつはさらに話を続けた。


「魔王討伐の際には勇者ってのがいたらしいんだが、どうやら勇者とその仲間たちはこれくらいの生き物をペットにしていたらしいぜ」


 そう言いながら、手でそのペットの大きさを表そうとする。大体、観光地で2000円で買えるような、手乗りサイズのぬいぐるみくらいだった。


 「不思議なこともあるもんだ」という顔をしながら、大柄な奴に疑問を投げかける。


「・・・にしても500年前の本にそんな詳しい事が書いてあるんだね。言ってしまえば単なる冒険譚じゃないの?」


 その言葉を聞いて、他四人もハッとした。自分達の物差しでは、戦国時代の本にそんな事が記されているのは少し不可解である。全員がそれに気づくきっかけになったこの話題を出した張本人としては、


「知らんぞ。パラパラっとページを捲っただけなんだからそんな事聞かれても困る」


開き直っていた。ある意味一番気骨のある者なのかもしれない。だが、このやりとりを先程からスグルの後ろで、黙って聞いていたレンは少なくとも、どこか『ご都合』というものを感じていた。

 大柄な奴の返答を聞いて、これ以上の問答は不必要だと、本能的に感じたスグルは、話題を変えようとした。


「どうやら俺達は無一文だし、仕事もない……、だから冒険者ギルドに行って仕事を貰った方がいいと思うけど、君達はどうする?」


 すかさず一人が、「いや、飯は食わないてもいいらしいし、吸血鬼狩りなんてどう考えても危険な仕事やるわけないじゃん」

とまるで正論のように振りかざしてきた。が 、冒頭が気になる。どうやら他の3人も同じようなことを思っているのか全く同じ顔だ。そんな4人の困惑顔を見てか、その子は少し、まだ気付いてなかったのか・・・と、気怠げに説明を始めた。


「ほら、ステータス」


 突然、サイバー感のある看板みたいなものが出てきた。そこにはレベルやスキルの他に『女神の加護:食事を必要としなくなる』と書いてある。


 スグルを除いた3人が、「大分都合の良い加護だけど、もしこれが本当なら食料は必要ない」と思い始めた矢先、スグルは口を開いた。


 「でも、これってさ衣食住の『食』は問題ないけどさ」


 「「「「うん」」」」


「残りの『衣・住』は?」 

 「「「「あっ・・・ふ~ん」」」」


 そういうことで5人は冒険者ギルドに行くことになった。



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