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星の神

  「はぁ!?」


 目の前に現れた自分達をこんな世界に送りこんだ者のわけの分からない発言に当然の反応である。

 所業を考慮すれば今すぐダッシュして殴りかかるのが妥当なところである。


 「あれ?もしかして違ってるかしらぁ☆」


と、レンの反応に目もくれず……もしくは心境も知っての上で、女神は飄々続ける。


 「貴方の行動はちょくちょくと見たけど☆てっきり、新しい魔王になるつもりとしか思えない行動していたけどぉ☆」


 「新しい魔王になる?どうゆうとこさ」


 不思議、でもあり不信な感情を眼に乗せる。対して女神は不思議、というか想定とのズレに驚いているようであった。

 そうなりつつも、女神は目の前の迷える子羊の2つの感情の内1つを取り除こうとする。


 「魔王の遺物と血筋よ☆あなたは3日もしない内にそれらと出逢ったのよぉ☆」 


 そう言いながら顎を人差し指で触れ、特に意味はないのにファッション誌みたいなポーズをとる。


 「……ブラッドとカプリか」 


 ギラッ、とした眼で、女神のアバウトな発言に鮮明な答えを自らで出す。

 元々目つきの悪さから、昔馴染みのスグル以外は殆ど誰も近づこうとはしなかったレンの眼は自分達をろくに説明ないに送った女神相手にそれは当然、色々と体現するようになっている。

 そして、レンのそんな様子も割とすぐに解けた。

 ふと考えがよぎったからだ。


 「この世界にはまだまだ僕の知らないことあるんだからせっかくなら聞いておこう」というやけに調子の軽い思考をしているが、本人は真剣なのか、どうやって聞き出そうか顎を押さえながら自分の持てるものを使おうと画策している。


 「色々と考えてるみたいだけどぉ、まあいいわ☆あなたの知りたいこと聞きたいことは答えられる範囲で答えてあげるわぁ☆」


 レンの様子を見たのか、それともレンの内側を"読んだ"のか、どちらかは分からないがレンにとって色々と手間が省けてしまった。   

 だが、『答えられる範囲』という付け足しには違和感がある。

 この世の神だっていうのなら、全知全能がマストだ。なのに、そんな保険をかけるような言い回しをかけるのは何故か。

 目の前のこの女神は、思ったよりも位も人格も小物なのか……もしくは、答えたら女神に不都合でもあるのか、だ。


 「やけに優しいじゃないか」


 字面の雰囲気とは裏腹に顔は引き攣っている。

 そんな引き攣った顔を向けられている女神は近くの低木になっている金色の果実を手に取った。

 そして、その実を絹で作られた衣装を意に返さずメジャーリーガー並のフォームでレンの額に向けて剛速球で投げてきた。

 

 「イッテェ!!」


 ストライク。

 投げられた果実は見事目標に直撃し、その結果レンは見事おでこを押さえている。

 だが、あんな剛速球で投げられ、あまつさえ直撃したのにも関わらず、余程頑丈なのか果実は割れ目どころかヘコみも全く見当たらない。 

 いや、"今は"見当たらないという表現は正しいのかもしれない。

 なぜならレンの額には微かに実から漏れ出た果汁が付着しているからだ。なのに果実は全く傷ついた様子もない。

 まるでトカゲの様に、自分で勝手に治っていく力でもあるかのように。

 レンが「なんでぇ?!」と、異議を申し立てるよりも先に、尋ねたかったことを女神が答えた。

 

 「敬語☆自分よりも位の高い者に対して相応な態度を取るのは人として常識よ☆『ですます』でもいいからちゃんとしなさい。辺境の田舎娘だって同じことが出来るわ」

 

 その言葉の後半からは先程からの軽い調子は一切無い、真顔で講釈をたれていた。


 「へえへえ、分かりましたよ」


と、敬う気持ちは一ミリもないですます口調で早速質問を始めてみる。


 「じゃ、じゃあ年齢は……?」


初っ端に聞くべきではない事に女神は二重の意味で怪訝な顔をする。

 そんな事を聞いた当の本人の考えとしては、どこまでがラインかを見極めたいのが五割、単純な好奇心が二割五分、冷やかしが残りである。


 「女性にいきなり年齢を尋ねるのはどうかと思うわよ。……まあ言い出したのは私だしぃ、いいわよ☆確かぁ……あれから今年で丁度500年経ったから524ねぇ☆」


と、質問を受けた直後に、真顔で素面に戻った後、渋々答えた女神を尻目にレンはその答えを受け、ある考えを立てる。


「(500年前……ねぇ)」


 500年前というのは丁度魔王の倒された年代であり、何か関連しているのか。

 なんて考えても仕方のないことを考える。


 「それじゃあ次はあなたがどんな存在であるかっていうのを知りたいで〜す」


 結局考えても何も出なかったので、取り繕うように次の質問を投げかける。

 だが、文として起こすのはともかく、声に出すと小学校低学年の音読ぐらい一切やる気のないものである。

 しかし、そんな言い方でも敬う気持ちが全く無い敬語を使っていることで満足なのか、女神はペラペラと話す。


「最初に会った時に言ったはずよ☆私は女神、具体的に何を司っているのかといえば"世界線"ってやつよぉ☆」


 「世界線?」

 

 と、器用に片眉だけをひそめて女神に聞き返す。


 「あなたには平行世界やら多元宇宙って言ったほうが伝わりやすいわね☆まあ、私は下っ端だから今は2つの世界だけしか管理していないのよ☆あ、因みに通常1柱一つの世界よぉ☆」


 「ほぇ〜〜で、でも一つの世界を管理しているって奴が下っ端とは随分とスケールが大きいもんなんですね」


 急に平行世界などと、スケールの大きい話となっている。

 それを初めて聞くレンだけではなく、それを人に話す役でもある女神の方言っていることにそこまで実感を持てているわけではないようだ。


 「まあ、そうね☆因みにあなたも聞いたことがあるフレーズかも知れないけど、私達を管理する『主神』ってのが私達の上司よぉ☆」


 ほへぇ〜〜、と女神の話に若干の興味が出てきたところで、レンの脳裏に一つの疑問が生まれる。


 「一柱につき一つの世界ならあなたがこの世界に転移させたのは問題にはならないんです?僕が住んでた世界とこの世界じゃあ管理する人が違うんじゃないんすか?」


 「あ、やっと気づいたのね☆確かにあなた達の世界の文学で見るような"異世界転生"とかはこちらでは大問題中の大問題だからまずないわぁ☆」


 女神は待ってましたと言わんばかりにペラペラと語るが、「だったら……」と聞きたいぐらいにおかしなことを言っている。

レンが早速そんな口上で質問をしようとした時に、女神もおかしいことを言っている自覚があるらしく、そのまま続けた。

 

 「でもね☆あなたの世界とこの世界を管理する神はどちらとも私だからなんの問題ないのよ☆まあ本来私はコチラ側の世界の神なのだけど、なんでもあなたの世界の管理者は私が神になった時からずっと空席らしくてね☆それからずっと私が2つの世界を管理してるのよぉ☆」

 

 女神は少し聞き捨てならない事を口にする。

 彼女は、それを聞いた途端に顎を押さえて何やら考え込んでいるレンの方を凝視した。

 だがその目は、金持ちに雇われ、自己満足に溢れた豪華なパーティーに大道芸を披露しに来た道化を観る目ではなく、ただ一人の人間を見る目をしていた。

 彼女の表情は無機質さと他に何かしらの感情が混ざっている、そういう表情であった。


 「今度は私の方から質問してもいいかしらぁ☆」


 「まあ……いいっすけど」


 部活に一度も入ったこともないのに、後輩が面倒くさい先輩に使うような、申し訳程度の敬語で応答したレンに、切り込む様に女神は言った。


 「貴方、こんな世界に飛ばした私を恨んだりとかしないの?」


 その言葉にレンはほんの少しだけ考える時間を要した。

 どう答えればいいか、そうゆうのが分からなかった訳ではない。

 ただ彼女のその台詞が、星の消えた真っ黒な夜空のように彼女自身の有りの儘に思えたからだ。

 そして、待ったと思わせないくらいの時間を取ってから、答えを出した。


 「ん〜保留ってやつかな」


 「保留?随分と煮え切らない態度なのね☆そうゆうのは異性にモテないわよぉ☆」


 少しだけ調子を戻した女神はそう言って聞き返した。


 「まあアンタのことは、人としてどうかと思うけど、別に恨んじゃないし、かといって好感があるわけじゃないからね」


 いつの間にか、強要された敬語も外して、軽い調子で、そしてしっかりと芯の強く答えた。

 急に敬語を外した事によりまたもや、金色の果実を用いた投球が来る……のかと思いきや、女神はただ「……へぇ〜」と、口元を緩ませる。

 そして、何故かは知らないその緩みが次第に段々とニヤニヤに大きくなっていった直後、その緩んだ口からレンには決して予想の出来なかったことが告げられた。


 「やっぱりあの黒蜥蜴を貴方に差し向けて正解だったわぁ☆」


「…………そうゆうことね」


 この女神は他に何か言っていないことがある、という考えを一つ目の質問の時点から持っていたため、そこまでの衝撃度は無かったがそれでも中々に強烈な告白だった。

「"差し向ける"ってなんすか?あのトカゲが天使とかにはどうにも見えなかったんすけど」


 女神はこれを聞き、まあそうなるわねぇ☆とやけにシンミリした顔を浮かべる。

 そして、その言葉の答えは少し回り道をして伝えた。


 「まあ、簡単に言えば運命ってやつねぇ☆」


 「……なるほどなるほど」


 レンは女神の言葉を聞き、8割方見当はついているがせっかくだから乗ってやろうとした。


 「あなた、この世界に送る時、私サービスしてあげるって言ったわよねぇ☆」


と言っても送られるギリギリに辛うじて聞こえたぐらいのタイミングため、レンにはいまいちピンとこずにいる。


「もしかしてそれがサービスって奴で……?」


「そうよぉ☆」


 えぇ、ともう少し豪華なのを期待していたレンとってはとんだ落胆である。

 それを見透かした様に、というよりそれを読み取って女神は説教気味に語る。


 「あなたねぇ、あの蜥蜴とあなたを折角私が巡り合わせてあげたのに随分と生意気な口を叩くわねぇ☆」


 その説教が先程の答えとなる。

 レンには大体検討はついてたことだが、改めてこの女神の力のスケールを実感した。

 そして、その女神の起こす戯れの場に投げられた者として主へと問う。自分自身の悲しい一面のために。


 「……じゃああの力は、アンタがブラッドに僕が使うよう仕向けたってことですか?」


「それは違うわ」


女神にはレンな内心が読める。だからレンの言いたい事が言葉よりも先はに伝わってくる。

 分かっているからこそキッパリとそう言えた。


「確かにブラッドを貴方に近づけたのは私。でも力を与えると決めたのはブラッド自身よ」


 机上で考えついた答えをあっさりと否定されたことで少しだけ狼狽える。


「そ、それじゃあ奴は一体、僕の何を見てそう決めたんです?」


この質問にも女神はすぐ答える。


「知らないわよ、そんなことぉ☆」


「えぇ……」


だが、期待とは真逆の方向性であった。


 「でも、あなたが貰ったスキルに目をつけたんじゃあないかしら☆?あれを完全に使いこなせる奴は今まで誰もいなかった訳だしぃ☆」


と、持論を述べた女神だが、その言葉には少々引っ掛かるものがあった。

 レンはそれにすかさず突っ込もうとする。

だが、その言葉を受けたレンの心境は少し……ほんの少しだけ風通しの良いものとなった。


「それって言い方的にブラッドの力を使ったやつが何人かいるっ……テェ゙ェ」


 言い終わらないうちにレンは頭から後ろへ転がった。

 その原因は明瞭である。

 レンは転んだことで開いた足の間から白と黒の修道服が見えた。

 レンを教会の中へ引きずり込んだシスターさんである。

 彼女はレンと女神が問答を繰り広げている間、というか現在進行系で眠っている。

 レンが転んだのは、シスターさんの寝返りがたまたま足の関節にぶつかり、元々レンの重心が後ろへ傾いているのを含めて、膝カックンの様になってしまったからである。


「あらあらあらあら☆確かに伝書鳩にさせて、この場所に入れたのは私だけど、はっきり行って忘れていたわぁ☆」


 一体どんな風に行ったかはわからないが、彼女の言った『神託』とは恐らくこの女神が仕組んだものなのだろう。なんならあの虚ろな目はこの神のせいなのかもしれない。


「え、えぇ……どうしてぇぇ……あ、いや違う。意識がないだけだな、死んじゃいない。にしても何で寝てるんです?」


と取り乱していたが、息があることを確証すると冷静にレンは女神に問いかけた。

 いや、息があったことで冷静になったのではなく、息が無いかもしれないという憶測が頭をよぎったから取り乱したと言った方が正しい。


 「大丈夫、あなたの言った通りその子は意識を失ってるだけよ☆まあ"普通の人間"だから仕方ないのだけどねぇ☆」


 一瞬、気になる言葉が通り過ぎたが、レンにとっては前文の方が重要であった。

 女神は飄々と続ける。


「それでも、あまり長居はしちゃいけないからそろそろ本題に入るわね☆貴方、魔王の娘……カプリを連れているわね?」


 「えぇ、あなたが差し向けたブラッドに言われて」


 若干ドライな女神に違和感を覚えつつも、しっかりと質問には答える。


「あの子は知っての通り、吸血鬼。しかも十二使徒の特別〜な子よ。当然、それを知って

近づいてくる悪党が居るはずよ」


 妙にペラペラと語り出す女神であるが、その声色は偶に見る真剣なものだった。


「だから僕に守れと?」


「えぇ、もちろん。でも、ブラッドは私の差し金だけどまさかあの子まで貴方に出会うとは私も思わなかったわよ」

と、食い気味にそう答えた。


  「まあ、それはブラッドからも同じような事言われたんで、いいんですけど『十二使徒』ってのがイマイチなんなのかってのが分かんないっす」


 「ただ単に、少し特殊で強い吸血鬼ってのを覚えてればいいのよ」


 女神のそのいい加減な説明で頭の中の疑問を無理矢理納得させる。


 「なるほど、大体分かりましたよ」

   

 満足気に女神は頷く。 


 「よろしい、じゃあ、これで私の用は終わりよ☆お気をつけてねぇ〜☆」


 唐突なその言葉に戸惑うが、この女神のことを少しは分かるようになったレン。

 次の瞬間にどんな事が起きるか……そんな事が少し検討がついてしまった。

 直後、レンとシスターさんが横たわっている地面が円形状に消えてしまった。

 そうなったら勿論二人の身に起きることは……


「イギャア゙ア゙ア゙アア゙ア゙ァ゙ァ゙ァ!!!」


 その断末魔は迫真そのものだった。

 そんなレンを上から見つめる女神の目は何かを思い出している、思い出を懐かしむような、そんな遠見の目をしている。


 「絶対に……絶対に守ってね、期待してるわ。"半ば化生"の守り人さん」












 







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