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女神との再会

 国王オイディプス栗毛の髪を垂らしながら、ゴシゴシ、ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ、と頭を擦り付けるという情景がしっかりとスグルの目に焼き付いた。

 そんな主君の様子に、跪き、ただ黙々とそこに居るだけに徹しようとしていた若い方と老いた方も流石にこれには黙々となんかしてられず、王の元へ駆け寄っていった。


 「お、お気持ちは私共にも痛いほど分かりますが御自分の御身体のため、お辞めください」


 「あ、そうですね。確かに貴方達の言う通りです」

 

 そんな制止の言葉を国王は案外素直に受け止めて頭を擦り付けるのを辞め、こちらに顔を向けた。

 だが、あれだけ激しく頭を擦り付けてのにも関わらず、額には傷どころか赤くもなっていない。


 「さて、本題に入りましょうか」


 まるで何事も無かったかのように平然と自身の椅子に座っていた。


 「貴方様方は転生者の勇者様。我々国一同全力でお役に立ちたいと思っております」


 眉をひそめ、不思議そうにスグルは問う。


 「それは誠に感謝します、国王陛下。しかし、やけに親切にしてくれますけど勇者というのはそんなに凄いのですか?」

 

 そんな素朴な疑問を投げかける。


 「勇者」というものがそんなに凄いのか、あの"星神試練"とやらの結果は信じるに値するのか。

 ある程度状況が頭に入っているからこそ生まれる疑問もある、ということだろうか。

 そもそも、勇ましい"だけ"の勇者というものの価値に、スグルは実感が持てていない。 

 そんなスグルの不安さに対して、王は存外な顔を浮かべる。


 「おや、ギルドマスターから説明されてないのですか?」


 「勇者が魔王をどうこうって話は聞いてますけど……」


 キョトンとした顔でスグル達の方を見る。

そして、オイディプスは告げる。 


 「いいえ、そんな昔話なんかじゃないですよ」


 先程よりも砕けた口調で言う。


 「君達にはここで"英雄としての素養"というのを身に着けてもらいます」


 だが、その目には享楽的な笑みがあった。


「はぁ?」


それと相反する様に、4人を代表して、不満気な感情を乗せた。


 

 スグル達か国王との会合に勤しんでいる時、そこから数十、数百キロ程離れた真夜中の畑道。

 そこに、3つの影を月の光が映している。

 その一つは、成人男性はおろか、幼児のものに及ばない程のサイズだった。そして、先頭の人物は人一人のサイズ感のナニカが入っている麻袋を引き摺って歩いている。

 レンの一行だ。

 一人を先頭にして二人が横並びとなって満天の星々に照らされながら歩いている。

 見た目によらず、意外とある筋力を使って麻袋の紐を持ちながらのほほんと黙って歩いているレンを先頭に、特に理由もなく先程から黙ったままのブラッド、それに並んでいるのは白髪吸血鬼少女(?)のカプリだ。


 「……にしても、星が綺麗なもんだね」


 3人の沈黙をわざわざ切り裂いたのはレンだ。


 「僕の住んでいるとこは排気ガスやらで雲のない夜でもあんま星が見えないから、そこは感謝さ」


 特になんの意図も思惑もないただ純粋な感想だ。

 実際、上を見上げているレンの瞳には輝く夜空が映り、これ以上ないくらい輝いている。

 レンを不服そうに後ろから刺す視線をカプリは出す。不服なのはレンがよく分からない『排気ガス』何ていう言葉を述べたからか。


 「貴方ねぇ、もうちょっと自覚持ったらどうなの?」


 「自覚って言ったって何の自覚さ」


 カプリはレンの質問の質問にこう答える。


 「あんたの目の前に居るのは人喰いの化け物ってことよ」


 そういった彼女の表情は後にいるため見えなかった。だけども、カプリがどんな気持ちでそれを言ったか、レンにもよく分かる。

 そんな、彼女の言葉に、表情に、思うことがある。

 彼女は生きていることが罪と言わんばかりに自罰的だ。


 「ふぅ〜〜〜ん」


 口をすぼめて、そんな相槌をする。

 そして、同じ様に不服そうにこう言う。


 「じゃあ、君。人喰ってんの?」


 その言葉にカプリは軽く首を振りながら、


「いいえ、一度も。人間の肉は基本的に脂っこいから胃が持たれるのよ。だから、私みたいなえら〜い吸血鬼は牛やら豚やらを食べてるのよ」


 「えぇ……」


と、思ったよりも高慢ちきな台詞がちらほらとあり、戸惑いながらも、言葉を返す。


 「じゃあ、別に自分を『人喰いの化け物』なんて言うことじゃないでしょうが。イメージ悪いし」


 「で、でも殆どの奴らは人間喰べているのよ。だから、それが『吸血鬼』ってものなのよ……」


などとゴニョゴニョと言われているレンの顔はカプリは全く見えない。

 多分見えないほうがいいだろう。


 「そうゆうもんかねぇ。けど、僕を刺した時、君はさ……」


と、少し間に空いた言葉にカプリは何か不思議な感覚が伝わるのを感じた。


 「な、何よ。恨み言かしら?」


 「いいや。そうゆうわけじゃないさ」

    

 もったいぶった、もしくは、もったいぶらさられた言葉に少しもどかしさを感じる。


 「君、別に僕を本気で"殺す気"なんか無かったでしょ?」


 「//……」


 一瞬、ほんの一瞬だけカプリは頬を赤らめた。

 そして、その刹那よりも何倍も長い時間、彼女は、今自分の前を歩いている者を確実に射抜いていく、そうゆう眼差しを向けた。

 だが、その眼差しは決して敵意ではなく、自身の感情と考え、想いというものが詰まったものだ。


 「あんた、ホント無駄に感がいいわね」


 今の彼女には、それしか言えなかった。



 "ここはシェラタン、紡績と安寧の街。

先祖の代からの土地での羊の放牧で町長の一族は財を成し、この街を王国の直轄街として成長させました。

 また、シェラタン周辺では吸血鬼の発生件数が低く、吸血鬼の被害規模の小ささは、魔王城とは反対の大陸の南側に位置するこのプレアデス王国の中でも群を抜いています。

 ですが近年、羊による羊毛製品や衣類だけでは街の収入は物足りないとのことで財政の回復、そしてさらなる向上のため、観光業にも力を入れております。"

 なんて紙の上で語っている観光掲示板をブラッドとカプリはまじまじと見ていた。


 「普通、観光掲示板にこんなこと書くものなのか……」


 ずっと黙っていたブラッドは何故か、このやる気がいまいち感じられない観光掲示板へのツッコミに反応した。

 顔……というよりも、体のサイズが虫取りケースにピッタリ収まるサイズのため詳細な表情は分からないが、とにかく、笑顔では無いことだけは分かる。


 「そうね……」

 

 そして、それに同調するカプリの表情も、目の焦点"だけは"合っているというものであった。


 「お〜い」


 そんな二人を呼ぶ声があった。

 観光掲示板から小走りで10秒くらいに、離れたシェラタンのギルドから出てきたレンである。

 その手には片手の掌で持てるか持てないかくらいの大きさの巾着が握られている。

 だが、実はそのギルトに入る前までは一人一人入るぐらいの麻袋を持っていたのだが、それは今では見当たらなくなっていた。


 「少し遅いぞ、俺達を待たせるとは良い度胸だな」

 

 実際に持ったのは10分くらいである。

そんな、ブラッドの少し理不尽な小言に便乗し、カプリも首をコクコクと縦に振っている。


 「いや〜、それはごめんさ。色々と手続きが必要なのだよ、人間の社会ってのはさ」


と、まだこの世界に来て3日目の身で自慢気に語る。


 「で、ギルドの換金手続きは済んだの?」


 そうカプリはレンの言葉を少し具体化して、その言葉の主に聞いた。


 「もちろん。あれ一応賞金首らしいから最初の奴よりも多く貰えたよ」


 「ま、私に手を出そうとしていたんだから当然の末路よ」


 「あれ」というのは麻袋の中身であるが、3人ともそれが何なのかは言葉にしなかった。


 

 無事に合流をした3人は近年、観光業にも力を入れ始めたというシェラタンの、メインストリートを歩いていた。

 当然、普通は大きな街のメインストリートには絶対に、昼でも夜でも人は居るものだ。

 そう、"普通"は居るものだ。

 だがその街道にも、他の道にも、人っ子一人どころか人ならざる者すら誰一人いない。


 「…………あれぇ?」

 

 顔をくしゃくしゃとさせながら、そんな異常な事態に疑問を持った。

 そうこうしてそんな寂しい道を歩いていると白を基調とした立派な建物を見掛けた。

 そして、そこで第一住民の姿を目に焼き付ける事が出来た。

 目に映ったのは、白と黒の修道服を纏ったシスターさんである。

 つまり、この建物は教会ということである。

 彼女の姿は顔以外は厚い修道服に包まれているため、顔しか見た目の情報はないのだが、雰囲気はここからでも分かるほど清らかであり、まさに修道女の典型という感じだった。

 そんな彼女にこの状況を尋ねようと、率先して前に出たカプリよりも先に、シスターさんが口を開いた。


 「お待ちしておりました!『迷える子羊スオウレン』さん」


 彼女は謎に手を広げ、神に仕えているとは到底思えない虚ろなその瞳でそう言った。

 ただし、それ視線は目の前カプリではなく後のレンに向けられていた。


「へ?」


 シスターさんの思いも寄らない言葉に、顔……どころか全身が固まった。

 その硬直は1秒と持たずに解けたが、 そんなすぐには完全に戻らずに、口元だけ引き攣っていた。


 「なぁんで僕の名前を?」


 フルネームで呼ばれるなんて学校の出席確認ぐらいだし、大体下の名前すらスグルぐらいしか呼んでくれない。

 不慣れな状況に不信感と不快感を覚えながらシスターさんへと質問する。

 そうすると、シスターさんは「イテ」と、情けない声を上げたカプリを押しのけ、レンの方へと近づく。

 そして、その距離は気づけば、身体の色々なところが当たる程近くなっていた。


 「私は母なる女神からの神託を受けこの教会にてお待ちしておりました、『この街に白髪の少女を連れた、選ばれし者が来訪する』と」


 そう言いながら、シスターさんはレンの腕を取りながら、どことは言わないが身体を押し付ける。だが、その目はとても第一印象とは程遠く、狂気を帯びている。

 そして、その腕を自らの方へ更に引っ張る。


「えっ、ちょっ……イ゙ヤ゙ァァァァ゙ァ゙ァ゙ァ゙」


 彼女の優しい手の感触がレンにも伝わる。

万力に等しい握力と共に。

 抗う間もなく、レンは引き摺られて行く。

いや、仮に抵抗しても彼女には何ともないのだろう、と自らの運命を悟り、大人しく石レンガの道に左手に以外を着けながら、引き摺られて行き、教会の大きな扉の奥へと連れて行かれた。


「どうする?あの小僧を連れ戻しにでも行くか?」


 無様に連れて行かれるレンを見ていたブラッドは、同じく見ていたカプリに語り掛ける。

 その言葉には『愉悦』と『期待』の感情が込められていた。とても趣味が悪い。

 そして、それを聞いたカプリは案外素っ気なく、


「別にそこまでしてやる義理はないわよ。それに私、神様って苦手なのよね。だから入りたくないわ」

 

と、言い放った。

 その言葉には『焦燥感』と『ただ純粋な苦手意識』が込められていた。彼女のその選択はある意味正しいのかもしれない。


 

 バタン、と教会の扉が勢いよく閉じた。

 そして、やっと彼女の掌からレンは解放された。

 「イテテ」と、左腕を全体的に擦りながら、中を見渡してみる。

 レンとしては結婚式をやる様な小綺麗な場所を想像していたのだが、真っ白で荘厳な外見とは不釣り合いな石畳の敷かれた薄暗いものであった。

 だが、厚くニスを塗られた横長の椅子がいくつも並べてある先に、レンの予想やイメージを飛び越えていく物があった。

 石のみで精巧に作られた人の形をした像である。だが、レンにはその石像に模されている人物に見覚えがあった。 

レンが像の近くに駆け寄り、石像の存在、というよりその人物を認識した瞬間……。

 

景色が変わった。


 窓が開いて、光が差し込んだことで雰囲気が一変したなど、そうゆうことでは断じてない。

 本当に場所が変わっていた。

 空も地面も真っ白であり、太陽も、そこか   ら自分達を照らす光もない。

 ただ、唯一あるものは自分を取り囲むように、植えられたのか自然に生えたのか不明の、金色の果実のなった低木だ。

 だが、この景色、レンは一度見たことがある。

 そして、低木の次にレンが目にしたのは、うつ伏せに倒れたシスターさんだった。


 「えぇ……、大丈夫ですか?シスターさん」


そう言って身体を揺さぶったが全くの無反応であった。

 ユサユサユサユサ。文に起こすとこんな風になる音を立てながら、レンは更に激しく揺さぶってみる。

 それを行っているレンの心情としては、9割9部9厘は心配などの感情であったが、残り1厘は仕返しだの反撃だのの、仕様もないものだった。

ガザガザガサガサ。言葉にするとこんな風になる音が、低木の奥の方からこちらに聞こえてくる。そして、近づいてくる。

 バサァ、と低木の果実と葉を何個か、何枚か落として、レン達の居る方へ、音の正体は姿を現した。

 その姿は、ふわっともさっとしている長い金髪、やたらと肉付きのよく、少しだけ筋肉質な身体を包み込んでいる白いローブを身に纏った天女のような女性である。

 教会にあったあの石像の人物にそっくりだった。

 いや、人物というのは正しくないだろう。

 レンは『それ』に相対するのは2回目であった。

 それは口を開いて、こう言った。


 「3日ぶりかしら〜☆きちんと生きていてくれてて嬉しいわ☆次期魔王さん☆」



















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