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残される子の想い

 辺りはすっかり真っ暗闇の真夜中。雑木林の中にレンは立っていた。

 だが、雰囲気はいつもの飄々とした態度ではなく、ブラッドの鎧を纏い、殺気立っている。


 「……最後に何か言いたい事ある?」


 そう言ったレンの足元は鮮血が飛び散っている。


 「な……んで?ォ、お母さん……なんで赤いのが……?」


 実年齢は分からないが外見は5〜6歳ぐらいの小さな子供が脚に力も入れずに泣きじゃくっている。

 レンの足元に転がっているのはその子の母親であり、レン達を襲ってきたカメレオンの妻でもある。辺りに散らばっている血も彼女ものだ。

 彼女は人でも無く、旦那のような見た目が完全にカメレオンというわけでもない。カメレオンと人間のキメラと言った方が想像しやすいだろう。そんな容姿な理由はただ一つ。死にかけているからである。

 あちらこちらに傷を負わされ、生命が悲鳴を上げているから中途半端な状態なのである。


 「逃……げて、どこか遠くに。この子たちに見つからないようなところへ」


 彼女は愛しい息子へ、諭す様に語りかける。レンはその様子を邪魔することなく、ただ、眺めていた。


 「バイバイ。元気にしてね。お母さんもお父さんもあなたを愛してい……」


 「…………ごめんよ」


 ザシュ。

 無機質な声と共に彼女の中身が辺りに散らばる。

 靴に欠片をくっつけたまま、レンは子供の方へ向かっていく。


 「お母さん?お母さん?!お母さん!おがあざん!!おがあざん!!!」


と子供は俯きながら名前を呼ぶ。

 そんな子供の様子に、全く興味はないからか。それとも、感心があるからか。


 「安心しなよ。直ぐに天国で会えるさ」


と、疲れたように、どこか遠い目を向けながら言い放つ。だが、瞳孔の向く先は少なくとも、少年ではない。

 そんな言葉と共に、少年の頭に手を近づける。

 そして、その頭をポンポンと、慰めるかのように優しく叩きながら、嘆く。


 「僕は死んでも、地獄じゃ親に会えないや」


 少年は何も言わなかった。

 言えなかった。

 言えなくなった。

 言の葉を発する小さな口が開けっ放しで、固まっってしまった。

 そんな少年に、レンは少しニカッ、と悪意なく微笑む。それと同時に、見守るかの如く優しい目を向ける。

 

 「親から真っ当に愛を受けててさ、僕はそんな君が羨ましいよ」


 だが、その目は曇っていた。淀んでいた。

辛い過去を思い出しているように歪んでいた。


 「お父さんとお母さんと元気でね」

  

 そうして、一夜の雑木林の中に静寂が訪れた。


 まだ日の出の遠い夜のあぜ道。

 ブラッドとレンと共に魔王城へ向かう事になった吸血鬼のお姫様、カプリはそこらの木こりの切っていった切り株の上に座っていた。


 「はぁ~、なんでこんな事になっちゃったのかしら……」


 気の抜けた溜息をつきながらブラッドに対する文句を吐露していた。

  

 「あの黒蜥蜴、よくもまあ、あんな狂人と手を組めたものよ」


 狂人というのは先程自分の首を折ろうとしたレンのことである。確かに、素手で自分に挑もうとするのはカプリ目線では十分狂人に見えるのだろう。

 だか、レンはあれで真剣に言っていたので狂人と呼ばれる言われはないのかもしれない。


 「……あのトカゲが何をお母さんから聞いて、何を企んでいるのかは知ったこっちゃないけど、私は私のやりたいようにやるだけよ」


と、掌から出した果物を切るぐらいの大きさの刃を見つめる。

 そんなカプリを遥か上に存在する星空はまるで、見守るように光り輝いた。

 それを言い終わった直後、林の方から芝生を踏みつけてくる音が聞こえた。


 「誰?」


と、カプリは掌の刃をそのまま音の方へ向ける。

 カプリの質問に対しての答えは、思ったよりも時間を要さなかった。

 木々の陰影から姿が現れる。


 「僕だよ」


と、能天気な調子で回答を行った。

レンである。

 その後ろにはブラッドも小さな体で地面を這っている。

 レンは続けて、


「いやぁ~、ごめんね。待たせちゃって、ち

ょっとした野暮用がね……」


と、胡散臭く、貼り付けた笑顔で取り繕う。

 その言葉を聞き終わってすぐ、カプリの眼光はレンに向け、鋭く煌めいていた。

 その様子からも想像できる通り、レンに対して何かを言いたげなのである。

カプリはレンに対して一歩踏み出し、


 「貴方、臭い血の匂いがするわよ」


と、鼻をピクピクと動かしながら言う。

 何か、自分の全てを見透かされているような変な感じがした。この感覚は前に、あの女神に心を読まれた時以来であった。そんな感覚を無意識に流しながら聞き返す。


「え?」


 キョトンとした顔でカプリの眼を見る。

 カプリはそんなレンの様子を見てさらに問い詰める。


 「誰か殺したわねってことよ。血の匂いが染み付いてる。まあ、相手は誰かってのは見当はつくけど」


 何も弁明を出来ないぐらいの間をとって続ける。


 「まあ、そこらの奴の生死なんてぶっちゃけ私にはどうでもいい。でも、本当に殺す必要はあったの?まさか人をあんなに待たせておいて、ただの憂さ晴らしってわけじゃないわよね?」


 カプリは思いのほか飄々と、そして呆れたように言う。

 これに対して、レンは同じ雰囲気を出しながら答える。


「ああ、もちろん。意味はあったよ。それに意義も道理もあったよ」


カプリは、早く質問の答えを聞かせなさいよ、という目でレンの言葉を聞いていた。


 「道理?だったら一体どんな道理があって殺したのよ。あの親子を」


 レンのこれまでの印象と行動、状況から相手は予想がついているようである。

 実際、正解である。

 そんな質問にレンは、カプリの間よりも大きく、開き、答える。


 「そりゃあ、家族みんなで居たほうが幸せそうでしょ?」


 この答えにカプリは、若干引き気味で、そして誰かに共感するように愉悦の感想を出す。


 「あのトカゲは兎も角、貴方とは上手くやっていけそうな気がするわ」


この瞬間、カプリがレンを見る目が変わったような気がする。それは、良い意味でか悪い意味でかといえば、両方である。



















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