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ヘイワな異世界

 かつて…ゴブリンやガーゴイル……異世界ファンタジーにはお馴染みの様々な種族が暮らすある世界があった。




 打って変わって、現代と何ら変わらないこの世界にはある一人の青年がいた。


この物語はある少年が、世界を蝕む魔王を倒す英雄となる話である。


 ここは中途半端に発展しているの都市に位置するごく普通の県立高校。           

 その昼下がりの、あるクラスの窓際席には 

今にも寝てしまいそうな小年がクラスメイトと一緒に授業を受けていた。


名は「魑凰 蓮(スオウ レン )」


「ここは〜〜〜であるからして〜〜」


 数学教師の教科書の音読だけをする棒読み授業を受けている。

 そして、右から、先程からカサ、カサ、と紙くずが当たる音が耳元でしていた。

投げているのは隣の席の一応友達の、


竜嶺リュウミネ スグル」くんである。


 返されたテスト千切り、丸め、デコピンで正確に狙撃する技術には感無量だ。

 そんなスグルを物ともせず「くあァ~」と欠伸をかきながらぽかぽか陽気と共に襲ってくる睡魔と争っていた。


 だがそれも一気に吹っ飛んだ。


 突然、先程の数学の教師がいなくなってしまった。なんなら目の前の机も椅子もなくなっている。

 椅子が突然なくなったのだから、当然、尻に激痛を負いながらひっくり返った。

 辺りに目を向けてみると先程まで一緒に授業を受けていたクラスメイトも全員ひっくり返っていた。といっても、ろくに顔を覚えていないので誰が誰だか明瞭ではない。

 クラスメイトが全員いるのだから当然、隣席のスグルも目の前に居る。だが、場所は教室ではなく空も地面も真っ白な不思議空間だった。

 更に目を凝らして見てみると、自分たちの周りは実がなった肩ぐらいまでの低木で囲まれてる。こうしてみるとまるで開放的な果樹園とも言えなくもない絶妙な違和感がある。

 そして何よりも違和感は低木になっている果実だ。漫画でしか見たこともない黄金の果実。

 その光沢と輝きに引き込まれ、「綺麗………」と男女問わず何人かが同じ様に手をこの実に手を伸ばそうとしている。

 すると低木の奥から、ガサゴソと葉っぱが擦れる音がした。木々の中から何か出てきた。


「私は女神。あなた達を導く偉大な神様よ☆」


 木々の中から出てきた女性はとても綺麗な容姿をした金髪の女の人だった。

 なんと、神様と言うのである。

 全員が突然現れたこの神様に、ポカーンとしている。レンもそうだ。

 そんな彼らに目もくれず、教室でいう教卓の位置に立って話を始めた。


「あなた達はこれからぁ〜、異世界転移をしてもらいます☆」


 まるで広告で出てくる漫画のような展開である。

 「目標は魔王退治。もし仮に、魔王を倒せたら特別なご褒美をあげます☆」

(先程からこの女神、語尾に☆がついている気がする……)と心の中で呟いてみる。


「なんなの〜☆あなた〜、私の喋り方になんか文句あるの〜☆?」


「イ゙ェ゙、何もッッッ」


「よろしい」


 どうやら神の名に恥じない、心が読める力を持っているようだ。その、実体があるわけではないが確かに感じる、燻ったい感触がレンの体の内側から伝わってくる


「えぇっとぉ☆話を戻すと……、あぁそうそう。あなた達にはそれぞれこのあとスキルが……」


「ふ、ざ、け、ん、な゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!!」


 突如、大勢のクラスメイトの中から誰かは知らないが、女神への怒号が飛ばしてきた。


「あんたよぉ、女神だかなんだか知らねえけど流石に拉致して、魔王倒せって訳が分かんねぇよ」


確か、クラスのヤンキー的なのだった気がする。だが、確かに言ってる事自体は至極真っ当な意見である。

 それが功を奏して、今までで混乱して何も言ってなかった奴らも段々と口を開いていく。


「そうだそうだ〜」

「お家に帰してェェ〜〜」

「来月には部活の大会が……」

「俺もテストの対策が……」

口々に女神へ文句たらたらである。

「はぁぁ、あなた達ねぇ〜……」

 女神が小さな溜息をついてしまった。


 「少し黙りなさい」


 シンプルな言葉であるが重みが違ってる。さっきの☆の付く間抜けな喋り方ではなく、冷淡で冷徹な喋り方であった。

 そんな言葉を効いて皆黙りコケてしまっている。


「全く……人の話は最後まで聞きなさいよねぇ〜。それに、ちゃんと無事に魔王を倒せる様に力は授けてあげるわよぉ〜☆」

 すると女神の手から何かが入っている結晶体が出てきた。


「これはぁ〜スキル☆これをあなた達にあげるから、これで魔王を倒してね☆」


ザワザワ。

 女神の「スキル」という単語を聞いた皆は主に2種類に分かれていた。片方は「俺がやってやるぜ」とテンションが爆上がりしている奴ら。もう片方はまだまだ不安がる奴らだ。

 後者の方の一人が女神にこう聞く。


「ほ…ホントにやらないとだめ?このまま家に帰ってしまってm……」


「ダメよ☆そもそも私の暇つぶしに選ばれた時点で拒否権はないのよ☆じゃっ、レッツラ異世界〜〜☆」


これ以上文句を言われたくないのか唐突に飛ばすと宣言してきた。だが、それよりも……暇つぶしという言葉の方が気になるのだが……、シュッンの音とものに目の前の景色が変わった。

 その瞬間、その場にいた、女神以外全員が落下していた。


「あ、そこの根暗そうな子。なかなかに心の中で文句言ってたから出血大サービスよ☆」


 すぐ後ろの低木の金色のりんごを掴み取り、クシャリと音を立て、丸かじりしながら女神は見送った。

 レンの目を確かに見て・・・




 気がつくと、レンらは森の奥深くに飛ばされていた。

辺りはもう夜。突然飛ばすにしても夜中の森深くとはなかなかにハードモードな仕様だ。

 いち早く状況整理のついたリーダー気質の委員長君が取り仕切ろうと前に立って全員に提案をする。


「森の夜は危険……、なので今日はここで野宿します」


 それを聞き、「えぇ〜」とゴネようとする奴もいるが、確かに委員長君が言ってることは正しい。


「周りの様子が分からないのに歩き回るなんて危険だ。すぐにここでキャンプしよう」

なんて言ってみたいものである。

 


 こうして委員長君の提案は可決された。

 1時間後、葉っぱや丸太。少年心をくすぐる良さげな棒など、キャンプ地を建てるための材料を集めるようになった。ここに飛ばされる前は転移断固反対だったヤンキー君もノリノリで作業をしている。当然、レンもである。


 さらに1時間。テキパキ進んだので思ったよりも早く終わってしまった。それに、どこかのサバイバル番組を毎週予約しているやつが中心となって焚き火を起こしたので夜でも温かい。

加えて、ここがどういった異世界なのかは分からないがこの世界の星の輝きが少しの活力と癒しをくれた。

 すっかり大多数が達成感で生き生きしてきた。もちろん作業の疲れとこの先が不安な奴もちらほらいるのだが今はそんな事をお構い無し。どんちゃん騒ぎだ。

 しかし突然、全員の身体に、電撃が走ったようなゾクゾクが走った。

 すると、突然さっき聞いたことのある声がしてきた。


「今やっと、スキル振り終えたから異世界ライフ頑張ってね〜☆」


 あの女神である。

 (飛ばしたときにやってなかったんかい)とツッコミたいところだがどうせ心が読まれているのでやめておくのである。


 すると頭に何か文字が浮かんできた。


   『スキル 拘束バインド』

・自身から縄やらを出すことができる

・拘束具を使って捕らえた者はより強力な効果を与える


なんだか強いのか強くないかよくわからないスキルだ。

 周りを見てみるとどうやら同じ様な文字が浮かんだのか、スキルがどうのこうのみたいな話になってきてる。なにやら「剣聖」やら「紅蓮」など、強そうな単語も聞こえてきた。

 そうした会話を盗み聞きしていると肩を、トントンと叩かれた。

 叩いてきたのはスグルである。


「お前なんだった?俺は意思疎通コミュニティーション


いつもと変わらず、気さくに話しかけてくる。そんなスグルの様子に慣れない環境で、少しの安心感が与えられる。


「僕ば拘束バインド

「効果は?」

「縄出せたり、拘束がしやすくなる。そっちは?」

「……動物とおしゃべりできる」


「君、悪魔でも崇拝してる?」

仰々しさと冗談混ざりに聞いてみる。だが、その顔は真顔であった。

「無わけねえだろ、なんでそうなんだよ」

なんとなくでも気兼ねなくスグルとは話せるのだ。


 全員が目処が立たずいつの間にかスキル自慢大会が始まっていた。


 かれこれ1時間くっちゃべってると林の中から、カサコソ……カサコソ……と音がしてきた。一同が話を辞めてその林へと目をやってしまう。

 この登場の仕方はさっきのお気楽女神と誤認してしまう。


 だからきっと気を抜いてしまったのだろう。


 皆の関心を背負って出てきたのは、林の中からでてきたのは小汚いおっさんである。


「ん?なんだ、あのホームレス」


ホームレスというよりもどちらかと言うと、野生動物の様な感じだ。

 男は段々とこちらへトボトボ歩いてくる。

 こっちは大人数だが流石に立ち振舞いが不審者そのもので殆どが固まってしまっている。

 しかし、そんな中。不審者に怖いもの無しかのように突っ込んだ一声があった。

 ヤンキー君である。流石にこれはかっこいい"漢"であった。


「おい、おっさん。これ以上俺たちに近づくんだったら容赦なくぶっ飛ばすからな」

 しかし、なにも返ってこない。

 すると男はブツブツも小さな声で何かいい始めた。


「、チ………ニク、…メシ………」


「あァ゙?何だって?」


「…血……肉、飯……メシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメシメィィィィィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙!!!!!!」


 明らかにヤバい奴にヤンキー君はどうしたかというと・・・

「お前………腹減ってんのか?悪いが俺等も飯がねえんだ。だからべつの奴にもらk………」

案外、優しい反応をした。それは純粋さからか、鈍さからか。それは本人しか分からないことだが、少なくともさっきの女神とのやりとりのような粗暴さは見る影もなかった。

だが、突然ヤンキー君の優しさが男に黙らされた。・・・いや、食われたのだ。顔を。頭ごと。食われたのだ。


「え、」


 みんな動かない。

 気づくと男の背丈は大きくなり、灰色の毛が体中に生え、牙が生え、狼のようになったのだ。

 見れば分かる。化け物だ。




気が付くと逃げていた。

スグルが勝手に手を取って、一緒に逃げてさせたのだ。

 ふと後ろを振り返ると、化け物はキャンプ地にいた大勢を踊り食いを始めていた。さっきまで、あんなに自分のスキルを自慢していた奴らが今ではろくに立てやしない。

 目の前で、クラスメイトを食い殺された光景を目にしすれば、8割はパニック。残り一割は只だひたすらに逃げようとする人間。

そしてもう一割は、それを我慢して奮い立たせる者たちだ。神からの『贈り物』を使って反撃をしようとする人間風情だ。


 だが、誰も仕掛けようとはしない。それは当たり前のことだった。だってあくまで、''しようとする''だけなのだから。

手が動かない、赤色が世界を染める、友達が叫ぶ。惨めに死んでいく。無様が浮き彫りになる。ただそれだけ。人が食われているのをただ見ているだけ。そんな光景を無理矢理、目に焼き付けさせられる。

 踊り食いを目にしなくていいのは命欲しさに真っ先に逃げた5人だけである。逃げ道は木と暗闇しか見えなかったが、スグルにはまず、手足を動かすのもおぼつき、その自らの手のとる友達の手も、目の前の雑木林も、その先に見える闇も、星空も。


 みんな歪んでしまった。





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