第6話 気づきと変化
翌日、トムラさんに再会の約束と挨拶を済ませ俺は病院を出た。
今回の件は村の生き残っていた上級魔物にやられ倒せなかったが追い返すことに成功した、という事にしたらしい。
あとお代はトムラさんがもってくれていた。
あの人には頭が上がらないな…
そして今から向かうはメルサ鑑定所。再診察を受けに行く予定だ。
歩いているとふと疑問に思った。
「俺の傷はそんなに深くなかったのになぜ5日間も寝ていたんだ…?」
でもそんな事を考え始めたら他にも分からないことだらけだな。まぁ無事ならそれでいいか。
村は後で帰るとして、鑑定再診察は確か3万ギル必要だったよな。
…ん?ちょっと待て?今俺いくら持ってるんだ?
金袋は通勤の時持ってきてたはずだが…
「い、1万しかねぇ…」
よく良く考えれば給料日前だった。
さてどうしたもんか。値切るか。いや国が運営してんだぞ?値切れるわけないだろ。
とりあえず一旦向かうか…着いてから考えよう…
ーメルサ鑑定所に着いた。
「身分証はお持ちでしょうか?」
若いメルサ人の女性店員が聞いてきた。
念の為、身分証はお金と一緒に金袋の中に入れて持ち歩いている。
「持ってます…再診察を希望なんですが、確か3万ギル必要ですよね…今1万ギルしか持ってなくて…」
不安げに訪ねると店員は身分証を見るなりどこかに電話し始めた。
電話を終え、戻ってくると
「申し訳ありませんが客室で少しお待ち頂いてもよろしいでしょうか?今所長がこちらに向かっていらっしゃるので。」
え?どういう事だ!?わけが分からない。
全く面識もないのに所長が直々に俺のために向かってるって、なんのために?
何かやらかしたか!?いやトムラさんの件だったとしても冒険者ギルドならともかく鑑定所は関係ないだろ……待つしかないか。
客室に移動し数十分が経った頃、コンコンとドアをノックされた。
「失礼します。メルサ鑑定所、所長のゴイルと申します。お待たせしてしまい申し訳ありません。」
厳つく風格のあるおじいさんなのに謙虚で礼儀正しい対応に少し驚いた。
「冒険者トムラ様からお話は聞いております。正直信じれないようなお話ですが鑑定すれば全て分かります。なので今回は全鑑定再診察させて頂きます。」
この人には全て伝わっているのだろう。
記憶が無いとはいえ、ハガネアを殺害してしまったことも…。
「わかりました。しかしお金が…」
「お代はトムラ様から受け取っていますよ」
トムラさん…何から何まで本当に感謝です。
そして人生二度目の診察が始まった。
「すみません、もう一度いいですか?」
MRIみたいなやつは7回くらい正常に作動しなかった。
「うわっ!す、すみません新しい玉持ってきますね」
魔法の光る玉は3回やって全て割れてしまったが結果は出たようだ。
もうここまで来るとさすがに分かる。
覚醒キタァァァァァァァァァァァァァァ⤴︎⤴︎⤴︎︎⤴︎︎
やっぱり俺には隠された能力があったのだ!!
診察が終わり、冷静を装い客室に戻る。
「こ、今回の鑑定結果ですが…一度診断書をご確認下さい…」
あのドシッとした風格のゴイルさんが冷や汗をかき焦っている。
そこまで焦られるとこっちも怖くなるって。
恐る恐る診断書を確認してみたー
平均はGです。A〜Zで鑑定しています。
・能力値は確定潜在能力なので変化することはありません。どこまで引き出せるかは努力次第です。
体力 4723 (Z) 魔法力 5640 (Z)
筋力 4989 (Z) 思考力 5126 (Z)
治癒力 4545 (Z) 生命力 4156 (Z)
知性 4622 (Z) 理性 90 (Z) 運性 7777 (Z)
魔法タイプ「全」
加護能力「教育(ランクI)」「覚醒(ランク×)」
「硬化(ランクH)」「剣技(ランクS)」
「格闘技(ランクJ)」「魔術(ランクK)」
「錬金術(ランクG)」「召喚術(ランクW)」
「技術向上(ランクF)」「能力向上(ランクI)」
「計算(ランクK)」「ラッキーセブン(ランク×)」
「状態変化(ランクH)」「把握(ランクO)」
…なんだこれ。
加護って2~3個持ってるだけでも大騒ぎになるレベルじゃなかったっけ…?
しかも全部の加護ランクが平均より高い。
「…鑑定機が壊れているわけじゃないです。これは信じざるを得ない結果ですね…少しお伺いしたいのですが、前回の鑑定から何か事故や事件に巻き込まれたことはありますか?些細なことでも構わないです。」
これといって特にない。ごく普通の人生を歩んできたつもりだ。最近は魔物の襲撃に合ってから…いや、確かにずっと気になっていたことは1つある。
生徒たちやトムラさんと話している時に現れた謎の緑の光。あの時生徒たちに力をあげると言われた。トムラさんも託すと言っていた。
「…あの、加護を人に渡すというか…あげることって出来ますか?」
突拍子もない質問にゴイルさんは少し驚きながらも答えてくれた。
「え?…あぁ、すみませんが私はそのような事例を聞いたことがありません。ですが私の知り合いでそういった事に詳しい人がいます。少し変わった人ですが…」
少し難しそうな顔をうかべるゴイルさん。
「お願いします!紹介してください!」
食い気味に言った。
ー俺はずっと生徒の事が心残りだった。救うってどうやって?力ってなんだ?
トムラさんと会って似たような事を言われてからもずっと考えていたが何かが変わったわけでもなく、全然わからなかった。
ずっと知りたかった。生徒達が何をしたのか、何を求めていたのか。
それが知れるならなんだっていい。1%でも分かる可能性があるなら俺は全力で懸けたい。
「わかりました。その方は通称「ハナコ」という名前で知られています。トライバルを出て南に30kmほどの地点にある「パジャン」という少し小さな街へ入り、入り口から突き当たりの屋敷におられます。私の紹介で来たと言えば大丈夫だとは思いますが…くれぐれも気を悪くされないようお気をつけ下さい。何せあの方は気を使えないので…」
ゴイルさんの顔色を見る限り相当苦手な人らしい。
しかし俺は教師だ。人一倍色んな人と関わってきた自信はある。
「ありがとうございます。あとこの結果はトムラさん以外に話さないでください。お願いします」
ゴイルさんは元々そうするつもりだったように頷いてくれた。
そうして俺はメルサ鑑定所を後にし、一度村に戻ったー