第5話 罪と力
結局、一睡も出来なかった。
睡魔は度々来るが、あの時の光景がフラッシュバックし眠りに付けなかった。
翌朝、病院食を食べ終わった後トムラさん達の部屋に向かう。
頭の中で謝罪の言葉を考えていると、部屋の前に着いてしまった。もう、取り返しはつかない。
覚悟を決め、扉を開けたー
するとカーテン越しから声が聞こえてきた。
「サカイくんかい?…ありがとう、来てくれて」
想定外の言葉に呆気を取られてしまった。
深呼吸をし、カーテンを開けた。
そこには左腕と右足が無くなったトムラさんが俺を見ていた。
「ト、トムラさん、これはー」
声を遮るように強くトムラさんは言った。
「「すまない!!」」
俺は言葉を失った。なんでトムラさんが謝るんだ。謝るのは俺の方じゃないか。
というか何で怒らないんだ。理解が追いつかない。
「俺の……俺は…いえ、この度はご迷惑をおかけしてしまい、本当に申し訳ございませんでした。」
テンパる頭を感情でかき消した。
「…僕たちはね、ただ冒険しているわけじゃないんだ。時には誰かを救うため、時には己の欲を埋めるため…一度決めた覚悟と目標を成し遂げれるかは全て自分達の実力次第。たとえ救おうとしてる人に刃を向けられたとしてもね。」
この人は人としての器が違いすぎる。人を責めず矛先を全て自分に向けている。
Bランクまでのし上がった理由がわかった気がした。
トムラさんは続けて言う。
「そして実力は力だけじゃない。視野の広さや思考、判断、そして決断…今回はサカイくんの心を救えなかった。だからこうして代償を背負うことになってしまった…自分の実力不足だ。でも君はこうして気持ちを伝えに来てくれた。僕はそれだけで嬉しいよ。」
トムラさんは儚げに言った。
どこか切なく、満足そうな笑みを浮かべている。
「サカイくん、君はー…いや、僕からは告げないでおくよ。そのうち自分で気づくと思うから。そうだ、僕も君に託したいものがあるんだ。僕はもう動けないから代わりに背負ってくれよ。」
すると突然辺りを緑の光が囲んだ。
あの時と一緒だ。なんなんだこれは。
というかその意味深な発言が気になって仕方ないんだが…そう思いながらも何も聞けなかった。
「あの時、何があったか知りたいかい?」
真剣な面持ちでトムラさんが聞く。
「……はい、覚悟は出来てます。」
少し鼓動が早くなった。
そしてトムラさんが話し始めたー
俺はトムラさん達に飛びかかった後弾き返され、なぜか苦しみもがいていたらしい。
その様子はまるで自分ではない自分と戦っていたるようだったと。
そして突然、一番屈強なハガネアに先程と比にならないスピードで飛びかかった。
だが間一髪、ハガネアは攻撃を防いだ。
「なんだあの力は!?」
ハガネアの加護「硬化」は筋肉から武器まであらゆる物を硬くする。鉄を軽く上回るほどに。
しかしその加護を受けた合金の盾が酷く凹んでいる。
俺は再びハガネアに飛びかかり攻防を続けた。
一方スズミは俺の尋常ではない様子に怯え、サポートなど出来る様子ではなかった。キーラは剣の技量はあるが力が足りず、攻撃をするもダメージを与えられず吹き飛ばされた。
「なんだあの変化は…本気で切りかかったのに傷一つもついてねぇ…」
キーラは即座にスズミを安全な場所へ移動させ避難した。
ハガネアにトムラも応戦し、2対1の状況になった。
「リーダー、今回ばかりは厳しい。すまんが俺は殺すつもりでいく。」
トムラさんは俺を殺してはいけない、気絶させるべきだと反論した。
すると突然、俺ではない俺が呟き始めた。
「ニクイニクイニクイ…ワタシタチハセンセノチカラ…センセノオモウママニ。スベテハセンセノタメニ…!!!」
俺はまた、ハガネアに飛びかかった。
そして防御の体勢をとったハガネアの下部に潜り込む。
「クソっ…!!!!」
俺はハガネアの首を手刀で跳ねた。
「いやぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」
その様子を見ていたスズミは大きな声で泣き叫んだ。
トムラさんは悟った。サカイくんには何かが憑いている。善や悪という概念すら持たない…ただ大きな力を持った純粋な何かに。
そしてその力はあまりに膨大で、到底太刀打ち出来ないと。
どうすべきか考えていると俺は次にトムラさんを目掛け飛びかかった。
激しい攻防が続いたが隙を突かれ、トムラの右足が弾かれた。
「ぐぁぁぁ!!」
痛みが全身を巡ったがトムラさんは諦めなかった
するとキーラが後方から俺を挑発した。
俺がそっちを向いた瞬間、トムラさんは最後の力を振り絞り、片足で俺に飛びかかり首を背後から思い切り締めた。
俺は激しく抵抗する。雄叫びを上げながら首を絞めるトムラさんの左腕を引っ掻き続けた。
左腕を繋ぐ肉がなくなった直後、その左腕を右腕で支え首を絞め続ける。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!落ちろぉぉぉぉぉお!!」
左腕を繋ぐ骨すら無くなった頃、俺の動きは完全に止まっていた。
スズミが少し落ち着き、トムラさんの止血を施す。すると俺が急に起き上がった。
臨戦体制を取ろうとするも、殺意どころか眼中にも入っていないことを感じとった。
「何をする気だ…?」
ふらふらと歩き始め、途方もなく消え去っていった…
そして俺はこの病院に来たらしい。
返答する言葉が出なかった。
今自分がどういう感情なのかもわからなかった。
相手がトムラさん達でなければ全員殺してしまっていただろう…本当にこの人は凄すぎる。
現実味が無さすぎるのにトムラさんの傷を見る度にこれは現実だと無理やり理解させられる。
そして立て続けにトムラさんが口を開く。
「そうだ、明日この街のメルサ鑑定所に行ってきて。再診察は基本、加護のランク鑑定しかできないけどそれだけでも受けに行ってね。」
なぜかはわからない。しかしこの人の事だ、何か意図があるんだろう。
「わかりました。」
ここは都心グランガルガから村を越えた先、
西南にある街「トライバル」
人生二度目のこの場所で、俺はこれからー