第4話 前へしか歩めない
俺はクラスの生徒全員に布を被せ、外に出た。
外では魔物が徘徊している
バレないよう身を潜めながら村へ1度戻ろうとする。しかし魔物の察知能力は鋭い。
すぐに気づかれ、襲われかけそうになったその時
ーズドーン!!
魔物が急に倒れた。
辺りを見回すと冒険者一行がいた。
「大丈夫か?君は…え?サカイくん?」
まさかの冒険者を目指した時、一緒に行動を共にした冒険者達だった。
「あぁ…久しぶり…」
安堵でまた泣いてしまった。
冒険者はA~Fランクまであり、Aに近づくほど強い。Aの上はZランクというものがあり、世界で3チームしかいないらしい。噂でしかないが…
ちなみに初心者は半年間、冒険者見習いになる。
そこで基礎知識を学んで、やっと冒険者になれる。
ちなみに俺は2ヶ月で断念した。あんなの平均ステータス非戦闘系加護持ちにとっては無理ゲーだわ…
そしてこの人たちはBランク冒険者だ。
助けてくれて、話しかけてくれた人が「トムラ」
同じメルサ族だ。この人がリーダーで魔法役。本気出せば都心の半分は消し飛ばせるんじゃないかな。
そしてその後ろで辺りを警戒しているのが「キーラ」 トムラの弟で、少し華奢だが剣の技術は国の騎士団と張り合えるレベルの剣士。
そして俺に回復魔法をかけてくれているのが「スズミ」サポーター役だ。
その横で蔑むように俺を見ているのが「ハガネア」盾にも斧にもなれる屈強な戦士。だがこいつは苦手だ、戦闘の力量で人を判断している。
「こんなとこで何してたの?」
スズミが心配そうにこちらを見ている
俺はさっき起こった事情を全て話した。
「そうか…大変だったんだな。俺達も村まで送るよ、村長にも状況説明しないといけないし。」
トムラが応えた。ハガネアは不服そうだけど。
俺はゆっくり立ち上がり、一行達と村へ向かった。
村は一応無事だった。
荒らされているが目的はグランガルガの方だったのだろう。
少し安堵し、一行に感謝を伝え別れた。
そして家に帰り扉を開けようとした時だった
…なんだ?この違和感は。
想像もしたくない不安が込み上げてくる。
それを払拭するかのように思い切り扉を開け玄関に入った瞬間、飛び込んできたのはあまりにも辛い現実だった。
母は服を着ていなかった。お腹には穴が空いており、臓物がひとつもなかった。憶測だが強姦された後生きたまま喰われたのだろう。苦しみを浮かべたまま息絶えていた。
部屋にはむせ返るほどの獣臭。これは臭ったことがある。あの時…生徒たちを襲ったウルバリンの臭いだ。
こんな偶然あるか?
理解が追いつかないまま呆然と廊下を進み、部屋の方を見た。父がいた。
首の骨を折られ、死にきれず意識だけがある状態の父が。
その時自分の中でプツンと何かが弾けた。
心の底から溢れるくらい湧き出てくる怒りと憎しみ、悲しさと悔しさ。
そして仇は既にうっていたという虚しさ。
一瞬で俺は俺じゃなくなっていた。
「どうしたんだ!?」
無意識に雄叫びを上げていたらしい。
トムラさん達が玄関から焦った様子でこちらを見ていた。
「サカイ…くん…?サカイくんなのか!?」
俺の見た目は恐ろしく、まるで魔物のようになっていた。
そして俺は視界に映る全ての物が憎く見えた。
俺はトムラさん達に襲いかかった。
「憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い…!!なんで俺だけ、俺だけぇぇぇぇぇえええ!!!」
トムラさん達は間一髪で攻撃を防いだ。
「なんだこの力は…!?本当にサカイくんなのか!?目を覚ましてくれ!!」
そこから俺の意識はプツリと消えた。
ー夢の中で生徒達が出てきた。
「サカイせんせ!今までありがとね」
「私たちのお願い、どうか叶えてね…」
「でもどうなろうとせんせが決めたことなら信じてるから!」
「「「私達は、サカイせんせの味方だから!」」」
ー気が付くと、俺は病院にいた。
「ここはどこの病院だ?確か村に戻って…」
現実に戻る。吐き気が一気に押し寄せてくる。
しかし何も出ない。しばらく苦しみ続けた。
すると病院の院長がやってきた。
「やっと目を覚ましたか…単刀直入に聞くよ。君は村で何があったか覚えているか?」
なんだこいつ…聞きたいことはこっちも山ほどあるんだがという気持ちを押さえ込んで、自分の記憶にある部分とその先は記憶が無い事を伝えた。
「そうか…今、君が思っている以上に大変なことになっている。順序を追って話そう。
サカイくん、まず君は自分の足でここまできた。だが力尽き病院の玄関で倒れたきり、5日間目を覚まさなかった。」
全てが初めての経験で現実を受け止めれなかった。しかし無理やり現実を飲み込む。
「なんで俺は…ここの病院に来たんでしょうか…」
「ここは君が生まれた病院なのだよ。それをなぜ覚えているかはわからないが…。一昨日、とある冒険者が来てね。トムラくんという方を知っているかい?」
俺はトムラさん達との関係を説明した。
「そうだったのか。ではここから先は私じゃなく本人に聞いてほしい。私が首を突っ込むようなことじゃないのでね。」
そう言って部屋番号を教えられ、院長は部屋を出ていった。
あの時感情に呑まれ、襲ってしまったことを怒っているんだろう。
罪悪感と申し訳なさでいっぱいになった。
時計を見ると午後9時21分。今日は遅いので、明日朝から謝りに行こうー