第3話 立ちはだかる刃と壁
鑑定してから23年。
俺は如何にも「普通」な人生を歩んできた。
村の学校へ通い初め、勉学に勤しみ、スポーツや習い事もかじる程度にやり、友達も多くはないが仲のいい連れは出来た。
一度19歳の学校卒業後、診断を無視し冒険者になろうとしたが他の冒険者との圧倒的な差を見せつけられ心を折られた。
そこからは教師に就職し、今に至る。
だが、決して悪くない人生だ。
多分俺は根本的に人に教えるという事と子供自体が好きなのだろう。
そして俺は加護能力のおかげで都心にある大きな学校に就職出来た。
生徒からは学校で一番人気がある自信はあるくらい好かれている。多分。
景色、人種、知識、あらゆるものは違うが結局前世と全く同じ事をしていた。
それでも楽しい。辛いことや大変なこともあるが心の中はだいたい満たされていた。
ー俺の受け持つクラスは家庭環境が悪く、保護された子達だった。
しかしみんな、そんな辛い過去があるにもかかわらず前向きに生きている。
笑顔を絶やさず、思いやりに溢れ、勉強熱心な子たち。そんな生徒達に俺自身も救われていた。
ある日、グランガルガは魔物の襲撃を受けた。通勤中に起こった出来事だった。
魔物と人間は敵対していると歴史では知っていたが今も尚戦い続けているのか!?
いやそんな事はどうでもいい。とにかく学校に向かわないと!!
街に火の粉が降り注ぎ、人々は倒れていった
「おい、お前ら大丈夫か!!!」
生徒たちは隅っこで固まっていた。
そしてその前には…魔物がいた。
もう既に何人かの生徒は虫の息になっている。
俺の声を聞いた魔物がこちらを振り返る。
見たことがある。冒険者を目指していた頃によく見かけた低級魔物「ウルバリン」だ。
狼男のような姿をしているがそこまでの力はなく、見掛け倒しな魔物。しかし足は狼なだけあって素早い。
そいつはこちらを見た後ニヤリといやらしい笑みを浮かべ、生徒たちを襲い始めた。
「やめろぉぉぉぉお!!!!」
相手は低級。だが俺では到底敵わない。
こちらに敵意を向けたウルバリンの攻撃を間一髪でかわす。
冒険者をやっていたおかげでなんとか攻撃を避け続け、カウンターを入れる!…がダメージが入らない。
「ぐはぁ!!」
溝を蹴られ息が出来ない。
ゆっくり近づいてくるウルバリン。どうやらこいつは弱者をいたぶるのが好きなようだ。
この隙をついてどうにか出来ないものか…
ここで冒険者の経験と教育の加護が働く。
狼は熱に弱い生き物だ。そしてウルバリンは腹筋が弱い。
「くそおおおおおおお!!!!」
ヤケクソになって体当たりをする、ように見せかけ攻撃をかわしウルバリンの背後にあった落ちているほうきを拾い、先を折る。
武器を手にした様子を見てもウルバリンはニタニタと笑みを浮かべている。
そして、その矛先は隅にいる生徒に向いた。
「まさか…やめろぉぉぉ!!」
しかしウルバリンは素早い。
生き残った生徒を引っ掻き回す。
それを見て自然と鼓動が速くなる。
「やめろって言ってんだろうがぁぁぁあ!!!」
折れたほうきをウルバリンの脇腹に突き刺した。があまり深く刺さっていない。
致命傷には至っていないようだった。
ウルバリンは痛みを感じ咄嗟に俺をはじき飛ばした。その顔は怒りに変わっていた。
「教師、なめんなよ…」
しかし俺から幸せを奪おうとした怒りは消えない。ウルバリンの攻撃を避け、ほうきを掴んだ。
「点火!!!」
ウルバリンは苦しそうな雄叫びを上げると口から煙を出しバタッと倒れた。
今のは俺が唯一使える魔法「点火」
手、または持っている物の先端から火を一時的に出せる。手から近ければ近いほど火力は上がるが最大火力でもガスコンロの強の2~3倍程度。
しかし熱さが弱点のウルバリンには効果があったようだ。
そして急いで生徒に近寄る。
引っかき傷は思ったより深く、肉がえぐれ血が止まらず、止血をし声をかけてまわる。
息はしているが返事がない…こんな時、回復魔法が使えたら、と自分を恨む。
「そんな顔しないで、サカイせんせ…」
抱きかかえた生徒がうっすら目を開け微笑みかけ、励ましてくれる。
生徒は死を悟ったようだった。
「みんな…サカイせんせのおかげで幸せだったよ。色んなこと教えてくれて…ありがとう」
いや、幸せにしてもらったのは俺の方だ。
淡い理想に期待し現実に裏切られ、諦めていた心を満たしてくれたのは生徒のみんながいたからだ。
「ごめんな…守ってやれなくて……俺の方こそ、みんなが居てくれたから幸せだった。本当にありがとう…」
目から涙がこぼれる。
嗚咽が出て、上手く息が出来ない。
「せんせ、最後のわがまま…聞いてくれる…?幸せだったこの街、この学校を魔物から守って欲しいの…みんなもそう思ってる…」
すると突然、辺りに暖かな緑のような光に包まれた。
「……私達の力、せんせにあげるから…みんなの力で、大好きなこの場所を救ってくださいー」
そう言って彼女たちは息をしなくなった。
俺は泣き叫んだ。相変わらず外は激しい炎と悲鳴で包まれていたー