第14話 力
「危なッ…..!!!」
叫ぼうとした時だった。
「どこを見ている!!!」
一ザンッ!!!
木にもたれかかり、端にいたおっさんが瞬きをする間にネテロギの目の前に移動し、大剣を木の枝のように軽々しく一振りした瞬間ネテロギの両拳が地に落ちた。
「ウゴォォォォォォォ!!!!!」
ネテロギがとてつもなく大きな咆哮を上げる。
キーラとスズミが再び前を向き、片腕ずつ傷口目掛けキーラは斬撃、スズミは炎魔法を撃つ。
おっさんではないもう1人が弓を引き、目に光り輝く矢を放った。
「今だ!!巨大化!!硬化!!」
すると矢が人間サイズに巨大化し、ネテロギの目を貫いた。
その瞬間キーラが高く飛び上がり、刺さった矢にとてつもなく速い連打を叩き込む。
スズミが連打を打っているキーラに強化魔法をかける。
「す、すげぇ…」
俺は呆気に取られていた。
俺が行動を共にしていた時、あんな戦闘を見た事は1度もなかった。
Bランク冒険者はここまで凄いのか…
一ズドーン
驚いているとネテロギが倒れた。
本当に凄すぎる…上位の上級魔物をあんな一瞬で攻め落とした。
そして一番段違いなのは、あのおっさんだ。
目に負えないほどの動き、あの超重そうな大剣を軽々しく振り回す力…あの人は何者なんだ。
するとおっさんがキーラに近づき、頬を叩いた。
「キーラ。やる気がないなら冒険者を辞めろ。スズミ、お前もだ。戦闘中、敵に背を向ける奴は冒険者に向いていない。」
…え?なんで怒られているんだ?
キーラがいなかったらネテロギは倒せていなかった。俺のせいか?
「すみません!僕が声をかけたせいでご迷惑をお掛けしたみたいで。」
おっさんはジロっと俺を睨みつける。
「俺、キーラとスズミの知り合いで…邪魔してしまい申し訳ないです。だから二人を責めないで下さい。」
おっさんは俺を無視し、キーラとスズミに説教を続ける。
「如何なる時であれ、二度と敵に背を向けるな。敵に背を向ける事は、自ら死ぬ事だと思え。」
2人は同時に答える。
「はい。師匠。以後二度と同じ過ちは犯しません。」
2人とも跪き、頭を下げた。
その瞬間、おっさんがキーラの頭を叩こうとした腕を俺が掴む。
おっさんは俺の方を見た。
「貴様はなんだ。戦闘も話も邪魔をしおって。それになんだその表情と黒いオーラは。」
俺は教える立場として間違えすぎているおっさんに、心底腹が立っていた。
「…おっさん、それは違うんじゃねぇか?キーラもスズミも弓の人も、完璧と言えるほどの連携でネテロギを倒せていたじゃねぇか。俺が邪魔したのは悪かったよ。でもこれは話じゃねぇ。いきすぎた「躾」だ。」
おっさんの腕を掴む手に、グッと力が入る。
すると突然、キーラが立ち上がり、俺を蹴り飛ばした。
キーラの方を見るとブチ切れている。
「キーラ、なんで…」
キーラはおっさんの方を向いた。
「…父上、あいつが兄貴をやった人間です。」
父上…?あのおっさん、トムラさんとキーラの親父か!?
「貴様か。トムラの未来を奪った人間は…!!」
おっさんの周りを赤い煙が包み込む。
なんだあれは。俺の黒い煙と酷似している…
「待ってくれ、あれは…」
「「弱者の戯言など聞かん!!!」」
瞬きをした瞬間、おっさんが目の前にいた。
間一髪おっさんの斬撃を避け、後ろに飛び退いた。
「ほう。俺の攻撃を見極めるか。だが弱者には変わりない!!」
こいつもか…なんで強い人間はすぐ力量で人を判断するんだ…わかラなイ…ドうシテ…
「てメェノやリ方ハ全部間違えてンだよ!!!」
おっさんが俺の目の前に来たと同時に腹部を蹴り上げ、吹っ飛ばす。
「貴様…本当に人間か?」
俺の眼が黒く染まり、角膜は青白く光り、
黒い煙はいつもより濃く、激しく湧き出ている。
「何でてメェハ話を聞かネぇノニ、てメェが気ニナっタ事ハ答えナきャナらネぇンだよ!!」
俺が飛びかかる寸前、おっさんが剣を縦に振った。
と、同時に俺の左腕が跳ねられた。
「ぐぅぅぅぅうう…」
一瞬何が怒ったか分からなかった。痛みを必死に押し殺す。
おっさんの後ろで見ているスズミとキーラは魔物を見るような目で俺を見ていた。
「貴様は罪人。生をもって償わければならない。」
やけくそになり、再び飛びかかろうとした時には既におっさんは背後にいた。
俺はその場に倒れた。ふと足元を見ると…俺の右脚が切断されていた。
「傷口は塞いであげる。死なれたら嫌だし。」
スズミが回復魔法をかけ、切断された腕や脚の断面がそのまま修復される。
「俺の感情はまだ収まらない。だがトムラの失態が招いたことでもある。これで許された事を、心から感謝するが良い。」
その言葉を最後に、俺は意識を失った一
一俺は夢を見た。
「せんせってなんで先生になったのー?」
「どうしたナツ、休み時間なのに遊びに行かないのか?」
いつも休み時間になると一番に外に遊びに行く、悪ガキの「ナツ」が珍しく俺に絡んできた。
「別にいいじゃんかよー、たまにはせんせの相手してやろって思っただけだし!」
普段はやんちゃで手が掛る生徒だが、こうやって絡んできてくれるのは正直嬉しい。
「そうだなぁ。子供の頃は冒険者に憧れてたんだけどな、それよりももっと昔にこの人みたいになりたいって憧れた人がいたんだよ。」
ナツはバカにしたように笑った。
「なんだよ、子供の頃よりもっと昔って!作り話するならもっと上手くしろよな!じゃ、遊びに行ってくるから作り話上手くなっとけよ、せんせ!」
懐かしいなぁ。本当の話だけど、詳しく説明したところで信じてもらえるはずも無い。
そうだ、確かあの言葉は憧れの人が言っていた…あれ…なんて言ってたっけ…
一俺は目を覚ました。
天井が見える。どこだここは…?
てか俺、生きてたのか。確か左腕と右脚を切り落とされて…
左腕を触ろうと右腕を上げた瞬間だった。
一ムニュッ
ん?ムニュ?何だこの触ったことがあるような暖かく柔らかい感触は。
俺は首を起こした。
「ハ、ハナコさん…!?」
俺の頬に平手が飛んできた。
「どこ触っとんじゃボケぇぇぇええええ!!!」
俺はまた意識を失った。
「ほんま、あんたが倒れてんの見つけて病院連れてきたん間違いやったわ。」
俺はまた目を覚ました。
「あれ…ここ…どこだ?」
「何回それやんねん!!!!…はぁ、ふざける元気あるんやったら良かったわ。」
ハナコさんは安心したようにため息をついた。
「それよりあんた、よぉ生きとったな。あ、事情は説明せんでええ、あんたが寝とう間に勝手に記憶見させてもろたから。ほんであんた、今回はなんぼ払ってくれるんや?命助けたんやから、分かっとるやろな?」
ハナコさんは親指と人差し指で丸を作り、ニヤニヤといていた。
「感謝はしてるありがとう!!でも悪どい商売はしないでくれ!!」
ハナコさんはなぜか満足そうだった。
「意外とええツッコミ出来るやん。しゃーなし今回はそのツッコミをお代替わりにしたるわ。まずあんたが出会ったおっさんおるやろ?トムラとキーラっちゅうやつのおとんや。あいつはAランク冒険者かつ、国営騎士団団長の「ホムラ」や。」
…え?えええええええええええええええ!?!?
カルアより強く、直属の上司であり、さらに世界で数十組しかいないAランク冒険者…!?!
俺はそんな人とやり合ってたのか……
「あいつはみんなから「非導者」って呼ばれとる。人にも魔物にも情なんか一切出さん、教育もついていける人間は極小数、その代わり育て上げた戦士はとてつもなく強者しかおらん。そんなやつの恨み買ってもうたん、結構面倒くさいな。」
マジかよ…確かに意味がわからない強さだった。
しかも俺と似た赤い煙が立ち上っていた。
「あいつはねちっこいからなぁ、これからも嫌がらせは続くと思うで。」
あの厳つい見た目でねちっこいのか。
また処理しなくちゃならない問題が出てきてしまった。
「ところでハナコさん、なんで俺を見つけれたんですか?」
ハナコさんがめんどくせぇ〜って顔をしながら説明をしてくれた。
「うちが趣味の山菜狩りしとったら急に馬車が現れてやな、あんたんとこのリリーがうちに喋りかけてきたんや、「助けてくれ」って。ほんで馬車の中見てみたら死にかけのあんたがおったんや。」
え?ハクト喋れるの??てかハナコさんの趣味山菜狩り???
頭がハテナだらけになったがこれを言葉にするとまた気を失うことになるので心の中で抑えた。
「そんなんええねん、とりあえずあんたカルアにも喧嘩売っとんのやろ?」
そうだ、2週間後の戦闘訓練で試合するんだった…!
「ハナコさん、俺何日間寝ていたんですか…?」
ハナコさんは気軽に答えた。
「一週間や。」
「はぁぁぁぁぁぁぁあああああ!?!?」
俺は猶予の半分も寝ていたのか…!?と思った瞬間だった。
「うっさいねん!!!!ここ病院やぞ静かにせんかい!!!!」
また平手が飛んできた。
「まあ、あと一週間しかないかもしれんけど大丈夫や。」
大焦りしながら俺は聞く。
「何が大丈夫なんですか!?まだ何も出来ていないと言うのにどうして…」
ハナコさんは俺の話を断ち切った。
「やかましい!!あんたに必要なもんは「強さ」、ほんで必要なもんも揃っとる。あとはうちに任しとけばええ。グダグダ言うとる暇ないで、今から特訓や!」
この人には人を労る心が無いのか。
でも俺も強くなりたい。
「今からって、でもどうやって一」
ハナコさんが立ち上がる。
「ここどこや思てんねん!国が誇る訓練所「ブルウル」やぞ!!!ほら、ボケっとしとらんとさっさと行くぞ!!」
こうしてハナコさんと俺の地獄の一週間が始まった一