第12話 確定していく未来
一シャンッッ!!!
カルアが背後を猛スピードで駆け抜けた。
「…なんだ今のは。1発で仕留めるつもりだったが消えるように移動した。貴様…「移動」の加護を持っているのか?」
ヤバい、「移動」の加護も知らないし、こいつの底力も全く見えない…!
どうにか戦闘は免れたいが、自分から喧嘩ふっかけといて通用すんのか!?
「もしランクG以上の「移動」の加護持ちであるならば、是非とも国営騎士団に欲しい。違うのであれば…」
カルアが俺を睨みつける。
「い、いや、実は色々あって俺も分からない加護なんだ…」
俺は咄嗟に嘘をついた。
これ以外に戦闘を避ける方法が思い付かない。
「ほう?お前まさか、臨終者から加護を譲り受けたのか?その時の状況を詳しく聞かせろ。そして今から鑑定所まで同行する。」
これ以上言い逃れ出来ない…
そう思った時だった。
「姉さん!!!」
教室の入り口から男のハスキー声が聞こえて来た。
振り向くと、後期学生(17~19歳)ほどの少年が息を切らし、こちらを見ている。
「姉さん、また喧嘩ですか!!!力の差は雲泥なんですから自重して下さい!それとあなた!この人を誰だかご存知ないんですか!?僕が止めてなかったら死んでいたところですよ!!」
ハスキーなのに声がでかいな…
てか、間に合ってねえし神様来てなかったら逆に死んでたわ。
カリウス様マジ感謝…
「すみません、全て俺が悪いんです。先程は俺の生徒の仇のウルバリンを倒したところでした。…前回、カルアさんに負けて怪我を負わされまして、その時の悔しさと魔物を倒せた事で調子に乗ってしまい、僕から喧嘩を売ってしまいました。本当に申し訳ないです。」
少年の顔には「この人に喧嘩を売るなんて有り得ない」と書いてあった。
「…いえ、こちらこそ私より弱いのに、煽りを真に受け感情的になってしまった。失態だ。。」
なんでこいつは一々余計な一言を付けてくるかなぁ。
「しかし、あの時の言葉は許されない。尊厳のためにも撤回を公言しろ。」
一ふと、俺が幼少期の頃の、父と母の言葉を思い出した。
「人生で大切な事は、素直に、勇気を持って行動する事よ…」
「お前は優しい。人の為を想いやれる自慢の息子だ。だがな、意味の無い我慢はするな。言いたい事や間違えてる事は伝え方だけ気をつけてしっかり言うんだぞ。」一
「…カルアさん。正直俺、あんたの事許せてないんだ。家の事は仕方なかったけど、いきなり突き飛ばしたりあんな言い方は間違ってる。さっきの一言も余計だ。だから今度、改めて勝負をしたい。もし俺が負けたら言葉は撤回するし、あんたの下にだって付く。だが俺が勝った時は…剣の稽古をつけてくれ。」
「姉さんになんて事を!!はっ…」
カルアは少年に手を差し出し、言葉を止めた。そして訝しげな表情を浮かべ、俺を嘲笑う。
「お前が、私に?面白い、いいだろう。ついでにハンデもやる。だがその言葉忘れるなよ?」
やはりこいつは自分の力を過信しすぎている。
見下すような目を、真剣な眼差しで見つめ返す。
「…ちょうど二週間後、ブルウルで「総合戦闘訓練」がある。その時に手を合わせることにしよう。いいな?」
ブルウルか。次に向かう予定の街だ、ちょうどいい。
「ああ。あと俺が勝ったらお前って呼ぶな。俺は「サカイ」だ!」
その言葉を最後に、俺は教室を出たー
ふと、少年がウルバリンの死体を見る。
「姉さん!!これって…」
カルアは少年の方を振り向き、冷静に答える。
「こいつは…普通の進化個体じゃない、「開化個体」だ。低級魔物でも開化個体になると、Bランク冒険者達でも全力で相手しないと全滅してしまうほど強くなる。あいつはこのドン・ウルバリンを1人でいたぶっていたのか…」
少年は青ざめた。
「1人で…?騎士団でもない人間が、まさか…」
青ざめる少年を無視し、カルアが歩き出す。
「団長に報告しろ。後は救援隊に任せて、我々は見回りに行くぞ。」
少年は慌てて着いていく。
「はい!姉さん!」
…しかし救援隊が到着した頃にはウルバリンの頭部は見つかったが、死体は見つからなかった一
一方サカイは葬儀に間に合っていた。
「…そばで見守っててくてれて、ありがとう。必ず、成し遂げるからな。」
生徒たちが眠る箱の前でそう呟き、生徒全員の名前を呼んだ。
「俺も、みんなの味方だからな。今までありがとう。そして、これからもよろしくな。」
箱に魔法の消えない火が付けられ、生徒たちの体は天へと昇った一
葬儀が終わり、俺は地下施設にある救援総合受付に向かった。
入口だと言うのに中から泣き声や叫び声が聞こえる。
「はい、こちら救援総合受付です。今回はどうされましたか?」
目的は当然親父の容態、願わくば面談だ。
「救援隊13番隊隊長のロムデイトさんってどこにいらっしゃられますか?」
「確認しますので少々お待ちください。」
受付嬢は、電話をし始めた。
待つ事数分、受付嬢が受話器を置いた。
「すみません、今救援作業に当たっているんですが、13番隊の管轄のどこで作業を行っているかは把握できません。もし急用でしたらこちらで待たれるか、お手数ですが自分で探しに一」
「みんな、今戻ったよ〜。お、サカイくんじゃないか!」
ちょうどいいタイミングでロムデイトさんが救援作業から戻ってきた。
これも「ラッキーセブン」のおかげか…?
「救援作業お疲れ様です。親父の容態は…どうでしょうか。」
俺が聞いた瞬間、ロムデイトさんの顔から笑顔が消えた一