第10話 復讐vs復讐
「残り9000ギルか…」
一日で3万以上使ってしまった。
というかハナコさんにほぼ持っていかれた…
金稼ぎしないとな。
俺はパジャンで帰り際に買った地図を開いた。
次に目指す街は都心グランガルガから東南に位置する街「ブルウル」だ。
ブルウルは通称「国営防災訓練所」と呼ばれている。
なぜならブルウルのさらに東にある、直径200kmを超える超巨大な森「サンロウテン」があるからだ。
サンロウテンには魔物や動物、虫がうじゃうじゃと生息している。
戦闘の技術を高めるならブルウルで習い、サンロウテンで実践を積む、というのがセオリーだ。
しかしその前に寄らなければならないところがある。
ー俺は襲撃以来のグランガルガに戻ってきた。
検問も厳しくなっており、200mほどの行列になっていた。
2時間ほどで検問を無事通り、街に入ると中は悲惨なことになっていた。
襲撃から3日経ち、救援隊が色んな場所にいるというのにちらほらと死体が落ちている。
数が多すぎて追いついていないのだろう。
亡くなった方の親族と思われる人達が自分達で運んでいたりもした。
炎がまだ消えきっておらず、鎮火作業も続いている。
俺は少し急ぎ気味に学校へ向かった。
学校の前では、亡くなった生徒の訃報を聞き泣き崩れている家族や、生き残った生徒を迎え抱きしめ合う家族がいた。
あまり見ないように、俺は自分教室へと向かった。
中に救援隊や騎士団がいたが、さすがに学校は立ち入り禁止ではなかった。
クラスへ入ると生徒たちの遺体はもう既に運び出された後だった。
「すみません、ここにいた生徒達のお葬式ってもう終わってしまいましたか…?」
清掃作業をしていた救急隊員に声をかける。
「あぁ、ここのクラスの身寄りのない子達ですね。あの子たちのお葬式は20分後に校舎の裏で始まりますよ。」
よかった。なんというタイミングだ。
…いや、生徒がくれた加護のおかげか。
「そうですか、ありがとうございます。あの…ウルバリンの死体はどうなりましたか?」
救急隊員は首を傾げた。
「…ウルバリン?魔物のですか?この教室にはなかったですよ。」
背筋が凍った。
死んでなかったのか…!?
「なんだって!?確かウルバリンは1匹でも獲物を逃した際、ちょうど三日後に同じ場所へ戻ってくる習性がある!!今すぐ知らせ一」
一ザシュッ
ボトッ
話していた救急隊員の首が落ちた。
その背後に狼の顔が見えた。
「「「うわぁぁぁぁ!!!!魔物だぁぁぁぁ!!!」」」
一気にパニックが起きる。救急隊員たちは外に逃げ、避難を呼びかけ始めた。
そしてやはり…進化している。
「ドン・ウルバリン」に…!!
魔物は大抵生まれ落ちた時から個体値が決まっており、寿命を迎え死に至るまで進化する事はまずない。
だがハナコさんが言っていた生死をさまよった人間と同じく、魔物も生死をさまようと進化する。
そして何より厄介なのは…生まれた時からの進化個体より遥かに強い…!!
ドン・ウルバリンは中級魔物だがこいつはもしかすると上級並…!!
「グルルルル…」
あの腹立たしい見下したような笑い。
こいつ、俺の事をしっかり覚えてやがる。
「あそこだー!!」
騎士団員数十名が到着した。
よし、これでこっちが状況的に有利だ。
…違う。「把握」がそうじゃないと感じとっている。
「構え!突撃ー!!」
俺もそれに合わせ、構えた時だった。
一瞬の出来事だった。
騎士団員数十名が20秒ほどで細切れにされていく。
なんだあのスピードは…?本当にドン・ウルバリンか…?
冒険者の頃、一度上級魔物と出くわしたが比にならない。
クソっ、こんなやつに勝てるはずが…
「一せんせって冒険者してたんでしょ?すごーい!」
「一じゃあせんせって、強いんだー!」
「一僕はせんせより強くなってやるぜー!」
「一私が襲われそうになったらせんせが助けてにきてね?」
…いや、俺はここで諦めない!!!
現在無条件で使用可能、使える加護は「硬化」「把握」「技術向上」「能力向上」「計算」「状態変化」の六つ!
ウルバリンは手についた血を舐め、ニタニタとこちらを嘲笑っている。
「バケモノめ…」
「技術向上」「能力向上」を重ねがける。
ウルバリンの顔を見ていると親や生徒たちの事を思い出し、ふつふつと怒りが湧いてくる。
そして体を黒い煙が包み始める。
「だ、ダメだ…これ以上怒りに身を任せるとあの時と同じく後戻り出来なくなる…」
ためらうとほぼ同時だった。
一ザシュッ
三本の爪が俺の腹を掻っ切った。
…が、間一髪で「硬化」を使い防いだ。しかしウルバリンの攻撃力が高すぎて浅いが切れている。
「ぐっ…うぉりゃ!!」
カウンターで顔を思いっきり殴った。
ウルバリンは少し吹っ飛んだが、ダメージが無さそうだ。ニタニタと薄ら笑いを続けている。
「これでも効かないのか…」
冒険者見習いの時はやられるだけで、まともに戦えたことすらなかったせいでダメージが入っているかわからない。
するとウルバリンは音速並の速さで俺の背後に回った。
一ヒュン!!
どの角度で攻撃が来るか「計算」を使い、間一髪で頭を下げ攻撃を避ける。
そのままの勢いで、右足で脇腹に回し蹴りをかます。
吹き飛んだウルバリンが黒板を貫通し、隣の教室が見える。
立ち上がったウルバリンは怒った様子だった。
「へぇ、お前あの時の傷治らなかったんだ。痛いか?なぁ…お前に殺された母さんや生徒達は!もっと痛かったんだぞ!!!」
目が黒く変色し、体から黒い煙が出る。
「グギャァ!!!」
ウルバリンがとてつもない速さで切りかかってきた。
だが、なぜか今の俺には視えた。
体を右に傾け爪を躱し、ウルバリンの傷を左手で思い切り殴り上げる。
ぐるんと空中で一回転したウルバリンの首に手刀を当てる。だが硬くて切れず体ごと吹き飛んだ。
「……?」
体が不思議と軽い。これは…もしかして「覚醒」か?
ウルバリンが再び立ち上がる。
…その顔は殺意そのものだった。
再び俺に飛びかかる。何度も攻撃を避け、切りかかった方の腕を切りかかった方向に蹴飛ばす。
「グォォォォォォン!!!!」
脱臼したようだ。
そのまま足払いを仕掛け、転倒した瞬間脛の骨を踏みつけ折る。
「ギャゥゥウン!!!」
もう片方もすかさず踏みつけ、折る。
動けなくなった瞬間、最後の腕も片足を二の腕に乗せ、重心をかけ逆方向に蹴り上げ折る。
「ギャン!!ギャンギャン!!」
ウルバリンの殺意を徐々に恐怖が飲み込んで行く。
「お前は何人、その表情を浮かべている人間を殺してきた?どんな気持ちで殺してきた?なぁ、答えろよ」
ウルバリンの首を掴み持ち上げ、傷に無理矢理手を突っ込んだ。
ウルバリンが苦しそうな声を上げる。
しかしなぜかそれが心地良く感じてしまった。
手首まで入ると呟く。
「…点火。」
さらにウルバリンは悶え苦しむ。
しかし中々死なない。
「死にたいか?痛いか?怖いか?なぁ。…お前だけは簡単に死なせねぇ。もっと苦しめ。」
尋常ではないほどパワーアップした点火を放ち続けながら、死ぬ寸前で直接体内に回復魔法をかけ続ける。
ー15分程経った頃。
誰かが教室に入ってきた。
いたぶるのに夢中で気づかず、驚いた反動で首を握り潰してしまいウルバリンは死んだ。
「おいお前、何者だ?そこで何をしている。」
教室に現れたのは国営騎士団副団長 カルア・グリナであった一