猫猫猫猫猫猫
私は焦っている。なんでこんなに私の元に猫達が集まってくるのだろう。特に私が興味を引くようなことは何もしてないのに。
しかし落ち着いて見てみると、みんな敵意とか害意とかは無いようだ。くりっとした純粋な目で私を見ている。
何も行動を起こす気になれず手持無沙汰だが、取り敢えず先程見えた川に行くことにした。頭を冷やしたい。
川へ向かう100mの間も、猫達はずっと付いてきた。猫を家来にした御奉行様みたいで、ちょっと面白い。しかし、面白いだけで特に実益は無い。
近づいて川を見ると、結構流れがなだらかだと分かった。幅は3m程度で、水面の下には魚がたくさん泳いでいる。猫達はこの魚を獲って食料にしているのだろうか。いや、夢だからそういう心配はしなくていいのだろうが。
川をぼんやり眺めると、穏やかな水面が水鏡になり、冴えない社会人の顔を映し出した。飽きるほど見てきたこの私の顔は、相変わらず疲れ切ったような表情をしている。
振り返ると、やっぱり猫が大勢いた。猫、猫、猫。何だかさっきよりも増えている気もする。
にしても、猫、か。私は夢に見るほど猫が特に好きなわけでは...いや、好きなのか。子供の頃に猫を飼っていてとても可愛がっていたっけ。やっぱり私は猫が好きなのか。
一番近くにいる猫を抱き上げた。柔らかな毛がふさふさしていて、温かくて、気持ちがいい。こうして猫を触るのも随分久しぶりだ。久しぶりに触った猫の質感は、子供の頃のそれと寸分違わずに心地良かった。
川を背にして、ネコ達を見る。一体何匹くらいいるのかも分からない。白、茶、金、黒。さまざまな毛色がある。みんなきれいな眼をしていて、みんな可愛い。
大地があり、峰がそびえ立ち、川が流れていて、猫達が居る。それ以外は何も無い、巨大な空間。ここには、ストレスとなる人間関係や仕事など何も無い。
晴れわたった空の下で、多分人生で最も大きな深呼吸をした。
やけにすっきりとした胸とともに、私は空を見上げた。絵みたいに青い空に、大きな雲が一つ。