表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/50

#8 三年後の話

 三年後――――俺は五歳の誕生日を迎えた。拾われた日が誕生日となっている。

 五歳という事は、この世界に転生して五年という事になる。どんどん死んだ当時の白川雷と離れていくのが怖い。

 今日が誕生日だから何だという話だが、そういえば前世ではプレゼントを貰っていた。すっかり忘れていたが、唐突に思い出した。

 今、身を寄せさせて貰っている家はあまり裕福ではない。というより、貧しい。

 三年間世間を見てきてわかったが、貧しいのが普通。貴族でも庶民よりはマシだが貧しいらしいのだ。

 この国は王国。つまり王様がいるという事。トップが王様、そしてその下に付く貴族。公爵から男爵で、その更に下にジェントリ、つまり地主がいる。ジェントリは平民という区分だが、普通の平民より豊かでちょっと偉い。

 ジェントリの中には傲慢でクソみたいな奴もいるようだが、幸いにも俺が住む村······集落のジェントリは優しい人だった。たまに食事を集落の人達に分けているし、贅沢もしない。

 俺は思ったよりも幸せな方なのかもしれない。生前によく見ていた異世界アニメもラノベは、中世ヨーロッパ風だとか書いてあったが、あれ程裕福ではない。

 お風呂になんか殆ど入れない。汚いし嫌なのだが、もう慣れた。

 そう考えると、兄姉達と暮らしていたその場所は発展していたんだなと思う。進みすぎている程に。

 ここはミルトアという名の集落だ。

 この国の王都と第二の王都みたいな感じの栄えた場所の中間地点で、よく輸送の商人が通る。盗賊は少ない。何故なら見渡しやすい地形だから。木とかは俺達集落の住民が時折切り倒しているし、何より平野だ。

 食卓に豆のスープが置かれる。

 スープの味は何とも言えない。文句は言わない。俺は捨て子だから、いらぬ口を出すと何をされるかわからない。だが、この両親が俺に酷い事をするとは思えない。

 優しくて、時には厳しい。自慢の親だ。

 朝ご飯を食べ終わると、すぐに日の光を見る。ほぼ休憩なしに畑仕事だ。


「――――、籠持ってきてくれる?」

「うん!」


 母親だ。髪も目も、色は全く違う。だから俺はよく、ミルトア内の子供達に罵られている。捨て子なのはミルトアの人達全員にバレている。俺はそれ程気にしないが、捨て子で他の子と仲良く出来なかったのが、罵られる原因だ。

 日が出ている間は畑仕事。女子供構わず、夏も冬も関係ない。畑仕事が俺達の役目であり、というかそれしかやる事がない。

 俺はまだ五歳だし、大人に比べると耕す面積が少ない。というか、子供は大人の手伝いだけをしていればいいのである。

 俺達が作っているのは、豆。とにかく豆。カメムシが寄ってくるので、豆の栽培は嫌なものの一つだ。まあ、豆しか育ててないけど。

 いつもの食事の殆どは豆料理で、味は薄い。魔法のお陰で水不足はないが、その代わり味がないというのが欠点である。

 でも、この世界は生きているだけで幸せ。食事に文句なんて言っている暇があるのなら、食事の材料を作る方が有意義な時間となるのだ。

 集落は大きな柵で囲まれている。狩り以外で柵の外に出る事はない。というか、狩り以外で出る事は禁止されているのだ。

 この世界には魔法がある。だから魔女や魔物といった危険視されているものが外にはあるのだろう。何だか、窮屈だ。こういう集落に住む人達は、一生をここで終える。外を見られずに、息絶えていく。

 逆にそれはそれで幸せなのかもしれない。外の汚い部分を沢山見てきた転生者の俺は、そうも思った。だが、やっぱり外を見ないままに死んでいくのは可哀想だ。

 改めて、こういう時代の生きていく苦しさを知った。

 個性は求められず、自分らしさを出せないこの時代を。夢を持つ事も叶わない、この狭さ。至った普通を求められ、異端には死を。魔女狩りはこの国で実際にあるらしい。普通では使わない魔法の使用は避けた方がいいのかもしれない。

 前世の世界がどれ程優しい世界なのか、思い知った。


「籠、何個?」

「三個でいいよ」


 この籠は籠といえるのかどうか、怪しいところだ。編まれた草はボロボロにほつれていて、土まみれで小汚い。余っていた籠は三つ。丁度だ。

 三つの内、一つは上部と下部が千切れかかっていた。殆ど使い物にならない。籠は運ぶという役割もあるのに、入れる事くらいしかできないのだ。

 俺は作り笑顔で母親に籠を渡す。籠は俺がすっぽり入るくらいの大きさがあり、空っぽの状態でも重いと感じる。

 今は五歳。体力や単純な力が弱い。しかも転びやすい。怪我はよくするし、呂律が回りにくい。

 畑作業を手伝っても逆に迷惑かけるだけだが、他にやる事がない。何もしないより、迷惑でもやった方が格好がいいのだ。


「はい、籠」

「ありがとう。――――はいい子だね」


 俺の名は“――――”。日本語で表せない独特の発音だ。この国の文化なのだろうが、名前は他の言語から持ってくる。前住んでいたところでも、日本の花から名前を取っていたし、この世界では、名前を付ける時は由来を異国や異国語から持ってくるのが習わしなのだろうか。

 俺の肩に泥団子が投げつけられる。またいじめだ。日常茶飯事である事は変わりないが、いつもされると腹が立つ。だがここで仕返しをするのは愚策といえる。俺は典型的な『いい子』を演じる。それといって大きなメリットはないが、デメリットはある。

 比較的幸せな生活を送るための、小さな努力だ。


「魔物だ、魔物が襲ってきたぞッ!」

「逃げろ――――ッ!」


 来たか、魔物襲撃イベントが。月に一度のミルトアが混乱状態へ陥る、急なイベントだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ