#67 オーディンごっこをした話
ファルカスもラーファもマリーもレイガルドもユリウスも、背を向けて一箇所に集まって俺を守るように囲んでいる。
え、俺? 俺、かぁ。俺だね。俺なのかぁ。
え、何でぇ?
「妖精の裏切り者め!」
「俺達を置いて行きやがって!」
「裏切り者! 元から騙していたんだ!」
う、裏切り者?? 俺さぁ、元から見方なんてしてないよ。そもそもここに来たの初めてだし。
やっぱり、オーディンか。俺が魔族と人間の混血だから、思い込みしちゃったんだね。
マリーが険しい顔をしている。転移魔法で逃げられるだろうが、余計に王への不信感が高まってしまう。
畜生。俺は魔法使えないから、魔法障壁張れなくて不利なんだよクソが!
石を投げてくる奴らはどんどん増えていく。たまに魔法が飛んできたりしてかなり厄介だ。
「王は裏切った!」
「我々は見捨てられたのだ!」
ダメだな、話が通じない。ファルカスたちが守ってくれてるとはいえ、流れ弾が飛んでくる。狭くて剣を振り回せないから、避けるしかできないんだけど。
「落ち着け! 我らが王オーディンは決して裏切らない!」
マリーがそう言うが、まったく民衆には響かない。それどころか投石は増えるばかりだ。
まずいな、これ。早く帰りたいが、マリーも投石を遮るのに精一杯だ。
ところでさっきからファルカスとラーファから視線まで飛んでくるようになったんだけど。指でちょいちょいされて作戦会議始まったんだけど。
ゴニョゴニョされてから、グッドサイン。いい笑顔だが、全部お任せされてる感じ?
アーティファクトに込める魔力を多くしてっと、準備万端だ。
「裏切った、と。笑わせるな」
羞恥心なんてどこかに捨てて、オーディンごっこの始まりだ。
ファルカス&ラーファの作戦はこうだ。大声でオーディンのふりをして民衆を止める。単純明快すぎる。
しかし確かに効果はある。俺が息を吸った瞬間、妖精たちの動きが止まったのだ。
もう一度か。はじゅかちぃ。
「良く聞け。お前らは俺の大切な民であり、友であり、家族でもある。裏切るなどと金輪際ないとここに誓おう!」
俺の思い描くオーディン像なんだけど、これであってるのかな。大丈夫かな。いやきっと大丈夫。
もしも俺がオーディンだったら、こう言うだろうなってことを言ったまでだ。
気づけば周りはしんと静まり返っていた。
まるで時が止まったかのように、妖精たちは石を持つ手を止め、一点に俺を見ていた。
ど、どどど、どっどっどっちだ? まったくもってオーディンじゃなかった? それともヒットしちゃった?
どうしたんだ、マリーまでこっちを見て。そんなに俺がおかしいかね。笑ってもいいさ。
「······ま、まさか、王が――――?」
ファッ!? 王がどうしたのだ。恥ずかしいから誰か突拍子もないことを言ってくれ。頼むうううぅぅ!
そのうち、ざわざわが広がっていった。しかし先程のような、罵倒は一切ない。
雰囲気的に窮屈な感じがしたので、とりあえず剣を仕舞う。敵意がないことを適当に表現したつもりだ。
群衆の中から一人出てきた。
げっ、クロードじゃないか。まさかいたとは思わなかったが、かなり不快だ。畜生。
ラーファがクロードの接近に身構えるが、ファルカスがそれを黙って静止する。
クロードは俺の前に立ち、そのまま流れるように膝をつく。跪く、という方が正しいか。
「ずっと、お待ちしておりました」
俺はお前と会うのに待ってなどなかったけどな。
クロードのその様子を見て、妖精たちは顔を見合い、石を置いて跪いていく。彼らは恐れと感動と、まあその他諸々な様子だ。
成功、でいいのかな。それはそれで余計に帰りにくくなったけど。
ファルカスと顔を見合わせて、グッドサインをお互いに叩きつける。助かったぜ、友よ。
「さて、あー、来たばっかで申し訳ないが、俺にはやることがあって······えー」
「勿論、貴方様の自由にしていただいて構いません。お帰りになられるまで、首を長くしてお待ちしております」
オーディンごっこも疲れてきたところで、クロードがナイスかましてくれた。きっと彼ももう理解しているはずさ。俺がオーディンじゃないって、ね。
マリーに目配せして、転移魔法を発動してもらう。やっと帰れるー。
あ、何か言ったほうがいいか。黙って去るのはオーディンらしくないかな。
「また会おう」
これでいいか。本物のオーディンには申し訳ないが、演じさせてもらったぜ。もう死んでるし、転生してる確率さえ低いだろうから、彼らはもう本物に会うことはないだろうけど。
白い光が視界を閉ざし、消えると王城が見える王都内にいた。直後に来る安堵感。
もう妖精の国には行かないと心に決めた一日だった。




