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#65 丘の上の妖精の話

 思わず顔をしかめて、なんとも言えない声を出しそうになった。まだアーティファクトなしで声を出せないのが幸いだ。

 ラーファとファルカスも笑顔を保ちながら落ち着いてないようで、魔力の様子が沸騰寸前だ。まあまあ、冷静になれよって。

 まさか協力者としてまた接触があるとは思わなかった。二人とも五年前と何も変わっていない。何歳だか知らないが、エースなんだろうな。


「お初にお目にかかります」

「ああ、どうも。ウリアから話は聞いてます」


 ファ、ファルカスくぅん? 声のトーンから雰囲気までさっきから全然違うんだけど。

 な、何だよ。急にピリピリした感じになっちゃって。って、俺達か。俺も含み。

 ユリウスが頭を抱えている。アホアホな上司がいると大変だね。

 クソが。こいつらとだけは手を組みたくなかった。しかし、彼らが有力な協力者であることは間違いない。搾り取るだけ搾るか。妖精とか聞きたいこともあるし。


「実は、妖精の国に探し人の今を映し出す不思議な鏡があるという噂があるのです。そこに行きたいのですが······」


 妖精の国、か。あれから五年か? 気乗りしない話だ。不思議な鏡には興味あるのだが、あいにく妖精だらけの場所に行くというのは、ね。

 クロードに出没されたらたまったもんじゃない。しかも俺達は学校もあるのだ。休んで旅に出るなど、義務教育の無駄遣いになってしまう。

 ここは残念ながら、無理だと言うしかあるまい。


「不思議な鏡、ですか」


 あかーん。ファルカス食いついてるー。嫌な予感がしないわけがない。彼ならばきっと何かしでかす。


「初めて聞いた。でも噂が広まってるなら、妖精が新しく出てきてもおかしくないね」


 ラーファが言う。彼女も俺とファルカスみたいな知識の探求者だ。とりあえず本を読み続けた結果、豊富な知識を持つ人になってしまった。

 妖精についても勿論詳しい。妖精は伝承や噂で作られる種族。心が集まってできるのだ。

 噂が公爵の耳に入るくらいなら、もう既に広がっているだろう。ならば、もう妖精ができていても不思議じゃない、か。

 行ってみる価値はありそうだ。しかし、安全性が低い。それに妖精の国がどこにあるのやら。


「実は僕に、知り合いの妖精がいるんです。どうです、妖精の国に案内してもらうのは」

「レイガルド様、口の聞き方」


 レイガルドがにっこり、いい笑顔でそう提案した。その軽さにはびっくりだが、しっかりした部下がいるようで何より。

 知り合いの妖精?? 疑わしい。妖精ってそうそう人の前に姿を現さない。嘘言って、俺達を全員殺すつもりじゃなくて?


「へーー、そうなんですね。じゃあ早速紹介してくれませんか」


 ファルカスは笑顔だ。ただ、声に感情が乗っかってないだけだ。

 そう、ラーファは笑顔を放棄したんだね。俺もだね、うん。

 疑っているのは三人共同じだったみたいだ。

 早速レイガルドは案内してくれた。

 王都郊外、畑が増えてきて自然が多くなってきたくらい。人里離れた場所ってわけでもないが、のどかな丘の上にぽつんと古い小屋が建っていた。

 レイガルドがそこのドアをノックする。返事はなかったが、彼は勝手にドアを開けてずかずかと小屋に入っていった。

 奥に寝ていたのはレイガルドと同じ歳くらいの女。髪はボサボサで顔は見えなかった。魔力は不思議な感じしてて、少なくとも人じゃない。アルタイルから感じていたエルフっぽさはないし、だからといってドワーフでもなさそうだ。妖精というのは本当か。つまんねぇの。


「起ーきーろー。妖精なのに、睡眠が必要なものなの?」

「必要なのだよ、これが。やはり妖精というのは人型生命体の心からできているからね。人型生命体と同じような生態になるのは当然と言っても過言ではないのだよ。勿論、睡眠はお肌に良くないし、食事なしで生きていけない。結局人型生命体は、どんなに夢を綴ろうとも必要不可欠なものとは離れられない運命なのさ。これがまさに、人間美! なんと美しいことか! ああ、排泄ももちろ――――」

「そこまでだ」


 癪で仕方がないが、レイガルドにはナイスと言うべきだろう。

 急に飛び起きたと思えば、つらつらとよく喋った。レイガルドが止めなければまだ続いていただろう。

 妖精の女は口を尖らせて、誰? と一言。お前がな、と言いたいところだがあっちもそうであるハズ。

 レイガルドはしっかり空気を呼んで俺達を紹介してくれた。あっちは勝手に自己紹介。

 彼女はニンフという妖精のマリーというらしい。彼女は見た目に関わらず、結構前から生きているらしい。妖精だから生きているという表現はどうなのかという話だけど。

 俺にぐっと近づいて彼女は言った。


「おぉ、君がクロードが言ってた子か。アイツ、凄い形相で君を見守れっていうから、何かと思えば混血児か」


 目がキラキラしている。クロードと知り合いだったのか。まあ、そうか。長生きしてそうだからな。

 魔族と人間の混血児は珍しい。何百年ぶりかと、マリーは目を凝らして俺をじろじろ見ている。

 あの、そんなに俺に何かありますかね。


「······なるほど。クロードが見守れって言う意味がわかった」

「監視しろの間違いじゃないんですか」


 おっと、口が滑った。マリーは俺の肩に手をおいて、ウインクを一つ。

 彼女も、監視しろっていう意味だと······わかっていたんだな。きっと。

 くるっと向きを変えて、マリーは腰に手をやる。


「で、妖精の国に行きたいって? まあすぐに行けるけど、今すぐ行く? 鏡も探せばすぐ見つかると思うよ」

「いいんですか!?」


 ファルカスが前のめりになる。今すぐにでも行きたいと言わんばかりの勢いだ。

 すぐに行けるのなら、行ったほうがいいだろう。まあ、ぶっちゃけ好奇心が抑えられない。

 公爵は断った。どの道お世話になるだけだし、仕事もあるから、と。

 というわけで、俺達三人と、レイガルドとユリウスになるわけだが。大丈夫かな、これ。

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