#64 五年後の話
それからの俺はもう、頑張った。魔族についての文献を読み漁り、剣を磨き、剣を磨き。時には魔法をトライしてみたり。挫折したり。極度の痩せを改善するために、食べて食べて。
いつか、ムキムキのイケマッチョになるために――――。
そうして、五年が経った。立派な最高学年として、今年がスタートした。
ただ問題があるとすれば、身長が伸び悩んでいるということだ!!!
ファルカスの身長が大体、百五十センチ。ラーファもほぼ同じ。対して俺は、百四十弱。
ふっ、まだまだだなと焦燥。
護衛の訓練をしているおかげで体力も筋力もついている。しかし身長が低い。
チビだチビだと馬鹿にされるのはもう慣れたさ。未だに傷つくけど。
今日はラーファの実家? 生家? まあなんでもいい。ステラ公爵家にお邪魔する予定だ。五年前、行く予定だった気がするが、クロードに潰されたやつ。
「これって礼服のほうがいい?」
「んー、別にいいんじゃない、制服で」
「いっかー」
出た。制服でいいんじゃない、のパターン。制服着とけば間違いはないからな。
ファルカスもラーファもすくすくと成長し、かっこよさまで出てきた。大人らしさがあるというか。
そんなのはどうでもいいのだ。別に、別に気にしてないし。
ステラ公爵家は聖女を輩出する家。ラーファの母親も聖女だが、現在行方不明とのこと。ラーファ自身も、捨てられる前の記憶はまだ戻っていないからな、裏はあるんだろうさ。
馬車で移動すること二分。徒歩でいいのではと思うのだが、馬車は王家の家紋? 印があるから、公爵家の門をくぐるための切符にもなる。馬車酔いする方だから馬車で行くと聞いた時はやっぱやめると言いかけたな。
堂々と公爵家の門を通り抜け、その後に続く屋敷の前で馬車は止まった。
公爵家はやっぱり豪華絢爛でいらっしゃる。使用人たちが屋敷の扉の前で待機していた。
馬車を開け、最初に出たのはファルカスだ。そしてエスコ―トするように馬車を出ようとしたラーファに手を差し出す。
美男美女は絵になるな。眼福なり。
俺は一人で飛び降り、ドアを閉める係だ。ファルカスの後ろに静かに佇むだけ。
「お待ちしておりました」
使用人たちが扉を開く。重そうな扉だが、彼らは軽々と開けてしまった。どうやら魔法を使ったみたいだ。
扉を乗り越え、一室に案内される。応接室だ。そこには公爵その人と思われる中年の男性が立っていた。
確かに、ラーファの面影もある気がする。キリッとしているのにどこかあどけない感じがする。優しそうなおじさんだ。
「こんにちは、お義父さん」
「ご機嫌麗しゅうございます、殿下」
ファルカスがその男性を見るなり、軽く頭を下げた。そして男性の方は深々と頭を下げている。身分だな。
お義父さん······あー、そういえばファルカスとラーファって婚約者同士だったな。普通に忘れてたけど。
ラーファは少し緊張しながらも、促されるままに対面で並んでいたソファに腰掛ける。ファルカスと公爵も続いた。
そして俺は、起立である。俺はあくまで従者。こういう場で座っちゃいけないのだ。そしてあちら側にも同じ立場がいる。存在が薄くて気づかなかったが執事がいた。まだ若いな。
ここからは目を合わせて対談だ。立つのキツイっすね、大丈夫ですか、と目で聞く。これがまさに、英語の授業で散々言われた、アイ・コンタクトなのだと気付かされるってもんだ。
こうして互いに監視し合うことで、足の震えが隠せるのだ。ぶっちゃけ、主人のお喋りの内容とか聞いてない。足の悲鳴に耳を傾けている。
「最近そちらは?」
「いやぁ、妻が消えてからもう五年半も経つのに、一向に何も······」
「そうですよね。実は僕も······」
早く終われ。和気あいあいとした雰囲気に水を指したい。なんて、思っているとでも思ったか? 勿論思っているとも。
しかしこれは重要な、そして厳密なお話。たまに気になるワードも出てくるし、おさらいだけでもしておくが吉なのだ。
まず、公爵の妻でラーファの実の母、まあつまりは聖女は五年半前からずっと行方不明だ。
聖女いなくていいの? と疑問に思うだろうが、大丈夫だ。形骸化していた役職の一つ。王国の正式な大きいお祭りや祭典で、舞を披露するってな感じだ。
とはいえ、形骸化したのはこの数十年間で、どこかで紛争または戦争が起これば、聖女は治癒士として働かざるを得ない。
とりま、ラーファが成人するまで見つからなかったら、聖女ラーファ様の誕生だ。
俺としては、ラーファが聖女になるのは好ましくない。何、ただの私情だ。どこか遠い存在になりそうで怖いってだけ。
その、現聖女を捜索はしているけど、王国中隅々まで探しても見つからない。ってなわけで、母親が同じく行方不明のファルカスも捜索の協力を申し出たのだ。ラーファの後押しもあって。
「せめて何か一つでも、手がかりがあれば――――」
「······そうそう、殿下。紹介したい者おるのです」
うぅー、足の痺れがビリってきたな。早く終われよ。紹介したい者がおるとかおっしゃってる場合じゃないんだよ!
あーもう、そんなときの、アイ・コンタクト。
そろそろ、キツイですね。と視線で送る。あれー、いない。どこに行ったのかと思えば、ドアを開けていた。
紹介したい人、か。新たな有力な協力者? そうだといいけど。
鎧の音が聞こえる。騎士か。野蛮な人間じゃないといいけど。
部屋に入ってきたのは二人。金髪と黒髪の、イケてるメンズの皮を被った――――嫌なもの見た。
思わず腰にかけている剣を抜きたくなる。手がちょっと動いたのはほんの挨拶。
「ご紹介します。次期聖騎士長候補の、レイガルドとその部下、ユリウスです」




