#63 護衛の訓練の話
起きた。過去一早起きだ。
この早起きには理由がある。アレだ、護衛の訓練だ。
初めての参加なので、先輩たちにチヤホヤされた。誰の護衛なのかは言わないルールらしく、その理由は主人の関係がどうであれ切磋琢磨して護衛だけの関係を築こうぜってことらしい。
俺より年下はいないようだ。基本的に護衛は主人と年が近いか同い年だろうし、ファルカス以降の王族はまだ決めるような歳でもない。必然か。
まずはランニングから始まる。基礎体力向上だ。でも俺、あまりにも体力がなくて、本来なら約十分の砂時計二回分のところを、一回分にしてもらった。
次に剣術、または格闘。剣術も格闘もできない俺は、唯一の知り合いであるアルタイルに手解きをしてもらった。基本的な剣の振り方、さばき方。足の使い方。色々教えてもらったが、明日には全部パッパラパーだろう。
次は魔法。命中率や威力を上げる目的だ。ただし、俺は魔力が使えない。そのため、同じく魔力が使えないアルタイルと剣の稽古だ。
畜生だりぃなと思いつつ、ゆるく雑談もしている。
彼は魔力を使うと俺のように目ではなく、耳に来るそうだ。実際、右耳は少ししか聞こえないとのこと。そういうのも種族的特性が出るのかも。
混血は評判が悪い、というか忌み子のような扱いだから、とっっっても少ないらしい。とはいっても、人間はドワーフと共存しているから、前よりはマシになったとのこと。
しかしそうなったことで人間は、ドワーフ以外との混血児の差別が大きくなるってこともあるのだ。まあそれもそうで、ドワーフ以外だったらほとんどが望まぬ妊娠による子供だろうからな。生まれた瞬間に殺される。
俺も実際、捨て子だからな。
アルタイルも捨て子だったようで、最初は娼館で生まれて、世話をしてくれていた人間の母親が自殺、路上に捨てられる、護衛として拾われて今に至るというのだ。壮絶だな。ハーフエルフというのが見てわかるため、路上では誰も拾ってくれなかったそうだ。
何だろう、その、一気に親近感が湧く。しかし俺は、見た目は完全に人間だ。ハーフエルフである彼は、周りからの視線がさぞかし痛かったであろう。
純血が高貴だ、偉いんだとほざく奴らは腐るほどいる。勿論、貴族にも。それを聞くたびに悲しくなるよね。
俺の前世の世界では種族とかなかったけど、いわば人種差別だよな。見た目的な問題でもあるし。種族差別とでも言うべきか。
まあ何が何でも、差別は良くないよな。そういう風潮が、この世界全体にあればいいんだけど。残念ながらまだ、先は長いってところかな。
そうこうしている間に、訓練終了の号令が終わった。各々が主人のところに帰っていく。
俺も帰ろうとしたが、アルタイルに呼び止められた。
「その、昨日は殿下の前だから言わなかったけど」
殿下······ああ、ファルカスのことね。改めて、彼って王族だったんだな。
アルタイルがもじもじして口を濁らせている。しかしその表情自体は真剣で、聞き逃しちゃいけない話なんだなと理解させられる。
早く言えよ。お前も早く主人を守れよ。
そういえば今日の宿題やったっけ? あ、学校行ってなかったからいいのか。仕方ないってことで。
「間違いなく君の片方は、魔族だ」
······何って? はい? 俺もう耳が遠くなってきたかな。思わず耳を疑った。
魔族? 俺の片方ってことは、親のどっちかが魔族ってことだろ? いやいやいや、そんな、そんなことがあるわけ――――とは言い切れないのが残念で仕方がない。
もうね、残りの選択肢が妖精と魔族しかないって時点でわかったよ。俺の親は、もの好きだって。でもね、まさかね、魔族だとは思わないよね。
まあ、クロードがオーディン? だっけ。その人が魔族と人間の混血って言った時点でちょっと確信はあったんだ。でもただ、信じたくなかっただけ。
「そうなんですね。教えてくれてありがとうございます」
もう朝から頭フル回転で、それしか言葉が出なかった。
案外アッサリしていると、アルタイルは驚いていたが、実際は俺の心の中はびっくり仰天しすぎて世界旅行して帰ってきたのだ。コッテリでした。
「じゃあね、また明日」
ああ、そうか。また明日もあるのか。明日も早起き、できるかな。
部屋に戻り、学校の準備をする。いやはや、驚きだらけの一日だわ。まだ朝だけど。
ファルカスの部屋にはカレンダーがかかっているので、それを見る。えーと、八月······八月ぅ!?
え、え、え、つい数日前は六月だったハズ。おかしい、間違えて二枚めくっちゃったやつ?
ま、待てよ。そしたらもう夏休み始まってるじゃん。
いやいや、気温上がってない。ってことはカレンダーが間違っているんだ。
······そういえば、体力はもともとないけど、今日は一段と疲れやすかったな。この時点で一つの仮定が成り立つ。
鏡、鏡は? 洗面所に駆け込んで、自分を見る。前より痩せてる。風に飛ばされそうだ。夏なのに涼しい感じがしたのは、体温調節できてないからか。
――――ということはつまりですね、クロードのところで二ヶ月間寝たきりだったってことでよろしいのかな?
ラーファとファルカスが起きた後に聞いてみた。俺はどれくらい消えていたのか、と。
彼らは答えた、二ヶ月間、と。
所詮は孤児。探す人手もいないので正直もう帰ってこないことを覚悟してたとのこと。
あー、心配かけたな。本当に。これはクロードが悪いのです。全部あいつのせいなのです。
夏休みか。あー、何か損した気分。勉強で困った部分はないが、二ヶ月分の読書がダメになったのだ。
もうないとは思うけど、次クロードに会ったら半殺しにする、絶対。




