#62 妖精王とアルタイルの話
一定の速いリズムを刻んで、風が舞い込んできた。タックルにも等しい勢いで飛び込んできたのはラーファだった。後ろからついてきたファルカスもいる。
学校から帰ってきたのか。やっぱり、心配させちゃったかな。
「······今まで、どこにいたの」
抱きついてきた彼女の表情はわからないが、ほんのちょっと寂しそうで、何よりも嬉しそうだった。
無事で良かった、という言葉をファルカスから頂いたが、その、実際には無事じゃないんだよな。片目がもう、ダメになっちゃってるし。
それに、妖精王というのも気になる。でもアレだろ? 混血以外は共通点ないんだろ? きっとあっちも、冷静になってやっぱ違かったって、なってるハズ。
「実は、妖精の不審者に攫われてて――――」
「「妖精??」」
······
何があったのかは、簡潔に説明しよう。まず、妖精の話題になった。
ハーフエルフのアルタイルさんは、種族的に妖精との関わりがあると発言。ああ、その前にファルカスにお礼してた。
まあそれはどうでもいいのだ。そしてファルカスは自分の部屋に部外者は入れたくないので、庭園でゆっくり日向ぼっこしながらお茶しながら妖精について語られるという流れに。
ちょっと面倒な気もするが、妖精について知れるならいいかな。
「それで、妖精王って何です?」
ファルカスが聞く。一見すると敬語以外はいつも通りだが、警戒心がバチバチだ。彼にとっては、如何なる生物でも王族と関わりがあるなら警戒対象に入るのだろうな。
初めて見る従者に出されたお茶は、飲むふりをして飲まない。ファルカスもラーファも俺も、これは三人共通だ。香りはいいんだけどね。だからこそ怪しいものがある。
ファルカスの警戒に気づきながらも、半ば飄々とした態度を取るアルタイル。
「妖精王とは、まあ言葉の通り妖精の王のことです。彼は、魔族と人間の混血で、知識を得る為なら何でもした――――そうですが詳しくはわかっていません」
ほほーん、オーディンという名前は伝わっていないのか? アルタイルさんの口ぶりからするとそうなんだけど、そうするとオーディン様は謎多き人物なのかもな。
そしてまた出た。魔族と人間の混血。妖精じゃないのに妖精王で、知識に飢える者。変人確定だな。
そういえば俺って、何と何の混血なんだろう。人間はほぼ確定なんだけど、その、アルタイルさんを見る感じ片方がエルフだと耳が尖るっぽいんだよね。しかもドワーフっぽい感じでもない。
となると、妖精か魔族。いやいや、魔族もないんじゃないか。だって人間に仇なす種族だろ? 出会うこともほぼないと思うんだけど。
残りは妖精。しかし、妖精がどんなものなのかがわからない。それこそ、妖精と関わりがあるとかいうエルフの血を引くアルタイルに聞いておくのが最善か。
少し億劫にも感じるが、仕方ない。それに、俺自身のことを知っておかないと、魔力が一生使えない、なんてことになりかねないからな。
何より、失明しちゃったし。いつ右目も潰れるかわかったもんじゃない。そもそも次は聴力かもしれん。
はー、嫌だな。魔力が使えなかったら、どれだけ不便か。魔法が使えない俺は言ってしまえば弱者中の弱者。ファルカスならそんなことしないだろうけど、護衛を解雇なんてことになったら途方に暮れてしまう。
「妖精王について知りたいだなんて、もしかして妖精研究者志望ですか?」
「ああ、いえ。ただの好奇心ですよ」
ファルカスのコミュ力高いなーと思いつつ、どうしようと考えながら紅茶を覗き込む。
水面に映った俺の顔は何だか印象が違った。左目がないから――――って、えぇ。
何となくでしかわからないけど、もしかして右目も何か違う。色か? もしかしてこれ、失明予備軍来ちゃった?
あー、やっちまった。極めつけは最後の転移魔法か。やっぱり俺について知る必要がある。魔族についても調べよう。
「ところで、ウリアって何の混血だかわかりませんか?」
うぅ、ファルカスぅ。お前って言う奴は本当、俺の心を見透かしてるんだな。マジ助かる。やっぱ持つべきものは友だ。
ラーファはすやすや寝ている。疲れた様子だったし、心配してくれてたのかもな。
アルタイルはしばらく俺を見つめて考え込んだ。流石に見ただけでは種族はわからないだろ。
「確定なのは片方は人間です。もう片方は、妖精か魔族かと」
やっぱそこで迷うんか。っていうかわかるんかい。人間はやっぱり入ってるか。彼の口ぶりからするに、クォーターとかではなさそうだ。
魔力で種族ってわかるものなのかな。それは難しいだろうけど、何か知ってそうな人······ルミナリアさんはどこにいるか知らないし、セキアも知らなそうだな。うーん、あのお医者さんも言わなかったってことは知らないか。
えぇ、誰か······あ! あのポンコツ聖騎士がいる! いや、あいつらは無理だろ。いや、でもなぁ。魔物討伐とか、そういう生物系に詳しそうではある。
藁にもすがる思いって、こういうことを指すんだな。
「そうですか······。ウリア、心当たりない?」
「ないっす」
はい、ないっす。俺に聞かれても。
空が暗く、赤くなってきたのでお開きとなった。アルタイルにお礼を言って、ラーファを起こして、部屋に戻って。
癪だけど聖騎士に聞きに行こうぜと言ってみた。了承を得たので明日にでも行ってみよう。鏡確認してやっぱり目の色が変わっている。
おやすみの時間。目を閉じて考え事をした。妖精か魔族、か。そういえば、だいぶ前だけどスライムが俺を、俺だけを襲ってきたよな――――。




