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#6 魔法の話

 何だか、転生してから現実味がなくて、ずっと、夢なのだと心のどこかで思っていた。

 いつも淡々と進んでいく時間と月日。ほわほわして、夢のような生活だった。


 この二年間、俺は何をしていた?

 時間を延々と待ち、見えない将来への心配を考えないようにしていた?

 水仙姉が火に飲まれた時、俺は何をしていた?

 梅兄が火に隠れた時、俺は何をしていた?

 他の兄弟がいないと気づいた時、俺は何をしていた?

 薔薇姉が地面に倒れた時、俺は何をしていた?

 菖蒲兄が死んだ時、俺は何をしていた?

 鬼灯姉の体温が下がっていく時、俺は何をしていた?


 時間は戻らず進むだけ。


 俺は何をして、何を思って、何を目標にこの二年を生きていた?


 そう自分に聞く。答えはいくら待っても出なかった。

 血の繋がりはなくても、姉弟であり兄弟。ずっと側にいて、目には彼等が必ず映っていた。子供だけの生活で、お馬鹿なところもいっぱいあったけど、そんな彼等が、俺は好きだった。その生活が、好きだった。

 今、俺の目に映るのは彼等と生活の終わり。

 頬に触れた冷たい腕を、俺は必死に掴んで温めようとしていた。冷たくて、温かさが少しだけ残っているのが悲しく思えた。

 彼女が教えてくれた魔法に、蘇生はない。

 彼女は魔法の知識を魔力に乗せて、俺に流し込んだ。これで俺は、魔法を習得できた。

 念願の魔法だ。前世からずっと憧れてきた、魔法を手に入れた。


 でも、どうしてだろう。

 普通は喜ぶところなのに、全然嬉しくないんだ。


 鬼灯姉の、遺品みたいで。


 頬を伝い、鬼灯姉の手を伝う涙は、彼女が最後に流したものとは違うもの。


「別れは済んだか? まったく、こま――――」


 老人の幽霊が何か言ってたから、潰した。

 このまま潰れて、死んでくれないかな。と、心にもない事を俺は思う。

 どうやらこいつは俺を連れ去るようだ。ならば容赦は無用。薔薇姉を殺し、菖蒲兄を殺し、鬼灯姉を殺した。そんな奴に、この世にいる価値なんてない。

 鬼灯姉が教えてくれた魔法。地属性魔法『魔之石塊ストーンブロック』だ。老人の頭上にそれを発動し、落下させた。


「――――ったものじゃ。人が話してる最中に攻撃とはな。これだから最近の若い者は」


 老人は魔法の石に隠れるが、浮かび上がるように出てくる。見た感じ幽霊だ。実体を持たないのか、それとも単に魔法が効かないのか。そこには興味が湧く。

 でも、俺にはそんな興味なんて消え失せてしまくらいの、激しい感情が湧いてくるのだ。ふつふつと、沸き立つように、この感情は止まらない。

 一気に流れ込んだのは、悲しみと、怒りと、恨みと、憎しみと···。数え切れない程の負の感情が、頭の中で交差する。

 表情に出ないそれ等は、決して発散せずに俺の中を暴れ回った。

 感情を制御できず、我を忘れそうになる。

 ああ、愚かだ。この俺が、とても醜い。自らの感情を制御できずに、勝手に流れる涙を拭いもせず、結局は感情に支配される。

 自分で生み出した負の感情に呑まれるなんて、まるで屑だ。

 無意識に、魔法を使う。俺の周りが火に包まれ、俺以外を全て燃やし尽くそうと、あらゆるものに襲いかかる。

 からん、と俺の首についていた首輪が取れた。


「その歳でこれだけの魔法を制御できるのは褒めるべき事じゃ。きっと将来はいい魔法士になれるじゃろう」


 老人の幽霊が拍手をして褒める。

 こいつは一体、誰を褒めているんだ?

 俺は糸で吊られた人形のように立ち上がる。鬼灯姉の燃やし尽くされた腕は白い棒になっていた。

 何故、俺は鬼灯姉を燃やしてしまったのだろう。心がバグったのか、もう涙さえ出ない。


「じゃが、制御が甘いな。魔力の質がいいあまり、制御しづらいのじゃろう。まあ、全ては慣れじゃ」


 この老人は独り言を言っているのか?

 俺は笑う彼に怒りを覚えた。

 人を殺しておいて、何を笑っているんだ。人を殺して笑える奴なんて、この世からいなくなってしまえばいいのに。

 燃え盛る炎は勢いを増し、住んでいた家を巻き込んでさらに広がっていった。

 俺に、皆を守れる力が欲しい。俺一人でも強くなれば、皆を守れる。幸せにできる。俺さえ強ければ、楽させられる。


 ――――守れない。君は守る側じゃない。滅ぼす側なんだよ。何もかもを滅ぼす宿命を持った、滅びの――――


 心に声が響く。明らかに俺の声だが、俺はそんな事を言っていないし、思っていない。これは一体、誰の言葉なのだろうか。そうは思うけれども、俺はそれ以上詮索はしない。

 炎がいくら広がって高温になろうとも、老人は平然としていた。その老人と行動をともにしていた筋骨隆々の大柄な男もだ。


「おいジジイ。これからどうするつもりだ? こんな大事になっちまえば、オレ達の情報が漏れちまう」

「心配ない。儂とて、冷静な判断はできるのじゃから」


 そう言って老人は、持っていた妙に仰々しい杖を天に掲げる。

 杖の先端には緑色の石があり、それが光る。老人はそれを弧を描くように横に振る。途端、炎が全て消えた。

 老人と男は足元に魔法陣を浮かべると、それから出た白い光に包まれる。光が止むと、そこには誰もいなかった。

 俺はそこで倒れ込み、疲れていたのかそのまま寝てしまった。

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