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#4 火事になった話

 朝起きたら、火事になってた。

 全く何の比喩でもない。俺自身の体の火事でもない。熱は出てないしだるくもない。

 火事は火事だ。台所から火が出たらしく、誰よりも早く気づいた鬼灯姉さんが火を消そうと奮闘中だ。俺は水を汲んで持って来る係。こういう誰が何をやるかを直ぐに分担できる鬼灯姉さんカッコイイ。

 水をかけてもかけても、火は消える素振りを見せない。普通、こんなに燃える事ってあるかな。燃えやすいものはあるかもしれないけど、こんなに早く火が広まるなんて···。

 ガスや油を使っているとは考えにくい。鬼灯姉さんはいつも、料理に油を使っていないし、こんなに早く広く火が広がるとは思えない。

 だが、人為的なものだとは考えにくいんだよなぁ···。

 どこかで矛盾が生じている。

 いや、疑うのは止めだ。普通に、ただの火事なのだ。


「···梅兄、何あれ···?」

「さ、さあ、俺もわからない···」


 菖蒲兄さんが梅兄さんに聞いた。

 誰もが動揺を隠せないようで、恐怖と焦りが行動を邪魔をしている。

 密閉されているから一酸化炭素中毒の危険もある。なるべく早く消化したいところだが、火は広がるばかりだ。

 大量の水を汲める容器があればいいのだけど、仮にそれがあっても重くて運べない。手間がかかって、最後は死ぬのがオチだ。

 俺も落ち着いている場合ではない。

 だけど、何故だ? この安心感は。鬼灯姉さんがいるから? いや、違う。それはまた別の安心感。

 ――――俺が、一回死んだから?

 転生という新たな人生の始まり。それが安心感に繋がっている、のか? これでは駄目だ。もっと、もっと死に危機感を抱かねば。

 というカッコつけ。俺は心の中でも格好いい奴になりたいのだ。


「早く! 水を持ってきて!」

「わかった!」


 これ、全員死ぬんじゃね? という考えが頭をよぎる。

 火の奥を見ると、人がいるみたいだ。声がする。

 でもこの言葉は――――


「いたぜ! 今回はこいつ等を持っていけばいいんだな?」

「そうじゃ。手荒な真似はよせと言った筈じゃが、良く考えてみればおぬしの手荒はもっと酷かったのう」

「いいじゃねえか。上はどうせ殺すつもりだろ?」


 とっても、良くない会話を聞いてしまった。

 聞く耳を持って損をした。

 これは事故ではなく、事件なのか。なら火が消えないのも納得がいく。

 殺すつもり、か。俺達の死は確定したのかもしれない。

 死に方が窒息? やだなぁ、苦しいじゃん。密閉された空間でとか、一酸化炭素出てるだろうし、ゆっくり死ぬのを待った方がいいのかな。

 なんて、思ったり。

 せめて窓やドアがあれば、良かったんだけど···。


「水仙、危ないッ!」


 水仙姉が火に巻き込まれ、それを梅兄が庇う。

 こんな事思っちゃ失礼だろうけど、愚かだ。火事で庇ったら、自分まで巻き添えになるだろうが!! 頭を使え!

 梅兄も水仙姉と共に巻き込まれていき、火に囲まれた。振り払っているようだが、火は一向に消えない。

 俺は助けられない。この小さな体じゃ火の中に飛び込めないし、飛び込む勇気もない。

 どうせ死ぬ。そんな言葉が頭をよぎった。皆巻き添えになって死ぬだろう。いくら何を足掻いたって、人間と少量の水じゃ火には勝てんよな。


「水仙姉、梅兄!? 待ってて、今助けるから!」


 菖蒲兄は二人を助ける為、火の中に飛び込もうとする。

 二人は火に飲み込まれており、姿が見えない。もしかして死んだ――――?

 血の気が引き、恐怖と悲しみが俺を襲う。

 二人の姿が見えなくなった事で、死が目前にあるのだという事が心に刻まれる。

 菖蒲兄を止めなければいけない。生きれるのなら生きれるだけ生きるのが、人間としての死への抗い方。菖蒲兄も、自分を犠牲にしようとしている。

 今、手が空いているのは俺だけ。ならば止めないで何をする?

 俺は全力で菖蒲兄に向かって駆けた。恐怖で体が思うように動かなくても、精一杯動く。


「水仙姉、梅兄!? どこ、どこだよ! お願い、返事をして――――!?」


 菖蒲兄まで火に飛び込もうとする。


「菖蒲兄、駄目! 駄目だよ! 飛び込んじゃ駄目!」

「おい、離せ! 木犀、止めろ!」


 身長差もあって菖蒲兄の腹部に手を回して引っ張った。案外菖蒲兄はタフで、俺が全力で引っ張っても立っている。いや、これは俺が非力なのか。

 暴れる。火事になっているというのに、菖蒲兄は非常に元気だ。

 この事態に気づいた鬼灯姉が、菖蒲兄に指示を出す。


「菖蒲! 水を持ってきなさい!」

「鬼灯姉、でも、水仙姉と梅兄が···!」

「二人を助けたら、貴方まで犠牲になるよ! それを二人は喜ぶと思う!?」


 さっすが、鬼灯姉。この空間の中で最も名言が多い、最年長様だ。

 鬼灯姉の言葉で、菖蒲兄が水を汲みに動き出した。俺も彼についていく。

 水場に行く途中で、薔薇姉が何も持たずに戻ってきた。


「駄目だ。水場が火にやられた。もう水は汲めない」


 なん···だって···?

 水はもう汲めない? そんな馬鹿な。水場は台所から正反対とも言える位置にあるんだぞ? そんなに早く火が広がるなんて···!?

 しかも、台所と正反対って事は、四角があったら三隅がやられている。

 まるで袋のネズミだ。挟まれている。

 誰かが人為的に起こした火事、か。

 もうこの命は終わりなのかもしれない。

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