#31 教会に保護された話
教会に着くと、応接室らしい部屋まで案内された。
レイガルドの部屋に比べると、いや比べるまでもない。綺麗に掃除されているのがわかるし、何より部屋の中心に設置されたソファーはふかふかで、その目の前にあるテーブルは細かい装飾が目立っていた。
南側の日が当たる部屋で、ガラスを通じて当たる光は温かい。教会の力を示しているかのようにガラス窓は大きかった。
ここは中世後半だと予想する。だからもしかしたら宗教が力を持ちすぎるということもあり得る。
ジェルグリッド教団······レイガルドが大勢の人間を殺しても何もならなかった。目撃者も三、いや四人いる。
人殺しという罪が見て見ぬふりされているということは、教会がかき消したのか? いやレイガルドの勝手な行動······だがユリウスはともかくラレニアさんがそのレイガルドの行動を容認するような人だとは思えない。
ってことは、教会が仕込んだことかもしれないってことだ。
セキアが公爵に関する話をユリウスにほぼ全部話してくれた。ラレニアさんは森の巡回を続けるらしく、教会で別れた。
「そうですか。公爵の良くない噂はよく聞きますけど、まさかそこまでとは······」
白々しい。この一言に限る。公爵が孤児院のためのお金を横領しているから俺に調査させるために孤児院に入らせたんじゃないのか?
良くない噂どころか、結構調査してたんじゃないのか? 噂だけで保護した小さい子供を敵地に送り込むのか?
教会はアホなのか、それとも······。
そこまで、か。国のお金の横領と人の誘拐。俺から見れば大罪だが、この国ではどうなるのだろうか。
罪を犯したとはいえ、相手は公爵。適切な処分が下るとは思えないな。国の正常性はわからないし、王政なのは知っているがそれ以外の政治の仕組みは知らない。
もしかしたら教会が力を持ちすぎているかもしれないし、はたまた貴族が力を持ちすぎているのかもしれない。
前世の世界だってそういうのあったのだから、この世界にそういうことがあってもおかしくはない。
王都の住民の暮らしは裕福っぽいが、田舎とは差がある。貧富の差といえるのか、これ?
税の取り立ても厳しくないし、この王国はいい国といえるんじゃないか? これから先、大きな増税がなければいいのだが、天候によって作物の生産量は変わるから来年は飢饉が起こる可能性もあるな。
「この件は教会から国王に伝えておきます。証拠もこちらで揃えておきますので、保護という形で解決するまでは教会に滞在してください」
「わかりました」
「空き部屋があります。案内します」
しっかりしてんな。空き部屋があるって、暫く掃除してない家具も何も無い北側の部屋じゃないよね。
そういえば太陽が存在するんだな。そりゃそうか。そうじゃないと食料確保できないもんな。
東から出て南を通り西に入る。太陽の流れは同じようだ。月の満ち欠けとかも同じだし、ここは前世の世界との共通点が多い。
これで地図とか同じだったらこの世界は、魔力があるだけの世界となるのだが、地図なんて高級品は手に入れられるようなものじゃない。
地図を手に入れられるとしても、この世界じゃまだまだ技術が足りない。正確な地図なんてあるわけないのだし、今は空を見て方角を定めている。
どの都市がどっちの方角にあるのかどうかしか地図には書いていないだろうし、当てにならない。
ユリウスに案内された部屋は、思ったよりも綺麗な部屋だった。だけど残念なことに北側に位置する部屋であり、薄暗い――――どころか暗い部屋だった。
だがしっかり掃除されているのか、埃はなく家具は揃っていて蝋燭があらゆる場所に設置してあった。
ユリウスが指をぱちんと鳴らすと、蝋燭に火が灯った。魔法だ。
「この部屋を使ってください。あ、あとベッドは二つしかありませんが、大丈夫かな······」
ベッドが二つ、か。ラーファと俺は体が小さいから、一つのベッドで寝れるか。ちょっと狭いが、横に使えば二人はいける。
ユリウスは俺達に聞いていたようで、ラーファがちらちらとこちらを見てきた。
俺は構わない、と言いたいが声が出ない。つい意思を伝える時に口が半開きになってしまうのは言葉にするという癖があるからだ。
こくりと頷き、構わないという意思を彼女に伝える。声が出せないって本当にストレスだ。
「······大丈夫······ウリアも」
「良かった。いい子にしてるんだよ、二人共」
ユリウスは俺とラーファの頭を撫でる。その後はすぐに仕事に戻っていった。
成長していく度にいい子とは何かを考えるようになるんだよな。親孝行なのか、それとも親の期待通りに育つことか、それとも大人しくすることか。
親はいないから、大人という文字が入るのだけど。
後で廊下を覗くと、がっちり鎧を装備したレイガルドとその後ろに革鎧を着た大勢の兵士達が教会を出ていくのが見えた。
公爵にはどういう処分が下るのだろうか。それに期待して、今日は寝た。疲れていたのか、いつもよりぐっすりと深い眠りに陥ることができた。