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#21 魔力切れした話

 魔力切れとはこんなにもキツイものだとは知りもしなかった。いい経験だが、もう二度と経験したくない。

 体がぴくりとも動かない。気持ち悪い。熱はないだろうが、熱より辛い。

 隣を見るとユリウスが寝ていた。抉られていた傷は完全に塞がり、寝ている。呼吸も正常、顔色も良し。どうやら完全に治癒できたようだ。

 ベッドの下にはレイガルドが寝ていて、魔力切れ寸前だったからか、起きる気配はない。

 こうして見ると部屋が狭く見える。

 俺の魔力は全然ない。だからこそ気持ち悪いのだが、一晩は寝ていた筈。これ程までに魔力が枯渇していると一週間くらいは魔法を使えない。まあ、使う機会もないので具合が悪くなるだけになるが。


「あ、おはようございます」


 部屋に入ってきたラレニアさんはそう挨拶した。彼女は淹れたてらしい三つの熱い紅茶の入ったカップをお盆の上に乗せていた。

 彼女はわざとらしくレイガルドに足を引っ掛けて転びかける。結果、レイガルドに紅茶がかかった。

 紅茶がかかったのは顔面で、レイガルドは飛び起きた。

 明るさから、今は朝の九時くらいだ。多分、レイガルドの出勤時間は過ぎている。ユリウスはともかく、レイガルドは普通に出勤しないといけないのではないだろうか。


「すみません。『うっかり』転んでしまいました」


 ラレニアさんは棒読みでレイガルドと目を合わせずにそう言う。うっかりがしっかり強調されている感じ、うっかりではなさそうだ。しかも、見せびらかすように時計を首に下げている。

 針は九時十二分を指しており、それを見た途端にレイガルドは青ざめた。彼は着替えを持って外に出ていった。暫く経ってドアが開いたかと思えば、レイガルドの寝間着が投げられた。

 ユリウスは起こさなくてもいいだろう。

 うぉえ!? うっ、気持ち悪い。吐くものもないが吐き気がする。これなら今すぐ吐いてしまった方が楽になりそうだ。

 ラレニアさんは紅茶を部屋の小さいテーブルに置き、外に出ていった。そして出てから一分も経たない内にトーストとスープを三つずつ持って戻ってきた。

 トースト、といっても上に目玉焼きが乗っているだけだ。更にその上に薄いチーズが乗っているが、溶けていないのでただ乗せただけだ。

 これで焼いてくれたら、どれだけ嬉しかったことか。


「ユリウスさん、起きてください。いつまで寝ているつもりですか」


 ラレニアさんはユリウスの体を揺する。割と激しく揺らしているため、彼が起きるのは速かった。

 ただ寝ているだけだったんだ······。なら安心だ。すっかり傷も癒えて、元気っぽいし普通に出勤できるのではないだろうか。

 ユリウスは上半身を起こし、拳を握ったり広げたりして体調を確かめた。


「やっぱり夢じゃない······」


 もしかして、ユリウスは怪我して気絶していた時に三途の川にでも渡りかけたのか? あ、それは夢か。

 人一人の魔力が消えるくらいの治癒魔法ってかなりの大怪我。それはもう下手したら死ぬくらいの怪我だ。

 俺とレイガルドとラレニアさんの魔力を吸っていったのだから、大怪我中の大怪我だ。即死じゃなかったのが奇跡すぎるくらい。

 どうして死ななかったんだろうとも思う。


「――――君、ありがとう」


 土下座してユリウスは俺に感謝を伝えた。返す言葉が見つからない。返す言葉があっても声に出せないから意味がないのだけど。

 俺はとりあえず軽く頭を下げて、謙虚に振る舞った。

 ユリウスがすんすんと鼻を鳴らす。まるで犬だ。非常に可愛くない犬。

 そういえばレイガルドは朝食を食べていなかったが、レイガルドは朝が弱そうだし、もしかしていつも朝食を食べていなかったり?

 こんな食生活なら、不健康になりそう。

 俺は前世含めて朝食を抜いたことが一回もない。これが俺の、唯一自慢できる生活習慣だ。


「朝食にしましょうか」


 ラレニアさんのその一言で小さなテーブルを囲んだ。

 凄く残念なのだが、椅子に座ってもテーブルの高さは俺の首程度だった。なるべく早く成長したいものだ。

 今の俺は五歳だから身長は約百十センチと考えるのが妥当か。椅子が意地悪。もう少し、いや少しではなく高ければ簡単に食事できるのに。

 朝食を食べるのに手間取っていると、それを察したユリウスが俺を持ち上げて彼の膝の上に乗せた。

 それだけで大分楽になった。


「最近のレイガルド様、ちょっと変だよね」

「そうですね。生活習慣は同じですが、たまに変な動きや一人称の違い、更に戦い方も違います。まるで何かが取り憑いたみたいですね」


 朝起きるのが遅いとか、そういうのは以前と変わらないのか。良く見てるなあ、ラレニアさん。

 変な動きに変わる一人称、そして戦い方。確かに何かが取り憑いた――――って、ラレニアさん、怖いことを言う。


「今日は依頼もないし、外出しない? 僕は今日休みだし、ラレニアも最近は――――君を育てるために自由な行動は許可されてるでしょ? これも学習だよ」

「確かにそうですね。一つ忠告しておきますが、変なこと教えないでくださいね」


 ユリウスは遠足気分だな。

 王都に興味がないといったら嘘になる。技術の進歩を追うような建築物が立ち並ぶ王都にどんなものがあるのか、実は知りたかったのである。

 俺は遠足というより校外学習の気分だが、折角の機会だ。名一杯楽しんでやろうじゃないか。

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