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#2 攫われた話

 俺は下校途中、キャンピングカーに轢かれ、死んだ···と思われる。確信も証拠もないけど、多分死んだ。車に轢かれてぶっ飛んで頭ぶつけて死なない人間なんていないだろうし、多分俺は死んだ。

 死んだ。···うん。···死んだ。

 それで目を開けたら知らん場所にいた。小汚い住宅の密集と、ゴミの散乱、舗装されていない道。ぼやーっと見た感じだけど、ほぼ確実に日本ではないと言える。やっぱり、スラムだよね。

 捨て子、か。転生先は中々に最低だ。



 転生? したばかりで早速変な人に攫われ、現在布団干し状態で運ばれている。

 保護してくれると祈って、抵抗はしない。今、俺にできるのは何もせず運ばれるだけである。

 俺を運んでいる不審者が喋る言葉は何故か理解はできる。何言ってるかわからないけど、意味はわかるのだ。不思議な感覚である。言葉は理解できるけど、文字はわからないだろう。これは一から始めるしかない。

 ここが異世界だったらまだ夢があるのだけど、可能性は無い。あるかどうかもわからない世界への転生を望んだって、叶わないのがオチなのだ。無駄な希望は抱かない方が吉。


「おい、こいつ泣かねぇぞ?」

「死んでんじゃねぇのか?」


 ま、マズイ! このまま死んでると思われたら、土に生き埋めにされるかもしれない! 考えすぎかもしれないが、万が一の時の為に!

 泣くフリだけでもしておこう!

 いや、でもなぁ···。恥ずかしいし、上手く泣けるかな? 大声で泣いた事なんて、十年以上前なんだけど···。

 だがしかし! 俺は恥と命を天秤にかけて、恥を取るような馬鹿じゃない! 俺は保身の為に動ける人間だ! 恥は捨てて泣く!

 刮目せよ――――学校生活において本心を押し隠し続けてきたこの、俺の演技を!


「ぉ、おぎゃぁああ、おぎゃー」


 無論、棒読み。だが、俺にしては上出来だ。良く頑張った、俺!

 それにしても···恥っっっっず。恥ずかしすぎて顔が赤くなってそう。いや、それは逆にいいのか?

 赤ければ泣いている風に見えるもんね。


「あ、泣いた」


 ほっ、良かった。本当に良かった。泣いてないけど、泣いたと勘違いしてくれた。これで俺の命が救われた。奇跡よ、感謝する。

 泣くのは直ぐに止めた。恥ずかしいし、喉が渇くからだ。何となくだが、暑い。おひさまが···とても元気だ。元気どころではなく、炎天下。体を布でぐるぐるされているせいでもあるが、暑い。とにかく、暑いのだ。

 み、水が欲しい···。喉が渇いたぁ。

 これこそ泣くべきだと思うけど、泣けるような歳でもない。羞恥心くらいは弁えているし、これ以上泣くフリをしていたら嘘泣きだとバレそうだ。

 歩く事、俺の体感時間で五分。本当は三分くらいだろうか?

 変な場所へ来た。

 文字通り、変な場所。スラムは出たけど、都ではない。栄えてはないみたいだし、反対に寂れている訳でもない。何とも、微妙な場所だ。

 住居は綺麗でもなく汚くもなく。道はところどころ舗装されているし、家が隙間なく並べられていない。

 何とも言えぬ。

 そんな場所の一角。ボロくも新しくもなく、綺麗でも汚くもない建築物だ。だけど、子供の鳴き声がぼやっとしていても聞こえてくる。

 これは駄目なやつだ! と俺は直感がそう言っているのを感じ取った。だが抵抗はできない。さっき目覚めたばかりの赤子が大人の腕から抜け出せる筈がないのだ。

 これはヤバいのでは? と本気で感じた時にはもう遅い。はい、俺はマジで死ぬかもしれませんね。これ、多分だけど人身売買組織だ。


「アニキ、捨て子拾ってきたぜ!」

「良くやった。あとで報酬を用意する」


 俺を抱えていた男が建築物にいた謎のおっさんに俺を渡す。人間を渡すにしては随分雑な渡し方と持ち方だ。謎のおっさんは髭を生やした典型的なおっさんだ。ダンディというか、佇まいがカッコイイ。

 俺を見つけて運んでいた男達は俺を渡すなりそそくさと出ていく。このおっさんが怖いのか、それとも仕事なのか。

 俺を持ったおっさんは建物の奥へと進んでいく。暗くて嫌な感覚である。こういうのが陰湿というものなのだろう。

 建物の奥には大きな扉があった。非常に仰々しくて重々しい扉だ。

 おっさんがポケットから扉のデザインに合う鍵を取り出す。目が悪くてもわかるが、扉には鍵穴はない。意味ある?

 おっさんは鍵を扉の丁度中心辺りに刺した。何と不思議な事に、円と円が絡まりあったような魔法陣みたいなのが浮かび上がり、扉が開く。

 な、何だ今の! 俺をわくわくさせるような仕組みだったぞ!

 扉の奥は意外に明るかった。でも電灯もランプもない。光っているものが何一つないのだ。部屋そのものが光っている、ではない。凄く、不思議。そして、一つの円になって遊んでいる十人くらいの子供達。一番大きい子で十歳くらいか?


「お兄ちゃん! 久し振り!」


 どう見てもお兄ちゃんじゃないんだけど···。それを言うなら、おっさんかおじさんじゃないのか? 呼び方は人に任せるが、少なくともお兄ちゃんと呼べる程若くはないと思う。このおっさんは。

 俺が今一番気になったのは、子供達が付けている首輪のようなもの。本当に首輪なのかはわからないが、全員同じものを首に付けている。これ、人身売買組織?


 終わった···。俺の人生、完全に終わった···。

 これはもう、不運すぎる。死んだら次に死が待っているなんて、酷すぎない!? もうちょっといいのがあったよね!? ね?

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