#1 転生した話
雨の日。雨音がうるさい日。傘のせいで持ち物が増えて邪魔になる日。
ある時突然、将来に選択肢はないと悟ってしまった俺は、だらだらと高校生活を送っていた。現実を見限り、異世界アニメにハマった。
異世界はいい、とても。真新しいモノがあって、夢がある。魔法にスキル、魔獣や精霊。現実じゃあり得ないモノに憧れた。自由な冒険者になってみたいと思った。
だがまあ、現実と妄想はかけ離れたモノで、将来なんて真っ暗。俺は社畜、いやコンビニのバイトくらいだろう。最悪、親のすねをかじって子供部屋オジサンでいい。そう急がなくてもまだ大丈夫。まだ若いから。
と、現実逃避。現実逃避は俺みたいな陰キャが得意とする魔法。この世の自称陰キャは陽キャだ。陰キャは『俺って陰キャだから』とか、そういう事を言う相手がいない。
別に俺は陰キャを悪口だと思ってないし、一つの個性だと思っている。
微妙な都会暮らし、車はそこらを通って空気は汚い。異世界召喚は夢。チートを授かって自由に行きたい。
いや、今の俺には転生か?
今更召喚はできないよね。
うん。
だって、死にかけだし。
下校中、車に轢かれた。ちゃんと右左右は見たし、信号は緑だった。通りすがりの信号無視キャンピングカーに、轢かれた。
轢かれただけならまだ良かった。
轢かれて飛ばされて、宙を舞って。アスファルトに頭を激突。当たりどころが悪く、血を流しておしまい。
あ、終わった――――と思った時には終わっていた。
こんなんで人生終わるとか最悪なんですけど···という俺の願いは消えた。
という事で、俺は死にましたとさ。
転生なんて――――え?
急に目の前が明るく···って、えぇ? 蘇生はできないだろう。頭を盛大にぶつけたし、血も流れてた。脳に損傷があったっぽいし、生き返れないと思う。
だったら、転生? その発想が出てくる辺り、俺って変わったよね。数年前なんて、趣味も何も無かったつまらない人だったし。異世界アニメの見すぎで今の俺がいるのだ。転生だったらいいけど、地獄じゃないよね?
目を開けているけど、どうにも視線が低くて視界が狭い。
もしかして、これって本当に転生じゃ···?
頼む! 日本であってくれ! 俺はアニメ漬けの日々を送りたいんだ! そして食料に困らないでくれ!
という願いは、天に届かなかった。
ぼやーっとして良く見えないけど、頭をちょっとだけ下にする。自分の体が上手く動かせない。そんな···まさか、ね?
手を見てみたいけど、なかなか思い通りには動かない。腕が短くて重いような···?
踏ん張ってやってみる。
嘘···だろ···?
そう言いたくなるような、驚愕の事実。
指が短い。腕はもちもち。思うように動かない。
これは間違いなく、転生だ。
はぁ···、どうして俺が。
人であるだけ良かったけど、もう一度生を謳歌できるとは思わなかったな。でも俺、まだ人の声を聞いていない。俺が目覚めた時、人はいなかった。
え? 捨て――――いやいや、んなワケないよね。
見た感じ、木の箱に入っているみたいだ。本当に俺って捨て――――いやいや、んなワケないよね。そうに決まっている。
赤子だから体が未発達で、視力悪いし感覚も弱いけど、なんとなくでわかる。空気いいわ、ここ。
暑いなぁ···と思っていたら、人影が。丁度影になってくれた。相手は無自覚だろうが、涼しくしてくれてありがとうございますぅ。
「おいおい、こんな所に子供がいるじゃねぇか」
「好都合だなぁ、これはぁ。組織に渡すかぁ」
耳もぼやっとして上手く聞こえない···。本当に生まれたてになってしまったようだ。
これは···転生で間違いなさそうだ。
え、うん。転生、ねえ。やり直しという意味ではいい意味なのだけど、リスタートって思うと、これまで築き上げてきた信頼や努力が全て無駄になる。
······。ネガティブにならず······人生やり直しということで生きていこう。