また明日
プロローグ
その日は雨が降る音で他の音なんて気にならなかった……
水溜りが揺れてると同時に、一人の男性がこちらに向かってくる。
なんでだろう……何がいけなかったのか……何もかも上手くいかない。ぐすっ……
「どうしたの?」
「えっ……となんで…もありませんっ」
ぐずっあれ……なんで涙が止まらないんだろう……
私は彼を愛していたのか…、分からない……
「ごめんっちょっと、我慢して……」
「えっ……」
知らないはずの男性が私を抱きしめてくれた…。人のぬくもり……温かいな。
「あの…ありがとうございました」
「あっ……ごめ…うん。」
「あの、失礼なんですけど、何処かで私たち会ったことありますか?」
「ん?なぜ……?」
「あっ違ったならいいんです…。」
ボソッ「……あるよ…」
「えっ…?」
それが彼と私の二度目の出会いだった。
〜私と彼氏
「好きになりました。僕と付き合って下さい!!」
中学校生活最後の日、人生初めての告白……された!!
この学年の王子様と言われているほどの人気者男子から告白されるなんて。思っても見なかった、と同時にこんな私でもいいのか、私が釣り合うのかと思ってしまう…でも彼が勇気を出して私に言ってくれたから。それに応えよう。
「私で良ければ。よろしくお願いします!!」
「ほんっと?!マジでっ……!!」
「うん!」
「よっしゃー!!!!!!」
子供みたいに大きな声で…笑笑こんな一面もあるんだ笑笑
「マジでサンキューなっ!」
「えっ…と…華帆って呼んでもいい?」
「もちろん!」
「じゃあ…亮真くん?」
「うん!これからよろしくね」
「うん!こちらこそ」
彼の微笑む姿がすごくいいなと思った。これが恋なのねと思ったのだ。
「そういえば高校どこ行くの?」
「うーん…俺ね桜花高校行くんだよね」
「えっ?!私もその学校なんだけど!」
「一緒だね!」
「でも、なんでその学校にしたの?亮真君なら違う学校だってあるし、他の友達と同じ場所でもよかったのに…」
桜花高校歴史のある学校だ。私のお母さんも行っていた学校。レベルもそこそこ。
「うーん。それはね、華帆がその学校に行くって言ってたから、俺もそこにしたんだ!笑笑」
「そうなの?!」
「華帆って凄いじゃん?みんながやりたくない事とか引き受けて、字も綺麗だし、勉強だってほぼ満点。周りをちゃんとみているしさ。そこがカッコいいと思ったんだよね」
私のことその時から、見ていたんだ…。そんなすごくないのに……。
「そっか…ありがとうね!嬉しいよ!」
「ふふっじゃあまた高校で会おうね!じゃあーな!」
「うん!高校でバイバイ!」
彼と歩いたこの道…夕暮れの色と共に彼の姿がすごく輝いて見える。優しい人だったなー…。
(あー……言っちゃったよー。良かった。OK貰えて、マジ可愛いかった。緊張した……心臓もたねー……)
いつもの夕暮れなのに、なんだか今日はとても綺麗に見える。楽しみだ笑笑
「お母さーんただいまー」
「あらっお帰りなさい!卒業おめでとう華帆!」
「うん!ありがとう。お母さん」
お母さんに言ったほうがいいのかな…告白されたこと
まぁ…いっか
「お父さんは?」
「もう少しで帰ってくるよー」
「分かった。着替えてくるー」
階段にかけのぼる音。彼女の部屋は2階の部屋1番広い部屋を私にくれた。優しいお母さんとお父さん。感謝しないとなー笑笑
ガチャ…
「ただいまー」
「あっお父さん!おかえりーお仕事お疲れ様!」
「おう!ありがとうな!」
「お帰りなさい。貴方。」
「おう!ただいま!」
「あっ!華帆っ卒業おめでとう!これお祝いのケーキだ!」
「お祝いの物買いに行こうな!」
「うん!ありがとう!!!」
「さぁ、ご飯にしましょう!」
パンっ!
「いただきまーす!!」
「華帆は、あと少しで高校生かー早いなー。まだお嫁に行くなよー笑笑」
「もうっ!お父さん、まだいかないよー笑笑」
「そうよ。早すぎるわ。あなたったら」
「冗談だってーははっ」
「おやすみなさーい」
「はーい」
ベットに入るとさっきのことが鮮明に頭に入ってくる。夢のようだ。楽しかったし、嬉しかったなー早く会いたいな……
「何を…思っているの。私!」
けど思うだけはいいよね?
静かに私は眠りについた…
ピピピッー!!ピピっピー!!
ポチッ。
もう朝か…
「んー!ふー。よし!」
今日はお父さんとお祝いのお買い物!
嬉しいなー
バダバタっ!
「準備できたかー??」
「んー出来たよー!」
「じゃあ行こうか!」
「行ってきまーす!」
「なんでも好きなだけ選んでいいぞ!」
「えっほんとに?!」
お父さんの家系がなんでもすごいお金持ちらしい。
何せお父さんは社長何だって、すごいよね!
お母さんは、ブランド社長らしいけど、何だか凄いところに産まれたなー笑
「あぁ!なにせ今日は特別な日だからな!」
「ありがとう!!」
「ありがとうございました〜」
「またのお越しをお待ちしてまーす!」
たくさん買って貰っちゃった!!嬉しいなー服にコスメにバック、くつ、文房具、本など。
「あっ母さんのお土産も買っていこう!」
「そうだね!お母さんの大好きなモンブラン買っていこうよ!」
「そうだなー。懐かしいな。」
「何で?」
お母さんとお父さんは、お父さんがお母さんに猛アタックして結婚したらしい。そのおかげで浮気も不倫もされていない。こっちまで一途ナノが伝わる…。
「プレゼントで俺が作ったモンブランを母さんにあげたんだよ。その時もすごく嬉しかったな!すごく喜んでる姿を見るだけでも嬉しいくてな!笑笑」
「そうなんだ!私もいつかお父さんとお母さんみたいな家族を作りたいなーなんて笑笑」
「華帆……お嫁に行くのか?……ぐずっ」
「ちよっ……とまだ行くとは決まってないでしょ……」
「そうだな。すまん。すまん。つい心配になった。」
「もう…、お父さんったら……」
「よし!食べたし買ったし!そろそろ帰るか!」
「うん!そうだね!お母さん喜ぶといいね!」
〜高校生活と恋愛〜
桜が満開で天気もすごくいい、入学式にはもってこいの天気だなーー
「あっ!」
彼と目が合って手を振ってくれた!
「あっ、、!!」
ボソッ「あとでね!」
「っ!うん!」
「新一年生の皆さん、入学おめでとうごさいます。」
「勉学と恋とスポーツを楽しみながら、高校生活を送って下さい。」
ザワザワ……ザワザワ……ザワザワ
恋っ?!何言ってんのあの校長先生は?!
「これで入学式を終了します。みなさん速やかにご退場してください。お忘れ物もないように。」
「終わったー」
「ねぇ君!名前なんて言うの?」
「えっ!柳 華帆です。」
「やなぎかほさんね。おけ!ありがとう。私は胡桃 麻友よ!よろしくね」
「はい!よろしくです!」
「じゃあまた明日ね!」
くるみまゆさん。かわいらしい人だったなー、初めての友達!!また明日って言われちゃった!!
「はい!」
「よっ!華帆っ!!」
「あっ亮真くん!」
「一緒に帰れるか?」
「うん!帰れるよ!」
「そう!よかった」
あっまた笑った。よく笑う人だな笑笑
「何組だった?俺、4組」
「あっ私も4組だった!同じだね!笑笑」
「っ!おうっそうだな!」
あっぶね……あの顔は反則だろ…あんな顔もするんだな
「なぁ…この後予定とかある?」
「えっ…特にないけど…」
「そっか、ご飯食べにいかないか?」
「あっうん!いいよー!ちょうどお腹空いてたし…」
「よかった。じゃあ行こうか。何食べたい?」
「うーん、特にないけど…亮真くんは?」
「俺…は肉が食いたい!」
「おけーいいよ!いこっ!」
「おう!」
ガチャ…カランカランっ
「いらっしゃいませー何名様ですか?」
「2名です!」
「あっはい!今ですね恋人の方限定30%オフなんですよ〜お二人はカップルですよね?」
「あっはい!」
どうしよう…私たちカップルに見えるんだ〜
「はい!俺たちカップルです!」
「あっはい笑笑ご案内しまーすね!」
ボソッ「ちょっと、あんな大声で言わなくても…恥ずかしいよ。」
「ごめんごめんっつい…な!」
「でも、安くなるのは俺らにとっては嬉しいよな!実際カップルだし…。」
「まぁ……そうだけど」
「食おうぜ!何食べる?」
「カルビ!」
「俺もカルビ食いてぇーな、」
「よし!注文完了とっ!」
口一杯入れて食べてる笑笑可愛いな…
「なんだよ…食べないのか?」
「ううん。食べるよ!美味しいねこれ!」
「そうだな!」
「ありがとうございました〜」
「ふぅー食べた食べた!」
「おいしかったね!」
「またこような!」
「うん!この後どうする?」
「うーん。どっか行くか!」
「どこがいいかなー」
付き合って一年経つのに、私はまだ彼とキスもしていない。本当はされそうになった時は何回かあったのに。私が拒んでしまったんだ。あの時の彼の表情は今でも忘れられない。ごめんね。でも彼は「ゆっくりでいいよ。いつでも待っているからさ、そんな悲しい顔しないで…」
亮真の方が悲しい顔だったはず、傷付いたはずなのに、何でそんなに私に優しくするの?
「うん……ご…めんね…。」
「謝らなくていいよ。俺が焦っちゃただけだから。」
「うん…」
「送ってく」
「ありがとう…でも今日は大丈夫。お母さんが家にいるから、まだ伝えてなくて…ごめんね。」
「そっか…俺もまだ言えてないな笑気をつけてね。」
「うん。また…いや。」
「お邪魔しました」
「…おう。……」
いつからだろう彼からまた明日と言われなくなったのは、私も言わなくなったのは、毎日彼と会ってる。なのにこの胸の中は満たされない。ぽっかり開いたまま。
「好き……。愛している…。」
軋むベットの上で彼が私にそう言った。
そのあと彼の手が私の頬に寄り添って唇に口を重ねようとしたら、私が思わず彼を押して拒んでしまった…。
彼はひどく驚いていたが、そのあとすぐ笑顔になって私にごめんと言って微笑んで抱きしめてくれた。
ハグも手を繋ぐことは平気なのに。なのに、彼が私の唇身体に触れようとあの時の恐怖が襲ってくる……!
彼には何度も申し訳ないと思っている。こんな私でごめんなさい。汚い私でごめんなさい。愛してくれて、好きでいてくれてありがとう。とても感謝している……。
「何でこんなってしまったんだろう…」
次の日彼はいつもと変わらず、明るく「おはよう!」と元気に微笑みかけて私にあいさつしてくれた。
あぁ……、良かったと思ってしまうほど、普通なのだ。
同じクラスだった胡桃麻友さんに「ねぇ、華帆って
亮真くんと付き合ってんの?」
「えっ?…」
「あー大丈夫狙っていないから、ていうかわたし彼氏もういるし。」
「あっそうなんだ。うん。付き合っているよ。なんで?」
「だって噂になっているよ。最初は何人か狙っていた子多いけど彼女をみて、諦めたそうよ。みんな。」
「えっ?私が?」
「良かったじゃん。華帆は可愛いってことだよ。実際可愛いし!」
「いやいや、そんなことないって、麻友の方が綺麗だよ!」
そうなの?!私が可愛い?そんな事初めて言われたよ。
「なーにーよー?!自慢ですかなーーそんな子には…」
腰のあたりに手を置かれて。
「こちょこちょの刑だー笑!」
「ちょっ…やめ…あはっ!…くすぐったいてばー笑笑!」
良かった。元気そうだな…。俺普通の顔できたよな…
彼女の過去
少しまだ暑い夏の日だった。水分を取りながらお母さんの迎えが来るまで公園で砂遊びをしていたら……
一人の男の子が話しかけてきた
「何しているの?こんな暑い日に」
「お母さんが迎えに来るまで砂遊びしているの。邪魔しないでお兄ちゃん。」
「ごめんごめん。熱中症とか危ないからさ笑」
「大丈夫。水筒あるから。お兄ちゃんこそ何しているの?」
「うーん。学校が終わったから、塾の帰り。」
彼女が砂を水に濡らしながら何かを作っている。
「へーお兄ちゃん学校行っているんだーいいなー、たのしいの?」
「うーん。どうだろう。普通かな笑ところで何作っているの?」
「泥団子だよ?教えてもらったんだー普通なんだー」
「お兄ちゃんもかほと一緒に遊びたいの?ほらできた!泥団子!!」
小さな手で作られた泥団子。形になっても可愛らしかった。
「うん!お兄ちゃんもまぜて!」
「うん!いいよ!はいどうぞ!」
「楽しいね!かほいつも一人なんだ。幼稚園でも、最初はみんな仲良くしてくれたのに、いつの間にか、一人になってた。」
幼稚園でもあるんだな。
「みんな、かほと、住む世界が違うって言うんだ。住む世界ってなんだろう。みんな同じとこに住んでいるのに…変なの。変だよね。」
「そうだね!みんな変だね!」
住む世界が違う…ね。見るからにして高そうなの沢山きているからか?
「華帆ー」
「あっ!ママだ!」
「あら、新しいお友達?」
「うん!そうなの!かほと遊びたいんだって!」
「そうなんだね。ごめんなさいね、時間大丈夫?」
「はい!大丈夫です!家に今日も誰もいないので。」
綺麗な人だなー見るからにして幸せそう…
「さぁ、手を洗いましょうね。ほら、お兄ちゃんにありがとうは?」
「うん!お兄ちゃん、かほと遊んでくれてありがとう
!!楽しかったよー!」
「華帆は偉いわね〜」
「お兄ちゃんありがとうね、うちの子と遊んでくれて、もし良ければ、送るわ!このまま華帆のお友達になってくれたら嬉しいのだけど笑」
「あっいえ、送らなくて大丈夫です。ありがとうございます。僕で良ければお友達なっても大丈夫です!」
「そう?ありがとう」
「奥様…そろそろ。」
「えぇ。ではまた。」
「はい!」
「お兄ちゃんバイバイ!」
小さな手で僕に手を振ってくれた。可愛いな。
友達か……
僕も帰ろうかな。
ガチャ……
「ただいま。誰もいないけど。」
「勉強しないと。」
窓から見える隣の家の豪邸。もしかしてあの子の家だったりして笑笑そんな訳ないけど。
ピピッピ ピピッピ
学校だ……。毎日の繰り返し。詰まらない授業、そのあとはつまらない塾、全部わかっているのに。
「はぁー……頑張るか…」
「行ってきます……」
ガチャ……
「あらっ昨日の……」
「あっ……!おはようございます。」
隣だったのか……
「昨日はありがとうね、えっと……」
「枢シュンです。」
「シュンくんね。これからもね!」
「はい!」
「では……」
本当に隣だったとは……
「あっそうだわ、シュンくんいつでもお家入っていいからね!伝えとくから」
「えっ!あっはい……」
すごい人だな。普通家を勝手に入らせるか?不思議な方だな……
「あっやばっ!急げ」
「ふぅーなんとか間に合った。」
「では授業を始めます。p34を開き、問4の1わかる人」
「23です。」
「正解っ!」
キーコーンーカーコーン
「さよならー」
「今日塾休みなんだった……。どう時間を潰すか…あっもしかしたら」
なんとなくあの子に会った公園を思い出した。
「行ってみるか……」
「あっお兄ちゃんだ!どうしたの?」
「学校の帰り。」
やっぱりいた。
「へー。かほもね、今日早くに幼稚園終わったんだ〜。だからねこの公園でママと待ち合わせなんだ〜!」
「へーそうなんだね。また泥団子作ってるの?」
「うん。かほなんでもできるんだってでもねこれだけ上手くできないの…。せっかくママに教えて貰ったのに。」
「だから、早く上手にできてママに喜んだ貰う為に練習してるんだ…。」
「毎日、この時間帯に練習してるの?」
「うん!そうだよ?凄いでしょ!!」
毎日、同じ時間に繰り返し……オレと同じだ……。
「そっか。偉いねー」
「!?かほ偉いの?!やったー」
「華帆は偉いね〜いい子いい子〜」
「……っ!うん!えらいよ。」
「明日お休みだよね?」
「うん!幼稚園お休みだよ〜?なんで?」
「明日、お兄ちゃんも学校お休みだから一緒に泥団子作ろっか!」
「えっ一緒にあそんでくれるの?!別に泥団子じゃなくてもいいけど…」
「じゃあ迎えに行くね!僕のお家でもいいし、」
「えっ!お兄ちゃんのお家がいい!」
「そっか!」
「華帆〜」
「あっママ!あのね、明日お兄ちゃんと遊んでもいい?」
「えーお兄ちゃんはいいよって言ったの?」
「うん!」
「そう。いいわよ。怪我しないでね、気をつけてね。どこで遊ぶの?」
「僕の家です。」
「あーそれなら安心ね!隣だし。ではよろしく頼むわね!」
「はい!」
「じゃあねーお兄ちゃん。」
「うん!また明日」
また明日――いい言葉だな…。
ピーンポーン
「はい。」
「あの…華帆ちゃんに…」
「あっ!お嬢様のお友達ですね、ちょっとお待ち下さい。」
近くまで来たのは初めてだ。大きいな。
「お兄ちゃんー!!」
「うん!じゃあ行こっか!」
ガチャ――
「どうぞ」
「わーあ!初めて入った!お邪魔しまーす!!」
「はい。どうぞ!」
「僕の部屋はこっち」
「わー凄いね!!」
「本いっぱーいあるー!」
「ほとんど教科書みたいなもんだけど…」
「少しまってて飲み物とお菓子持ってくるから。」
「うん!」
クッションだ!可愛いピンクだ!ふかふかだー
ガチャ――
「お待たせ!アレルギーとかある?」
「ないよ!全部メモしてあるから!」
「ん?あーそうなんだ!」
「どうぞ!オレンジジュースだよ。」
オレンジジュースだ!おいしそう!!
「お兄ちゃんのそれは?」
「あぁ、これは麦茶だよ。お菓子もジュースもうち禁止なんだ笑」
「そうなの!なんでここに……?」
「それは昨日買っといたんだ!こっそりたべて貰いたくてね!」
こんなの見つかったら絶対怒られるけど、見つけられなければ大丈夫だよね……。
「ふぅーお腹いっぱい!」
「よかった!」
「あっもうこんな時間だ!おしゃべりしているとすぐ時間過ぎるね!」
「難しい言葉よく知ってるね!そうだね。もう帰らないといけないね。」
「うん!また今度ね!」
「バイバイー。」
「今日はありがとうね。あの子は中々お友達と遊んだ事あまりないから。すごく嬉しかったと思うし、楽しかったと思うわ!ありがとう。これ、良かったらご家族と食べて、お菓子はダメだと言っていたから、果物よ」
「あっ!ありがとうございます!では!」
ガチャ――
「お父さんとお母さん今日は早いね!」
「えぇ。今日はね。」
「今日はどうだった?」
「別に。普通だよ。いつもと変わらな――」
「シュン……なにこれこのゴミ……あんたまさかお菓子食べたんじゃないでしょうね!」
「ちが……違うよお母さん!」
「しかも、今日帰ってくる時間早くない?塾は?」
「……休んだ……。」
「はぁ?!あんた、なにやってんの?!」
バシッ――!!!
「…っ!」
「お菓子は隣の子が遊びに来たから、あげ…たんだ。」
「隣の子…ふーん。隣の子ね…あの豪邸の?」
「そう。」
「へーその子ならどんどん遊んでもいいわよ!塾は休まないでね。今回は許すわ。次はないけど、」
「ごめんなさい。次からは気をつけます……。」
「そう。いいわよ。ごめんね叩いて痛くなかった?」
「でも……あなたが悪いのよ。言う事聞かないから。」
「うん。僕が悪い。」
「成績下がったら許さないから。」
「……はい。」
八年後――
「お兄ちゃん!」
「どうした?泥団子か?」
「もう!違う!あれはあともう少しで出来上がるの!」
「ははっそうか!」
「また明日ね!」
「うん!また明日――」
道の角を曲がった途端悲鳴が聞こえた。
「暴れるな!」
「んっ!…!っ!」
ドンっ――拳が思いっきりみぞおちにはいった――
「うっ……」
「おいおいっあまり傷付けるなよ。」
「このぐらいいいだろう?」
「まぁな静かになったし――」
彼女が倒れているのをみて頭が真っ白になった――
「この子のヒーローですか?僕ちゃんww」
「っ!」
「おっと!怪我をさせたくなかったらそこにいろ!」
「じゃあな!弱虫のヒーローちゃん笑笑」
「あはっははは!」
ブォーン
急がないと
ピーンポーン。ピンポーン
「はい。どうなさいました?」
「華帆のお母さんはいますか?」
「えぇ、奥様はいらっしゃいますけど」
「早く連れてきて、華帆が……華帆が誘拐されたんだ…!」
「何ですって!」
「みな!全力であの子を探しなさい!」
「仰せのままに…!」
「降りろっ!」
「うっ!」
「でも、兄貴本当にいいんですかね…」
「なにビビッてんだよ」
「ほーらいい子ですねーそのまま動くなよ……これからいいことやってあげるから――ね!」
「いや!いや!たすけ……助けて!」
男の人たちの手が私の頬、身体の中に触れてくる感触が気持ち悪いっ……!
「誰も助けになんかこねぇーよ」
「助けて……お兄ちゃんっっ!!!!」
ドンっ――!!!
「いっ……て!何すんだ!テメェー!ぶっ殺されテェーのか!!」
裸になりかけている。震えてかわいそうに。
「怖かったな…ごめんな…あの時助けてあげられなくて…今、助けてやるからな…」
「助けてやるだと?ふざけるな!さっきまで弱々しかったのに!」
「は?そんなの当たり前だろうが、人質で脅すから、あの子に傷がついちゃうでしょ?」
ドンっ――
「あっぁ!!!!!!、いてーよ!」
男性の手が反対になっている。もう一人の男性は完全に気絶だ。
「痛いよなーあの子も痛かったんだよな…あーあ顔にも傷がついちゃったじゃん!!!」
ガハッ……!!
「なん……なんだ……よ。お前、何者……なんだよ」
「えっ?!言ってなかったけ?」
「言ってねぇーよ」
「これは失礼失礼。ボクは、何でも完璧にできるんだよ。運動も勉強もね」
「は?説明になってないし……」
「もーうるさいなほらきたよ?」
パトカーのサイレンの音が響き渡る。
「確保!!」
「ありがとうございました!」
「いえいえ!僕は大したことは……」
「やりましたよ!うちの娘をいち早く助けてくれた」
「もう大丈夫よーお姉さん達が助けに来たから。」
「身体どこも痛くない?」
「はい。」
「お兄ちゃん……怖かったよー」
グスッ……!
「そうだよな。ごめんな。もう安心してもいいぞ。」
「うん……」
「奥様ちょっと」
「はい?」
「彼女、心に傷を追ってしまったかもしれません。多分触られていると思います……」
「そうよね……ごめんね。」
「お母さん……私どうしようすごく汚いよー……。」
「大丈夫よ。貴方は綺麗だから……」
「うん。でも……」
「もう、こんなんでお兄ちゃんに会えない。」
「そっか……」
そこから彼女は男性への恐怖心、トラウマができてしまったんだ。
〜彼のはなし〜
犯人は捕まって、重い刑になった。
その事件から僕は彼女と一度も会っていない。いや、会えない、何度か彼女の家に行ったが、断られた。
「何度も来てくれて申し訳ないけど、彼女とは距離を置いて欲しいの。それが華帆の、気持ちだから…、ごめんなさいね。」
「……はい。失礼します。」
もう……会えないのか、僕がもっと早く助けられたら…!
ごめん。ごめんな…。
大学は家から通っていたが、逃げるように僕は、大学の近くのアパートに移った。
春――もう僕も卒業か…。まだあの事件が頭の中から、消えない……。
「卒業生の皆さん!ご卒業おめでとうございます。これからは君たちは社会人となるね。」
社会人か……、何社かうちで働かないかと話はきているけど、、、どうするか。母さんと父さんからの呪縛は取れたけど…、何をすればいいんだ?
「これから卒業祝いしに行くんだけど、シュンも行くだろ?」
「ごめん……、このあと用事があるんだ。だからまた誘ってくれ!」
「そうかそうか!じゃあまたな!」
「おう!またな!」
桜が舞う季節――。僕はこの季節が嫌いだ。父さんと母さんが事故で死んだんだ、葬式に出て、何故か涙が出なかったんだ。心のどこかでホッとしている自分がいる。
「ほら、あの子よ。かわいそうね、まだ若いのに…。」
「親が死んだって言うのに、涙の一つも出ないのかよ…」
「どうする?誰が引き取るの?うちは無理よ。子供が三人いるし…。」
「ウチだって無理よ。子供嫌いだもの。お金が沢山かかるじゃないの。」
「高校卒業しているし、何とかなるんじゃない?」
うるさい。五月蝿い。みんな嫌いだ。
「遺産は誰が貰うのかしら。」
みんな自分のばかりで……うんざりする。
「皆さん…大丈夫です。父さん達の遺産もあるし、今まで貯めてた分もありますから。」
「そう。そうだわよね!」
「そうだな!」
「今日は本当にありがとうございました。」
父さん達が亡くなったのは大学二年生の時だった。交通事故、相手が飲酒運転と無免許だったらしい。酒飲んでしかも無免許で運転なんかすんなよ。と最初は腹立たしかったが。人間は慣れるもんだな笑笑。
母さん、父さん、オレ大学卒業しました。だからもう安心してください……。オレを解放してください。
「…………。また来ます……」
オレってどんな子供だった?
「ママただいま!!今日テストで100点取ったの!」
「あら!すごいじゃない!」
初めて褒められた。でも――。
「でも、呼び方"ママ"じゃないでしょ?お母さんでしょ!気持ち悪いからもう呼ばないで!」
気持ち悪い……気持ち悪い気持ち悪い
「はい。次から気をつけます。お母さん。」
「そう。それでいいのよ。」
「お母さん!またテストで100点取ったんだ!」
「そう。あなたは当たり前よ!そのぐらい普通でしょ。そんな事でいちいち騒がないでちょうだい。」
あの時以来、僕はお母さんに褒められなくなって、僕はお母さんにみて貰いたくて、褒められたくて……。
「今日テストだったでしょ?何点だった?」
「90点。」
「はー??何やってんの?!今日ご飯抜きよ!明日から塾通わせるから!」
「もう、中学生って言うのにどうするのよ。その点数で!」
「えっ?」
全然、僕をみてくれない。なんならわざとやるんじゃなかった……。
「ごめんなさい!ごめんなさい!もうしないから!もっと頑張るから!お母さんの言う事全部守るから!」
「だから、その泥団子だけは……!」
「あなたが悪いのよ。こんなゴミまで持ってきて、あなたがお母さんを困らせるから、言う事聞かないから、恨むなら自分を恨むのね!!!」
グシャ――。
彼女から、初めて人からもらった大切なものなのに。
最初から大切なものなんか集めるじゃなかった。なんなら全ていらない……。もうやめよう。こんな感情があるから、こうなるんだ!
「偉いわね〜また満点じゃない、やればできるじゃない、!」
「この前ねあなたのクラスのお母さん達から、シュンくんは優秀なのね、凄いわー、うちの子も見習って欲しいわ。どうやったらできたの?」
「そんな〜私は何もやっていませんわ〜ただあの子が勝手にやっているのよ〜。時々心配なのよね。テストも全部満点なのよ。」
「あら〜そうなの。素晴らしいお子さんね。」
「へー。」
なんだ…簡単じゃないか。感情なんかいらない。
「お兄ちゃん、助けて!」
「おっと動くなよー」
また、僕は大切なものを助けられないのか?そもそも、大切なのか?助ける必要……!何を考えているんだ僕は!!
一瞬自分が恐ろしくなった。
「偉いわね〜シュン、人助けなんか、中々出来るもんではないわよ〜、おかげでお隣さんから感謝状も沢山貰っちゃたわ〜。」
「…お父さんは?」
「仕事よ。いっつもいっつも私にばっか押しつけて!」
「あまりお父さんの話はしないでちょうだい。ホント気分悪くなる。」
「ごめんなさい。」
勉強しないと。
「あっ、そろそろ高校も卒業ね、大学は東大に行くのよね。あっハーバードでもいいけど…。」
「いや、東大にするよ。」
「そう。あなたなら。できるわよね??」
「うん。」
「なら安心だわ。」
高校卒業前――僕は担任の先生に、こう言われた。
「本当にやりたい事がないのか?大学はここでいいのか?」
「はい。いいんです。ここで。母が喜ぶので。」
「またそれか…。シュン。君には自分の意思、感情がないのか?君はロボットか。」
その時初めて気づいた。ロボット。人間ではなくて。何してんだろう。僕は。
「それと、僕ではなくオレって言ってみ?自信持つぞー笑笑強くなれる気がするぞー笑」
「僕ではなく…オレ…ですか。わかりました。」
「またか。断ると思ったんだが…」
「いいんです。オレ大学は行って頑張ります。」
「……!そうか!」
いい先生だったな……。
「おいっ!お前か?首席代表の人は。」
「そうですけど……。なにか?」
「いやーすげーなと思って、そんないい点数だったのか?何点だ?」
「500点。」
「はー?マジかよ…。すげぇーな!」
「別に…凄くなんか」
「なあ?俺ら友達にならねぇか?いいよな??」
「いいけど……。」
「よっしゃー!」
大学生活――。高校と何が違うのか…わからなかった。
でも少し違うのは、友達ができた事だな。変なやつだけど。
「なな、なんで一回も表情かわらねぇーし、全部YESなの?ロボットみてぇーだそ?」
君はロボットか――
「おいっーやめれよ。別にいいだろう。」
「えーだってよー怖くねぇか?」
「………………。」
「ごめん…。」
「ちょっ…どこ行くんだよ!」
そんなの。オレが知りたいよ。いつからだろう。笑わなくなったのは。
ゴホッ――ガハっ……うぇっ
気持ち悪い――。
うるさいうるさい!!感情なんかいらない。ないはずなのに……なんで……こんなにも……わからない。わからない。
「ふぅ――。よし。オレなら大丈夫だ。」
「おい、大丈夫か?顔色悪いぞ?」
「平気です。気にしないでください。」
「そうか。」
また敬語、壁が出来てしまったんだな。まぁいいか。
四年後オレは大学を卒業して、社会人三年目になる。
そろそろお金貯まったし、仕事辞めて自営業にするか。確か、父方の祖母達がやっていた、お店がまだ残ってたはず。電話してみるか。
プルルルルっプルルルっ――ガチャ……
「はい。」
「あっおばぁちゃん?シュンだけど元気?」
「シュン!久しぶりね。元気よーどうしたの?」
「あのさ、ばぁちゃんがやってたお店どうなってる?」
「まだ残ってるわ。もうしめたのだけど、どうしようかと思ってたの。どうして?」
「それ、オレに譲ってくれないか?お金は払うから。」
「えっ!いいけど別に払わなくていいわよ。私たちのものだし…何かするの?」
「うん。今やっている仕事を辞めて、自営業でもしようと思って、自立したいんだ。父さんからも母さんからも……」
「そう。ごめんなさいね、うちの息子が……」
「あの人頑固だから、あなた方に勘違いさせてたと思うし。応援するわ。」
「うん。ありがとう。」
まだオレは感情が戻ったわけではないけど、少しずつ、自分の意思が出来るようになった。
「うん、また。」
ふぅー
「あの、社長、辞めさせてください。これ辞表です。」
「そうか、理由を聞いても?」
「自分一人で頑張りたいと思ったんです。」
「そうか、やっと自分の意思が出来たんだな。頑張れよ」
「はい!お世話になりました。」
記憶
それから一年でオレは本が読めるカフェを始めたんだ。誰でも落ち着ける空間を作りたかった。贅沢はそんな出来ないけど、毎日が楽しいからそれでいいんだ。買い物をしていると公園が見えて、子供達が泥団子を作っているのをみる。ふとあの時の記憶が思い出した。
「はい!お兄ちゃんあげる!」
あの子は今何をしているんだろうか。
次の日、雨が降りそうだったけど、買い忘れがあったので、傘を持って買い物に行った。
そしたら、みたことのある人を見かけたので近づいてこうとしたら、何が話しているようだ。修羅場か?
「亮真、何しているの?」
「誰あんた?」
「貴方には聞いていないの。」
「なにっ!」
「華帆、もう我慢の限界なんだ。お前のこと本気で好きだったけど…、だけど俺たち付き合って三年半経つのに何もしていないって。変だよ。普通じゃないよ。だからごめん。」
「なにそれ…、」
待ってくれるって言ったじゃない。好きって愛しているって言ってくれたのに。嘘つき。
「あんた、三年半も付き合ってまだ何もしていなかったの?ありえなーい。じゃあ何のために付き合ってんの?お遊びですかー?ウケる!」
「……っ!」
その瞬間、自分が恥ずかしくなった。
「だから、もう俺と別れてほしい。連絡も二度としないでほしい。忘れてほしいんだ。」
「なんで…?」
「ごめん…。」
「ごめんじゃあわからない。嘘だったの?全て、」
「いや、そうじゃなくて、あの何年か前のが誘拐事件、あれお前だろ?そんなやつと付き合えるない。重いんだ。背負う気も俺にはないんだ。」
「それ以上言わないでっ!」
なにそれ、私が汚いからなの?
「ごめん……。幸せになってね。」
ボソッ「気持ち悪い女っ」
――!
なんでそんなこと言われないといけないの?
幸せになってねだと?もういいや……。私は彼を愛していたのか?
雨降ってきたなー。傘持ってきてない。
雨は彼女の髪を伝わって滴り落ちた。振られたってのに涙ひとつも出ない。何がいけなかったんだろう。
なんであの男の人はこちらに向かっているんだろう。こっちの道は何もないのに。
「どうしたの?」
「濡れちゃうよ。オレの傘に入って。」
「なんでもありませんから…。」
「じゃあ、目からの水は」
「えっ?ほんとだ…なんでだろう。あれれおかしいな。」
「ちょっと、ごめん。」
優しく抱きしめてくれた。
その瞬間、私は子供のように泣き崩れてしまった。
その時、私は彼を愛していたのだど初めて気づいた。
周りには誰もいなくて、世界にたった二人しかいないみたいに……。彼は何も言わずにただ優しく優しく抱きしめてくれる。なんだか懐かしいな……。
「落ち着いた?」
「はい。ありがとうございました。」
「髪とか濡れているし、うちおいでよ。」
「えっ…でも…。」
「いいから、俺のお店だし。」
「はい。」
コーヒーの匂い、本の匂い、落ち着くな……。大人っぽいお店だな。
「はい、どうぞ、コーヒー苦手だと思ってミルクティーにしたんだけど…。」
「あっはい!ありがとうございます。」
「あの…。お店は…。」
休みと書いてあったのに、いいのかな。
「あぁ、大丈夫。気にしないで。」
ぎごちない笑顔を私に向けてくれた。でも嫌な気はしない。なぜだろう。
「そういえば、泥団子まだ作ってるの?」
「えっ?もう作ってないですけど……、」
なんでこの人が私が泥団子作っていたの知っているんだろう……。もしかして!
「あのっ!」
「そうだよ。やっと思い出してくれたんだ。」
「あの時のお兄ちゃんですか?!」
「うん!」
「ごめんなさい…。あの時、私がお兄ちゃんにひどいことを言ったんじゃないかって…。」
「ううん。そんなことない。オレが悪かったんだ。助けるべきだったのに、それから君からもらった泥団子も壊されちゃったし、大切なものも守れなくて…」
「泥団子…。そんなことないです!私にとってお兄ちゃんは、ヒーローみたいで……。」
ヒーローね……、そんなこと思っていたんだ。
「そっか……それは嬉しいな。」
「なのに……、私、お兄ちゃんの事忘れて、違う人と付き合っちゃってそれも失敗して、私何しているんだろって…ははっ笑えますよね!」
悲しいな……高校卒業しといてよかったなーこの前彼と会っていたら……。
彼の大好きだった笑顔も、私に優しくしてくれた言葉も名前も、全部あの子に……。
泣きそう…………。
「最悪だったね……。オレも、君のこと何度も忘れようとして…、す……いや、でも忘れられなかった。」
「もう遅いし、お母さんに電話して、迎えに。」
この気持ちは押し潰そう。出てきたら、思ってしまったらダメなんだ。こんな人間なんだから。迷惑、またどこかに消えてしまうんじゃないか……。だからダメなんだ。
「そうですね。母に連絡します。」
「あっきてくれるそうです。ありがとうございました。」
「…………。」
「ミルクティーご馳走様です。」
「お母さん……、私これからどうすればいいの?」
「華帆……。ごめん。ごめんなさい。大丈夫よ。お父さんとお母さんが、貴方を守るから。」
「うん…………。」
私は泣き疲れて眠ってしまった。
「あなた、華帆が…、」
「わかっている。だからあんな男とは…、付き合うべきではなかったんだ。」
「すまんな。華帆。」
「静かな別荘に召使いを何人か送り込んで、少しずつ華帆を心を治してみようか。」
「そうね、高校も卒業したし、大学なんか行かなくても、十分頭いいし、大丈夫だわ。」
「あなた……」
「大丈夫だ……。二人であの子を、華帆を守ろう。もうあんな事件は起こさせないために。」
「華帆、静かな別荘にしばらく滞在しないか?ゆっくり休んで遊んでもいいんだぞ。」
「お父さんとお母さんは?」
「お父さんとお母さんのことは気にしなくていいんだ。心の自由のまま過ごしてもいいんだ。」
「そう。じゃあそうする。」
「わかった。準備しとく。」
「それから、ひとつお願いがあるの。私が別荘に行くことをお兄ちゃんに伝えといてほしいの。だから会えないって……。」
「うん。わかった。」
コンコン――。
「シュンさまですか?」
「そうですけど……何か?」
「華帆お嬢様からの手紙を預かっています。」
「えっはい。ありがとうございます。」
「では、失礼致します。」
彼女から初めてのお手紙――。
急にどうしたんだろう……。
『お兄ちゃんへ、私はしばらくお兄ちゃんに会えません。
せっかく再開する事ができたのに、ごめんなさい。
わたしは別荘にしばらく滞在することになりました。お兄ちゃんのせいではありません。』
「なんだよそれ……。」
『昨日初めて、お兄ちゃんの名前知りました。枢シュンっていうんですね。でもお兄ちゃんと呼ぶのをお許しください。私ね元彼と別れちゃった時、そして、お兄ちゃんにあった時気づいたんだ。私愛されたかったんだって、もちろんお母さんとお父さんに愛されているってわかってたよ。でもねいつも胸がぽっかり空いていていたの。でも初めて、お兄さんと公園で会った時、胸がねぽかぽかしたんだよ。嬉しかったんだ!だから、私はお兄ちゃんの事……好きになったんだと思うの。だから、その気持ちをお兄ちゃんに伝えることができたら、名前で呼んでもいいかな?』
「そんなの当たり前だろう……。ぐすっ」
ガチャ――!
彼は、手紙を持って走った。
もっと早く、早く、人混みがある中を転びそうになりながら、彼は全力で走った。
『今日、行きます。どうか、待っていてほしい。いつになるかわからないけど、今日、家に来たりとかしないでね?
それでも私を待っていてくれますか。お兄ちゃんのまた明日って言葉がすごく好きで、また明日があるんだと思ってしまう。あの事件の時助けに来てくれて、すごく嬉しかったんだ。だから汚くなってしまった私に何度も手を差し伸ばしてくれたのがどんなに嬉しかったか。でも私はお兄ちゃんに会う勇気がなかったんだ。見せられないと思ったの。まだ私はお兄ちゃんに釣り合う人じゃないし、まだ子供だし、だから待っていてほしいの。大好きです。誰よりもあなたの事を愛しています。』
自分の呼吸が乱れていて、うまく息ができない。どのぐらい走ったのだろう。間に合ってくれ!と心の中で何度も願っている。彼女がオレに言ってくれたんだからオレもちゃんと伝えないと。
「華帆っー!!!」
「お兄ちゃんっ?!」
「華帆っ!オレもっ!」
「来ないでって言ったのに!」
ここの使用人達がオレの腕を押さえて、これ以上近づけない。でも大きな声で……。
「華帆っ!聞いてくれ!オレも華帆を好きだ!愛している!だから……」
「えっ!」
「だからいくらでも待つ。もう二度とオレの前から急に離れないでくれ!」
もう離れてほしくない。大切なものを失うのはもう……怖いんだ。怖くて怖くて、その場で動けなくなって、自分が自分じゃなくなる。
「うん!シュン!私も愛しているわ。」
「必ず迎えに行く!だから!」
「うん!絶対連絡する!まってて!」
「華帆―――――!」
華帆、絶対待っているから!
「うん!また明日!」
「おう!また明日!」
オレらにとってのとても大切な言葉。また明日――
二年後――。オレは27歳になった。華帆は20歳だな。
「もう、おっさんだな。はは。」
「元気にしているかな。」
ポストに一通の手紙があった。華帆からだ――。
『シュンへ、二年に経ちましたね。長い間待たせてごめんなさい。そちらに帰ります。愛してる。』
「ははっやっと迎えに行ける!」
「華帆。」
「シュン……。」
「お帰り……。」
彼は無くしていた感情を取り戻して、優しく彼女に微笑んだ。
「ただいま!」
彼女は飛び跳ねるようにして、彼に飛びついて強く抱きしめた。
「愛してる。」
涙目になりながら、彼女は言った。
「あぁ。オレも愛してる。」
彼も彼女を優しく強く抱きしめた。そして、二人は見つめ微笑み合い、優しいキスを交わした。
あぁこれが愛しているなのね。とても温かくて、この人なら私は怖くない。心から愛しているわ。
これが感情なのか。なぜ早く気づかなかったんだ。
オレも心から愛している。やっと大切な人を守る事ができた。そして、何年後も何十年後も君に愛していると。
その後
その後私たちは式を挙げ、彼の経営しているカフェで私も働くことにした。お母さんとお父さんは、
「私たちの会社のことは気にしなくてもいい。幸せに暮らしなさい。」
「いいの?……」
「あぁ。それが権利なのだから。」
「うん!私幸せになる。」
「お父さん、お母さん、今まで私を愛してくれて、守ってくれて、育ててくれてありがとうございました。」
「私は彼と一緒に幸せに暮らします。」
「あぁ……。幸せにな……。」
「お義父さん……。僕からもありがとうございます。」
「あぁ。君も華帆の事ありがとう。」
「はい!」
カランっ――
「いっらっしゃいませ〜。」
彼と泥団子で始まった関係。そして、私たちを繋げてくれた、"また明日"という言葉。お父さん達から、何故かたっぷりとお金をくれた。もう苦労させたくないからと。最後までお父さんはお父さんだった。
「こんなに貰って大丈夫なの?」と言ったけど、なんともないらしい。どんだけお金持ち持っているのだろう笑笑。
我が親にして恐ろしいと思った。
「華帆ー。」
「んー?どうしたの?」
「本当によかったの?もう30になるオッサンと結婚して……。」
「何言ってんの。会った時から大して変わってないんだよ?顔とかも。」
本当に……。童顔は存在するんだね。
「それに、歳とかで顔で好きになったんじゃないんだよ?」
「どこで好きになったの?」
「教えなーいー。」
「えー教えて。」
ボソッ「逢いたいと思った時必ず現れるんだもん。そんなの好きになっちゃうじゃん。私のヒーロー。」
「えっ?なんて?」
「なんでもない!」
私のヒーローたすけてと言ってくれたら助けてくれた。私のお兄ちゃんでもあり、私の旦那さん。夢みたいだ。
「華帆。愛しているよ。心から。」
「えっ。あっ、うん。私も愛している心から」
その瞬間彼の手が私の頬に触れて、温かくて、優しい唇を重ねた。もうあの時と違う。これから二人で道を作っていこう。そう思った。
月の光が明るくて、どこかまだ恥ずかしかったけど、嫌ではない。私たちを見ているのは月の光だけだ。
唇を交わした後、見つめ合って笑ったんだ。
元彼
「ごめん、もう好きではないんだ。」
はぁーあの時の事件を知って、彼女の今までの行動がわかったんだ。これ以上彼女といてはいけない。そう思ったら、オレは知り合いの女の人に愚痴ってしまったんだ。
「そうだったのね。もう大丈夫よ。私があなたを愛してあげる。キスもしてもいいし、それ以上のこともしてもいい。なんなら結婚もしてもいいよ。それぐらい私はあなたを愛しているから。」
「あぁ。ありがとう」
そうすると俺は気持ちが楽になった。彼女と二度と会わないようにと――。