エルフ、チョロ……記者会見に向かう
約束の時間が近づいてきたので、武光を部屋から追い出して……ドレスに着替え直した
……あぁ……太田さんに下着もどうにかして貰うべきだった……いつもそうだ……あとから気がつくんだよなぁ……
またスースーする状態で、落ち着かない気分で武光に戻ってきて貰う。
武光が戻ってくれば少し落ち着くかと思ったけど……そうでも無いな……
むしろもっと落ち着かない様な気がしてきた……
向かい合わせに座って、じっと見られていると……その……そわそわする……
ドレスの下……何も着てないから……かなぁ……
でもさっきまでだって見られてたんだし……なんで今は落ち着かないんだろう……
「ふぁぁ……」
落ち着かない理由を考えていたら、さっきの抱き抱えられた時の事が頭に浮かんできた。
なぜか動揺して、変な声が出る。……
「……優也、どうした?」
「ふぇっ?!……な、なんでもないっ!……なんでもないぞっ!」
我ながら情けない事に……数百年も人生経験……エルフ生経を重ねたというのに……こんなに落ち着かない気分になるとは……
「……優也……?」
心配そうな顔の武光が立ち上がって、私の隣に座り直す。
……さっきは……あんなに……その……あんなぞくぞくしてくるエロい声……出してたのに……頼りたくなるなる声……
なんで……お前の方が……人生経験豊富そうなんだよぉ……
前は同い年だったけど……今は私の方が……年上なんだぞぉ……
ポン
武光の伸ばされた手が……私の頭に軽く乗せられる。
そっと撫でられていると……なぜか……ぐしゃぐしゃだった私の頭の中が、ゆっくり落ち着いてくる。
「……優也……大丈夫だよ」
何が大丈夫なのか分からないけど……そもそも動揺していたのも武光のせいじゃないかって思うけど……でも頭を撫でられて……ちょっと安心している私がいる。
コンコン
扉がノックされると、武光の手が離れていって……ちょっと……涼しくなった……
扉を開いて……そっと入って来た女性……数度目になる案内役の女性が、私達が並んで座っているだけなのを見て……ほっとした様な顔をする。
今回は頭撫でられていただけだから……見られても……ん……やっぱり見られるの恥ずかしい気もするし……見られなくて良かったかな……
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女性に案内されながら廊下を歩く。
子猫……精霊達を周りに飛ばしながらチラッと横を見ると、武光が気が付いて「どうした?」って顔で見てくる。
すぐに気が付いてくれる武光にちょっと嬉しくなって……いや……なんかコレ……アレ?
アレー?……いやいやいやいや……ちょっと……え?……武光男だよ?……私……『俺』……男だったんだよ?
頭にSNSとかでよく見た単語……『チョロイン』というのが頭に浮かぶ。
ネットなどでその単語を見た時『HAHAHAねーよwww』とか思ってた……
自分が?……ちょっと包まれる様に抱かれただけで?……いやいや……そんな経験いくらでも……無いな。
『あの子』からもされなかったし……
それ以外の男には触れる事すら許さなかった……
あー、アレだ……慣れない事されて……動揺してるだけかな……あはは。
そう考えて……また武光を見ると……
子ね……精霊達が武光を囲んでいた……私の周りを飛ぶ様に……ある言葉が浮かぶ。
『精霊の騎士』
あちらの世界での古い物語にある……エルフを守り、共に戦って当時の魔王を打ち倒した騎士……後にエルフと結ばれてとある王国の祖になったという騎士の物語……
彼の周りには、エルフを守る騎士に加護を与える為か、精霊達が常に舞っていたという……
「ふゃああああああああぁぁぁっ!」
結ばれて結ばれて結ばれて結ばれて結ばれて……
頭がグルグルグルグルグルグルグルグルグルして、奇声を発してしまう……
「優也っ!」
へにゃりと脚から力が抜けて……廊下に座り込んでしまう私に、武光が慌てて手を伸ばす。
「大丈夫か?真っ赤だぞ……全身」
「ふゃ……ら……らいじょうぶ……」
手を伸ばす武光がキラキラ光って見えて……いやこれは精霊のせいだった……さっきまでよりイケメン度が上がってる……
こんなにたくさんの精霊が舞っているのは……私が……武光の事……えぇ……?
『あの子』の周りにも精霊はいたけど……『あの子』の事は子供の様に思っていたからか、精霊は「コイツ『を』守ってやるぜ!」って雰囲気だったのに……武光の周りのは「コイツ『と』守ってやるぜ!……お前を!」って意志を感じる。
それがさらに『精霊の騎士』という物語を強く思い出させて……いや……その……えぇ……
はぁ……いや……たしかにコイツ……いい男だし……私が戻ってきた時の反応とか……すごい嬉しかったし……でも私……男だったしなぁ……
『え?親友として大切なだけですが?……お前と?……無い無い』とか……
『あぁ……うん……気持ちは嬉しいけど……なぁ?』とか……そんな事言われたら立ち直れないかもしれない……
ただの拒否ならまだ耐えられるかもしれないけど……憐れみのこもった優しい顔で気を使われたら……ダメかも……
「優也?」
「………………いや……大丈夫……」
伸ばされた手を断って、立ち上がろうとする。
が、脚に力が入らない……しまらないなぁ……
「ふぁっ?!」
……床にへたり込んでいた私の身体が、フワリと武光に持ち上げられる。
「ふぁああ♡」
案内の女性が手で顔を隠しながら、嬉しそうな声を出す。……指は隙間が開いて、ギラギラした目がこっちを見ていたけど……
私は武光の腕の中……お姫様抱っこをされて、ふるふる震えていた。
「ふぇぇ……武光ぅ?」
「具合が悪いなら、記者会見はやめにしよう」
私の事を心の底から心配する武光の目が、私の事をじっと見てくる。
真剣なその顔を見ていると……私……
……ぐに
「ふぁにをしゅる」
手を伸ばして、両手で武光の頬を挟んだ。
……危な……危うく全てがどうでも良くなる所だった……流されるところだった……
「……大丈夫だよ武光……記者会見に行くよ」
「……わふぁった……とりあえず……手をふぁなせ」
順番を間違える所だった……私が『ココ』に帰ってきたのは私の騎士を得る為じゃない……学生達を元の生活に戻す為……
自分の事はその後……しっかり考えて結論を出そう……理性的に考える自信は……ちょっと無いけど……
今だって……お姫様抱っこで……ドキドキしてる……武光の顔が近くて……全身が熱を持っている気がする……
顔を手で挟んで無かったら……イケメンの顔を見続けたら……そのままどこに連れていかれたとしても……抵抗出来ない……いや……しない……
だからこそ……ここは耐える。
イヤもう……自分の感情については……元男とか……いきなりすっ飛ばして……ヤバいくらいなんだけど……友人として大事にしてくれている武光に、女になって……優しく抱きしめられたから……好きぃ♡……とか……引かれるだろうし……お前は私の騎士(笑)……とか……無いわ〜……あ、なんか落ち込んできた……
「優也?」
「……あぁ……うん……大丈夫…………はは……大丈夫……身体は……」
「……本当に?」
「うん……本当に……だから……もう降ろしてもらっていいよ」
「いや……人目がある所までは、このまま行こう」
言いながら……スタスタ歩く。
「ちょ……武光……恥ずかしい……から」
「……うわ♡……憧れのお姫様抱っこ……いいなぁ……」
案内のはずの女性の視線を浴びながら……記者会見の会場に、お姫様抱っこで照れていかれる私だった……
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会場に入ると、一斉に向けられる無数のカメラと視線。
会場の少し手前で……本当にギリギリ手前まで降ろしてくれなくて……人に見られるかと思うと……ハラハラした。
一応深呼吸をして、気持ちを切り替えて……切り替えて……うん……大丈夫……
キリッとした……多分した……顔で扉を開けてもらって……会場に入っていく。
私の尖った耳と、大量の精霊達(30くらい増やした)は、驚きの表情で迎えられた。
正直耳だけだと特殊メイクとか疑われるかと思って、精霊を増やしたけど……疑う人は何しても疑うからなぁ……
海上を飛行している『島』だって、『よく出来たCG、俺くらいになると一目でわかる』とか言われるかもね。
まぁ……その辺の人とかどうでもいいか……
少なくともこの会場にいる人の目には精霊達は見えているし、しばらくの間……学生達の事が解決するまで周囲の目を誤魔化せればそれでいい。
精霊達には記者達の間を飛んでもらって……中には彼らの膝の上でゴロゴロしだすのもいたけど……幻覚の類いでは無い事を理解して貰っている。
「では……ええと……あー、異世界からいらした……エルフのリンド様と……えー、海上の巨大飛行物体についての記者会見始めさせていただきます」
司会の人?……進行役の人が話しにくそうに、記者会見の開始を宣言した。
まさか彼も……異世界から来たエルフとか、そんな事を言う事になるとは……今日起きた時点では思っていなかったろう。
気の毒に……悪いの私だけど……まぁ……諦めて!……
私はまず……いきなりの『島』出現でこの国を騒がせてしまった事を詫びて、悪意があってあの位置に現れたのでは無いという事を説明させてもらった。
その他色々……自分はエルフの研究者であって、次元転移の可能性を確かめる為に行った実験でこの国の領空に入ってしまった等、……事前に打ち合わせた内容の話をした。
信じてもらえるかは……まぁ……重要では無くて……ある程度の時間が稼げればいいので、ちょっと派手な事をして目立っておけばいいかなぁ……
日本政府には受け入れて貰って大変感謝している……と言ってこちらの話を終えた。
次は質問の時間……なのはわかっているので……記者たちはそわそわしだす。
まぁ……何聞いてくれてもいいけどね……あまり変な質問は避けたいなあ……
大手新聞社の者だという記者が、まず手を挙げた。
「あなたは今回どの様な目的でこの国にいらしたのですか?」
「……は?」
……イヤさっき、一応説明しただろう……まぁ……嘘なんだけどさ……それともこの男……本当の事知っているのか?……
「と、言いますと……先程の説明ではダメだと言うことですか?」
「いえいえ……私の質問に答えて頂くという形をですね……」
意味がわからない……微妙に噛み合わない会話を続けて、この男は『大手新聞社の記者である自分』が聞いた事を答えさせる事にこだわっているのだ……とやっと気付いた。
1人目がコレかよ……
司会の人の方をチラッと見ると、『またかよ……』という顔をしていた。
いつもなのか……
「では2人目の方……」
「……おい!ちょっと待てよ!……ウチにそんな態度で……」
「次の方〜」
サクサクいこうね。
武光君……イケメンムーブだが、画像は消してない。
エルフチョロ過ぎ……強大な魔力の余波まき散らしでみんな恐れてたから、女の子扱いでコロっといく。
でも好意には鈍い。