エルフ、対策本部に入る
いろいろあって時間がたってしまいました。
とりあえず更新します。
受け取ったドレスを早速試着してみる。
調整にかかった時間はかなり短時間のハズなのに、おかしなところは少しも無くて……少なくとも素人の私にはわかる様な不備は無い、最初から私の為に用意されたモノであるかの様に身体に合っていた。
鏡に映った姿はいかにも高貴なエルフ……と言った感じで、自分で言うのはアレだけど……こう……エルフの女王って感じ。
「神秘的な雰囲気を出す為にベールも用意してみました」
太田さんの差し出してきたベールを着けてみると、これはこれでいい。……ちょっとウエディングドレスにも見えるけど。
武光にどうかと聞こうとしたら、スマホを操作していた。
「式場の予約をしなくちゃ……」
HAHAHA……言いよる。
似た様な事を考えるとは、やるな親友。冗談でなごませてくれるところまでセットとは……さすがだな!
「あぁ……良いですね……くっ!こんな手直しじゃなくて……ちゃんと作りたかった……」
「いえ太田さん……こんな非常識なお願いを聞いてもらって、感謝しています」
「いえいえいえ……!こんな事一生にあるかないかってチャンスですし!……後で……ふふふ……たっぷり……ふふふ……」
おおお……頼もしい……頼もしい?
ーーーーーーーーーーーーーーー
とにかく服は用意できた。
対策本部に向かって移動しなければならない。……大急ぎで仕上げた服に何かあるといけないという事で、太田さんも着いて来てくれるらしい。
「ふふふふ……エルフ……エルフが私の服……ふふふふふふふふ……」
何か聞き取れないくらい小さい声で言っているけど……よく聞こえないが、忙しいだろうにありがたい。
武光の運転する車に乗り込んで、移動する。
……こうなったら自動車じゃ無くて、なんかそれっぽい乗り物で行った方がいい気もするけど……『島』は注目されてるから適当なモノを引っ張り出すにしても手間だから……まぁ、いいのかな。
……時間も勿体無いしね。
太田さんの所から対策本部まではすぐだった。
まぁ、そういう所を選んだんだけど……建物の門の所に立っていた警備の人に武光が声をかけたら、既に話がいっていたのか中に入れてもらえた。
警備員さん達が私を凝視している。
ベールで顔は隠しているけど、エルフの尖った耳は見えている。
コスプレなどではありえない……明らかに血の通った身体の一部の耳が、彼等の視線を集めている。
「にゃ〜?」
あとは私の周りを飛び回る子ね……精霊達も凄い見られている。
癒しの白以外にも……土の精霊の茶、火の虎縞、猫には無い色の風の緑、薄い水色の水の精霊……全部で10匹……10体……程が私の周りをふよふよと浮いている。
闇の黒とかも喚びたかったけど……彼等は気まぐれなんで、来るか来ないかはその時の気分なので……まぁ今回はいない。
建物前に詰めかけていた報道関係の人達にも、かなり注目されている。
と言うか……がっつり撮影もされてるみたいだ。
結局『島』がアレだけ注目を集めてしまったので、こっそり少年達を返すのは無理そう……
いや……計画が穴だらけだったモノなあ……なぜこんな巨大な『島』が現れてこっそり事を進めることが出来ると思ったんだろうなぁ……我ながら。
ざっくり考える習慣がついちゃってたなぁ……向こうの生活が長過ぎたか。
「誰だ……」
「え?!……ネコ?!……飛んでる?!」
「……美しい……」
「おい、あの耳……」
報道の人達が声を上げる中、私はそれが聞こえていないかの様に歩いていく。
周りからは無言で歩く私が神秘的にでも見えるのか、注目を浴びてはいても声をかけてくる人はいない。
なんとか無事に建物の中に入ると、案内された会議室の様な……いや大型のスクリーンの周りをいくつもの小さめのスクリーンが囲っているところを見ると、専用の部屋か。
こっちを見ている人だけじゃなくて、パソコン?の前に座っている人達が、この場にいない誰かと激しい口調でやり取りしている人もいる。
すいません……お騒がせしちゃって……いきなりデカい『島』とか出現させちゃって……すいません……
ここでも当然注目される。
大勢が集まる中、武光のお父さん……御舞議員がこっちを見ていた。
あと大勢の作業服の人達が、ほぼ全員こっちを見ている。
若干あった不安のせいで、駆け寄りたいところを我慢して……大物ですというフリでゆっくりと議員の前に歩いていく。
「思ったより早かったね……そちらの方は?」
御舞議員が太田さんを見て聞いてくる。
多分キレキレ議員はわかっているだろうけど、話の切っ掛けとして聞いているんだろう。
「服を用意してくれた太田さんです」
「ぁ……あの……太田です……」
太田さんが議員と握手をしながら、挙動不審な動きをしている。
まぁ……よくテレビとかで記者の質問とか受けてる人が、目の前にいるんだし……わかる。
私にとっては親友のお父さんだけど。
作業服の人の1人……年配の男性が、警戒しながら私達に向かって歩いて来た。
緊迫しているはずの現場……対策本部に、周りにもふもふが飛び回るドレスの女が呑気に話をしているというのが気になるんだろう。
まぁ……得体の知れない相手に近づくのは勇気がいるだろうに、よく近づけるものだと思うけど。
議員が一緒にいるし、大丈夫だと思ったのかもしれない。
「あ……あの……御舞先生……この方達は……?」
「あぁ……加藤さん……今回の『この件』の関係者……うん……関係者だな」
胸のプレートに加藤さんと書かれた男性はこの対策本部で責任がある人なのか、ドレスの私を気にしつつ……飛んでいる精霊達も気にしつつ……御舞議員と話をしている。
「……関係者……関係者?……アレのですか?!」
最初は何を言っているのかわかっていなかったらしい加藤さんは、自分が対応しなくてはならない案件に関わる事だと気づいて、慌てだした。
「そうだ……まずは対策本部の皆に説明……説明……か……」
御舞議員も困った様な顔をしている。
仕方ない……ここは私から話をさせてもらうとしよう。
私はこの部屋……会議室の中央に移動して、深呼吸をした。
精霊達が私の周りを飛んで、応援してくれている。
良くわかっていないだろうに、励ましてくれている。
「皆さん……」
私の移動と共に静かになっていた会議室に、私の声が響く。
当然だけど視線も私に集まって、圧力すら感じるような気がしてくる。
緊張する。
精霊達が身体を擦り付けて励ましてくれている中、注目を集めながら続ける。
「この度はお騒がせしてしまい、申し訳ありません……私の名はリンド……いわゆる異世界から来たエルフです」
そっとベールを取り去って顔を見せる。
ほぉ……とため息のような息を吐き出す音が、会議室にひろがった。
同時に癒しの精霊達が室内を飛び回って、私の話を受け入れやすくしてくれる。他の精霊達はそのお手伝いだ。
あくまでも受け入れやすくしているだけで、洗脳とかでは無い……ホントだよ?
「あの事件の記事を」
武光の方を見ながらお願いすると、武光はタブレットをケーブルでそこにある機器に接続した。
パッと大型のスクリーンが切り替わって、例の高校生の集団行方不明の事件の記事を表示する。
「この……少年少女達は、私達の世界へ来てしまっていました。」
ザワザワとする中、話を続ける。
「とある国が……自国の戦力にしようと、国家間の協定で禁じられた儀式を行いました……そして強制的に彼等はこちらに呼ばれてしまったのです。」
「それはいわゆる……テンプレというやつですか?」
「バカ、異世界のエルフがテンプレとか知ってる訳無いだろ……」
作業服の人達の中にいた女性……さっきまでパソコン前でなにかのやり取りをしていた人が、声を上げるが別の作業服……こちらは男性……に否定される……いや、テンプレ分かりますよ。
まぁ……学生達を返せればいいので、わざわざ元日本人ですとか言わないけど……さっきから日本語話してるから気づく人くらいいるかと思った。
「彼らをお返しさせていただきたいのですが、なんと言いますか……騒ぎにならないようにしたかったのですが……大騒ぎになってしまいました」
本当は私が前もって話をしておいて、こっそり返す……帰す……どう考えても『島』を使うとなると、こっそりって無理だったんじゃ……
いやいや……長い年月生き過ぎてボケちゃったのかな……こうなったら……
「仕方ありません……彼等から目をそらす為に、私は日本と交流をしたくてやって来たと……そういう事に……」
そして意思決定に時間のかかる政府がモタモタしている内に、彼らを返してしまおう。
マスコミとかも私の方に集中するだろうし、大丈夫!……多分……
正直グダグダだ!