エルフ、服をどうにかしようとする
『リンド〜!良かったぁ〜……やっとリンドの声聞けたよぉ……』
「うん……で、せっかく話が出来たところでアレなんだけど……少し移動してもらって良いかな」
『えぇ……まぁいいけど……なんで?』
まぁ……確かにあっちの世界は、陸地の国境とは違って……海や空中をここまで自分の国の物って明確には決めたりして無いからなぁ。
なんせ線を引いたり出来ないしね。
怪しいモノを見張りが見つけたら警戒……とかそんな感じだし、基本は陸地の端までが領地という考え方が一般的かなぁ。
湾に2つの国が接してたら取り合いにはなる事もあるけど、結局は両方で使おうってなる場合がほとんど。
「コッチの世界は、海や空もある程度の範囲が領地なんだよ。」
『そうなの?』
「うん……だからもう少し、陸地から離れてもらって良いかな」
『そっかー、わかった!……アレ?そういうので揉めたりしない為に、リンドは半年前にコッチに来たんじゃないの?』
「カイ……すぐに来たんじゃないの?」
「えー?ちゃんと半年経ってから来たよぉ」
「んー?」
『んー?』
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正直なんだか分からない。
なぜ半年の時間差が無くなっているのか……まぁ多分考えても分からない。
今は取り敢えず『島』に領空の外で待機してもらって、その間に対策本部とやらで説明……もっと時間があったはずなのになぁ……
「おお……」
パーテーションの向こうから声がする。
「優也、アレが移動を始めた」
武光がニュースか何かで確認したのか、私に言ってくる。
一応これで多少は時間が稼げる……と、いいなあ……
『島』に攻撃の意思がないことを発表して貰わないと、領空にいればこの国が大騒ぎだし……出たら出たではしゃぎ出す国も出そうだよねぇ。
立ち位置をはっきりさせないと、いらない面倒を招くのは間違いない。
まぁ……この国は結論出るまで時間かかるから余裕はある……かな。
パーテーションで区切られた所から出ながら、御舞親子が並んでタブレットを眺めている所へ行く。
移動しつつある『島』がそこに映し出されていて、その正体について色々と推測がされているみたい。
「上手くいった様だね優也君……ん?……おっと」
「うぁ………」
ん?変なリアクション……
「うん、それは刺激的過ぎるなあ……優也君」
あっと……服めくったままだった……武光顔赤くするな……こっちが恥ずかしくなる……
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さて対策本部に行くにあたって、この格好をどうするか……という問題がある。
『島』にも私が着れるような服が無い……あるのはサンバ衣装みたいな魔石で出来たやつしかない。
衣装の話になるといつも困った様な顔をする、息子の顔が頭をよぎる。
息子よすまなかった……こんな事ならドレスの1着も作っておくべきだった。
とは言え……どうしたもんかな……間に合わせでもいいからなんかソレっぽい……異世界のエルフ……神秘的な……清楚かつ……妖艶な雰囲気も漂わせつつ……威厳なんかもあるといいな。
そう武光に言ったら、なに言ってるんだ……って言われた……うん、自分でもそう思う。
うーん……なにか無いかねぇ……ん?……コレは……なかなか……
タブレットで『エルフ』『衣装』とかで調べたら……なんかコスプレ衣装?……ゲームとかのキャラの服を作っている、個人ディーラー?とかいうのをやっている人のサイトを見つけた。
そこに表示されている、『コスプレ衣装以外にもこういうのが出来ますよ』というドレス?のような物が凄かった。
真っ白なレースがたっぷり使われた……なんと言うか……エルフが着そう……高貴な感じの?……それでいて……セクシーな雰囲気もあって……いいなコレ。
SNSとかの言動を見るに、かなりの趣味人の様で……周りの評価はかなり高いが、テンションが上がると止まらなくなるみたいだ。
まぁでも……そういう人割と好き。
メッセージを送ってみよう……動画付きで。
耳をパタパタさせながら手を振る動画と共に、そちらで扱っている衣装について連絡を取りたいと送ると……速っ……返事来た!
おぉ……凄い長文……この短時間でどうやって……
大量の質問や私の『エルフのメイク』の完成度に対する賞賛の後に、24時間いつでも連絡してくれて構わない……いやむしろして……いつでも……いますくにでも連絡して欲しい……という事が書かれていた。
迷惑でなければ伺いたいと、指定された連絡先に送信すると……速っ……また凄い速さで返ってきた。
お待ちしております!お待ちしておりますっ!という言葉が、びっしりと画面いっぱいに表示されている。
申し訳ないがすぐに行きたい事を伝えると、正座でお待ちしておりますって……
「武光……対策本部へ向かう前に寄って欲しい場所がある」
「わかった」
「……即答だな」
ありがたいな!即答過ぎて御舞議員少し呆れてるけど……
「……理由は聞かんの?」
「お前の頼みだからな」
さすが親友……ありがたい!と頷いてから、御舞議員の方を見る。
「すいません……ちょっと服装を整えてから向かいたいと思います」
「あぁ……まぁ……そうだね……それだとね……ちょっとね……」
まぁね……サンバ衣装の上にスウェット着てる女が、「やぁ!日本の皆さん!私は異世界から来たエルフです!よろしく!」とか言ってきたらとりあえず通報するよね……私だったらするね。
どっかの施設からでも、脱走してきたと思うね。
「それらしい衣装が調達できそうなので、行ってきます」
「わかった……私は対策本部の方へ先に行って、説明を……するが……まぁ努力はしよう」
「お手数お掛けします」
「いや……元々は、こちらの学生達を帰らせて貰うためだったからね」
まぁ……そうね。
帰らせなきゃダメって事では無いしね……気の毒だから帰す様に動いたけどね……気合い入れた、最初の自力転移は結構大変だった……余り意味無かったけど……
まぁ……良いか……今更だしな……
御舞議員と別れて、武光の車でディーラーさんの所まで送って貰う。
ディーラーさんは、太田久美子さんという名前で……サイトの自作コスを着ている画像を見ると、長い黒髪の美人だ。
スタイルも……多少寄せたり上げたりしてるみたいだけど、画像加工をしてる感じでも無いし……割と……いや、かなり整っているんじゃないかと思う。
画像もファンタジーの魔法使い風でいい雰囲気だし……いや、美人さんに会うの楽しみだな……
車をコインパーキングに置いて、太田さんのマンション……マンションで作業しているらしい……自宅兼作業場?……のエントランスのインターホンを操作すると……返事がない……?
「……あら?」
『バタバタ……ガサガサ……ヒアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!……く……ぁ……す……いません……お待た……すぇしまし……』
すぅ……
ロックが解除された様で、目の前のガラス扉が開く。
「…………………………………………?……行くか……」
「あぁ」
インターホン越しの音に若干の不安を感じつつ、エレベーターで太田さんの作業場のあるフロアまで行く。
ドア脇の表札を確認しながら目的の部屋を見つけて、呼び鈴のボタンを押すと……ガコン!……ズザァァァ!とヤバめな音がしてから……玄関が開いた。
「よ、ようこそ!……ようこそ!……ふぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!゛!゛エルフ!エルフさぁああああああああぁぁぁ……ゲホッゲホッ……ゴホッ...ヴ...ゲホッゴホッゴホッ...」
ドアの向こうから現れた、ボサボサの髪を無造作に束ねた……分厚いメガネの女性が……私を見て叫び声をあげて、激しくむせた。
あちこち毛玉のあるヨレヨレのジャージを着たその人は、散々むせた後……私の事を見つめてた。
「あぁ……素晴らしいっ!エルフ!……エ……ル……カヒュ!……ヒュー……ヒュー……かハッ」
「ヤバい……優也……過呼吸だ」
「え?!……ちょっ!……しっかり!」
なんなのか!……どうしろと!……




