エルフ 家族になる
日本に帰還した学生勇者達が、家に戻れる事になった。
その話を部屋のソファに座りながら聞いた……隣には武光が座っている。
これは勇者達の能力が、無くなった……のとは正確には違って……世界の方が魔力に馴染んでしまったから……
主に『島』の世界樹のせい……だけでは無い。ただ、最終的に決定付けてしまったのは……まぁ……事実。
精霊達がいる事を世界が知って、魔力を感じる目が『開いた』人達は……ぼんやりとだけど漂う魔力を受け入れていた。
元々どんな世界にも精霊はいたんだけど、精霊を見る事が出来る秘人間は極限られていた。
それを私が世界に見せる事になって、『精霊は自分達の周りに普通に存在している』事を自然に理解してから『見える人』は確実に増えていってる。
世界的には子供から……なのだが、日本だけはある程度以下の年齢……大体中高年以下……は『何故か』馴染んでいた……特に男。
お前ら……30を待たずして『魔法使い』になる気か?
これはやがて世代を重ねるごとに、ソレを放出……魔法を使える様になるんだろう。
コレはもちろん……世界樹を持ち込んだ私のせいでもあるんだけど、元はと言えば何度もこちらの世界の人間を召喚した例の国のせいだと思う。
魔法的には2つの世界はほぼ繋がってしまっていて……モノや人をムリに移動させて、自然な修復速度を上回る頻度の『穴』を何度もこじ開けていたので、小さな穴が残っていた為だ。
『島』の転移で『穴』を拡げちゃったのは間違いないんだけど……
それが無くてもいずれこうなっていたと思う……て言うかわかってたら最初の転移もう少し楽だったなぁ……
それは……ともかく……
「もうここに『いなくてはならない』理由はなくなっちゃった訳なんだけどさあ……」
私はチラリと横にいる武光を見る。
「私に、『ここにいたい』理由はあるんだよねぇ……」
お腹にそっと手を当てて、続ける。
今から武光に告げようとする事が頭をぐるぐると駆け巡って、心臓がバクバクとしている。
「それに……子供は……『お父さん』と……離したくないからさ……」
ガキン!!と音が立ちそうな程、武光の身体が硬直して……ゴリゴリと首が回って……私を見てくる。
あんまり凝視するな……ちょっぴり……恥ずかしいんだからさ……
女として生きて数百年……感覚としては大分女性側に寄っているんだと自分では思っていたけど、日本に帰ってきて……武光に再会したら、昔の……男だった感覚もまだ自分の中に残っている事を感じてしまった……
まぁ……その……その上で武光と……その……しちゃって……女として、いい男の武光にキュンキュンしている部分と、男の友人の武光と……男同士なのに……いいのかな……とか結構ぐしゃぐしゃだったりしたけど……
とは言え、自分の気持ちには嘘はつけないよ……うん。
武光の事をチラチラとみながら……無いとは思うけど、子供が出来るのが嫌とか……うわ……考えたら落ち込みそう……
武光は私に手を伸ばそうとして……思いとどまって……手をさ迷わせてから、立ち上がった。
隣の温もりが離れた事に、自分でも驚くほど寂しさを感じて、思わず下を向いてしまう……
ふと、私の両手が暖かかくなる……
視線を手に向けると、私の手は武光の両手に包まれていた。
「リンド……」
柔らかな……暖かい笑顔がそこにあった……
「武みっ……ふぐっ……」
自分でもわけがわからないのに、涙がぼろぼろと溢れてきた……
なんだかわからない……これは安心感?……幸せ?……きっと大丈夫だと思った瞬間、ぶわっとなってしまった……
武光が微笑みながら言う。
「リンド……嬉しいよ……俺とお前の子か……お前の事抱き上げて……街中パレードしたいくらい嬉しいよ」
「え?!」
「え?」
武光ぅ……それは……やめて……涙引っ込んじゃったよ……
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パレードは、妊娠初期だからと、思いとどまった武光になんて言ったら良いのかと思う……
いや、ありがとうもおかしいし……喜んでくれた事に感謝したいのに、素直に言えなくなってしまった……
ニコニコ笑う武光の顔を見ながら、これからの事を考える。
まずは御舞家の人達……武光の両親と……働いている人達……長谷川さんや、その他の人達……に知らせないと……
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「まあ!……まあまあまあ!」
「ほぉ……」
武光の両親……御舞議員と要さん……と長谷川さんに妊娠の事を伝えると、2人は大喜び……長谷川さんはそっと笑ってくれた。
実は2人は武光が結婚相手を見つけようとしないので、少し諦め気味だったようだ……その、親友の『俺』の事しか見ていなかったのを知ってしまっていたからだ。
ただ……その……武光は男の『俺』だからとか……そういう事じゃなくて、竜胆優也……そしてリンドという存在そのものに惹かれていたそうで……たまたま相手が男だったと……
ただちょっと……この前、隠してあった『俺』の私物……欠けたコップまで大切に保管してあったのを見つけちゃって……少し引いた……
だってあのコップ……欠けさせたの『俺』が生きてた時なんだもん。
『始末しておく』って言ってたから任せたけど……うん……まぁ……見なかった事にしといた……
孫孫と喜んでいる2人(プラス1)に、言わないのが正しい選択だよね……
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さて……はしゃぎまくる親達が、病院でちゃんと検査をする様に強く言ってくる。
私としては精霊達が私が自覚するよりもはやく……大喜びで知らせてきたので、間違いないと思っているけど……
ただ……みんな忘れてるのかもしれないけど、エルフが病院に行っても医者は戸惑うのではないだろうか……
それにはやすぎて……エコー検査ですら、何も見えないんじゃないだろうか?
精霊達だからわかっただけで……いや、私に知識が無いだけで……ひょっとしたらわかるんだろうか……
孫の名前を考えようと真剣な顔で話し合う親達の顔を見ていると、私がこの人達の家族になったんだな……と思う。
もっとも……きっとそれはもう前からで……最初からだったかもしれない……私が勝手に今までそうでは無かった気がしていただけなのかもしれない……
まともに家族を持っていなかった私が、私を受け入れてくれていた『家族』を理解出来ていなかっただけ……
ワイワイと話し合う『家族』を見ながら、私はついつい笑ってしまった。
すいません……突然なんですが、一旦終わりとさせていただきます。
今まで読んでくれていた方達に感謝を。