墓参り
私の顔見せ……かなりのハードスケジュールだった予定が、一応一通り終わってちょっと休みに入った。
時間ができた事だし、ちょっと墓参りに……あの子の所へ行こうと思った。
……ほら……紹介したいし……武光……地球の親の墓はどこにあるか知らないんだよね……
異世界の子くらいしかいない。
親みたいにしてくれる長谷川さんには、紹介……と言うか……知られてるし……うん……
と言うか……要さんと2人に煽られた部分もあるし……
……いや、まぁ……とりあえず墓参りだよ……
『島』の『鏡』が……なぜか向こうと繋がったままなので……王家の墓所……歴代の王と家族達が眠る場所へも行く事ができる。
いや、元々いつでも墓参りできるように繋げてあったけど……まさか世界を超えて移動できるとは……
便利だけど……すごい助かるけどさ……結構な覚悟で転移したんだけどなぁ……
まぁ……使うんだけどね!……便利だからね!!
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超遠距離……と言うか世界を跨ぐ移動で、限界以上に魔力を吸われる可能性を考えて……念の為に電池代わりに使える、魔石を繋げた服……サンバ衣装に良く似た服……島でビーチバレーするゲームでこんな衣装あったなあ……に着替えた。
一応一度繋げた場所同士の移動ならほとんど魔力消費は無いはずなんだけど……さすがに……世界超えだと、どうなるか分からないしね……
この前頭を入れた時はなんとも無かったし……多分大丈夫なんだろうけど……考えたら、かなり危険な行動だったな……無事で良かった……
まぁ……あの時は手と頭だけだったし、全身通ったらわからないからね……
魔法の素質のある者は、身体の中心……心臓の辺りに、目には見えない魔法的な器官がある……らしくって……
魔力持ちは最低限そこを守るのがあちらでは常識だった。
その器官は魔力の発生と全身への循環を担っている……魔法的にはあるとされる、解剖しても見つからない器官だ。
そこから血管に沿って全身へ魔力を循環させている……らしい……
研究者によって色んな説があるけど……魔法使いや魔物が死亡した時に、心臓の辺りに身体に流れなかった魔力が固まって魔石ができると推測できる事から、おそらくそこにあるのだろう……と言われている。
その部分が世界を超えた時にどうなるか……少なくとも私が異世界から地球へ渡る時は……衣装を魔力タンクとして、そちらから貯めた魔力を消費する事で保険をかけた。
転移対象の設定が甘かったのか、転移したのは身体だけだったけどね……
手や脚が魔力の吸われ過ぎでダメージを受けても、最悪切り飛ばして身体を守れるけど……いきなり心臓止まったら、対処できる自信は無い。
墓所へと繋がる扉……鏡にかけていたロックを解除すると……私の姿を映していた鏡の枠の中が墓所に入ってすぐの部屋に繋がるのが見えた。
扉に顔を突っ込んで、一応向こうと繋がっている事を確認する。
そして……そろりそろりと身体を入れていって……心臓を超えて、おへその辺りまで入れたあたりでほっと息をつく……
大丈夫みたいだな……魔力はほとんど吸われてない……しばらく時間をおいても平気みたいだ……
じゃあ武光を呼ぶかな……そう思いながら身体を抜いて、振り返ったら……武光が後ろに立ってた……
スッと後ろに回した手……おい、今スマホを隠したな?
「……なにしてんの……武光……」
「いや、リンドに会いに島へ来たら……俺専用の形の良いお尻が、俺の為に壁尻展示されていたので、鑑賞していた」
「ヘンタイ……お前の為じゃないぞ……展示でも無い……お前専用……なのは……そう……だけど……」
「ほほう!」
「ほほう言うな」
墓参りに出発する時間が、少し遅れる事になった……寝室へ連れていかれたので……
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2人で扉を抜けて墓所の奥に向かって歩いた。
チラチラと私の事を……私の身体に目を向けてくる武光の視線を感じて……色々と寝室での事を思い出してしまって……ちょっと恥ずかしい……
『保存』の魔法がかかった、精緻な彫刻の施された通路を歩いていくと……重厚な金属製の扉の前に着く。
墓所でも初代国王……私の義理の息子であるユーヤ・チック・バーネスト……私の名を譲った男が眠っている。
ちなみにミドルネームのチックと言うのは、あの子の小さい時の名だ。
国王と言うのは一人しかいないので、ミドルネームはこっちの世界だと普通は付かない……
あの子も公式にはユーヤ・バーネストと呼ばれる。
国を起こすまでは、単にチックを名乗っていた。
ついでに言うと……バーネストは私が潜入調査の仕事で、ちょっとの間やっていた『BAR・NEST』と言う酒場から……
あの子には他の名前にするように、言ったんだけど……これがいいって……国の名前なのになぁ……
まだ小さかったあの子が、店の中をちょこちょこ楽しそうに飛び回りながら、手伝っていたのを思い出す……
「リンド……楽しそうだな」
「うん?……そう見えたか?」
「笑ってたぞ」
そうか……ふふっ……そうだな……あの頃はバタバタしてたけど……楽しいと言える時期だったな……
あの子もまだ……王になるなんて考えもしなかったからな……
「……」
「……武光?」
武光が、なにか考え込んでいる様な顔をしている。
「いや、当たり前の話だが……俺の知らない思い出もあるんだな……と思ってな」
「ふむふむ……リンドちゃんの事なら、なんでも知りたいって事か〜」
「当たり前だろう?」
「えっ?!……あ……はい……うん……」
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扉は登録された者と、王家の子孫なら開けられる。
武光はどちらでも無いので、現時点では一番高い私の権限で登録した。
ゆっくりと開く扉の向こうは、『保存』の魔法のおかげでホコリひとつ無い。
王宮の謁見の間とほぼ同じ造りの1番奥……本来玉座のある位置に、巨大な水晶製の棺がある。
中にはあの子が眠っている。
左右には、人間サイズの騎士型ゴーレムが棺を守っている。
ゴーレムは私達に反応するが、私だと気付いて元の姿勢に戻った。
その手前には空席の玉座……
私達が近づくと……そこにゆらりとモヤの様なモノが浮かんで、ヒトのカタチをとる。
『ようこそ……母上……お久しぶりですかな?』
初代国王……ユーヤ・バーネスト……チックの姿。
晩年の年老いた姿で、多くの国民に初代国王として知られている姿でもある。
これはこの部屋にかけてある、『保存』以外のもう1つの魔法。
故人に会いに来た者と会話ができる……魔法的なナノマシン……コレも1種のゴーレム。
こっそり打ち上げた衛星とリンクして、天候や水害などの助言などもしてくれるのだが……おそらく現在、ほとんど活用されてはいない。
まぁ……頼り切るよりはいいんだろう……
人が近づくと出現するのは……座りっぱなしよりはそれっぽいかな……と、演出だよね……
『もうここを訪れるのは、母上だけですよ』
「そうか……」
『ところで……そちらの男は母上の?』
「えー、……あー、……うん……そう」
ゴーレムは……チックは……じろりと……武光を睨む様に……いや、睨んでいる。
武光も目を逸らさずに、ソレを見返していた……え?……なんか険悪なんだけど……?
『私には……初代国王から受けた『お願い』がある』
ゴーレムがそう言うと、部屋の奥の水晶の棺から淡い光が伸びて、ゴーレムに吸い込まれる。
ゆらりとゴーレムの姿が歪み、元の姿……いや、若い時の……全盛期の……武光と同じくらいの年齢に見える男性の姿になっていた。
「ふむ……」
それまで外見にふさわしい老人の様にに聞こえていた声が、昔の……あの子の声に変わっていた。
『国王よ……これで良いか?』
「感謝する」
『私は母上に造られたモノだ……同じ『母』を持つ子同士……兄弟の様なものだ……気にするな』
ひとつの身体から、老人と青年……2人の声がする。
ひとつはゴーレム……もう1つは……
「チック……」
「あなたに、そう……呼ばれるのは久しぶりだね……母さん」
ゴーレムは……いや、チックは……昔と同じ笑顔で私に答える。
「ゴーレムに頼んでおいたんだ……もし母さんが、想い人を連れてきた時は……身体を貸してくれと……」
「想い……ん……」
顔が熱い……
「そいつが母さんにふさわしい男か、試させてもらう!」
え……?
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いきなり始まったゴーレム……チックと武光の殴り合い……
なぜそんな事になったのか……そして武光も断ることも無く相手をしている。
『息子』が、武光と殴りかかる意味が分からなくて……武光が殴り返す意味が分からなくて……
私はただオロオロとしていた……
数分……数時間だったのか?……疲れを知らないゴーレムと、精霊の加護でケガすら負わない武光の殴り合いは、唐突に終わった。
チックの身体がブレて消えたあと、玉座に座る姿で再び現れた……これはつまりゴーレム体の維持ができなくなって、再構成したという事だ。
「チッ……くそっ……俺の負けだ……」
悔しそうに言うチックに向かって、武光が歩いていく。
2人の拳に力がこもっているのを見て……まだ殴り合いが続くのかと思って、無理やり魔法でも飛ばして止めてやるかと思っていたら……
ガツン!!という音と共に、2人の拳が打ち合わされた……
……は?
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良くわからないうちに始まった殴り合いは、良くわからないうちに終わった。
今は2人並んで……棺の前の階段に座って親しげに話をしている。
「母さんはよく裸でウロウロしていてなぁ……」
「無防備エロ、と言うやつだな」
「無防備エロ……魂が震える言葉だな……」
「うむ」
なんと言うか……仲間はずれにされた様な気分で、離れた所に座って2人の言葉を聞いていたら……なんかとんでもない事を言い出した。
「お前ら何言って……」
私の事を無視して2人は盛り上がる。
「知っているか?……母さんな……酔うとやたらと甘えてくるんだ……裸でだぞ?」
「そうなのか?……そう言えばまだ……飲ませた事がなかったな……ほら、未成年に見えるし……」
「ミセイネン?」
「あぁ……成人していない年齢の事だ」
「なるほどな……確かにそう見えるな」
武光……だとしたらお前……未成年に見える相手に手を出したことになるぞ……
あんなに……すっごい事しといて……
「これを見てくれ」
「うぉっ!!……これは母さんのっ!!」
武光がスマホを取り出して、チックに見せている……いやお前、何見せてるんだ?!
まさか……肌色のアレコレ……消したって言ってたよな?……まぁ……信じてなかったけど……
「ちょっと貸してくれ」
「ちゃんと返せよ?……ヘンな汚れもつけるなよ?」
「もちろんだ!……我が同士よ!!」
いつの間にか同士になっていた2人……
チックは武光からスマホを受け取ると、額にズブズブと沈めていった……シュール……
しばらく「うぉっ!!」とか「おぉぅ……」とか唸ったあと、スマホが額からにゅううと出てくる。
それを武光に手渡しながら、チックは頭を下げる。
「ありがとう……画像ファイルをコピーさせて貰った」
「いや……」
「おかげでスマホに関する知識も増えた……感謝する。」
チックは手のひらから、武光のスマホと同じモノ……おそらくスマホを複製したんだろう……を取り出して、武光に見せた。
わざわざスマホの形を作る必要は無いのにやって見せたのは、武光にわかりやすくするためだろう……
「アドレスも交換してある」
「リンドのあられもない姿の画像をくれと?」
「タダでとは言わん」
武光のスマホに、次々と着信音が鳴りだす。
「俺の中にある、母さんのアレな感じの記憶を送ろう……とりあえず一部だけだが……あとはそちらの新しい画像と交換だな」
「良い取引先だな!!」
「おう!……」
ガシィィ!!
2人は熱い握手を交わす……何やってるんだよ……お前ら……
マザコンVSロリコン(対象は同一)