エルフ、話をする
「さて」
私は亜空間収納から出した『服』を着て改めて武光と話をする。
「待て優也……話の前に……それは服か?……服なのか?……サンバのイベントにでも行くのか?」
「ん?」
私は自分の身体を見る。
今身に着けている『服』は大量の魔石……魔獣の身体一体に1つずつある、魔力と馴染みやすい性質の石で……まぁ所謂テンプレ的でアレなブツを……ビーズみたいに繋ぎ合わせて作った物だ。
モバイルバッテリーみたいに、いざと言う時の魔力を貯めておくこともできる。
今着ているものは予備に作っておいた物だったので、魔力を貯めておかなかったんで……中身はカラ。
魔石は身に着ける数が増えれば増えるほど制御が難しくなって、今もカラの分の魔力を吸われ続けている。
普通だととっくに衰弱死するレベルなんだけど……チート的なアレでもの凄い勢いで回復しているから大丈夫。
まぁ……そんな危険物を身に着けてる私は、あっちでは見る人が見ればえげつない程の魔力ととんでもない制御能力の持ち主だとわかるので、ケンカを売られたりすることはまず無い。
……という事を武光に説明した。
「……しかしそれは……余りにも痴女衣装過ぎる……青少年なら性癖が歪むレベルだ」
「えっ?」
そう言われて改めて身体を見下ろす……鏡にも映してよく見てみる。
え?……いやコレ……ちょっと……やらし過ぎない?……卑猥!……武光!……向こう向け!
「理不尽だと思うんだが……」
裸の時はそうなってしまう理由……身に着けているモノを置き去りにする事も予想していたので、それほどダメージは無かった。
ただ……今の武光みたいな反応をされると……自分の格好がとてつもなく恥ずかしいモノなのではないか……と思えてくる。
えぇぇ……いつもこの格好だったんだけど……街中でも、学園でも、冒険者の前でも、貴族の前でも……王族の前でもぉぉぉぉぉぉ……
なんか変な目で見てくるヤツとかいると思ったんだよ……粘り着くみたいな視線のやつぅ……
単に疎まれてるんだと思ってたけど……違う可能性も……おおお……鳥肌ァ……
「それにしても……武光……こっち見るなって言ったろ!……そんなに見るな〜!」
「いや無理……見るね!……見ないなんて選択肢無いね!」
「お前そんなキャラじゃ無いだろー!」
2本の手では身体を隠しきれない……思わず背中を向けると、今度はおしりをジロジロ見られる。やめてぇ……
ジリジリ近づいてくる武光をついつい思いきり殴ってしまう……顎先のいい所に入ってしまうたのか、バッタリ倒れてしまった武光を置いて別の部屋に逃げた。
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クロゼットを引っ掻き回してスウェットを引っ張り出して頭から被る。
転生前と体格が違い過ぎて袖が余りまくったので、肘くらいまで引っ張りあげる。
とりあえず……これで……
扉の陰から、そっと武光が倒れている場所を確認する。
ヤツめ……とっくに目を覚まして正座してやがる……ヒッ……こっち向いた!
「俺は正気に戻った」
「……嘘をつけ」
じろりと睨むと、途端に政治家の息子としての、外向けの笑顔になる。
「その顔は嫌いだからヤメロ」
「すまん……しかしそもそも優也がエロ過ぎるのがいけないと思う」
「言うな……エロ言うな……」
くっ……仕方ない……このままと言うのも嫌だしな……
私は武光の顎に触れて……武光……私の手を掴もうとするな……
私の手が光ると、武光は驚いた顔をする。
私に殴ぐられた痛みが、消えていくからだろう。
「これは……魔法か?」
「正解……治癒魔法と言う奴だな」
武光は不思議そうに顎を撫でている。
「はぁ……しかし……お前にエロい目で見られるとはなぁ……」
「無防備エロ……結構なモノを見せて頂いた……ありがとうございました」
「真顔で言うな……」
お前に持ってた、クールでイケメンキャラってイメージ返してくれ。
「はぁ……あの子も……息子も私の事そんな目で見てたのかなぁ……」
「あ?!……息子?」
武光がなにか私の事を睨んでくる。いきなりなんだよ……
「息子って……優也……子供……産んだのか?……相手の男……誰だ」
「えっ?!……いやいやいやいや!……産んでないっ!……落ちてたのを拾ったんだよ!」
誰だって……もし、そんなのがいたとしても……武光の知ってる人の訳無いだろ……もちろんいないけど。
……あの子は街のスラム街で、気が付いたら横にいたんだよね……
「落ちてた……」
「そう、それで見捨てるのもなんだから育てたんだよね……」
いろいろ教えたり鍛えたりしたら、なんか国を興して玉座に座ってたよ。
そう言えばあの子も小さい頃はハグとかさせてくれたのに、少し大きくなったら露骨に嫌がる様になったなぁ。
まぁ……無理やり抱きついたりしたけど。
その後は大抵1人で部屋にこもっちゃって、怒ってるのか荒い息の音がしてた……時々「母さん」とか言ってたから結構頭にきていたのかもしれない。
……そうだよな〜こんな変態衣装の痴女に抱きつかれるの……嫌だよなぁ……なんか落ち込んできた……
「いや……優也……それは違うと思うぞ……」
「…………?」
「……え?……て顔……可愛いなっ……いやそうじゃなくて……息子さん気の毒に……」
武光が小さい声でボソボソ言ってる……
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「そう言えば……良くすぐに『俺』だってわかったね」
「?……俺がお前を見間違える訳が無いだろう?……ホンのちょっと変わっただけで気付かないとか有り得ん」
「お、おう」
武光に太陽は東から昇るだろう?とでも言う様な返事をされる。
ちょっと……ん……ちょっとか……そっか!……やはり親友だなぁ!
私としては凄い変化だったつもりだったけど、武光……長い付き合いのこいつにとってはその程度の事なんだな!
「……まぁ俺にとっては、お前が男とか女とか些細な事だ……」
なんかまた小さい声でボソボソ言ってる。
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「ところで……私がこっちの世界に帰って来た理由なんだけど……」
「なるほど……俺に会いにだな?」
「……いや、違う……訳でも無いんだけど」
否定しかけたら武光がものすごくガッカリしたので、ちょっと言い換える。
タブレット端末を操作して、ニュースサイトの……目当ての記事を探して武光に見せる。
【高校生集団で行方不明】
今朝……とある都内の高校で、高校生男女含めて23名が……校舎の1部と共に消えてしまった……と言う……事件……事故?……オカルト案件だ。
これが普通の犯罪では無いと言われるのは、校舎が……鉄筋コンクリートの建物が、スプーンで……いや……アイスを掬うアレ名前なんだっけ?……アイスディッシャー?……ありがと武光……巨大なそれで教室丸ごと生徒と共にひとつ分えぐり取られた様に消えてしまった。
記事を読む限り大騒ぎに……まぁ当たり前だけど……消える瞬間を大勢の人が見ていて、尚且つ動画もあって……ギリギリ転移の範囲外の生徒がスマホで撮影……煌めく魔法陣とか映っているらしい……爆発事故とか某国のミサイル攻撃とか言うだけ無駄なくらいのオカルト現象。
それでもトリックだの、妄想www……ウソ動画制作乙とか言われてるらしい。
んじゃお前説明出来るのかって言われる方も、集団幻覚とか言い出して……まぁゴタゴタしている様だ。
まぁ答えは『勇者召喚』の『クラス転移』……紛うことなきテンプレ。
オマケに人間史上主義の宗教国家の、『亜人は魔の眷属である!滅ぼすべし!』とかのアレの為に無理やり召喚を決行したと……もちろん潰させてもらった……エルフなもんで。
学生勇者達はカレーライスとかラーメンとかで懐柔した。
召喚されて1ヶ月くらい経ってたので、あっさり陥落した。
まぁ……もし戦う事になっても、大量生産の量産型勇者ぐらいの力量だったので多分楽勝だったけど。
仲良くなった獣人の子供を殺したくないって、こっそり向こうを裏切ったのもいたし楽勝楽勝。
仲間を裏切る事を気にしてたけど、そういう奴は私は好きだね。
「……好きだと?」
武光……お前へんなトコに反応するね。
宗教国家のトップにはごっそり交代して頂きました。
宗教は倫理観の基準にもなるし、必要なモノだと思うけど……指導者次第だよねぇ……
という訳で彼らにとっては聖戦……私たちにとっては殺戮計画をポシャらせたんだけど……
勇者達をどうするか……という事になった。
まずは私が身体1つで転移……こっちの政治家に話をつけてそれから確実な方法……ただし非常に大袈裟になるので、いきなり実行したらパニック必至……で彼らを帰還させてあげる……計画で、武光がいる時間軸に来れたのはラッキーだった。
うん……少々穴のある計画だと思ってたけど、結果オーライ!
武光のお父さんから政府に話を通して……
そう思っていたら、武光に止められた……どうした?
武光がスマホを取り出して、画面を睨みつける。
それから部屋を見回して、テレビのリモコンを手に取ると電源ボタンを押した。
テレビには、私のよく知っているモノ……半年は先に来るはずの巨大なモノが映っていた。
それは周囲を飛ぶ戦闘機やヘリが、米粒の様に見える程の島……さっき言った『確実な方法』の為に使われるはずのモノ。
領空侵犯をしているとの各言語での警告を無視する形で、そう……島が……空を飛んで、日本の領空侵犯をしている。
……あぁ……『アレ』にこっちの言葉教えてない……いや、それよりなんで半年後じゃ無くて『今』?!
「リンド〜、リンドどこ〜?……僕来たよ〜」
どうなってるんだ……
「優也……お前の関係者か?」
「…………ぉ……おう」
これ……どうしたらいいんだ……
主人公達が知る事の出来ない事実ですが、主人公が転生した時間が魂が世界を跨いだ時の痕跡で半ば特異点となっていて、転移などのタイミングがそこに集中してしまっています。
特に主人公や『島』はその時間との関係性が高くて、『そこ』に行きやすくなっています。
学生勇者達は単なる気の毒な被害者。