エルフ、プロポーズされる
「…………」
鏡の中には白い下着姿のエルフが、立ってこちらを見ている。
下着は地球の物で……清楚でいつつ、セクシーさを感じさせる。
おそらく、すっごい高い……要さんと長谷川さんからの貰い物だけど……
目をギラギラさせた2人に、ランジェリーショップに連れて行かれ、着せ替え人形にされたモノの中にあった……
華奢な割に……ちょっとお尻の大き目な私の身体には、よく似合っていた……
似合っちゃってるなぁ……コレ……
まぁ、似合っているのはいい……
2人に「武光が喜ぶよ」って言われたし……実際喜んだし……似合うって言われたし……夜凄かったし……
元男なのに……つ、付き合ってるオトコに似合うって言われて……うきうきしちゃうとか……あー、チョロいなぁ……チョロエルフだよ……
男だったとか関係ないほどチョロい……
「はぁ……」
溜息をつく……でも武光……好き……
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さてさて……今日も人目に触れるためのお出かけですよ。
リクエストで、保育園に視察に行く事になったんだよ……厳正な抽選……をした事になってる……結果選ばれた保育園に。
ペガサス3頭立ての馬車で保育園の敷地に降りると、子供達から歓声が上がった。
先生を振り切って馬車に向かって走って来ようとするのを、保護者や先生達は必死に止めていた。
馬車の扉を開けて降りると……ドレス姿(ティアラ付き)の私に、女の子達も大興奮しだした。
現地で待機していた、武光と若い男……今回の企画をした官僚らしい……がそれを見て慌てている。
本来の目的の拡散を防ぐ為に、官僚の彼も誰かに任せる事が出来ずに本人が来ている。
そんな騒ぎも……集められたマスコミの人達は、ただカメラを向けている。
絵本や……某アニメのお姫様の乗っていそうな、羽根の生えた馬の引く馬車……そして周りを守る剣と盾を持つ白く輝くロボ(騎士型ゴーレム)……子供達の好きな物でいっぱいだ。
そして降りてきたのはエルフのお姫様(私)。
おそらく前もって走ってはいけないと言われていただろうに……そんな事は頭からキレイに飛ばして……あっと……抜け出した子がいる。
勢いよく走り過ぎて転びかける……その男の子を……風の精霊に頼んで、柔らかな風に包んでもらう。
ふわりと空中で回転して着地した男の子と、保護者や先生は……ぽかんとしている。
危ないなぁ……だからやめた方がって言ったのに……自信満々の若い官僚の青年は鼻から蒸気でも噴き出しそうな顔で大丈夫ですって押し通しちゃったんだよねえ……
ここで精霊達に姿を見せて貰うとしよう……いっせいに数えきれない程の、たくさんの精霊が子供達と大人達の周りに現れる。
「うわああああああああぁぁぁっ!」
驚いていた子供達は……ふわふわの子猫の様な精霊達を見て、驚いた顔から笑顔に変わる。
まるで魔法の様な……魔法だが……光景に大人達も驚きを隠せない。
手を伸ばす子供達に精霊達は近寄るが……1人の男の子に……さっき転んだ子だ……茶トラの精霊は力任せに握り締められ、ぱふんと光の粒子になって消えてしまった。
あー……猫とかが加減のできない子供にやられて逃げたり、怒ったりするヤツ……
「あー!!コイツ猫さんコロしちゃった!」
「え?!……ぁ……ぅぇ……ぅ……うわぁぁぁんっ!」
近寄りかけた精霊達が、子供達からサーっと離れていく。
それもあって、男の子は周りの子達から非難される……男の子は、精霊を握りつぶしてしまった事と、周りから責められた事で泣き出してしまった。
男の子の保護者も……慰めたらいいのか、乱暴にして精霊を消してしまったのをしかったらいいのか困っている。
ちなみに精霊に死は無いので、その辺だけは教えておこう。
「うわぁぁぁぁぁんっ!……猫さん……猫さん……」
「……あー、猫さん驚いただけだよ……ほら……」
私が言うと……男の子の横に光の粒子が集まって、茶トラの毛玉の姿になる。
涙目の男の子の目が大きく開く。
「にゃぁ〜」
「もう、強くギュッてしたらダメだよ?……猫さん、君の事キライってなっちゃうよ?」
「ぐずっ……猫さん……ごめんなさい……キライ……ならないで?」
「にゃぁ〜」
「……ふぐっ……こ、これから……気をつけてくれたらいいよって」
「うんっ!」
男の子のぱっと輝く様な笑顔に、身体の奥のなにか……守りたい……違う?……ギュッと抱きしめたくなる様な……なにかな?……
『あの子』……後に王となった子が……こっそり泣いていた時……ケンカに負けた時……楽しそうに笑っていた時……自分の様な者を無くす為に王になると誓った時の事……その戦いで孤児が増える事に苦しんでいた時の事が頭に……心に浮かぶ……
ふわりと男の子の肩に降りた精霊が、するりと男の子の頬に身体を擦り付ける。
男の子は笑顔で……精霊に、ぱっと手を伸ばして……止まり……そっと背中を撫で始める。
「さっきはごめんなさい……僕と友達になって?」
「にゃぁ〜♡」
「よく出来ました」
私は込み上げてくる気持ちを誤魔化す様に……男の子をそっと抱きしめて、ぽんぽんと背中を叩く。
「その気持ち……忘れないで欲しいな」
「……?うん」
男の子は良くわかっていない様だったけど、友達に乱暴な事はもうしないだろう。
「お姉ちゃん……イイにおい……」
「うん?……そうかぁ」
私の身体からは、爽やかな緑の香りがするらしい……武光が言っていた……
男の子は私の胸に顔を埋める様に甘えてくる……それがとても可愛らしく思えて好きにさせた。
「ちょっとくっつき過ぎじゃないか?」
急に隣から武光の声がした。
お前いつの間に隣に?……一瞬前まで向こうにいたよね?
「……」
男の子は、チラッと武光を見てからぷいっと顔を背けて、また私の胸に顔を押し付けて……ぐりぐりと動かした。
あぁ……甘えちゃって……もぉ……
武光は自分の事を無視した男の子を、私から剥ぎ取ろうと手を伸ばしたけど……男の子は敏感にそれを察知して、ぱしんと払い除けた。
「……くっ……!!」
男の子を睨みつける武光に、私はこの男にしてはらしくない……と思いながら、注意をしておく。
「武光、そんなに睨みつけたら子供が怖がる」
「お姉ちゃん……このおじさん……怖い……」
「おじさんっ……!」
いや、武光……アラサーなんだし、保育園児からすればおじさんだろう……あの時とかすごい若々しいけどね……
ちなみに私は生まれ変わってるから、おじさんじゃないよ……500年以上生きてるからおばさん……おばあさんだけど……エルフだからお姉ちゃんだよね。
ただまぁ……周りでそわそわしている女の子達……お姫様(私)に話しかけたい子達がいるからいつまでもこうしている訳にもいかないんだけど……
一応……女の子達は、男の子を責めて泣かせてしまったので……気まずさで遠巻きにしている。
ただこのままだと、私を独占している男の子がまたヘイトを集めてしまいそうだ。
その辺子供って容赦無いよねぇ……
男の子の背中をぽんぽんと叩くと、ちょっとの間私の顔を見てからするりと私から離れる。
私からそうする様にお願いしたけど……ちょっと寂し………………子供かぁ……子供……
……一瞬……子供を抱いた私の横に、武光が並んでいる光景を想像して……胸の奥が、ドクン……とした。
いや……そぉかぁ……そういう事も……あるのかぁ……あぁ……そうかぁ……そうなる事……あるかぁ……
武光と……私の子供……
「お姫様っ!」
「うひゃい!」
ぼぉっとしていた私に、女の子が声をかけてきた。
とても……お姫様らしくない声が出てしまって焦ったが……女の子達は許してくれた。
男の子達はほぼロボ(騎士型ゴーレム)に夢中……コクピットシートに座らせてもらって、鼻血を吹きそうな程興奮している。
自立行動もできるから、中をいじくられても暴走なんて無いんで、好きにさせている。
レバーを好き勝手に動かしているところも、マスコミが取材してるから、大きいお友達とかこの報道を見て悶えそう……
そして女の子達は……私が前に出した手のひらに、どこからか集まってきた花びらに息を吹きかけると……花びらは手に乗っていたよりも多く舞い飛んで女の子達に降り注ぐ。
「わぁ〜♡……あっ!!」
女の子達の周りに漂っていた花びらは、光の粒子になって女の子達に集まっていく。
アニメの魔法少女達の変身シーンの様に、光に包まれた女の子達は……光が飛び散った後に……お姫様になっていた。
「わぁぁぁぁぁ♡」
白くキラキラしたドレス……可愛らしいティアラと背中には小さな羽根。
女の子達は自分のドレスを見て、お友達のドレスを見て、そっと手を伸ばした頭の上のティアラに触れると、輝く様な笑みを浮かべる。
もう一つサービス
彼女達の周りの空間が歪んで、鏡の様になると……女の子達はうっとりとしながら鏡の中のお姫様を見ている。
何故か、何人かのお姫様姿の男の子も混じっているけど……これもアリかな……そういうのは自由だよ……小学校上がる前からってのは……いや、今だからこそ……したい様にするのに躊躇ないのかな?
「わぁ……美衣ちゃん……普段は元気いっぱいで、男の子みたいなのに……」
先生が見ている気の強そうな女の子も、素敵な笑顔でふわりふわりと舞っている。
そう言う先生達や、保護者のお母さん達もちょっと羨ましそう。
ごめんね〜、今日は子供限定にさせてね〜
その間男の子達はロボに夢中。
まぁ……私も『俺』の時なら……少年だったらそっち行ってたろうしなぁ……
女の子ってこうして『女の子』の修行をしてくけど……男の子は『子供』のまま……なんだよね……
私は『女の子』の修行、全然できてないけど……何百年も生きてるのにねぇ……
お姫様や、パイロット達は保護者の方達にパシャパシャ撮影されている。
保護者の来られなかった子達も、先生達が撮り忘れの無い様に……後でクレームが無い様に……撮影されている。
大変だなぁ……
子供達が自分達のできる精一杯の決めポーズで、撮影されているのを見ていると……官僚の青年がこちらをチラチラ見ながら時計を気にしている。
もうそろそろ時間か……
私は子供達に声をかける。
「さあ!……魔法の解ける時間だよ!」
地面から時計塔……の幻影……が伸びていく。
時計の針が動いていって……十二時の位置にになると、カラーン……カラーン……と鐘の音が鳴り響いて、お姫様は保育園児に戻る。
女の子達は、ガッカリはしているけど……時間が来れば、魔法が解けるのは当然だと思ってくれた様で……大人しく先生や保護者達の元へ戻っていく。
嫌がったのは男の子達で、それでも渋々ロボから降りる。
さて、帰ろうか……となった時に、1人の男の子……精霊を握りつぶしちゃった子が私の所へ来た。
男の子は私の前で、真剣な顔……精一杯のキリッとした顔をして、私の目を見る。
「お姉ちゃん」
「ん?……なにかな?」
「僕と……ケッコンしてください!」
え?!……おお……えぇ?……ケッコン……血痕……結婚か……え?結婚?……う、うーん……
「ダメだ」
「いや、武光……そんな即座に……」
「少年……このお姉ちゃんは、俺の彼女だからダメだ」
いや、武光……みんな見てるんだけど……先生や保護者さん達とか……マスコミとか……
みんな目をギラギラさせてるんだけど……俺の彼女とか……みんなの前で……言っちゃった……
嬉し……じゃなくて……どうすんの?