エルフ、撮られまくる
「とまぁ……そういう感じでビゴ・モター領は領主の息子のせいで、隣の領地に吸収される事になったんだよ」
「……なるほど……」
私と武光が、午前のお茶の時間にまったりしながら……異世界であった事などを……武光の……その……膝の上で……話していると、控えていたメイドゴーレムがすすっと寄ってきてお茶を新しい物と替えてくれる。
私が話している間……武光がお茶やお菓子を口に入れてくれて……鳥のヒナにでもなったみたいで……近くにいるのがメイドゴーレムじゃ無かったら、恥ずかしさで死ぬ……
……今だって……十分恥ずかしくはあるんだけど……膝の上を断ると武光……悲しそうな顔するから……仕方ないんだ……仕方ないんだ……
「武光……あ〜ん♪……んっ」
口を開けると、お菓子が放り込まれる。
仕方ないんだ……恥ずかしいけど……仕方ないんだ……
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さて、ティータイムを堪能したんだけど……実はコレからやるべきことがあって、このお茶の時間はその準備の為だった。
ちょうどお茶の時間だったこともあるけど……
『島』の私の家……屋敷の外に出ると、そこには『馬車』が停まっていた。
と言っても、馬の代わりに三頭のペガサス型のゴーレムが曳く……空飛ぶ馬車だ。
『馬車』もゴーレムだ。
三頭は縦一列に並んで……そうじゃないと羽が邪魔で、二列にしたらすごい幅をとる……私の事を見ている。
馬車は思い切りキラキラした、『ファンタジー!!』というデザインで……正直好みからは外れているんだけど……仕方ない……
馬車の両脇……には左右三体ずつ全高4m程の騎士型ゴーレム……こちらもキラキラ……
騎士型ゴーレムは、自律行動もできるけど……中にパイロット……のゴーレムが乗っている。
巨人のゴーレムがノシノシ歩くと、モンスターだけど……中に人がいれば乗り物だって感じでるよね……多分……威圧感少し減るかな?
今日は勇者達から目を逸らす為の行動の1つで、日本政府に正式なご挨拶の日。
前の記者会見は、緊急で……領空侵犯しちゃってたから……ちゃんとした挨拶をする……という名目で頼む……と銀行の偉い人や、マフィアの幹部に見える人に言われたので派手にやってやろうと……いや、そう指示したけど……
まぁ……乗り物の用意を、メイドゴーレム達に任せたのは私だけど……
うん……まぁいいか……
「ところで……武光?」
ご挨拶用のドレス姿の私の周りを、カメラを構えた武光がぐるぐる回ってシャッターを切っている。
一眼レフなんて持ってたのか……え?買ったの?……私撮るのに?……
「ドレスの下も、武光には全部見せてるのに……」
「それはそれ……別腹と言うやつだろう」
「あっ……メールで送ちゃった……アレの画像……消したよね?」
「さぁ……急いだ方がいい……約束の時間に遅れるぞ」
む……誤魔化されてる……もぉ……いいけど……武光だからいいけど……
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『馬車』の中でも武光はカメラを……って、なんで一緒に乗ってるの……?
空間魔法で、普通の部屋くらいまで内部が拡げられた『馬車』の中で、私はカメラを構えた武光に撮影されていた。
そんな何枚も撮らなくても、そんなに変わらないと思うんだけど……
『馬車』、もう飛んじゃってるよ……武光が乗ってるの見られたら……色々……その……全世界に知られちゃうじゃん……私達の事……い、いや……私はいいけど……ちょっと恥ずかしいけど……武光は大丈夫なのかな……?
「なんの問題も無い……それより……似合ってるよ……リンド……」
「えっ……うん……ありがと……太田さんの新作だよ」
出来れば見てすぐ言って欲しかったなぁって……思ったけど……
ドレス見せた途端、硬直したかと思ったら……カメラを取りだして撮影しだしたんだよね……
……それより向こうに着いたら武光どうするかな……全身映る鏡があれば御舞家に帰らせるんだけど……
帰したら帰したで、寂しいって思っちゃうだろうって自覚があるけど……
ちょっと……パーカーとデニムパンツの男と、ドレス姿で『馬車』から降りる度胸は無いな……
『馬車』の中を見廻すと……壁にかかった、胸の下くらいまで映る鏡がある……コレを頭の天辺から通せばいけるかな?
こんな事なら大きい鏡を設置しておけば良かった……そうすれば空の『馬車』を飛ばして、目的地に着いてから鏡を通って『馬車に乗ってきました!』ってフリができるから、その分のんびりできたよね……
帰ったら付け替えよう……
鏡を壁から外して、武光の頭の上に『水平に』かざして……武光の背が高いから手に持たせて……コレなら……引っかからないかな……御舞家の大きな鏡と繋ぐ。
下から覗き込むと……御舞家の玄関ホールが見えたので、鏡を下げさせる。
「うぉ?!」
武光の驚いた声の後、手が離れてしまった鏡が床に落ちる。
幸い厚い絨毯が敷いてあるので、鏡は割れずに下に落ちた。
鏡を拾い上げて、頭を入れると……御舞家の玄関ホールには、武光の声で集まった人達と……床に倒れた武光……
あ……
『垂直の』鏡から……頭から飛び出した……しかも身体を通した鏡が、床に落ちるスピードのまま……受け身も取れずに床に投げ出されて……あぁ……ごめん……
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後でたっぷりなんでも言う事を聞く約束をして、なんとか許して貰った……
武光は優しいから……そんなに厳しい事は言われない……多分……とんでもない事は言われないよ……『あの日』だって……その……優しかったし……
『ちょっと待って……』っていうのは聞いてくれなかったけど……
『馬車』と並んで飛んでいる騎士型ゴーレムから、警戒を促す連絡が来る。
『護衛』という名目を兼ねた、警戒をする為の自衛隊の機体……まずは戦闘機が来たけど、こっちのスピードが遅いせいで後からヘリも飛んで来た。
実はスピード自体は、いくらでも速く出来るんだけど……しかもペガサスは切り離しても『馬車』だけで軽く音速超えは出来る……
ただ、このままの方が『ファンタジーぽい』かなぁと思ったので、このままで行くよ。
戦闘機に合わせて急にスピード上げたら、それこそ警戒されちゃうしね……
ついでに言えば、『馬車』も人型に変形する。
空間魔法で畳まれ……圧縮されたパーツが『馬車』を覆って、5倍くらいの体積のゴーレムになる。
しかも、そのまま飛ぶ。
空気抵抗とか気にせずに、10mぐらいある人型が飛ぶ。
ポーズとかも関係ないので、直立姿勢で戦闘機くらいのスピードでも飛べる……かなりシュールだね……しないけど。
騎士型ゴーレムが、自衛隊のパイロットに手を振ると、ヘリのパイロットは最初は躊躇してから振り返してくれた。
それから何度かやり取りをして……簡単なハンドサインで意思の疎通が出来るようになった頃、陸地……もちろん日本の……が見えてきた。
その頃には、テレビや……新聞などのマスコミに所属しているらしいヘリが、こちらを遠巻きにして飛んでいた。
注目を集めるのが一応の目的なので、近くに来てもらっても構わないのだが……まぁ、その辺は自衛隊にお任せしたほうがいいんだろう……
ごっついレンズのカメラが、『馬車』に乗っている私に向けられている様だったので、笑顔で手を振っておいた。
かなり距離があるのに私が気付いた事に、撮影者が驚いた様だったが、エルフはこの程度の距離は普通に見える。
弓と相性の良い種族だからね……精霊も助けてくれるし。
まぁ……今の私の周りに精霊達はいないけど……この前怒ったから、少し避けられ気味……
今日の目的地は国会議事堂なんだけど……さすがにすぐ近くには降りられなくて、少し離れた道路に着陸?……着地……した。
ペガサス型ゴーレムが羽根を体内に収納して、普通の白馬になる。
実は羽根を出さなくても飛べる……あくまでも見栄え優先なので……注目集めないといかんので。
道路に降りたのも人目に付く為だし……あぁ……面倒になってきた……武光に会いたくなってきた……
放り出したの私だけど……はぁ……
白馬の3頭立ての『馬車』は……車に先導されながら、議事堂に向かう広い道を進んでいく。
空には警備とマスコミのヘリが飛んでいる……道路には他の車は入って来ないようになっているが、野次馬は路肩に集まっている。
スマホでこちらを撮影している人も、たくさんいるね……
なんか……こう……疲れてくる……もう帰りたい……お家帰りたい……
武光に頭なでなでしてもらいながら……あ〜ん♡してもらいたい……
はっ?!
心が弱って、妙な事考えちゃったぞ……
とっとと終わらせて、帰ろ……そんでもって、武光に「頑張ったな」って、頭なでな……いやいや……
……などと考えている内に、議事堂前に到着してしまった……
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『馬車』が停止すると、騎士型ゴーレムが扉の左右に並ぶ。
巨体の割に重さを感じさせない……飛べるんだから当たり前だけど……軽やかな動きで、ピタリと整列してみせる。
たくさんの視線が集まる中、扉が音もなく開いていく……『馬車』が自分で判断して、開いてくれた。
早く帰りたいと、溜め息が出そうなのを我慢しながら……王城にいた時に身につけた、滑る様な動きで外に出る。
おお……とため息の様な声が見物人から私に向けられた……
記者会見の時にもテレビ中継されて姿は見られているけど、今回はナマだからね。
姿を消していた精霊達が、私の周りにすぅ……と現れる。
見物人達から歓声があがる……精霊達は可愛らしい子猫の姿だから人気があるんだろう。
……こいつら……この状況じゃあ怒ったり出来ないのわかってて戻ってきやがった……
そして『あれから交尾した?』『子供生まれた?』『子供〜』と騒いでいる……すごいうるさい……
精霊もは……私に子供が生まれたら、祝福したくてたまらないらしい……
誰がイチバンに祝福するか、キョウソウしよーぜ〜とか……お前ら人の子供で……
いや……『まだ』子供いないけど!……『まだ』そんなの早いけど!
『まだ』2人でイチャイチャしてたい……いや……そうじゃなくて……
プルプル震えそうになるのを、必死に耐え……キリッと顔を引き締めて歩く。
……周りで見ている人達は、私がそんな事を考えているなんて思って無い……だろうなぁ……
自分で言うのもアレだけど、美少女エルフ(数百歳・元男)の周りをフワフワの毛の子猫(精霊)が飛び回る……ファンタジーの世界から来たとしか思えない……実際その通りなんだけど……存在が目の前を歩いている。
……頭の中の事知られたら、驚かれるな……
玄関口まで総理……銀行の偉い人みたいな顔の……が、出迎えてくれた。
国交も無いどころか、得体の知れない相手に……かなり異例だと思うが……支持率落ちってるって話だしなぁ……
総理に近づくと……遠巻きにしているマスコミから、バシャバシャシャッター音がする。
フラッシュが凄すぎて、視界が真っ白になる……こっちの護衛に攻撃だと思われたら……とか考えないんだろうか……
まぁ……ウチのはわかってるけど……
隣にはマフィアの幹部みたいな人もいる。
お勤めご苦労さんです!……いや精霊達よ、そのおじさん達で遊んではいけない……私だけに見える様にして総理の頭の左右から顔を出して『ネコミミ』とか言うのヤメロ……
ネコミミとかどこで覚えたんだ……
吹いたらどうするんだ……ヤメロ……プルプルする……