エルフ、おめでとうと言われる
数日後……なんとか学生勇者達を政府の施設に送り出して、一息つく。
彼らはやっと家に帰れる……と思っている様だが、まだワンクッションある。
いや、説明はしたんだけど……わかっているのかいないのか……特に笹本、お前ちゃんとわかっているのか?
彼らは政府の施設……検疫を兼ねた、入念なメディカルチェックを受ける事になる。
コレは、日本に異世界の訳の分からない病気などを持ち込ませない……と同時に、外部から魔力を取り込んで自らを強化している勇者達を多少なりとも弱める目的がある。
こっちの世界は、私がいた世界に比べると大気中の魔力が薄い。
ただ、『島』に待機中……『世界樹の子』からモリモリ放出されていた魔力が彼らに吸われていたので、もし暴れでもしたら身体のスペックのことだけ言えば、余裕で警察でも……自衛隊でもなぎ払えるだろう。
と言っても……笹本を倒せる私を、格闘技の経験者ならあっさり倒せると思うので、分からせる事は出来るはず。
勇者達は戦闘の経験値が圧倒的に足りてないので、隙をつけばコロコロ転がすのは簡単……力比べの様な状況にさえしなければなんとかなるはず。
念の為に……姿を消した大量のゴーレムと、精霊達について行って貰っているので多分大丈夫……
しばらくすれば、普通の高校生に近い身体に戻っていくから……少し我慢して貰うしかない。
彼等のせいでは無い事は間違いないから、気の毒ではあるけど……
……あぁ……藤間だけはシャルラの付き添いで何度か『島』に来る事になるからそのままになるけど……
ただ彼に……藤間に限っては心配ない。
こっそりと教えて貰ったが……藤間は討魔……まるでマンガや小説の設定のようだが、彼の家系は代々闇に蠢く魔のものを狩る忍者の家系で、鍛えた肉体と精神が完璧に与えられた力のコントロールをしている。
どうりでいきなり『上忍』になってる訳だ……
そういう訳で、彼にとっては上乗せされた力も助けになりこそすれ、邪魔にはならないので……まぁいいよね。
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まぁ……何かあれば連絡来るし……スマホに……
それはそれとして……私の今後……だよねぇ……
異世界と繋がったままだったので、いつでも向こうに行ける……ぁ……『帰る』って思わなかった……はは……
どっちにしてもしばらく……勇者達が馴染めるまで……基本的にはこっちを拠点にするしか無い……するしか無いね……うん……仕方ないなぁ〜(棒)
ま、私の騎士様はコッチの世界の人だから……しょうがないよねぇ♡……うん
ほとんどの時間を隣にいてくれる武光をチラっと見ると、私の事を見ていた武光と目が合う……
「ふぁ…………」
頭の中がふわっとなって……変な声が出た……
どくんどくん心臓の鼓動が速くなって……くらくらするぅ……
「リンド……大丈夫か?」
心配した武光が私の手を握る……暖かい手のひらに包まれる……
見つめ合う武光の、キリッとしているのに優しく私を見ている顔……カッコよくて……素敵で……
もう既にいっぱいいっぱいなのに……顔が熱い……もうワケわからなくなってきた……
「カッコ……イイ……武光……好きぃ……」
「っ?!……あぁ……俺もだよ……」
ふぇっ……あ、あれ?いま私……なんて言った?……す、好きって……ふぁああああああああぁぁぁっ……
武光は私がこぼしてしまった言葉を聞いて、驚きつつも優しい笑顔で応えてくれた……あぁ……カッコよすぎ……
内心動揺しまくりだけど、表面的には凛々しく……今さら?……いやいや……できてるよ……できてるよね?
柔らかく……余裕たっぷりで……微笑みながら……こう言った……
「んっ……武みちゅ……んっんっ!……武光……」
噛んだ……いや、華麗に誤魔化しながら武光の手を握り返す……ふぁ……おっきいな……
お父さんに付き合って、たくさんの人と握手してきた手は、相手を不快にさせない様になのか……ケアをされていて、柔らかくて……暖かい……
「……」
「……リンド?」
「ふぁっ!」
いけない……武光の手の事考えてたら、それで頭いっぱいになってた……
誤魔化す様に笑うと……武光が……武光の顔……こんなに近かった?……視界の中いっぱい……武光……
「……んっ♡……」
武光……あれ?……何?……唇……?ん……武光の?……私と?……んっ♡…………武光ぅ……
……ちゅぷ……♡
「ぷあっ……」
息っ……息するの……忘れてた……ぇ……今……?……武光と?……ふぁぁ……
ちゅ……ちゅう……しちゃった……私?……武光……ちゅう……ふぁ…………………………
「ふぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁっ♡」
かくりと身体から力が抜けて……視界が暗くなっていった……
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「んはぅっ!!」
がばりと起き上がると……知らない……いや、知ってる天井だった……
ここは、『島』の私の寝室だ……なんでこんな所に……あっ!
直前に起きた事を思い出して……顔が真っ赤になる……
なんとなく身体をまさぐって……服装の乱れなどが無い事を確認する……何も無かったようだ……無かったのかぁ……
寝室には……ベッドの上には私1人で、武光は……いない……
寂しくなったので……武光を探しに行く事にする。
くぅーん……武光ぅ……
寝室を出て、ウロウロしていると……武光発見。
ソファに座って……ん……寝てる。
すすす……と近づいて……わ……まつ毛……長いな……やっぱり……武光……かっこいい……なぁ……
そっと武光の隣に座る……ピタリと身体をつけて、ちらちら武光の事を見る……動く気配が無い……
「さっきはさぁ……不意打ちだったから……動揺しちゃったけど……」
唇をそっと武光の頬に近づける……
「覚悟してれば……平気……なんだからな……」
ちゅ♡
……ん……しちゃった……ちゅ〜……
ちゅ……ちゅ……ちゅ♡……
ん……止まんない……ふふっ……武光……気がついて無……武光っ……
武光と目が合った……ふぁ……起きてたのかっ……
驚きで離れそうになる身体が、がっちりと抱きとめられる……
「……リンド……」
「……いやその武光……コレは違って……その……」
覚悟だのと言っていたさっきまでの自分が、へにゃへにゃと萎んでいく……
それでも視線が武光から離せなくなって……
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目を開くと……よく知ってる天井……
さっきも見た……寝室の天井……ただしさっきと違うところが……
ちらりと横を見る……武光と目が合う……うあ……満面の笑み……もちろん後悔は無いけど……やっちゃった……という気持ち……そう……やっちゃった……
武光は服を着ていない……私もだけど……
あの後、武光にまたしてもお姫様抱っこをされて……寝室に連れていかれた。
真剣な瞳の武光に、私は頷く事しか出来なかった。
気の利いた事を言うことも出来ずに、武光を受け入れて……いや、そんなスムーズじゃなかった……
武光の……スッゴイのを見せられて……いやいやそんなのムリって……エルフのサイズと違い過ぎるって……ムリってビビりまくったけど……実際痛すぎて殴っちゃったけど……
精霊の加護が効きまくった2人は、多少の無理は押し通せてしまって……痛かったのは最初だけで……いやその……ええ……はい……音が伝わらない壁で良かった……
いやもう……転生した頃は……男性相手に……しかも……世界を隔てた相手……親友とも言える武光となんて……想像すら出来なかった……
と言うか……人から見たら魔力の塊の様な私は、女性として見られる事なんて無かっただろうし、私も男性を意識するなんて事も無かった……
あー、えー、まさか……こんな帰ってきてすぐに……こんな事になるなんて……
武光と……親友と……嫌じゃないよ?……引っかかるのは私が元男だった……って事くらい……なのかな……
じっと武光の顔を見ていると……若干の恥ずかしさと……幸福感……
え?……武光……なんか当たってるけど……も、もう一回?……あっ……
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手を繋いで寝室を出る。
このままだと、いつまでも寝室から出れない様な気がしてだけど……御舞家から誰かが来たみたいなので、服を着て……乱れが無いのを確認してそちらに向かう。
ドラゴンのカイの所に来客はいた。
ごろりと寝そべったカイのお腹を、要さんと長谷川さんが撫でている。
うしゃうしゃ笑うカイを撫でている要さんが、私達に気付いて振り返った。
ちらりと繋がれた私達の手を見て……要さんがニヤリとする。
その後……私達の顔をまじまじと見て、ニヤニヤ笑いが深くなる。
「へぇ〜、おめでとう……って言った方がいいのかなぁ……」
ふぁっ……武光との事……気が付かれちゃった?
カイが不思議そうに私達を見る……精霊達がカイの耳(?)元に集まって、何かを伝えると目が丸くなった。
「あぁ……リンド!精霊の騎士と交尾したんだね!……確かに魔力とか、色々混じりあってるねえ!」
「ふぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁっ!」
「あらダメよカイちゃん……はっきり言っちゃ」
「え〜、そうなの?」
ぶあっと顔が熱くなるのがわかる。
大量の精霊達が……祝っているつもりなのか、私達の周りを飛び回っている。
精霊達の『声』がしっかり聞こえる武光も、かなり困惑している……
……『おめでとう』『おめでとう』『交尾おめでとう』って……連呼やめて……
「……い」
「い?」
「いい加減に……しろおぉぉぉぉぉ!」
数分間ニヤニヤ笑いと連呼が続いて、羞恥の極地まで行った私は……半ギレでヤケクソの大声を出した。
無意識に魔力の放出も全力でしてしまい、長谷川さんと要さん以外……魔力の感知が出来ない2人以外は、吹き飛んだ。
壁にも若干ヒビが入り、カイは専用の出入口の金属製の扉ごと外に飛ばされた。
物質では無い精霊達は壁を通り抜けて、こちらも外に飛んで行った……ただコチラは「ひゃ〜怒られちゃったァ〜」という雰囲気だったけど……
武光は……武光も飛ばされかけたけど、ぬるりとした動きで……すり抜ける様にして、少し後ろに下がっただけで済んでいた。
要さんと長谷川さんは……色々吹き飛ばされた精霊達や、カイを見て……そして2人をじっと見る私の視線から逃げる様に、『急に用を思い出して』帰って行った……
「はぁ……武光……ごめん……ケガとかは?」
「いや、大丈夫だ……こっちこそ、すまないな母さんが」
ふぁ……武光優しい……
「それにしても……武光って何か武道とかしてたっけ?……私の魔力ずいぶんキレイに避けてたけど」
「いや、あれは……」
武光はちらりと私を見て、笑顔を見せる。
「多分……お前のお陰だな」
「ん?」
私の?
「お前が……リンドが……俺の事を『他人じゃない』って思ってくれたからじゃないか?……魔力が俺とお前を区別してなかったから……」
……いやソレ……すごい恥ずかしいんですけど!
なんでそういう事サラッと言うかな!……むむむむ……くそ……すごい好き……