エルフ、精霊の……忍者と話す
顔を真っ赤にして、私を睨みつけるプリン頭……笹本は、向こうへ召喚された時の服装……学生服を着ていた。
日本に戻ったら、すぐに家に帰れると思っていたんだろう……それは正直気の毒なんだけど、受け入れ側がそんなにサクサク準備が出来るはずがない……異世界から人が帰ってきました!とか言われてはいどうぞ!……とは、言えないよねぇ。
多分検疫みたいなのとかあるんだろうし……まぁ、病原菌とか連れてくる様なヘマはしないけど……余分なモノくっつけ無い方が術が『軽く』て済むしね。
ただまぁ……「病気とか持ち込んで無いですよ!」とか言って日本政府も「ハイそうですか」って訳にはいかないだろうし……
「まぁ、もう少し待ちなさい……日本側にも準備が必要なんです」
もっとも……私が病原菌を持ち込んでないのは、とっくに政府も知っている。
そうでなければ、私がこう堂々としていられない……記者会見とかしちゃってるし……
検疫するのも……ちゃんとやってますよってアピールの度合いが強いみたいだし……
まぁ……そんな事言われても納得出来ないだろうなぁ……私の周りに、明らかに日本人が何人もいるし……
「ふ……ざけんなっ!」
「そうだそうだ!」
「だよねぇ……ともかく、日本側がOK出さないとダメなんだよねぇ……」
私だって早く返してあげたいし、この島にいつまでも置いておくのも問題がある。
……ここには『世界樹っぽいの』がある……風からも、太陽の光からも魔力を作り出して放出する存在が……
本来なら学生勇者達は……薄い魔力の地球で外からの補給がほとんど出来ずに、徐々に普通の人並みになっていく……ハズなんだけど……供給源がこんなに近くにあったら弱くなりようが無い。
とは言え……
「クソエルフ!……いいから俺を外に出せよ!」
「そうだ!……笹本君の言う通りにしろっ!」
吠える笹本と周りから無責任に煽る笹本の仲間達……うるさ……
殴りかかってくる笹本の腕を掴んで、手元に引き寄せてバランスを崩させる。
脚を払うと、あっさり転ぶ笹本は……半回転して背中から床に倒れた。
暴れられると……取り押さえないとならなくなるからね。
笹本はフィジカル面が強化されるタイプの勇者だから、むしろ簡単でよかったよ。
「悪いんだけど……もう少し待ってて」
立ち上がろうとする笹本が動かない様に……頭の両脇を踏みつけるように立って、見下ろしながら言う。
ビクリと動きを止める笹本は……ワンピースの裾でよく見えないが、真上を見て呆然としている様だ。
まぁ、勇者と煽てられて……実際自分より身体の大きな騎士を、あっさり打ち負かせる力があるはずなのに……大分小さい『魔法使い』の私に、体術で倒されるとは思っていなかったんだろう。
「んおっ……む?……武光……?」
急に身体を持ち上げられて、笹本を跨いでいた位置から横に移動させられた。
私を移動させたのは……武光……まぁ、他の人が私を抱き上げるなんて出来ないけど……精霊が邪魔するから。
「リンド……彼にスカートの中、見られてる……」
「ん?……あぁ……大丈夫!ちゃんとぱんつは履いてるから!」
武光は……そうじゃない……って言いそうな顔で頭を振ると、私の耳元で……低めの……御舞議員によく似た声で……
「俺はリンドの下着を、他の男に見られたくないんだ……」
「ふぁ……ん」
そう言ってきた……ゾクゾクってするほど……耳から入って来た声は……身体震え……んっ……
やぁ……武光ぅ……ヘンな事するなよォ……チカラ……入んなくなっちゃう……よぉ……
腰がかくり……となって、へにゃへにゃした身体を武光が抱き上げた……お姫様抱っこ……
……武光ぅ……笹本が……見てる……恥ずかしい……見られてるよぉ……
「リンドさんっ……リンドさん?」
「ぴっ……」
開けられた扉から笹本のグループとは別の、数人の学生勇者達が入って来て……私と武光を見て目を見開く。
彼らの前では、強者であるかの様に……彼等よりはまぁ、強いんだけど……振舞っていたから……こんな女の子みたいな……お姫様抱っことか見られちゃって……その……あんま……見るな……
「リンドさぁん♡……そちらの方っ♡……リンドさんのカレシとかですかっ♡」
いつもは私の放出する魔力に引き気味の、魔法使いタイプの勇者の少女……吉井が目をキラキラ……いや、ギラギラさせながら私達を見てくる。
話を逸らそうと口を開きかけると……武光があっさり答えてしまう。
「よろしく……リンドのカレシをしている、御舞武光です」
「ふぁっ……た、武光ぅ……」
「きゃあああっ♡……やっぱりいい♡」
「いや、ちょっと待って……」
「リンド?……俺はお前のカレシだと思っていたが……違うのか?」
え……そんな事……ここで聞くの?
あぁ……そんな悲しそうな顔するなよぉ……
「いや……その……ええと……はい……合ってます……はい……」
「良かった……お前も……リンドも俺の事思ってくれているんだな」
「はぅ……ん……そうだよ……」
武光の顔がぱぁ、と明るくなる……ん……武光ぅ……
吉井の顔が……にちゃあ……と女子がしてはいけない顔になる……
こう……なんと言うか……壁に叩きつけたスライムみたいな……ねちょってした……いいのそれ?
「いーなぁ♡……い〜〜〜なぁ♡……キリッとした顔しか見たこと無かった、リンドさんの可愛い顔♡……カレシの前で見せちゃう顔〜♡」
思わず手で顔を隠すけど……あっつい……顔……あっつい……
「その辺にしておけ……気の毒になってきた……」
吉井と一緒に部屋に入って来た数人のうちの1人……藤間……男子高校生にしては妙に落ち着きのある少年で、おそらくなにか武道の類をしていると思われる。
召喚された時に、既に職業が『上忍』になっていたらしくて……普通はほんの一瞬でも、盗賊などの職業を経由するはずなのに……何故か最初から忍者……しかも上忍……
絶対召喚前から『なにか』してたよ……
ついでに言うと、この男……エルフの恋人がいる。
それが彼がこっちについた……召喚した連中を裏切る事になった理由……獣人を友達にした別の勇者と共に、クラスの皆を説得してくれた理由で……かなり助けになった。
「藤間君」
「あまり弄るのは……良くない」
「藤間君はやっぱりリンドさんの味方するんだねぇ……チッ……エルフスキーがよ……」
「吉井……」
あぁ……藤間が……味方が……
あと……藤間はエルフスキーじゃなくて、好きになった相手がエルフだっただけだ……
好きになった相手が……男だったとか……そういうのだってあるんだから……うん……エルフだってある……あるんだ。
私を抱き上げている武光をチラッと見ると……武光も私のことを見ていて……
「かぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁ!リア充めぇええぇぇええええ!」
吉井が吠え声と共に走り去っていく……
部屋に飛び込んできた、藤間以外の数人……笹本と仲間達、吉井と共に来た友人達は……疲れたような顔で、もそもそと出ていった……
「……吉井のおかげで、うやむやになったね」
「……あぁ」
「ところで武光くん、そろそろ下ろして貰えるかな?」
「んー」
「武光……みんな見てるから……」
「んー」
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まぁ……バタバタしたけど皆さんの食事も終わって、とりあえず御舞家の人達は帰宅して行った。
さっき勇者達と一緒に出ていかなかった藤間は……後で話があるからと、それだけ言って部屋を出ていった。
御舞家の人達がいる事に、気を使ってくれたんだと思う……お姫様抱っこのせいかもしれないけど……
あの後、抱っこをやめてもらうのに時間かかった……「嫌か?」って言われると……その……強く言えなくて……ホントは嫌じゃ無かったし……
まあその……とりあえず今は……藤間の話だ。
藤間はもう1人……銀髪の女性と私達に会いに来た。
それにしても、2人並ぶとハッキリする……
藤間も『精霊の騎士』だ……忍者だけど……加護がすごくて忍者と言うよりニンジャ……NINJAか?
多分創作のトンデモ忍術くらい、精霊の力でできてしまうだろうな……
藤間の隣の、すみれ色の瞳のエルフ……藤間の恋人になった……シャルラという名のエルフは……その……エルフにはあるまじき……巨乳……私だってエルフ基準なら大きい方だけど……シャルルは人間から見ても……大きい……かなり……
自分の胸を見る……シャルルの胸を見る……武光をちらりと見る……シャルラの胸は見ていない……ホッ……
武光は……武光の視線は……シャルルと藤間の間……しっかりと繋がれた手を見ている。
え?いいなそれ……仲良しって感じで……
もそもそと手を動かす……いや……手……繋ぐの……ちょっと……勇気いるな……
それにしても2人並ぶと、ハッキリする……
手を伸ばしかけて戻す……というのを何度か繰り返して……諦める……元アラサー男には、男の手を握るってのは……ちょっと難しい。
一度くっついちゃえばベタベタするのも大丈夫なんだけど……その一度くっつくのが、なかなか思いきれないんだよね。
ぎゅ
「ふひゅっ……」
私の手が、暖かくて力強いものに包まれた……変な声が出ちゃった。
私が思いきれない壁を、武光は軽く越えてくる……いつも武光から動いてくれる。
申し訳無いと思いつつ……ちょっと……すごく……嬉しくって握り返すと、さらに強く……優しく握り返される。
「……」
お互いに……ちらちら目を合わせながら手を握りあっていると、視線が……藤間とシャルラが微笑ましそうに私たちを見ている……
ものすごく恥ずかしくなってきたんだけど……
ここで手を離すと負けた(?)気がするので……いや、ホントはそんな意地じゃないです……離したくないだけです……そのまま藤間達の話を聞く事にする。
「話というのは……あの『世界樹』の事です」
「あー、一応あの樹は『世界樹じゃない』事になってるんだよね……『世界樹』の枝を挿し木したら育ったものだし……『世界樹』の子?」
「……?あれはどう見ても……」
「いやほら……『世界樹』だって言っちゃうと、欲の皮突っ張ったのが集ってきちゃうからね」
シャルラは過去にあった嫌な記憶でも思い出したのか、顔を顰めながら頷いた。
不老不死を欲した国王とかのせいで、昔戦争とかあったらしいからね……かなり昔のはずだけど……経験者かな……?
「そういう事ですか……では『あの樹』ですが、この先私がこの世界で暮らす事になったとして……『あの樹』の元へ訪れる事を許可して頂きたいのです」
「ん?……あー、そうか……許可します」
エルフであるシャルラが『世界樹』……『世界樹の子』……ともかくそれに近いモノを無視する事など出来るわけが無い。
こうなると2人の落ち着き先が決まったら、そこにも『扉』を繋いだ方がいいかもね。
胸のサイズは差があっても、同じエルフだし……助けられるところは協力していこう。
こっちの世界の事は私が先輩だしね!
『精霊の騎士』に関しては、多分あっちが先輩だけどね。
藤間とシャルラは、別の作品の主人公の祖父母。
そちらの主人公が銀髪すみれ色の瞳なのは、シャルラの強い遺伝。
ちなみにこの2人が、この先ストーリーに絡む予定はありません。多分……今のところ。
そしてその主人公はノクターンのキャラなので、よい子は探そうとしちゃダメよ。