エルフ、息子を紹介する
ラブラブを書こうとすると手が止まる……
『ようこそ〜異世界の人達!……僕の名前は『カイ』そこにいるリンドの息子さ』
見上げるほどの……と言っても全長で10メートルくらい……ドラゴンとしたらかなり小柄の……まだ子供……それでも人間から見たらかなり上にある口から、アニメの女の子みたいな声が出てくる。
とっさに私の前に……私を守る様に立った……いつの間に……武光が驚いた様に言う。
「女の子……じゃなくて息子……息子?……国王とか言ってた?」
「いやごめん……それとは違う……別の子」
そう言えばそっちの話もしてたか……
「人にやられて死にかけの母ドラゴンに頼まれて、預かった卵から孵ったんだよ……つまり育ての親だね」
「なるほど……命と引き換えに……お前に卵を託して……」
「あ、母ドラゴン……今も元気にやってるよ」
しんみりしかけた武光が、私の言葉でガクッとなる。
「元気なのかよ……」
「治した……自然死ならともかく、殺されかけとか見捨てるのありえん……単なる私欲で殺されかけたんだし」
「そうなのか」
「そうなんだよ」
頷きかけた武光が、私の方を見る。
「じゃあ、なんでお前が育てたんだ?」
「また人から狙われる可能性を考えて……かな?」
その時の大ケガも卵を守ろうとして負ったモノなので、最悪を考えて人間では無い私に頼んだ。
まぁ……ケガは魔法でサクッと治したけど、同じ状況で次は守れる保証は無い……ならば目の前の小さい生き物に預けて子供が生き延びる可能性を上げようとしたようだ。
その時既に例の『服』……サンバ衣装だったので、溢れるほどの魔力持ちなのがわかったのと……母ドラゴンの治療をしたのが信頼される理由になったようだ。
卵は周囲の空間の魔力を取り込みながら孵るのだけど……私の近くに置けば、その魔力で強力なモノに成長出来ると考えたのもあると思う。
まだ100歳程度なのに会話をしたりするのも、その辺が関係していると思う。
初めて声を聞いた時は、ギャップに驚いたけどね。
さっと私の前に出てくれた武光に……変な声を上げながらくねくねしそうな衝動を隠して、なるべく平静に答えていると……要さんがすたすたとカイに近づいて、お腹にぺたぺた触りながら笑顔になる。
「うひひっ……くすぐったいよ」
「まぁ……ひんやりしてるかと思ったら、ほんのり暖かいわ」
火竜だからか、魔力が多いからか、カイは暖かい。
要さんは、お腹がくすぐったいからか……頭を下げて床につけたカイの頭を撫で始める。
「んふっ……ん……気持ちイイ」
「あら〜可愛いわ」
気持ち良さそうに頭を撫でられながら、カイはチラッと私達……武光と私……無意識に私が掴んでいた武光の腕を見ながら目を細める。
「半年会わない内にリンドも『精霊の騎士』見つけて来るなんてねぇ……」
「待って……いや待って?……」
「『精霊の騎士』?……なんだそれは……?」
「いや……そうじゃなくて……武光……」
「なにそれ!リンドちゃん!」
「意味はわかりませんが……何やら素敵な気配がしました!」
カイの言葉に強く反応した要さんと長谷川さんが、滑る様に私達の前に移動してきて……ギラギラとした目で私達を見てくる。
「『精霊の騎士』って言うのはねぇ……」
「いやちょっと待っ……ムグッ」
カイを止めようとした私の口を、要さんと長谷川さんに塞がれる。
明らかに2人がニヤニヤしていて……大体の予想がついていそうなのに、あえてカイに言わせて他の御舞家の人達に聞かせようとしている。
「エルフとラーブラブになった男の人には、精霊の加護がいっぱいついて……強いチカラを得るんだってぇ〜♡……ムカシそれでエルフと騎士がお互いを守りながらマオウを倒したらしいよ」
「へぇ〜……それで『精霊の騎士』……それはラブラブにならないとダメなの?」
「ラブラブ……それで……子猫……精霊がこんなに集まってるんですねぇ……」
わざとらしい2人の声で、耳が……顔が……全身が……熱くなってくる……
やっと自覚したばかりの感情が……無邪気なドラゴンと、全く無邪気じゃない女性2人によって晒されてしまう。
外堀から埋められて……私と武光の性格を良く知る2人によって、皆に知られてしまう。
今さら武光以外と……などとは考えそうに無いけど、私は今のままでも……って……思ってたけど……
武光が……私の事をじっと見ている……武光?
「優也……リンド」
「ふぁ……ふぁい……」
私の口を手で塞いでいた2人が……サササ〜といなくなる。
すっと寄ってきた武光が私の両手を包み込む様に握ってきて……視線同士が……お互いの顔を見る目と目が……
「リンド……この前から、不思議な声が聞こえる様になった……精霊達の声だったんだな……」
「う……うん」
「リンドと交尾しろ交尾しろって……頭に響まくるから俺の気が狂ったのかと思った」
「……………………………………………………………………………………………………………………うん」
飛び回る精霊達を睨むと、ふわふわの毛玉達がさ〜っと視界から逃げていく。
お前ら武光に何言ってるんだ……こっ……交尾とかっ……交尾……とか……交尾かぁ……
頭にモワッと浮かぶ光景を振り払おうとして、想像の中まで侵入してきたもふもふに邪魔される。
お前ら、人の精神世界にまで入ってくるんじゃない……
「リンド……」
「ふぁっ!……な、なにっ……」
「もっと時間をかけて、俺無しでいられなくなる様にするつもりだったが……」
いや武光……何言ってるの……
「精霊達が俺も守るという事は……そうなんだよな……?」
「ぁ……ぇ……はい」
もうとっくに、武光の隣以外に居場所がある事を想像出来なくなっている……
物理的な距離では無くて、人間関係とか精神的な意味でだけど……
なんと言うか……「しっくりしてしまった」のだ。
今まで生きてきた時間のせいで、男だったとか……エルフだとか……口にはしてしまうが、武光の横には私がいたくて、私の横には武光がいて欲しい。
「ひゃっ……」
いきなり武光に抱き上げられて……お姫様抱っこ……腕の中で見つめられると……ふにゃふにゃになって……武光の顔……顔しか見えな……
ゴスッ!
武光の顔がものすごくブレて、腕の中の私も揺らされたけど……武光は踏ん張って耐えた。
武光の横を見ると……要さんと長谷川さんが武光の頭を叩いたみたいで、手を振り下ろしたポーズをしていた。
「……盛り上がり過ぎ」
「「はい」」
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………………………………気を取り直して、私達が今立っているのは巨大な木の前。
『島』の中央に生えている巨大樹……実はありがちなアレ……『世界樹』の子供……子供?
以前ちょっとした事で世界樹と関わって、お礼として1本の小枝を貰った。
世界樹に好きにしていいと言われたので……喋るんだよ世界樹……挿し木をしてみたらみるみる育った。
この木は喋ったりはしないけど……世界樹の子であるのは間違いなくて、ちぎりとった葉を1日1枚もしゃもしゃと食べれば全盛期の姿で不老になる。
怪我や病気……毒なども治すので、ほぼ不老不死になる。
ベッドでゼイゼイいってる……次の朝日が見る事の出来ない老人でも、コレをもしゃもしゃすれば若返って走り回れる。
葉の1枚が顔のサイズくらいあるから食べるのが大変なのと、毎日食べないと徐々に効果が無くなっていくのが面倒と言えば面倒。味はミント風……顔サイズのミント……
人に知られると面倒なので、この事は王宮の貴族達にも言ってはいない。
というか……誰よりもアイツらが1番知らせるべきでは無い……
まぁ……ここに生えている限り、世界樹の子は私にとって単なる友人……ただの巨大な樹だ。
ただの……と言うには色々特殊だけどね。
私は『俺』を亜空間収納から出して、樹の根元に横たえて、御舞家から着いてきてくれていた人達に顔を向ける。
「これでお別れになるので、しておきたい事があればどうぞ」
そう言いながら脇に避けると……それぞれが手に持った花や、好きだった物を周りに置いてくれる。
最後に長谷川さんが、そっと『俺』の頬を撫でて……離れる。
私は樹に向かって頷きながら、『俺』の事をお願いする。
ふわり……ふわり……
樹からキラキラと光る小さな粒が、『俺』に降り注いでくる。
全体がキラキラと光を受けて、辺りが明るくなる。
後ろに立っていた武光が、私の肩に乗せていた手に力を入れる。
その手に私の手を重ねて……『俺』が光の粒に包まれていくのを見ていると、『俺』の姿は薄くなっていって消えていった……
これがエルフ式の葬式。
肉体はこういう風に『世界』に帰っていって、魂は世界樹を通して新たなエルフとして生まれ変わる。
順序は逆だったけど、無事に……うん……とりあえず一段落ついた感じだ。
「お見送りありがとうございました。」
御舞家の人達に頭を下げて、来た道を戻っていく。
家の方に、お手伝いゴーレムに軽食を用意させておいた……異世界の食材の料理を楽しんで貰おう。
……食べさせて問題無いのは確認済み……学生勇者達で。
と言うか、鑑定魔法使って確認もしてるけど。
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さっき出てきた建物に戻ると、入口前に待っていたメイドゴーレムが私に耳打ちしてくる。
それにうなずいて、私はみんなを広間の方に案内する。
ちなみにメイド服のデザインは、異世界の勇者が持ち込んだ。
なので、スカートが短い物と長い物がある。ウチは長い物を着せている。
食事の用意がしてあるのは食堂の方かと思ったら……そっちは学生勇者達が使ってるみたいなので。
まだ帰る準備が整っていないので……日本政府側の……彼等には、もう少し待って貰わないといけない。
実はひょいひょい行き来出来るって知られたら……ちょっと面倒。
まだ若い彼等は、帰れるのに止められてる事に我慢出来ないだろうし……
だったらこっちが少し時間を開けて来ればいいんだけど、亜空間収納なら傷まないとは言え……遺体を持ったままなのは抵抗があった。
まぁ……何とかなるよ……多分……
異世界の食材に対しての質問が、長谷川さんや要さんからメイドゴーレムにされている。
と言っても、味としてそんなに突拍子も無いものと言うのは……『あまり』無い。
あるはあるけど……
バンッ!
広間の扉が勢いよく開いて……数人の少年達が入って来た。
メイドゴーレム数体が止めようとしてくれていたけど、なるべく乱暴に扱わない様にと言っていたので、ここまで来させてしまったようだ。
このグループのリーダー格……先頭に立つプリン頭、金色に染めていたのが伸びてしまって頭頂部が黒い少年……笹本が、私を見つけて眉を吊り上げる。
「クソエルフっ!なんで俺達家に戻れないんだ!……もう日本に帰って来てるんだろ!」
……あ〜、コッチ来ちゃった……
素直に「私達付き合います」とは言えない2人のケツを蹴り飛ばす年長者達。
そして墓参りもいつでもいける事が判明。