エルフ、2人きりになる
「次の方」
大手新聞社の、よく分からない事言っているのは置いといて、次の人の質問に行く事にした。
手を挙げたのは欧米?の人……普通に日本語で聞いてきたな。
あ、外国人……とか思っちゃった。……自分も今は日本人じゃないのにねー(笑)
「あなたは、ここでは無い世界から来た人……エルフだと聞きました。……」
「そうですね。……耳も尖ってますよ」
そう言いながら、髪で隠れていた耳を見せると……一斉にバシャバシャとカメラのシャッターを切る音が鳴り響く。
ちょっと驚いた。
「あなた達の周りに飛んでいるのも……猫では無く、精霊です」
「精霊……飛ぶのはともかく、姿は可愛らしい子猫にしか見えません……」
「猫は猫でいますよ……私たちの世界で精霊と言えばこの姿です……あぁ、あと二本足で歩く猫の妖精……ケット・シーもいます」
「oh……」
考えてみたら……猫っぽいモノを全て猫と呼んだら、あっちの世界……猫だらけだ……そこら中にいるもの。
最も精霊は全ての所にいるから……猫がいる……とはわざわざ考えないんだけど……空気の様に存在しているものだしね。
普通の人には、普段は見る事が出来ないし……今みたいに召喚してれば見えるけど……
私の様に、精霊に馴染みがある様な人ならまぁ……ただ常に見えてると、とにかく数が多くて……
こちらの世界とかで……例えば……機械が大きな音を立てている場所で働いていて、最初のうちは周りがうるさ過ぎて会話もまともに出来ないのが、慣れると平気になるみたいに精霊も慣れないと見えすぎて辛い。
エルフの様に生まれつき精霊に慣れていれば、見え方をコントロール出来るけど……後天的に見える様になった場合はまず目を慣らすところから始めないとならない。
まぁ、私も転生してすぐの頃……うっかり、厳しい顔の鍛冶屋の親方の鼻の穴から……ニュルって……子猫の顔が……出てき……てっ……アレはちょっと……笑わない様にするの……大変だった……
これ以上は無いほど……真面目な話し合いの最中だったから……ぶるぶる震えながら耐えたよ。
今も思い出して笑いそうだったよ。記者会見の途中なのに……
「あなたは魔法の実験でここに来たと言う話でしたが、簡単なもので良いので可能なら見せてもらう事は出来ますか?」
「……では、こういうのはどうでしょうか」
私は軽く手を振りながら、小さな声で呪文を呟いた。
すると部屋の中がうっすらと光って、記者達に吸い込まれた。
「なっ!何をした!」
多少はみんな驚いた顔をしたけど、魔法を見せてくれと言われて実行したモノなんで、それほど騒ぎにはならなかった……1人以外……
大手新聞社ァ……
大手新聞社が大声を出した時、何人か……日本人以外の記者が驚いた顔をした。
彼らの耳には、大手新聞社の声が自国の言葉に聞こえたハズ……私が使ったのは、通訳魔法……言語の違う人種同士でスムーズにやり取りする為の魔法だ。
「おぉ……これは凄い……」
「まるで……魔ほ……あ、いや……魔法か……」
外国人記者達が声を上げるのを聞いて、日本人の記者達も驚く。
そっちには、日本語に聞こえているからね……大手新聞社だけがピンときてないみたいだけど……
「おいっ!……俺におかしな事をしたんだな!……俺以外ニヤニヤ笑って……洗脳か!」
「……彼は気付いて無いのか?」
「いや……え?ホントに?」
騒ぎ出した大手新聞社は、係の人に連れていかれた……結局何だったんだ……
あー、その辺はコッチの人達に任せよう……うん。
この後色々質問をされて、私はそれに応えていった。
最初の時点で嘘が混じっているので、申し訳ないな……と思いつつ……学生達が変な騒ぎに巻き込まれない様に出来る事はしておこう。
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「はぁ〜」
「お疲れ様」
溜息をつきながら会場を出ると、武光が迎えてくれた。……あ、隣には案内役の女性もいるよ。
身体が疲れる様な事は無かったけど……精神的に疲労した……
ぽん
武光の手が頭に乗せられる。
無意識なのか、労わってくれているつもりなのか……ゆっくりと髪に沿って手が動いている。
さっきまでの記者会見でのやり取りの事は頭から飛んでいって、手の温かさの事でいっぱいになる。
なってしまう……
ドキドキ……する……
武光の手は……優しくって……頭を撫でているだけなのに……私の事を包んでいるみたいで……
あぁ……どうしよう……こんなの……ダメだ……武光は親友……なのに……男同士だったのに……嬉しくなっちゃ……ダメだ……
でもそうなのかな……?
……考えてみたら……転生してるんだし……細胞ひとつとして同じ人間じゃ無いんだよな……
アレ?……なんか、大丈夫ぽくね?
もう……1人の女の子として生きても良くね?
……なんか大丈夫な気がしてきた!少なくともこっちサイドはいいんじゃないかな!
武光に「キモ……」とか言われなければ!……言われなければ……
……言われ……るかな……?
「……ふ……ぅ」
「あっ……済まない……つい、無意識に……」
「……ぁ」
離れていく手……すうっと温もりが薄れていく……その事に泣きそうになって……でもさ……学生達は元の生活に戻す手は打ったし……離れていく手を掴んでも……
「……優也?」
「……ん?……どうした武光?」
「いや……今……」
「……部屋に戻ろ……疲れたよ」
心配そうな顔で私を見てくる武光から目を逸らして……私は待機していた部屋の方に歩き出す。
でも、今はまだ……こんな想い……大事な親友に抱いてるなんて……知られたくない……知られるのが……怖い。
それに……文字通り武光とは『住む世界』が違う……武光が『精霊の騎士』にでもなったなら……武光とずっと一緒にいられるなら……いや……こんな事考えちゃダメだ……
武光が『精霊の騎士』かもと思った時の気持ちは、柄にも無くはしゃぎかけたけど……そんな事して良いのかなって気持ちもある……
武光はずっと前からお父さんの跡を継ぐ為に努力してきたし、『精霊の騎士』になったら……普通の人より伸びる寿命のせいで周りの人が亡くなっていくのに……武光は置いていかれる事になる……
そんな事は……させたく無い……忘れなきゃ……こんな気持ち……やっぱり……忘れなきゃ……ダメだ……
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部屋に戻って……ぼふん……とソファに身体を沈める……
頭の中がぐるぐるとしていて、考えがまとまらない……
「うー……」
「……さっきからどうした優也」
「ふぁっ!……なんでもにゃ……無い」
武光は、向かいのソファに座って私の事を見ていたんだけど……立ち上がって……隣……隣に座ってきたっ。
体温を感じる程近くに……座っ……ふぁああああああああぁぁぁ……
おかしいよ……忘れようって……思ってたのに……近くに武光がいるのが嬉しくって……武光が私の事見てくれているのが……嬉しくって……どうしよう……諦めるの……諦めなきゃ……いけないのに……嬉しいよぉ……
「優也……本当に体調悪いんだったら……」
顔……近い……近いよ……ぁ……まつ毛長い……
視界の中……全部……武光だ……
「あー、えー、ゴホン」
案内役の女性の咳払いに、ビクッとなった武光の顔が離れていく……
その方が良いはずなのに……納得するべきなのに……武光ぅ……
捨てられたイヌにでもなった気分で、女性の方を見ると……女性は呆れ返った顔で私達を見ていた。
女性はパンパン手を叩いて、年上の人が言う様に……と言うか子供に言い聞かせる様に言った。
「はいはい……2人共実はいい歳なのに何躊躇してるんですか……お互いに相手の事が好きなんでしょう?」
「いやその……」
「えー……」
思わず武光と目を合わせる。
いや、そんなに簡単な事じゃ無いんだよ……
「見守ろうと思ってましたけど……耐えられません……我慢できません!」
「いや……その……色々と……」
「武光の将来を私が潰すような事……」
案内役の女性の目がギラリと光った。
「御舞さんっ!」
「はい……」
「異なる世界で1人になってしまった女性……あなたはどうしたいんですか?」
「守る……そう誓った……とっくに誓ってる」
「えっ?!……武光?」
即答だった。
一瞬の迷いも無く……一瞬の躊躇も無く……私の身体の奥がぎゅうううってなる。
女性は頷いた後、私の方を見た。
「リンドさん……もし……御舞さんの隣にあなた以外の女の人がいたら……どう思いますか?」
「…………嫌だ……」
「優也?」
「武光の隣にいるのは……私じゃなきゃ……嫌だ……でも……武光は……ちゃんとした相手と……その……」
「ハッ」
鼻で笑われた。
「もう誰が見ても、イチャイチャカップルなのに何言ってるんですか!」
「イチャイチャ……」
「カッ……カップル……」
「……い、いや……そう言われても優也が困ると……」
「ふぇ……武光とぉ……」
案内役の女性は芝居がかった動作で、両手を広げてその場でターンをする。
一度目を閉じた後、カッと目を開いて……私達を見る。
「そんなトロトロのっ!甘々のっ!お互いしか見えてない様なっ!……かーっ!こっちは独身だってのにっ!……」
案内役の女性は、私の事を武光に向かって押す。
動揺していたからか……よろけてしまった私は、武光に支えられる。
スっと表情を戻した彼女は優しい顔で、私達に言う。
「大丈夫!……どんな事があっても、きっとうまくいきますよ!」
そう言ってきた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「……………………」
「…………………………」
控え室に戻った私達は、案内役の女性に2人だけにされて……困っていた……何を話していいか……分からなくて……
ちらちらと武光の様子を伺うと、武光は真剣な顔で何かを考えている……ちょっとかっこいい。
「優也……」
「ふゃいっ……」
「優也は……いやリンドって呼んだ方が良いのか?……いまさらだけど……」
「……よ、呼びやすい方で……いいよ」
「……優也は……元男で……エルフに転生した親友に、好意を寄せている男をどう思う?」
「こっ……好意……あの……えっと……寄せてるの?……好意……」
「ああ……いつも隣にいて欲しいと……いや……あわよくば……もっと深い関係になりたいと思っている」
「ふぁああああああああぁぁぁ……あ……うん……今は……男女……なんだしぃ?……い、いいのではないかと……」
どちらが立てたか分からないけど……ゴクリと唾を飲み込む……音が……すごい大きく聞こえて……
「……ぁ……武光は……その……女になって親友に再会して直ぐに……ちょっと抱き締められて……耳元で囁かれた途端……コロッといっちゃう……チョロエルフをどう思う?」
「最高だな」
「ふぇっ……裸や……えっと……アレの画像付きメール送るエルフでも?」
「極上だ……ただし、俺以外には許さない」
ぐにゃり
身体から力が抜けて、ソファの上で崩れそうになる。
なんかぐしゃぐしゃと考えていたのをあっさり乗り越えられて、嬉しいと言うより……いや……やっぱり嬉しい。
チョロい……私……チョロ過ぎ……
「優也……そんな顔していると……このままベッドに連れて行きたくなる」
「ふぁっ……武光……急に積極的にぃ……そんな素振り今まで……」
「あぁ……隠しては無かったつもりだったんだけどな……お前が気づかなかっただけだよ」
「優也……隣に座るぞ」
「ど、どうぞ……ふぁっ!」
隣に座ると言った武光は、確かに隣には座ったけど……私を持ち上げて自分の上に座らせた。
お腹の前に手を回されて……心臓バクバクしてる音……聞かれちゃうよ……抱き締められて……
「チョロエルフちゃんは、こういうの好きだよね」
「……言うなよぉ……好きだよ……私以外しないよね……」
少しだけ回された手に力が入る。
「そんな可愛いこと言うと……本当に我慢出来なくなる……」
武光に抱き直されて……お姫様抱っこで……立ち上がる武光に……どこかへ連れて行かれる……というところで……
ソファの陰で私達を見ていた案内役の女性と目が合う。
「……あ……チッ、気づかれたか……」
あなた……部屋から出ていったんじゃ無かったのぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!
1:案内役の女性 井掛 杏奈27歳独身 仕事のストレスを薄い本で癒す。(ジャンルは主にBLとTSカップルもの)
2:武光がリンド=優也に好意を持ったのは『今』では無い。 彼女を作ろうとしなかったのはそれで。この事は墓まで持っていく秘密にするつもりだった。
本編に入れるか分からないのでここに書いときます。




