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エルフ、日本に帰る

ユルユルと更新したい……不定期連載の予定です。

「んっ……」


『扉』を通り向ける時に身体にまとわりついていた、ねっとりとした『ナニカ』を振り払って目を開けると……そこは『俺の部屋』だった。……『私』にとっての前世の住まいだった、マンションの『俺の部屋』。


部屋を見回すと込み上げてくる懐かしい思い出と……激しい後悔。


「ぇぇえええええ……なんだよぉ……こんなに簡単に来れるんだったら……もっと早く試せば良かったよォォォォ……」


私は床にガックリと膝をついて、うなだれた。

胸がぶるりと動きに合わせて揺れる……あぁ……服は持って来れなかったか〜……まぁ……些細な問題か……


そんな事より……


「ああああああああぁぁぁ……あんなに苦労したアレやコレ……こっち来てたらさっくり解決してたよお……」


ここにあった酒ならドワーフ達は喜んだだろうし、砂糖や塩……醤油や味噌……米だってあんなに苦労して探さなくたって良かっただろう。


開発に手間のかかったモノたちも、現物がお金さえ出せば手に入ったのに……

……いや、『あっち』で行動していた時に得た人間関係……人間以外もいるけど……手軽にモノを手に入れていたら関係を築けなかった……と……思っておこう。


……そうとでも思っておかないと……心が折れる……


「はぁ……」


ため息をつきながら、壁に取り付けてある全身が映る鏡を見る。

異世界から『こちら』に来る為の『扉』として使った大きな鏡だ……


そこには映画やアニメ、小説などに出てくる耳の長い妖精族……全裸のエルフが膝をついてこちらを見ていた。








私は……ハイエルフのリンド……前世では竜胆優也(りんどうゆうや)という男の生まれ変わりだ。

訳あって、異世界から前世に暮らしていた場所に里帰りした転生者だ。





ーーーーーーーーーーーーーーー






精神的なダメージから少し立ち直って、『俺の部屋』を見回すと……あら?……『俺の部屋』?

確か異世界に転生してから大分……どころでは無い年月が経っているはずなのに……『俺の部屋』?


2つの世界を繋ぐのに強くイメージできたのが『ここ』だったとは言え……死んだはずの『俺』の部屋……生前最後に見たままの……自分が暮らしていた部屋……どういうことだろ?


予定ではイメージと実際の場所が違うせいで失敗するか、空中に弾き飛ばされるか、最悪マンション自体が無くなっていて……その場合別の建物が建っていて『壁の中にいる』とかもあるかと思っていたが……まさかの『俺の部屋』。


パソコンやタブレットで今日の日付を確認する……死んだ次の日だ……

タブレットで竜胆優也と検索すると……『俺』の死亡記事がある。


子供をかばって薬物使用者にメッタ刺し……かぁ。

やっぱりクスリなんぞ使う奴はクソだな……クスリだめ絶対!


クソ野郎は通りがかりの人達に取り押さえられたらしい……『俺』は意識が無かったにも関わらず、野郎のナイフを持った腕を離そうとしなかったらしい……頑張ったなあ『俺』。


いやもう……『私』には昔すぎて自分の事だと思えないけどね。


しかし……何百年も経ってるハズだったのに……なんで死んだ次の日に帰って来たんだろう……いや、それ以前に数百年後に同じマンションがある訳が無いのに……わかっていたはずなのに……なんで『ここ』に来ようと思った?


まぁ……いくら考えても分からないんだろう……かなり引っかかるけど……頭を……切り替えなくちゃ。


まず『ここ』に来た目的の為の協力者が必要だ。


スマホ……は多分……『俺』の身体の方だろう……壊されてるかもしれないし……とりあえずタブレットとパソコンでとある男に連絡を取っておくことにする。


『俺』の幼なじみで友人の御舞武光(おまいたけみつ)……社会人になっても『俺』の部屋に泊まりに来たり、飲んだり……旅行に行ったりした……親友。


親父が国会議員で本人も超がつくほどのエリートのクセに、天涯孤独の三流大学出の俺と仲良くしてくれていた。

周りから『俺』なんかとは付き合うなとか言われていただろうに、武光は『俺』と付き合い続けてくれていた。


本人は絶対に言わないだろうが、誰からも絶対にケチの付けられない様にかなりの努力もしていただろう。

『俺』も薄々感じていたが、隠している事を聞き出して確認するのは本人に対して失礼な気がして黙っていた。


ただ感謝をしていた。せめて『俺』の前ではアイツが嫌な事を考えずに済むように……そう思っていた。


多分アイツに連絡をすれば……アイツはイタズラと思って怒り狂うだろう。

きっと『私』でも……『俺』でもそう……思うだろう。


ただ……アイツの事だ……怪しい連絡には返事をするとは思えない。

そしてありとあらゆる手で『私』の事を調べて、取れる手段全てを使って攻撃してくる。


……今のところは、あんまりたくさんの人に絡まれるのは困るんだよね。


タブレットで自撮りして画像付きでメールを送る事にした。

武光の名で登録されているこのアドレスは、『俺』専用らしくて他の誰にも教えてない……らしい。


JKっぽくポーズをとって、【竜胆ちゃんてば♡……エルフに転生しちゃった♡キラッ☆(ゝω・)V……今自宅♡♡♡】と送ってやった。


返信は無い。


少し待ってみたが無い。


しばらく待っても無い。


いつもなら監視してるんじゃないかってくらいの速さで返信くるんだけど……まぁさすがに死んだハズの友人を名乗る怪しげな女からのメール……疑うか……疑うよね。


ピンポーン♪


エントランスの方ではなく、部屋の扉の横のインターホンが鳴らされる。


……ん?……まさか……直接来た?……どうやってこの短時間で?……いや、いつでも遊びに来れる様に鍵も渡してたけど……ん?……鍵があるのに……入ってこない?……うわ……警戒されてるなぁ……まぁ当たり前かぁ。


モニターで確認すると……武光……ものすごい目付きでカメラを睨んでいる……怖。

あ〜、開けたくない様な気がしてきた。……まぁ……そういう訳にもいかないんだけどさ。


ドアを開ける……武光の眼鏡越しの眼光がすごい。なんかこう……眼鏡が光っている様に錯覚してしまう。


「……………………………………………………」

「………………………………………………………………………………やぁ」


ガバッ!


「ふぁあああっ!」


いきなり抱きつかれた!

武光は膝をついて、縋り付くようにしてくる……ちょっと力が強い……いや、ちょっとじゃない……痛い痛い!


「優也!……優也っ!……」

「ちょっと待て……離せ離せ……」

「嫌だっ!……もう……お前がいなくなるのは……嫌だ……」


武光は泣き出してしまった……『俺』以外には常に笑顔を貼り付けて、滅多に歪む事すらない顔をぐしゃぐしゃにして……子供の様にイヤイヤをしている。


落ち着かせようと、お腹の辺りに押し付けられている頭をそっと撫でながら声をかける。


「武光……黙って死んだりして……ゴメンな?」

「優也……いなくなるな……もう……いなくなるな……」

「そうだな……大丈夫だよ……え〜、多分」


力が強くなった……痛い痛い痛い!


「痛い痛い……わかったから……いなくならないから!……力緩めて!」

「本当だろうな……?」

「本当本当」

「…………………………………………………………………………………………………………わかった」


ふぅ……身体がちぎれて……2つになるかと思った。


「落ち着いたか?」

「…………すまん……みっともない所を……見せてしまった……」


落ち着いたと言いつつ顔を上げようとしない……ぁ……耳真っ赤だ……恥ずかしくてこっち見れないのか……


「優也……」

「ん〜?……どした武光?」


武光の頭を撫でながら返事をする。

異世界で出会った子供達にしていた様についつい撫でていたけど、30近い男の頭を撫でているのはどうなんだろう?


まぁ……いいか。


「優也……いくつか聞きたい……んだが……いいか?」

「うん……いいよ」


なんでこんな姿なのかとか、生まれ変わりとかどういう事かとか、いろいろ聞かれるだろうなぁ。


「まず……なんで裸なんだ?」


最初がそれかよ!……全裸なの忘れてた!……はやく言えよ!……うっかりしてたわ!……メールも全裸で送っちゃったよ!

くそっ!……なんか……今頃恥ずかしくなってきた!……武光!……手を離せ!……いなくなったりしないから!

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