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第2話

(さて、そろそろ行きましょうかね)


 昼食を摂り、少し自室でゆっくりとすればその時間はあっという間にやってきた。時計は十二時四十五分を指しており、そろそろ待ち合わせ場所に向かってもいいかもしれない。そう思いながら、リオは「よっと」と小さくぼいた後立ち上がる。それから、少しだけ息を吐いたのち、自室を出て行った。


(今日はスイーツショップに出向いて、スイーツを食べる。その後は……どうしようかしら?)


 騎士団の寄宿舎には特に門限は決まっていない。しかし、セイディは女性。長々と連れ回すわけにはいかない。もしもそうなってしまえば、アシェルからとんでもないお小言が飛んでくるのは目に見えてわかる。アシェルは、一度怒らせると大層面倒な人物だ。そのため、怒らせないのが最善の選択だとリオは思っていた。


 ゆっくりと階段を降り、一階にたどり着き玄関から外に出る。騎士団の寄宿舎と対になっている魔法騎士団の寄宿舎をちらりと見つめ、リオは玄関でセイディを待つ。訓練場のある方向からは何かとざわざわとした話し声が聞こえてくる。気にならないわけではないが、休暇中は特別なことがない限り訓練場には入れない。それは、ミリウスが決めたこと。休みと仕事ははっきりと分けろ。そう言うことらしい。


 三分、五分。着々と進んでいく時計の針を見つめながら、リオはただ茫然と立っていた。時折王宮の使用人である女性がリオの近くを通りかかり、ポッと頬を染めるもののリオ自身には全く関係ない。リオはとても容姿が整っている。もちろん、騎士団一の美形と謳われているアシェルや、王族特有の風格を持ち合わせているミリウスには遠く及ばない。だが、その親しみやすさからリオは人気があった。程よい身分も、それに拍車をかけていたのだろう。


「リオさん。お待たせしました」


 それから、約五分後。時計を見れば待ち合わせ時刻の三分前。リオの前に、セイディが現れた。本日の装いは淡い赤色のワンピース。少し派手な色合いだが、元のデザインがシンプルで大人しいものの為、そこまで派手なイメージは抱かせない。そんなワンピースはセイディにとても似合っていて。……見立てが、良いのだろうな。リオはふとそう思ってしまう。自分だって、セイディを着飾りたいのに。なのに、その役目は今ではすっかりアシェルのもの。……アシェルに、勝てるとは思えない。リオは頭がいい方だが、それでもアシェルには敵わない。剣の腕だって、ミリウスの足元にも及ばない。人に自慢できることなど、ないに等しい。そんな思いを隠し、ただいつものように害のない笑みを浮かべ、「今日も似合っているわね」ということしか、出来ない。


「……ありがとう、ございます。街に出るのならば、もう少し派手なワンピースでも構わないと、この間アシェル様に教えていただいて……」


 少しだけはにかんだセイディの口から、アシェルの名前が出てくるのがどうしてか気に食わない。でも、その嬉しそうな笑みはどうしようもないほどに見ていて幸せになれる。そんな意味の分からない感覚に陥りながら、リオは「じゃあ、行きましょうか」と軽くウインクをしてセイディの手を掴んだ。その瞬間、セイディは軽く硬直する。


「あ、あの、リオさん。……私、迷子になんてなりませんけれど……」


 そう言ったセイディは、本気でそう思っているようだった。リオだって、セイディが迷子になるとは思っていない。セイディはどこか抜けているものの、比較的しっかりとしている……はず。それに、街にだって度々出向いているのだ。今更迷子になるとは思えないし、迷子になろうとも思わないだろう。それでも、リオはセイディの手首を掴みたかった。


「いいのよ。友達なのだから、これぐらいはいいじゃない。……ねぇ?」


 セイディの顔を覗きこみながらそう言えば、彼女は「……そんな、ものなのでしょうか?」と視線を少しだけ逸らしながらぼやく。そんな様子も、可愛らしく映ってしまう。あぁ、さすがは自慢の妹分だ。そう思ったものの、心の何処かが「本当に?」と警告を鳴らしている気がした。その感情を、リオはただひたすら抑え込む。セイディは妹分。それには変わりないし、今更どうなるわけでもない。このもどかしい気持ちも、全ては妹分に向けている気持ち。もしくは、友人に向ける気持ちなのだから。


「今日は、私のおすすめのスイーツショップに行きましょうね。……セイディ、甘いものが好きだったわよね」

「はい!」


 少し、ぎこちない動きだろうか。だが、それでも笑みを浮かべるセイディは大したものだ。セイディは、傍から見れば大層逞しい。でも、中身は至って普通の女の子に近い。だからこそ、リオは彼女に惹かれていた。もちろん、『妹分』として。


「あの、でも……その、恥ずかしいので、手首は放していただけると……」

「あら、別にいいじゃない。そんなやましい気持ちはないのだから」


 ――嘘。


 自分で発した言葉とほぼ同時に、胸の奥が痛みそんな言葉をぼやいた気がした。セイディのどこか困ったような表情も、その胸の痛みに拍車をかけた。自分じゃ、ダメなのだろう。そんな気持ちが、心の中を支配してやまない。もっと、堂々と生きることが出来たならば。もっと、人を信じることになれていたならば。そう思うが、そもそも「もしも」なんて願ったところで虚しいもの。そう思い直し、リオは「早く行くわよ!」と言ってセイディの手首を掴んだまま歩き始める。それに、セイディは俯きがちについてくる。そんなちょこちょことついてくる姿も、大層愛らしい。そう思いながら、リオはまた笑みを作り上げてセイディに何でもない話を始めるのだった。

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