くるぽっぽダウジング
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
ほう。見てみろよあの子。ダウジングやってるぜ。
いや〜、懐かしいな。俺もテレビとかで見てから、何度か真似っこしたことあるぜ。あのL字型のロッドを両手で握って、歩き回るタイプの奴な。
この手の占いも、歴史はとてつもなく古い。ある時期は有罪の証拠になり、ある時期は詐欺にもなって、とんでもない額の金をだまし取った例もあるのだとか。
現代になると、さすがに大人がこれらをあてにすることはほとんどなくなったが、子供にとっては格好のおもちゃ。真似事したい年頃でもあるだろうし、あっという間にブームがやってきては過ぎていく、を繰り返していたっけな。
だが、このダウジングも、やり方によっちゃ思わぬものに出くわすことができるらしい。俺の友達の話なんだが、聞いてみないか?
俺の友達も、小さい頃にダウジングに凝っていた時期があった。
手で簡単に曲げられるくらい、細い針金をつかってな。学校の行き帰りに、あちらこちらへ寄り道しては、ダウジングの反応を見ていたらしいんだ。
できれば実際に掘り返したいから、アスファルトの上では使わない。未舗装の砂利道や草むらなどへ分け入って、その中を探ることが常だったんだ。
ダウジングは水脈以外に、鉱脈を探すのにも役に立つと聞く。つまり、金属にも反応するのだろうと友達は思って、ロッドが「ハの字」に広がっていくところを見ると、その場を掘ってみたのだとか。
これまでの収穫で、一番のものはサビかけのアルミ缶。踏んづけられたらしく、胴体の真ん中をぺしゃんこにされ、指を裂かれそうなくらい、鋭い切り口が開いている。
だが、友達個人としては成果に満足していない。どうせ探すのなら、もっと手ごたえのあるもの。そう、ゲームで主人公たちが見つけるお宝とか、地下への階段とかを見つけたいと思っていたんだ。。
発見できないことと、存在しないことは同義じゃない。単に、まだ確かめられていないだけだ。
その思いが、友達にダウジングを続けさせていた。
そうして今日も、学区の端に広がる田園地帯で、ロッドを構えていると。
「くるぽ、くるぽ、くぅるるるるる、くるぽ、くるぽ……」
「る」の音を巻き舌で出しながら、サクサクと土を踏んでいく足音がする。
顔を上げると、少し先にいたのはクラスメートの男子。結果の出なさ具合から、どんどんダウジングの脱落者が出ていくなかで、まだ続けている、数少ないひとりだった。
その彼の特徴のひとつが、あの「くるぽっぽ」言いながら歩き回る姿だ。鳥を模したような鳴き声で、恥ずかしげもなく「くるぽ、くるぽ」言い続ける様子を、いぶかしげに見る奴は少なくなかった。
更に、彼の使用するダウジングロッドは、友達やその他大勢が使用する金物ではなく、より自然に近いもの。ツタや枝などを、よってねじって、L字型に整えたロッドを使っていたんだ。
いかにもな汚さ、みすぼらしさを放つその格好は、他のクラスメートの失笑を買うこともしばしばだった。しかし少しダウジングの歴史をたどった友達は、「ひょっとしたら」とも思ったらしい。
古来、木やその枝などは、神に通じる力を宿す道具として扱われてきた。それに近しい材料を使う彼ならば、あるいは……と。
これまで彼に、大した成果があったとは聞いていない。けれども、それはあくまで自己申告であって、実際に立ち会った人がいたわけでもなかった。
――ひょっとしたら、あのヘンテコなやり方に、ダウジングのコツが隠されているかもしれない。
そう考えた友達は、すぐさま動いて彼に接触。どうして、そのようなダウジングをしているのか、尋ねてみたんだ。
それに対する返答はこうだ。
「あの声はね、ちょっとしたソナーみたいなもんさ。
分かる? ソナー。こうもりも似たようなことをしているみたいだけどさ、音波によって対象との距離を測り、状況を把握する手段だね。
僕もそれを使っている。お尋ねものを見つけやすくするためにね。ずっぽし来る場所だと、自分が声出したのに少し遅れて、つま先からすねにかけてまでがムズムズするはず。そここそが、目的の地点なのさ」
友達は、そのやり方を教えてほしいと頼み込んでみた。こころよく承諾してくれたクラスメートは、予備に持ち歩いているのか。ポケットからツタと細い枝を何本も取り出し、慣れた手つきで、それらをよじっていく。
ものの数分の間に、新しい一対のダウジングロッドを作ってしまうと、それを友達に手渡す。それを例の「くるぽ、くるぽ」言いながら、使って欲しいとのこと。
始める前に、軽く「くるぽ」に関してのレッスンも入る。
「る」の巻き舌と、鼻に抜けるような高い音程は必須らしい。少なくとも、男は声変わりをしてしまうとこの声を出すのが難しく、いまの年齢限定なのだとか。
友達の後に続いて、「くるぽ、くるぽ……」と二、三度音を合わせると、二人はダウジングしながら歩き始める。しばらくはあぜ道にそって真っすぐ歩いていたが、田んぼの端で道はどんづまり、代わりに東西へ伸びるT字路に。
ここからは二手になって、ダウジングを続けることになったけど、クラスメートが告げる。
「もし、つま先に反応があったらね。その場でじっとしていてごらん。勝手にダウジングが反応すると思うからさ。
あとはそいつに任せて……でも、つき合いすぎないよう、ほどほどにしてね」
妙な言い回しに、首をかしげる友達。ダウジングにハマり過ぎるなということだろうか?
クラスメートと分かれてから、100メートル……200メートル……。
「くるぽ、くるぽ、くぅるるるるる、くるぽ、くるぽ……」
友達は律義に、教わった声を出し続ける。
見つからなくてもともとがダウジング。ならば可能性が少しでも高まれば……。
そんなことを考えていると、不意に足元に反応が。
長い正座から、いきなり立とうとした時に似ている。地面につけたつま先から、ピリピリとしびれが駆け上がってきた。
意識しないまま膝をついてしまう友達だったが、それ以上に、両手に持つダウジングロッドの異変に気を取られがちになる。
ロッドは急激に重くなった。手放す余裕もないまま、足元へ一気に拳が引き寄せられ、パンチを見舞う形に。あっという間にめり込んだ拳が、すっかり地面の中へ隠れてしまう寸前、ようやく友達はロッドを手放せたらしい。
引き抜くときには、さほど抵抗がなかった。代わりにロッドはみずから地面に埋まっていき、見えなくなってしまう。その姿が土の中へすっかり隠れてしまうと、ほどなく小さな双葉がふたつ。それぞれロッドの埋まったところから顔を出したんだ。
そのことをクラスメートへ報告したところ、満足げにうなずいたらしい。
いわく、ダウジングはこちらが求めるばかりにあらず。向こうから求めているケースも存在するのだとか。
クラスメートのダウジングは、むしろそちらの方が本来の仕事で、地面の向こうの「求め」を探しているらしい。この枝のロッドも向こうの需要に応じたものであって、あの「くるぽ、くるぽ」も、向こうへ知らせるための合図なのだとか。
あまり飢えさせると、それはそれでやっかいなことを引き起こしかねないから、ともいっていたらしいな。