ポテチは私の好物
今までもこれからも俺は霊的な何かなんて信じるつもりはない。
と言うより信じていない。
そもそもおかしい話だ。何かが見えるだの、何かがそこにいるだの。俺からすれば、有名になりたい、自分はすごい人だと注目を浴びたという風にしか聞こえない。
だっていると言われても、そんなもの。見えていないのだから。
それは幻覚か思い込み、もしくは嘘。そうでしかないからだ。
霊媒師や、超能力者、異端者に悪魔、妖怪、怪物、悪霊、神、天使。
みんな面白いから使うだけで。
儲かるから信じさせようとするだけの虚言。
生きていて痛いほどわかった人間の悪い所だ。
別に見えないモノを信じないと言っている訳ではない。
確かに運命や、巡り合い、決まっていた定めなどは信じている。
目に見えないし、形に無い。それを立証できる説明もできない。何故そんなことが起こったの?と聞かれれば。
”それが運命だからだ”としか答えようのない事柄。誰も事細かに経緯を説明できる者などいない事象。
だからこそ人は形の無いモノをそのままにしておくのを怖がる。何かに付けて何かのせいにしたい生き物だから。
だから、その説明の出来ない事柄に神だの悪魔だのを当てはめて使う。なんとも自分勝手な話だけれど。
そして勝手に作り出した自分の話を本当にする為に、安心を求めて、人に植え付けようとする。強要させようとする。
だからこの手の類の話をしてくる人が俺は嫌いなのだ。
テレビなんか特にそうだ。人に情報を与えるテレビがあんなものを信じさせようとしてくる番組を放送するなど、人間性を疑う。
じゃあ、ここで俺の横にいて、楽しそうにポテチを食っているこいつはいったい……なんだ?
黒い羽に小さな鋭い牙が生えている。頭にも小さな角のようなものが二本可愛く頭を出している。
それに極めつけはうねうね動いてる尻尾。黒くて先っぽが尖がっている。硬いのか?柔らかいのか?触るな!などと言うので、わからないが。
よく動く尻尾。
そして綺麗な透き通る金髪の女の子。目を開けた時に見える綺麗な薄水色の瞳。
見た目は普通の小さな女の子なのに余計なものが色々と付いているのだから、普通の、”人”では無いのだろう。
コスプレを疑ったが、ずっと一緒にるとそれがコスプレでない事がわかった。
◆
はぁ――――――。
彼はため息をついていた。それは目の前の彼女のせい。
コイツが何なのかはさておき、何かと食費がかさむと思って彼は目の前の生物を見ている。
なぜなら彼は独り暮らしのアルバイターだからだ。
まぁ、独り暮らしの寂しい空間の日々に、こいつの笑顔には癒されているのだが……。
と彼はいつも心に唱えている。
「お前今ポテチ何袋目だ?」
「ん~?二個~」
うれしそうに答える目の前の少女。ベットの上でむしゃむしゃと手を止めづにむしゃぶりつきながらテレビを見ている。
足がつかないのを利用してバタバタと足を動かしながら食べる姿はまさに子供。 落ち着きがない。
彼はそのベッドの下に落ちているポテチの袋を見る。
投げられた袋に、ベッドや床に散らばる食べこぼしのカス。
そして、
「お前!ポテチ食べすぎ!」
彼女の目の前から音速でポテチが消えた。
「うわぁぁあぁぁぁぁぁー。
何をするんだ!お前!何をしている~!返せぇ~」
彼女からポテチを取り上げた。
彼女は怒って、足のバタつきを止めた。頬を膨らませ目を顰めて彼を睨む。
「何をするんだ!貴様私を怒らせたいのか?」
「怒らせたいのか!じゃない!食べすぎなんだよ!
大体な、周りを見てみろ、こぼし過ぎなんだよ。ベッドがギトギトだろが!
これから寝ようと言うのに、ベットの周りは食べかす。
落ち着いて寝れるほどのきれいさは失われていた。
「それにお前これで五袋目だろがい!」
「黙れ!私が何袋食おうが私の問題だろうがい!ユウカには関係ない。
それに、そんなに食ってない!」
付け加えるようにぼっそと強調する彼女。
「真似して言うな!
大体、そんなに食ってないだとぉ。
お前本気でいってるのか?
なら、お前、何個食べたつもりでいるんだ?」
一瞬彼女は分かりきったような事を聞くなと言わんばかりに目で訴える。
「二個だ」
彼女ははっきりと答え切った。
「は?
二個?」
何故二個と言ったのか彼には分からなすぎで、呆れる様に投げ捨てた。
「だったらお前、……足元に落ちてる袋数えてみろ」
彼女は下を見て数えだす。
「いち、にぃ……、
さん。」
さんだけ声が小さかった。
「さん??」
「ちょ、ちょっと間違えただけじゃないか。
一袋ぐらい。
誰だって数え間違えることがあるだろう。
お前細かすぎるにもほどがあるぞぉ」
目が棒になっていた。
完全に彼女が押されている。
袋を数えると二個ではなく三個も落ちていた事実からは逃げられない。
だから彼女は自分の過ちを流そうとしている。
自分の過ちに非が立ったのに少し赤面しながら。
そして彼女のお尻の下からは、ポテチの袋の先が少し顔を出していた。
「お前三個じゃねぇだろう……」
「三個だろ、三個、どう見ても三個しか落ちてないじゃないか。お前えの目は節穴なんじゃないのか~。
病院でも言ってその目を見てもらったほうがいいな」
彼が数え間違えていると察した彼女の顔は急に自信ありげになり、余裕が見える表情に変わった。
「お前のケツから何か見えてるんだが。
それはいったい何かな?」
目を細めてユウカは攻める。
彼女は手で触ってポテチの袋を確かめた。
「こ、れは、ポテチの袋だ……
な。」
「だよな??三個じゃないよな?」
「うぅっ、よ、四枚あるな。
じゃ、じゃあ私が食べたのは四つだ。四個食べた。」
「四個じゃねぇ――――!五個じゃ―――ぃ!」
コツンと頭を叩かれる。
「イチャイィっ。
な、なにをする。ぶ、ブツことはないだろうが!
何なんだお前は!
なんとも酷い。
高貴な私の大事な頭をブツなんて。
頭がおかしくなったらどうしてくれるのだ!」
「もう十分おかしいわ。大体なんだ。ポテチ五個も食いやがって。コレ一番高い大袋のポテチだろうが!しかもそれ五個も食いやがって。これいくらすると思ってるんだ。お前さっき晩御で飯死ぬほど食べてたよな。
それにこんなに食って気持ち悪くならないのかよ。
こんな夜中に食ったら太るぞ、こんな炭水化物と油の塊を。
女の子はそう言うとこ気にするだろう普通。」
彼女の食いっぷれにもう半分呆れてもいる。
彼女の細い華奢な体を見て心配すらしていた。
「誰が頭がおかしいだぁ!
まぁ、よいわ。それにな、私は食っても太らないのだ。
残念だったな。
フッフッフ。うらやましいか人間よ。」
「何が羨ましいだ。そんなに元気ならお前の食費分働け!」
「何を訳のわからない事を言っている。それは私が外の世界に出ても良いと言っているのか?
そうであるのならば私は喜んでこの巣から羽ばたこうぞ。」
彼女は背にある翼を小さく広げ、パタパタと羽ばたきだした。
ニヤッとした表情で彼をじっと見つめながら。
本気で飛ぼう等とはしていない。彼女が飛ぶときはもっと羽根を大きくする。こんな小さな状態の羽では彼女の体を持ち上げることすらできないから。
これは彼女なりの冗談を混ぜたお茶目な挑発だ。
「くっ、もういい。明日も早いからもう寝るぞ!」
「おい、待て。そのポテチはまだ食べ終わってないぞ!返してくれ」
「もうポテチはいい、また今度食べろ。
もう電気消すから、早く歯磨けよ」
「待ってくれ、そんなことしたらポテチが湿気てしまう。
お前、開けたものは最後まで責任を持って食べろと言うただろう。
それに毎日のように言っていたではないか。お残しはいけませんと。
開けたのはわたしだ。最後まで責任をもつ。だからそれを渡してくれ。」
「アホか。それとこれとは別だ。」
ユウカは中のポテチが湿気ないように袋の裂けた口を、残ったポテチの方向へ小さく折り、くるむように巻いていく。
しかし、折っても折っても中のポテチに当たらない。
袋の中身はほとんど無くなっていた。
「はぁぁ。
まぁ、もう袋の中ほとんど残ってねぇし。
もういいか。これ食ったらもう寝ろよ。」
彼女は嬉しそうだった。
「おお。そうか。うむ。わかった。」
嬉そうに手を伸ばしてきてポテチを受け取った。
またバリバリとつまみ出す。
はぁ、何だかんだで最後はこいつもこいつの思い通りになるな。
して、やられている気分だと、ユウカは彼女を見つめながら思った。
少しでも早く眠りたいユウカは、寝るのが遅くなってしまわないように床に布団を引き始める。
もちろん、この布団はいつもユウカが寝る布団ではない。
ベッドの上でむしゃむしゃとポテチを食べている彼女の布団である。
床に散らばっていた袋の食べかすもしっかりとユウカは掃除した。
「明日は早いんだ。俺はもう寝るぞ。
食べたらちゃんと歯を磨いて、今手に持ってる袋はちゃんとごみ箱に捨てて、電気を消してから寝ろよ。」
「うむ。わかっておる。
んんん、やはりこやつはおいしいなぁ。これを考えたものは天才だ。
やはりポテトスナッチは最高じゃ。」
彼女はひょっと身軽にベッドから降りると、静かにそろっと部屋を出て、また戻ってきた。
ユウカの寝ている姿を見ながら微笑むと、電気を消して、彼女も布団に入った。




