第七十九話 呪い
「【グランドウォール】!」
「【エアウォール】!」
アリスとリアがとっさに魔法を唱える。
風の壁が生み出され、さらにその内側には大地の壁が出来上がった。
これで、エビルブラックホールの口から放たれる無数の木や岩を、ある程度は防ぐことができるはずだ。
「破られたらまた張り直すから、それまでは回避に専念してちょうだい」
「了解。私の【エアウォール】だと、飛んでくるものの勢いを弱めるので精一杯みたい」
「それでも無いよりはマシよ」
「ピュ」
十五秒も経つと、大地の壁にヒビが入り出してきた。
これ以上はもう持たないだろう。
飛んでくるものに全意識を集中させなければ、避け続けることはできない!
「来るわよ!」
アリスの声と共に大地の壁が破られ、たくさんの木や岩が飛来してきた。
「【身体強化】!」
アリスは残った魔力で身体強化を使い、森の木々を遮蔽物にして動き回りながら躱している。
「【ウィンドショット】!」
リアは岩などの大きくて固いものは躱し、木などは【ウィンドショット】で撃ち落としながら逃げ回っている。
森の木々を遮蔽物にしてはいるが、岩などのデカくて硬い飛来物が俺とアリスより多いためあまり意味はないみたいだ。
エビルブラックホールの放った岩が木にぶつかると、木のほうは耐えきれずにへし折れてしまっている。
俺のところへ来る飛来物はほとんどが木だ。
時おり【ファイアーボール】を使ったりしながら飛び回ることで、順調に躱すことができている。
「【グランドウォール】!」
アリスが飛来物を避けきって、もう一度【グランドウォール】を発動させた。
「みんな大丈夫?」
「ピュイ」
「なんでかわからないけど、私のところにばかり岩が飛んでくるんだけど……。私の風魔法じゃあんな勢いで飛んできている岩を撃ち落とすのは無理」
「すーちゃんはリアのサポートに回ってくれる? 岩以外の飛んでくるものを魔法で撃ち落とすのを手伝ってあげて」
「ピュイ!」
話が終わる頃には、また大地の壁にヒビが入り出した。
「【身体強化】!」
アリスは、魔力の消費を抑えるために解除していた【身体強化】をもう一度発動し、飛来物をかわす準備を整えている。
大地の壁が砕け散り、木や岩などがまた飛んできた。
「【エアショット】!」
リアは魔力が残り少ないのか、魔力消費が少ない【エアショット】で飛んでくる木を撃ち落としている。
幹が太い木などは、俺も【ファイアーアロー】で追撃することで撃ち落とすことができている。
リアのサポートをする合間に、俺の方に飛んでくるものも的確に避けていく。
【高速思考】をフル活用すれば、周りに気を配りながら避けることも難なくできる。
このまま躱し続けていれば、直ぐに攻撃は終わるだろう。
『グオォォォォォォォオオオオオォォォオォォオオ! せめてお前だけでも道連れにしてやる!』
エビルブラックホールのおぞましい声が聞こえたあと、特大の酸弾が飛来物の中に混じって飛んできた。
ヤバイ、この軌道だとリアに当たる!
「ピュイ!」
酸弾に向けて、かなり多めに魔力を注いだ【フレア】を放つ。
飛んでいった【フレア】は、酸弾の左側で爆発した。
爆風の影響で酸弾が右側、俺の方へ水しぶきのように飛んでくる。
リアは【フレア】の爆風に乗って、左後ろに下がったことで何とか酸弾を躱すことができていた。
あとは、俺の方に飛んでくる酸弾だけだ。
【フレア】を撃った段階でこうなることが予想できていたので、【フレア】を撃った直後に左上に上昇していたので当たるはずはなかった……。
が、俺の予想より酸液が飛び散ったため、右の翼の先の方に酸液がかかってしまった。
「ピュッ……!」
翼に焼けるような激しい痛みが襲いかかる。
酸液がかかったところを見れば、翼の先が溶けてなくなりそこから血が滴っていた。
「大丈夫!?」
「私があの液体をひとりでかわせなかったせいで……ごめんね、すーちゃん……」
「ピュウ」
翼はものすごく痛いけど、命に関わるほどじゃない。
俺がちょっと痛みを我慢すればいいだけだ。
なにも問題はない。
リアがちょっと泣きそうになっていたので、怪我をしてない左の翼で背中をさすっておいた。
めっちゃ痛いけど、俺は大丈夫だ。
それに、今回のは酸液が飛び散る範囲を低く見積もりすぎた俺のミスだ。
酸液がかかったのは翼の先だけなのであまりダメージにはなっていないが、単純な痛みだけなら転生してからこれまでで一番だ。
この世界で生きていれば、この先これ以上の怪我をすることがあるかもしれない。
というか、絶対にある。
ここは日本みたいな平和なところじゃないからな。
それに、己の身ひとつで生きていかなければならない野生環境で暮らしているわけだしな。
もしも、今後そうなったときに痛みでなにもできずに死ぬなんてことにはなりたくない。
そういう意味では、今回ダメージを負ったことで痛みを味わったのはいい経験になっただろう。
おかげで、戦う覚悟がハッキリできた気がする。
「あのバケモノはどうなったのかしら?」
そういえば、エビルブラックホールの存在を忘れていたな。
攻撃が終わったあとから反応が一切なかったから、存在を忘れていた。
でも、エビルブラックホールは「道連れにしてやる」とか言ってたから、多分すでに死んでるんじゃないか?
倒れていたエビルブラックホールに近づくと、かろうじて生きているのがわかった。
とどめを刺すか。
『グオォ、やっと、やっと呪いが解けた……。誰だかわからないが、私の呪いを解いてくれてありがとう。これで、もう食い荒らさなくて済む……。森も……人も…………』
そこまで言ったところで、エビルブラックホールは力尽きた。
そして光の粒子となって消えていく。
死体が残らない理由はわからないが、最後の話しぶりから考えると成仏できたのだろう。
「なにか変な呪いにかかってたみたいね」
「光になって消えた……」
「こんな魔物は初めてね。なんだったのかしら」
リアは俺が背中をさすったことで、落ち着きを取り戻してくれていた。
それから、エビルブラックホールが飢餓に苛まれていたのは、何かの呪いだったようだ。
最後に喋ったときは、声におぞましさが一切なかった。
それに光の粒子となって消える直前には、口のブラックホールは無くなり体色も禍々しいものからクリーム色になっていた。
やっぱエビルブラックホールってヒルなんじゃないか?
それはそれとして、とにかく戦いは終わった。
誰も大怪我は負わなかったし、エビルブラックホールのほうも呪いが解けてこれ以上喰わなくて済んだみたいだったから、お互いに良かったんじゃないかな。
俺の翼の怪我に関してだが、魔獣って自然治癒力高そうだから休んどけば生えてくるんじゃないか?
生えてこなくても、翼の先っちょが少しなくなっただけだから、傷が塞がれば問題なく飛べるだろう。
練習は必要そうだけど。
エビルブラックホールを異世界から来た存在にした理由は、一言で言うなら「世界観に合わなかったから」です。
作者がエビルブラックホールを出したいってなったんですが、あんなヤバイやつが急に現れたら明らかにおかしいし、世界観に合ってなくね? ってことで今回のようになりました。
主人公がいる世界とは別の世界から来たのであれば、こんなやつがいてもおかしいとは言えませんからね。
今後も、こういったやつを出したいけど世界観に合ってないなってなったときには、異世界から来た存在として出すかもしれません。
ただ、異世界から来た存在というのを重要な立ち位置にするつもりは全然ないです。
あと、今後エビルブラックホールみたいなのを出す予定は今はありません。
今後異世界から来た存在が出てくるとしても、当分先になります。
今回の話が思ったより長くなったので、エビルブラックホールの裏設定は次回話します。
まだエビルブラックホールの設定の一部を本編の方で回収できていないので、次回に回させてください。





