第百七十八話 交流会
『……というわけだ』
「そういうことか。俺の思い違いで良かったぜ」
「そうよね。ノアが幼女を誘拐するわけないわよね」
「ノアはそんなことしないって私最初から信じてたよ」
俺の傍にケモ耳美少女がいることについてのいきさつを説明したら、すんなりと信じてもらえた。
オーク集落で会った時に、俺の後ろに子ぎつねがいたのを見たからだろう。
なんにせよ、俺がロリコンのヤバいやつとかいう誤解は解けたから良かった良かった。
誤解が解けたから、子ぎつねに彼らを紹介する。
『右からゼスト、アリス、リアだ』
ゼストたちが子ぎつねに軽く挨拶する。
「よ、よろしく……」
子ぎつねは俺の翼の裏で半分体を隠れたまま、そう返した。
「かわいいわね。私はアリスよ。よろしく」
一番に挨拶したのはアリス。
種族こそ違えど、同じ狐ということで親近感を感じているらしい。
だが、それは一方的なようで。
「……ノア、この子人見知り?」
『まあ、そうだ』
「おいで。怖くないわよ。大丈夫よ」
アリスが優しく呼びかけても、子ぎつねは俺の後ろに隠れたままだった。
地面にがっくりと膝をつくアリスであった。
「俺はゼストだ。よろしくな」
ゼストが挨拶するが、子ぎつねは俺の後ろに隠れたまま。
というか、怖がっているみたいだ。
『普段のゼストって不愛想な表情してるもんな』
「そうそう。初対面だとちょっと怖いわよね。ムキムキで背も高いし」
リアがうんうんと頷く。
「……否定はできないな」
ゼストがちょっとムスッとした顔で、そう答えた。
「ゼストいっつも子供に怖がられてるわよね。否定できるように頑張りなさい」
「善処する」
『それしないやつやん』
俺たちが話していたら、リアが目線を子ぎつねの高さに合わしてから話しかけた。
「私はリアだよ。よろしくね」
リアが優しく微笑む。
子ぎつねがリアを見つめる。
暫しの時間が過ぎ、リアが腕を広げてから口を開いた。
「おいで」
「ん。わかった」
子ぎつねが俺の翼から手を放して、リアのもとに駆け寄る。
そして抱き着いた。
「リアお姉ちゃん大好き!」
「よしよし。いい子いい子」
リアが子ぎつねを抱きしめながら、片手でその頭をなでた。
それに納得がいかない人がいるようで。
「ちょ、なんでリアには懐くの!? 私も抱きしめて頭撫でたいわ! うぎぎぎぎ……!」
「落ち着け。どうどう」
歯ぎしりするアリスをゼストがなだめる。
その横で、子ぎつねがリアに撫でられて心地よさそうにしている。
「むぅ……! 悔しいわ」
「にしても、なんでリアにはあんなに懐いたんだ? 俺はともかく、アリスにも懐きそうなものだが……」
思い当たるふしはただ一つ。
『あー、たぶん彼女もこっち側だからかな。だからリアと打ち解けられたんだろ。類は友を呼ぶっていうし』
「なるほど。そういうことか」
人見知りが激しい子ぎつねのことだから、アリスには感じなかったシンパシーをリアには感じたのだろう。
厨二病という共通点を。
「く……! こうなったら私も厨二病になるしかないわ!」
「何アホなこと言ってんだ、アリス」
「そうだゼスト! アンタもこっち側来なさい! 一緒に厨二病の道を進むのよ!」
「お前なぁ。俺は戻る気はないぞ。絶対にだ。一回冷静に考えてみろ。攻撃するたびにいちいちイタイ技名叫んでポーズ決めるんだぞ? リアは微笑ましい目で見られてるが、俺たちがやったら変な目で見られるんだぞ? いいのか?」
「うっ……それは……」
アリスは暫く考えたのちに、
「それは嫌だわ」
と、答えた。
『もうちょっとでアリスも厨二病の沼に引きずり込めそうだったんだけどな』
「ありがと、ゼスト。もう少しでノアに引きずり込まれるところだったわ」
『せっかくリアとこっそり【念話】で厨二病の沼に引きずり込む算段を立ててたのに』
「怖っ! 何やってんのよ」
プライベートモードで【念話】してた時のリア、ものすごいウッキウキな声だったんだけどな。
「まあ、いいわ。そろそろ本題に入りましょ」
「そうだな」
『ん? 本題って俺のところに来た理由か』
「そうよ」
というわけで、いつものようにシートを広げてその上に腰を下ろす一同。
子ぎつねはリアの膝の上にちょこんと乗っかって、頭を撫でられている。
俺はオークキングの肉に香草と塩をかけて焼いたものをみんなに振舞った。
在庫はいっぱいあるからな。
一食分ふるまったところで大して問題はない。
「過去一でおいしいわね」
「うん。これならいくらでも食べられるよ」
「超高級なオークキングの肉……。シンプルな味付けだけで他の肉の追随を許さないくらいうまいな」
オークキングの肉は、みんなから好評だった。
特に食べることが大好きなリアから。
ちなみに子ぎつねは、みんなの見よう見まねなたどたどしいフォーク使いで肉を刺して、ちょっとずつ口に持っていってはモグモグしている。
「ごちそうさま。それで俺たちが来た理由だが、お前に礼を伝えるためだ」
『俺たちがオークの集落を潰したことは、この前会った時に礼は伝えられたけど』
「いや、お前がオークたちに捕まっていたところを助けたあの女性からだ。俺たちと話をした後、疲れてるからって言ってすぐに帰っただろ」
なるほど。そういうことか。
あの女性とは、オークキングの戦いが終わった後はほとんど喋ってなかったからな。
「助けてくれてありがとうございました、って伝えるように言われたぞ。何度もな。お前に相当感謝してるみたいだったな」
「オークに捕まっていたところを助けてもらったんだから当然よね。私もオークに捕まったらと思うと、ゾッとするわ」
子ぎつねにフォークの使い方を教えていたリアも、こっちを見て頷いていた。
『じゃあ、礼はしっかりと受け取ったぜって伝えといてくれ』
「おし、任せとけ」
「あと、これ忘れものよ」
アリスがそう言って、【次元収納】からでっかい包丁みたいなのを取り出した。
『これは……オークキングが持っていたミートクラッシャーか』
「そうよ。持っていくの忘れていたでしょ」
このミートクラッシャーは、通常のミートクラッシャーとは違う。
オークキングと一緒に誕生するミートクラッシャーの中でも、一定の確率でしか誕生しないレアものだ。
相手の魔法と同等の魔力を込めることで、斬った魔法を無効化する能力を持つ。
今までであればゼストたちに譲っていたが、今は子ぎつねに持たすなり投擲するなり使い道がある。
だから、受け取ることにした。
「はい」
『ありがとな』
ミートクラッシャーを【次元収納】にしまう。
「完全に【次元収納】を使いこなしてるわね」
『アリス先生の教え方がうまかったからですよ』
「そうでしょうそうでしょう」
「アリス先生の指導、擬音語ばっかでよくわからなかった気がするんだけどな」
「ちょっと一回黙りましょうか」
「拳握ってにじり寄ってくんな。怖いから」
ゼストが素早くアリスから距離を取った。
「アリス、この子が怖がってるから落ち着いて」
リアのほうを見れば、子ぎつねがリアの後ろに隠れていた。
拳握って笑顔でゼストに詰め寄るアリスが怖かったらしい。
「……まあ、いいわ。命拾いしたわね」
「恐っ! 殺す気だったのかよ」
「用事があるから私たちはそろそろ帰るわ」
「お前の伝言きちんと伝えとくからな」
ゼストたちは冒険者業で忙しいみたいだ。
「もうお別れ?」
子ぎつねがリアにそう問いかけた。
すごく寂しそうな表情を見るに、リアとはかなり打ち解けることができたみたいだ。
「うん。だけど、またすぐ会えるからね。それまでいい子にしておくんだよ」
「ん。わかった。リアお姉ちゃんバイバイ。それからアリスお姉ちゃんとゼストお兄ちゃんも」
子ぎつねがゼストとアリスにも手を振る。
その仕草が心にぶっ刺さったのが一人。
「やっぱり可愛すぎるわ! せめて最後に一回でいいからハグさせて!」
言わずもがなアリスである。
「……今はダメ。してほしかったら私に打ち勝ってから」
『よくわからないけど、ライバル認定されたみたいだな。今度頑張れ』
「じゃあ、次会ったときに勝負よ!」
「受けて立つ!」
俺となぜか気合の入っている子ぎつねは、帰っていくゼストたちを見送るのだった。
活動報告にて、三作目のタイあらを公開しました。
タイトルだけはこちらにも記載しておきますね。
「飯を作るしか能のないザコは必要ねぇ!」と追放された私、奈落の底で素敵な彼女できました~私のギフトの効果を知ったとたん泣きついてきたけど、もう遅い。得意の料理で彼女と一緒に最強目指すんで~
こんな感じの百合グルメ系追放ざまぁです。
気になった方は活動報告からあらすじのほうも見てください。
投稿はおそらく二週間後くらいからだと思うので、その時はよろしくお願いします。





