第百七十五話 カオスエレメンタルテイル
『変身完了!』
子ぎつねを包んでいた光が晴れる。
中から進化を終えた子ぎつねが飛び出してきた。
『どう?』
子ぎつねが期待のこもった眼差しで俺を見つめてくる。
体長のほうは大して変わっていないが、進化によって毛の色が一部変わっていた。
これまでは耳の先っちょと右前足の毛が黒色で、ほかは全て純白の白色だった。
それが、進化によって黒色の部分が増えている。
足は四本ともすべて足首の上の部分まで黒く染まっており、しっぽも先のほうが黒くなっていた。
あとは瞳の色だ。
最初は黄色で、初進化後には黒色になっていた。
それが、今回の進化でまた透き通るような黄色に戻っていた。
……見た目の変化はこれくらいか。
『かわいらしさと厨二的カッコよさを両立しててすごくいいぞ』
『でしょ~。それに、もふもふ具合は私のほうが上だから!』
『なんの! 俺の毛だってだいぶもふもふだぜ。ちょっと毛が短めなのがアレだが、首元のマフラー部分は俺のほうが上だから! フカフカ度と保温性と触り心地は高級ホテルのベッド並みだから!』
まあ、俺、高級なホテルに泊まったことなんてないんだけれども。
『じゃあ、私が身をもって確かめてみる』
暫く子ぎつねのじゃれあいに付き合っていたが、子ぎつねがすぐに疲れてしまったためステータスを確認することになった。
豚王との戦いでだいぶ疲労がたまっていたらしい。
『ステータス・オープン』
子ぎつねの目の前に、半透明のボードが現れた。
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種族:カオスエレメンタルテイル Lv1
名前:なし
状態異常:なし
体力 :423/423
魔力 :112/488
攻撃力:281
防御力:329
魔法力:423
素早さ:393
ランク:B+
固有スキル
【鑑定】【言語翻訳】【獲得経験値倍化】【方向把握】【念話】【ダークフィールド】【人化の術Lv4】
スキル
【体力自動回復Lv2】【魔力自動回復Lv2】【噛みつきLv4】【爪撃Lv4】【テイルアタックLv4】【風属性魔法Lv8】【闇属性魔法Lv5】【グラビティLv1】【気配察知Lv7】【魔力制御Lv9】
耐性スキル
【風属性耐性Lv7】【闇属性耐性Lv5】【魔法耐性Lv3】【物理耐性Lv1】【毒耐性Lv4】
称号
【転生者】【愛され狐】【もふもふ】【半精霊】【ウィンドマスター】【漆黒の使い手】
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『B+!? 数時間前までの俺よりもランク上じゃん!』
『どや!』
子ぎつねが自信満々に胸を張る。
これ、気を抜いてたらすぐに追いつかれかねねぇな。
『すぐに私もAランクに進化するから!』
『そのころには俺はSランクになってるから!』
『じゃあ、私はS+になる!』
『じゃあ、俺はSSランクだ! あるのか知らんけど』
『なら、私はSSSランク!』
『俺はSSSSランク!』
『私は魔王に……』
『いやいや、俺は魔神に……』
これ、あれだ。
小学生の口喧嘩だ。あの少年漫画みたいにインフレしまくって延々と続くやつ。
それに気が付いた俺たちは、謎の勝負は引き分けということで終了した。
てか、なんだよ? SSSSランクって。
俺のIQ二桁あるかも怪しいレベルだぞ……。
疲れでテンションがおかしくなってるのかもしれないな。
それでも、徹夜してからボ〇ボボ見て頭おかしくなった時よりはマシだが。
『見て見て! 新しい魔法増えたよ!』
『【グラビティ】……重力魔法か』
あれ? この子かなり特殊な進化たどってない?
重力魔法とか初めて見たんだが。
『重力魔法とか絶対強いて』
海軍大将とか、超能力で重力すら操れるヒーローとか、超能力秘密結社の支部長とかetc……。
重力を操れるキャラって、ほとんどみんな強キャラだよな。
『オークキングのお肉食べたい!』
ステータスを見終わった子ぎつねが急かしてくる。
俺としては、固有スキルの欄に増えていた【人化の術】がすごく気になるのだが……。
俺は人間に戻りたいとかは思わないが、器用な人間の手だけは戻してほしい。
【人化の術】みたいに人の腕を生やせるスキルはないのだろうか?
……あったとしてもキモいな。
客観的に想像してみたが、俺の胴体からにょきっと人間の腕が生えてくるわけだろ。
ないわ。普通にキモいわ。うん。
『すぐに焼くからちょっと待ってろ』
【次元収納】から豚王の肉(一番いい部分)を取り出し、魔法の炎で焼いていく。
もちろん塩と香草をかけて。
肉から滴り落ちた脂が、炎の中に落ちてジュッという音を立てる。
濃厚な香りが辺りに漂い、俺たちの鼻孔をくすぐる。
『ほれ。できたぞ』
『絶対おいしいやつだ! いただきます!』
子ぎつねが目を輝かせながら、肉にかぶりついた。
そして幸せそうな声を上げる。
『おいし~』
『俺も食べるとするかな』
一口噛めば、熱い肉汁が口の中に流れ込んできた。
遅れて、主張の激しい旨みと香草のさわやかな香りがやってくる。
『なんだこの豚肉。超うめぇ!』
オークの上位種がスーパーで売ってる安い豚肉だとすると、こっちは最高級の黒豚なんじゃないかってくらい差があるぞ!
そんくらいうめぇ!
これだけで豚王と死闘を繰り広げた甲斐があったと思えるわ。
そうこうしているうちに日が完全に暮れたので、晩飯を終えてから俺は子ぎつねを家に送り返した。
ついでに親ぎつねに豚王の肉を少し差し入れしておく。
『いつもありがとね。これはしっかりと味わって食べるわ。それにしても驚いたわよ。帰ってきたと思ったら、二人とも進化してるんだから』
『私、ママのランク追い越したんだよ!』
『これなら安心して背中を押せるわね』
子ぎつねはもうじき巣立ちを迎える。
これだけ強くなったんだから、親ぎつねも安心して送り出せるだろう。
B+ランクといったら、あまり実感はないが高位の魔獣だからな。
『それじゃあ、俺はもう帰るぞ』
『わかったわ。お肉のお礼だけど、今度クナの実が生えている場所を教えてあげるわよ』
『今日はありがと!』
二人に別れを告げた俺は、のんびりと帰路についた。
【エクスプロージョン】の検証や魔法の研究など、やりたいことは山積みだ。
五月投稿予定の新作については、そのうちタイトルとあらすじを活動報告で公開します。





