楽しい日常
「ミア、お前のことは信じているが本当にいいのか?本当だな?
あぁーっ、公爵様に見付かったらどう言われるか。」
「良いって言ってるでしょ。しつこいわ。お父様もお母様も社交界で秋まで帰ってこないわ。絶好のチャンスじゃない。それに、 誰のお陰であなたのお姉様が結婚できたのかしら。」
「うっ、そうだよな。流すぞ…。うぇぇー。」
少年がそう言って、畑の肥やしを流したのは昨日の事だ。
少年は、ミアの屋敷の敷地の離れに住み込みで働いている庭師の孫のジェイクという。彼はミアより5つ年上で、ミアの小さいときからの遊び相手をしている。遊び相手と言っても、子供らしい遊びは行わない。ミアの突拍子もないアイデアを現実にさせるために、手足となり作業をするのだ。初めは年上ながら、えんえん泣いてしまうほど扱き使われた。親には、公爵令嬢の遊び相手という身分には合わないほどの好条件に、無駄口叩くんじゃないと怒られ、半ば仕方なく付き合っていた。だが、そのアイデアが実現すると、成果報酬として高級菓子や成果物が貰えた。そのお陰で、この世界にはヴロワ領しかないシャワーや、シャンプーが平民のジェイクの家にもある。
実家の花屋で働いていた彼の姉が結婚できたのもミアの力が大きい。元はニキビ面だった顔が、ミアの作った温水シャワーで綺麗になり、シャンプーで髪の毛がサラサラになったからだ。社交界で輝く貴族の子女でさえ、毎日の湯浴みを行わず、髪を洗っても石鹸でしか洗っていないので、きしんでいるのだ。シャンプーをした彼女の髪は、香油を付けていないのに艶があり、その清潔感から商家の跡取り息子に見初められ、今年の春に入籍したのであった。
また、ミアの両親からは、娘に変な子を側に置けないため、衣服や勉学を与えられていた。彼を、最終的にはミア付きの執事にするのが、ミアの両親の実際の思惑であるが。
これらの事から、ジェイクはミアの元から離れることが出来ないのだ。知識を得た今では、ミアの新しい発想が面白くて側にいるのだが。
「さあ、開けるわよ。」
ミアが塞き止めていた蓋を外すと、さらさらと、透明になった液体が箱から流れ出てきた。
「まじかよ。凄いな。臭くないし。どこでこの発想が浮かぶんだか。」
「ほーっほっほ!もっと誉めてくれて宜しくてよ。成功よ。これで臭いトイレとはおさらばよ。直ぐにでもお父様に電報を送って屋敷のトイレやお風呂に繋げなくっちゃ。」
「えっ?流石に令嬢が便を使って開発したって伝えていいのか?
作ったとしても、この仕組みが広がったら、便所令嬢として名が広まるかもしれないぞ。」
「あら、そんな事は無いわよ。あなたの手柄にするから。便所少年としてこれから精進してね。ふふっ。」
「げっ、便所少年はやめてくれ。」
流石に元理系の技術者の転生者で、この仕組みを知っていたとは伝えていない。
この後暫く、二人は、綺麗になった水を眺めてうっとりしていた。
「はぁー、ミア様!またここにいたのですか。大奥様がいらしてますよ。ミア様の大っ好きなお茶会の時間ですよ。」
「お婆様もういらしたの?もっと遅くに来ればいいのに。分かったわ。行くわ。ジェイクまた今度。アデュー。」
侍女のステラが渋い顔をして迎えに来た。この様子も見慣れたものである。令嬢として誉められたものではないが、開発の成果が大きいことと、ミアの外部への猫かぶりが上手なため、目をつぶっている。しかも、手柄は毎回手伝うジェイクや下男に譲っているため、両親でさえ、ミアの発明の才能を知らないのだ。
ミアは両親にまで猫をかぶっており、ミアのことは、先見の眼がある可愛い天使として、盲目の親バカの両親はミアの行動に口を挟まないのであった。