彼女とは
神々しい美しさを持った少女がせっせと顔に似合わない作業をしている。6畳一間の大きさはある巨大なコンクリートの箱の蓋を開け、土や炭を流し込んでいた。その箱からは地中に大きな管が延びており、出てきたものが川に流される仕組みとなっていた。お気づきだろうか。これは下水処理の仕組みだった。この少女の年齢、服装、身分のどれをとってもこの場所にいることが異質であった。だが、下水処理施設がこの世界にあることの方がもっと異質であった。
彼女の名は、ミア・ヴロワという8歳の少女だ。金髪、紫の眼を持ってフィルクスタ王国の公爵家長女として生を受けた。そして彼女は転生者なのだ。
気がつけば、前世?の記憶を持っていた。記憶を使って行動し始めたのは3歳を過ぎた頃だろうか。ぞっとした。前世の自分が死んだことは、「そうか」の三文字で納得した。だが、この自分のいる環境が我慢出来なかったのだ。フリフリのレースが施された、高そうなドレスを侍女に着せられ、動きにくさしかない。淑女教育は厳しく、間違えば教師に鞭をふるわれる。といっても、中身28歳なので滅多に間違えないが。何よりも、可憐な服装やきらびやかな町並みに似合わない悪臭が鼻について、気分が悪くなるのだ。そう…、汚物。公爵家が所有している自然豊かな領地の邸宅の中であればまだ我慢出来る。王都となれば人口が密集しているとあって、道の隅には汚物が落ちているのだ。しかも、シャワーがない。シャンプーがない。ないないない。
幼いながらも、前世の知識と地位を活かし、快適環境を作ることを決めたのだ。