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白蓮の会

「では、代表を呼んできますのでこちらでお待ち下さい」


 なんだか怖い女の人に連れてこられたのは、六畳ほどの小ぢんまりとした応接室だった。小さな事務机を挟んで2人がけのソファーとワークチェアが対峙していた。

 しばらく待っていると代表とおぼしき女性が入ってきた。


「お待たせしました。代表の作田綾子と申します」

「東方学園高校2年の保坂敬です」


 作田代表は思ったより若く、30歳前後のきれいな女性だった。彼女は扉の外を見つめながらクスクス笑って言った。


「ごめんなさい、あの人ったら無愛想でしょ。ああ見えて根は優しい人だから気にしないでね。この活動は暴力団などから目の敵にされているので、危険から身を守る為に部外者を警戒せざるを得ないのよ」

「そうなんですか、大変なんですね。大凡のことは聞いてきましたが、そもそもここはどのような会なのですか?」

「まず、この会の名前だけど、柳原白蓮という人が名前の由来よ。この人は朝ドラの登場人物のモデルにもなったこともあって、吉原遊郭の娼婦をかくまい、自由廃業を手助けしたことで知られているの」

「自由廃業?」

「ええ、平たく言えば売春から足を洗うことよ。そういう女性たちを白蓮という人は社会的にサポートしていったの。私たちも同じことを目指しているのよ。

 もし売春をやめたいというハッキリとした意志を持った女性がいれば、その人と連絡を取って自由な生活ができるように社会的・精神的に手助けしていくのが私たちの活動なの。

 私たちはいくつかのワンルームマンションを所有しているので、身寄りのない女性はそこで匿って安全を確保し、その間に様々な身辺整理をしていきます」

「しかし、借金のカタに売られた女性が置き屋から逃げてしまうと、その売り手である親などは困りませんか?」

「そもそも多額の借金をしたからと言って、人の体を拘束することは法的に許されていないの。現実には女性が売られる背景には様々な事情があるけど、大抵の場合、よく調べれば体を売らなければならないほどのことはないのよ。

 ただ置き屋なんかがチンピラを使って脅したり、あの手この手でここから抜け出せないと囲いの女性たちに思い込ませてるから、みんな中々抜け出せないのね。だから私たちは彼女たちが安心して自由の身になれるよう全面的に支援していきます」

「よくわかりました。実はあなたがたに助けて欲しい女性ひとがいるんです……」


 僕は作田代表にあの少女のことを話した。もちろん僕が少女について知っていることはほんの僅かだけど、どうしても助け出したいという熱意を込めて訴えかけた。作田代表は親身になってその一つ一つに耳を傾けてくれた。


「なるほどねェ……素敵なお話ね。もちろん私たちはその方が駆け込んでくれば受け入れたいと思います。ただ、私たちは全面的にサポートはするけど、本人が主体的に動く必要があるの。だから意志のない人を助けることはできないことをまずわかって欲しい。

 もし保坂さんが本気でその人を助けたいと思うなら、あなたのすべきことは、何とかして彼女を説得することよ」

「わかりました、何とか説得します!」


 白蓮の会を出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。僕は大急ぎで自転車を漕いでサンタマリア学園に戻った。


 真夜中こっそり宿舎を抜け出した僕はあの場所であの少女が来るのを待った。もちろんあの少女がまた出てくるなんて保証はどこにもない。だけどここにいればまた会えるような気がしたのだ。ある意味これは賭けでもあった。もしもあの少女が現れたらきっと助けることが出来るという思召しに違いないと信じることにした。


 しばらく待っていると、ガサガサと物音がした。あの少女が現れたかと思ってみたら、同じテニス部のメンバー数人がやってきて、タバコをプカプカふかしだした。その内1人が僕に気づいて言った。


「あっ保坂……お前、このこと学校にチクんなよ!」

「別にチクんないよ。僕はしばらくここにいたいから、お前ら用が済んだらさっさと帰ってくれ」


 僕がそう言うと、彼らはタバコをふかしながらくだらない与太話に花を咲かせ、しばらくしてから宿舎に戻って行った。


 僕はタバコの匂いの残るその場所で、尚も少女が現れるのを待った。


 どれくらいの時間が流れただろうか、待ちくたびれた頃に白い人影が見えてきた。僕は目を凝らして見た。あの少女だった。少女はあの時と同じように白いドレスを着て月明かりに照らされてくるくると踊りだした。


「いつもここで踊っているのかい?」


 僕が突然声をかけたので少女は少しびっくりした様子で立ち止まった。そして静かに話しはじめた。透き通るような清々しい声だった。


「私、上手く踊れないの。だから毎晩ここに出てきてこっそり練習しているのよ」


 初めて聞く彼女の声に、僕は胸の高まりを感じたが、努めて冷静さを保とうとしながら言った。


「踊り、充分上手だと思うよ。とてもきれいだった」

「ありがとう。でもまだまだだって、先生からいつも怒られてばかりいるの」


 僕は本題を切り出すべく、一旦深呼吸してから言った。


「もう先生に怒られることも、踊りを毎晩練習する必要もないんだよ。君さえよければね」

「……?」

「実は白蓮の会というNPO法人が

 あってね……」


 僕は少女に白蓮の会のことを話した。そして是非その会の助けを借りて自由の身になって欲しいと熱く語った。


「……とてもありがたいお話です。でもどうして私なの?」


「それは……」


 好きだから、の一言が言えない。自分が歯がゆくて仕方がなかった。


「お気持ち、とても嬉しいわ。でもまだ会って間もないあなたのことを信用して身を任せるのはちょっと難しいな。少し考えさせてくれる?」

「そうだね、君の言う通りだ。明日またここで会おう。その時にお返事聞かせて貰えるかな?」


 僕がそう言うと、少女は軽く一礼して再び暗がりの中に消えていった。

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