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~序~ 金木犀の香り
金木犀の香りが、きん、と鼻を抜けた。
秋の短い間だけその香りを放つ、小さな小さな花をつける木。どこからか訪れたその透き通るような甘い香りは、天狗と出会ったあの日のことを思いださせてくれる。
いまでもたまに、そこいらの公園のベンチに何でもないような顔をして座っているあの天狗がいるんじゃないだろうかと思ってしまうのだ。
天狗、と言っても、鼻は低かったし羽根も生えていなかった。
それでもまあ、天狗だったんだと思う。
とりとめもないことを考えていると、不意に風が通り抜けた。